神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

文字の大きさ
上 下
18 / 59

第十八話 圧が凄いです。

しおりを挟む
 祭りの準備で忙しかったはずの会場が、一気に静寂に包まれた。

「……」
「……」

 ――視線がチクチクと突き刺さる。そしてなぜ無言?

 いやいやみんなっ! ここは指さして笑うトコだろう?
 ピエロ覚悟で出てきたのに、これじゃあまるで公開処刑じゃねえか。
 あまりのいたたまれなさに、俺は赤面しながら慌ててドタドタと村長に駆け寄った。

 あんたが首謀者だろ! 責任とって助けてくれ!

「着替えましたけど、これで大丈夫ですか?」
「……」
「村長さん?」
「……ああ、こりゃ驚いた。……予想以上だよ。……とてもよく似合っている」

 似合っとるんかーい!

「……まああ、ユキちゃん……なんて綺麗なの」
「本当に…こんな別嬪さん見たのは初めてだ」

 息を吹き返した村人たちが、わらわらと勢いよく俺を取り囲んできた。
 圧が……圧がすごいっ!

「……これはいい宣伝になるわね」
「店頭に同じ服を並べて、ユキに立ってもらおう」
「目立つようにお立ち台でも作るか」

 やめて! いりません!

「あらこの靴はウチのだから、こっちにも立ってもらうわよ」
「靴が見えるように、もっと高いお立ち台を……」

 だから、いらんっちゅうねん!

「そうだわ。この生地で作った髪飾りがあったでしょう? ぜひユキちゃんにつけてもらいましょう。きっと似合うし売れるわ!」
「なら髪も編み込んで結い上げた方が可愛いわよ。うちの店の耳飾りもつけましょう。私に任せて」
「頼んだわ」
「ユキちゃん、おすわり!」

 ワンコかと突っ込む間もなく、椅子へと座らされた。

 ひいいいい! 村人Aが勝手にカツラを結い始めたぞ。
 そんなにギュウギュウ引っ張らないでっ! 
 脱げちゃう! 俺の真っ黒い秘密がでちゃうからあ!

「この靴はユキには派手過ぎねえか? 清楚なほうが似合うと思うぞ」
「いま持ってくるわ」

 カツラに気を取られてた隙に、村人Bに靴を強奪された。

「胸元にもう少しレースが欲しいわね」
「あらやだ、この服ウエストがブカブカじゃないの」
「リンダの体格に合わせたからね」

 リンダに殺されるぞ! 村人C!

「スッピンでも充分綺麗だけど、せっかくだから紅でも差してみたら?」
「うふふ、おばちゃんの貸してあげる」

 ……もういい。
 こうなったら、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。

 そんなこんなで、嵐のような時間が過ぎ去り、俺は椅子の上でへばっていた。
 もうすぐ物産通りが開放されるので、散々俺をいじくって満足した村人たちは、最終準備にいそしんでいる。

 お立ち台も、各店舗にしっかり準備されていた。
 これからあそこに立つのか。恥ずかしいよぉ。死ぬほど恥ずかしいよぉ。

 胸中でエグエグ泣いていた俺の元へ、ようやく準備を済ませた女性陣二人が帰ってきた。バッチリとお化粧をすませて、馬子にも衣装……って言ったら怒られるか。
 しかし女性は化粧をすると本当に化けるよなあ。おじさん驚きだよ。

「……え? ユキちゃん?」
「おう」

 リンダが、ぽっかり口を開けて俺を見ている。その後ろにいるジャンヌも同様だ。
 ふたりとも口紅が濃いから、開いてる口の形が強調されて、なかなかのお間抜けちゃん顔だ。せっかくの美人さんが台無しだぞ? お口を閉じなさい。

(まあ……、男の俺がこんなマヌケな格好をさらしているんだ。驚きもするか)

 俺たち三人の衣装は、前世の世界観で例えると、不思議の国のアリスが着ていたようなファンシーな雰囲気だ。

 俺が水色、リンダが赤、ジャンヌが緑と……色違いだ。

 三人ともエプロンをして、キュッとしぼられたウエストから、スカートがふんわりと広がっている。
 ただ、エプロンは白一色ではなく、色とりどりのカラフルな花の刺繍が施され、スカートにも、細かな刺繍がびっしりされていて、どちらかというとスイスやハンガリーといった民族衣装のイメージに近いかもしれない。
 女性の服に詳しくないから、正直よくわからん。

 俺のエプロンの胸元は、貧乳だとバレないようにギャザーがたくさん寄せられている。しかもさっき、おばちゃんたちが余計なお世話で、レースや花飾りをふんだんにあしらってくれたため、俺だけなんか……全体的に、水色のペンキぶっかけられた、ゴシックロリータっぽくなっている気がしなくもないが、悲しくなるので考えないようにする。

 ちなみに頭には長い金髪のカツラをつけている。
 村人Aにより、あっという間に、ふたつのお団子に結われて、それぞれに青い布製の花飾りをつけられた……らしい。
 鏡見てないから、全然ピンときてないが……。

「……いやだ、ユキちゃんたら……本当にお姫様みたい。綺麗……すごく綺麗……」

 リンダが、夢見るようにうっとりと呟いた。

「そんなに……俺は綺麗なのか?」
「うん。このまま教会行って、兄さんのお嫁さんになってほしい。それくらい綺麗よ」
「……そうか」

 ありがとうリンダ。
 こんなに嬉しくない褒め言葉は初めてだ。

「やめてリンダ! 冗談でも馬鹿なこと言わないで!」

 アーチーの話題が出た途端、呆けていたジャンヌが正気を取り戻した。

「ユキ! なんでアンタの服だけ、そんなヒラヒラしてるのよ! 髪飾りも多いしズルイじゃない! 男のくせに紅までさして、気持ち悪いったらないわ!」

 ……それに関しては、おじさん、ぐうの音も出ません。
 むしろジャンヌに近い心境なので、反論する気も起こらない。

 すると、近くで商品棚をチェックしていた村人Aが、

「あら、ユキちゃんは悪くないわよ。それは、おばさんたちがやったの。すごく可愛いでしょ? あんたたちにも、髪飾りつけてあげるから、こっちにいらっしゃい」

 そうフォローしてくれた。おばちゃんナイス。

 少し機嫌を直したジャンヌが、村人Aに手招きされて、いそいそと遠ざかって行く……。
 しかしリンダは、俺に何か言いたげに、じっと見下ろしたままだ。どうした?

「リンダ? 早くつけてもらってこい。時間無いぞ?」
「……あのね、ユキちゃん」
「ん?」
「さっき私が言ったことだけど……」
「……ああ」

 アーチーのお嫁さんに、うんぬんって言ってたやつね。

「いや、俺は別に気にしてな……」
「冗談じゃないからっ! 私は本気だったからっ!」

 そう叫んで、リンダは走り去っていった。


 ……はい?
 リンダちゃん、どういうこと?
しおりを挟む
白光猫の小説情報を随時更新中です。
twitterアカウント ⇒ @shiromitsu_nyan
感想 25

あなたにおすすめの小説

イケメンは観賞用!

ミイ
BL
子爵家の次男として転生したオリバー・シェフィールドは前世の記憶があった。しかし、チートとしての能力は皆無。更にこれといって特技も無い。 只、彼の身体は普通ではなかった。 そんな普通ではない身体に生まれた自分の価値はこの身体しかないと思い悩む日々…を過ごすこともなく趣味に没頭する彼。 そんな彼の趣味は"美しい男性を観て楽しむ"ことだった。 生前、◯ャニーズJr.が大好きだった彼は今世でもその趣味を続け楽しく過ごしていたが、父親に持ってこられたお見合い話で運命の歯車が動き出す。 さらに成人を間近に迎えたある日、彼は衝撃の事実を知らされたのだった。 *タグは進む内に増やしていきます

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

あなたの隣で初めての恋を知る

ななもりあや
BL
5歳のときバス事故で両親を失った四季。足に大怪我を負い車椅子での生活を余儀なくされる。しらさぎが丘養護施設で育ち、高校卒業後、施設を出て一人暮らしをはじめる。 その日暮らしの苦しい生活でも決して明るさを失わない四季。 そんなある日、突然の雷雨に身の危険を感じ、雨宿りするためにあるマンションの駐車場に避難する四季。そこで、運命の出会いをすることに。 一回りも年上の彼に一目惚れされ溺愛される四季。 初めての恋に戸惑いつつも四季は、やがて彼を愛するようになる。 表紙絵は絵師のkaworineさんに描いていただきました。

転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!

めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。 ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。 兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。 義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!? このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。 ※タイトル変更(2024/11/27)

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。

小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。 そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。 先輩×後輩 攻略キャラ×当て馬キャラ 総受けではありません。 嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。 ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。 だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。 え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。 でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!! ……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。 本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。 こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた

やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。 俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。 独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。 好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け ムーンライトノベルズにも掲載しています。

悪役令嬢の兄になりました。妹を更生させたら攻略対象者に迫られています。

りまり
BL
妹が生まれた日、突然前世の記憶がよみがえった。 大きくなるにつれ、この世界が前世で弟がはまっていた乙女ゲームに酷似した世界だとわかった。 俺のかわいい妹が悪役令嬢だなんて!!! 大事なことだからもう一度言うが! 妹が悪役令嬢なんてありえない! 断固として妹を悪役令嬢などにさせないためにも今から妹を正しい道に導かねばならない。 え~と……ヒロインはあちらにいるんですけど……なぜ俺に迫ってくるんですか? やめて下さい! 俺は至ってノーマルなんです!

第二王子の僕は総受けってやつらしい

もずく
BL
ファンタジーな世界で第二王子が総受けな話。 ボーイズラブ BL 趣味詰め込みました。 苦手な方はブラウザバックでお願いします。

処理中です...