神子だろうが、なにもかも捨てて俺は逃げる。

白光猫(しろみつにゃん)

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第十六話 そんな話は聞いていないです。

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 ……ん?

 そうか、折り紙……。
 俺には折り紙という特技があったんだな。すっかり忘れてた。

 いろいろ折って子供たちやお年寄りに渡せば喜んでもらえるかもしれない。今度教会へ行ったら、試しに神父様に場所借りて、子供たちに教えてみよう。

「アーチーを見習って、俺も村に貢献できるように努力するよ」
「ユキは充分貢献してくれてるじゃないか。教会や村のイベントのときは、必ず手伝いに参加してくれるし」
「普段村にいないんだから、それくらいは当たり前だよ」
「いや、若いうちから参加する奴はそうはいない。明日からの祭りにも、手伝いで参加してくれると聞いた。親父の無理な頼みを引き受けてくれてありがたい」
「……は?」

 祭り? 明日から? なにそれ?

「え? ごめん。祭りってなんのこと? 俺、全然聞いてないんだけど」
「え?」

 ふたりで、「え? え?」と、鏡のようにきょとんと顔を見合わせる。

「明日から王都で祭りがあるだろう? そこに村からも出店することになったんだ。ユキも手伝いで参加すると親父から聞いていたんだが……、おばあさんから聞いていないのか? 参加が無理なら、今朝までに教会へ連絡する流れになっていたはずだぞ?」
「初耳だっ!」

 まったく、これっぽっちも聞いてねえっ!
 誰だ! ばあちゃんに伝言頼んだ奴! 紙で寄越せ、紙で!
 過去に囚われないお年寄りの記憶力舐めんじゃねーぞ!

「親父の奴、ちゃんと伝えたと言っていたんだが……」

 村長かよっ!

「すまない。こちらで手違いがあったようだ。都合が悪いなら、いま断ってくれて構わない。俺から親父へは伝えておく」
「祭りってなんの祭り? この間、黒神子様の誕生祭やったばかりだろう? まだなんかやんの?」

 俺がいなくなってからも、祭りが継続されていたことは知っている。
 それを噂で聞いたじいちゃんが、俺の誕生日に気づいてくれて、お祝いしてもらったばかりだ。あのときの、ばあちゃんのケーキは最高だったなあ。

「今度は王様の誕生祭だ」

 あのくそじじいかよっ! そういや【私】も呼ばれてたな!

 やばいやばいやばいっ!
 さすがに俺が王都へ行くのは、やばすぎるっ! 今回は断らなくちゃ!

 正体バレたら大神殿に連れ戻され……、むむ?

 そういや、さっきオスカーに、思いっきり居場所がバレたんだっけ。
 自分の別荘に俺を連れ込んでナニするつもりだと、ふざけた脅迫してきやがったな(あとで対策を考えねば)……ということは……だ。

 ――――追手はもういないんじゃないか?

 黒神子は、天に召され……もとい、帰ったことになったらしいし、オスカーのことだから、自分以外の者が黒神子の消息をつかまぬように、神殿にも王宮にも、抜かりなく手を打っているはずだ。

 つまり……黒髪さえ世間にバレなければ、俺はもう王都にだって、どこへだって行けるのではないか? 通行証だって、村民として堂々と発行してもらえる。スケベな門番にケツを撫でられる心配もないのだ。

 だったら、お手伝いがてら、王都の観光くらいしても許されるのではないだろうか?

 【私】は、幼い頃からほとんど神殿に閉じ込められていたから、まともに王都を巡ったことがない。街の人たちと触れ合えたのは、公共の施設に設けられた治療スペースの中だけだった。王都の中心地にいたはずなのに、観光名所も美味しい名物も、本の世界でしか知らない。それをおかしいと感じる暇さえなかった。

 ……普通の人みたいに、お祭りを楽しんでみたい。

 たくさん美味しいものが売っているのだろうか? 楽しい遊びもあるのだろうか?

 二年前に神殿を脱走して、自分の足だけで、初めて王都の街を歩いた時……、もうお祭りは終わったあとだった。
 でもいまは違う。俺もみんなとヒーハーできるチャンスが到来しているのだ。

「日帰りなの?」
「いや、宿に一泊して翌日帰ることになっている」

 好奇心がムクムクと頭をもたげる。
 宿? 俺お泊りもしたことないよ。どんな宿なんだろう? 温泉とかサウナとかあるのかな?

「俺は具体的に何をすればいいの?」
「主に勧誘だな。村の民族衣装をまとって、店の前で黙って立っていてくれればいい」
「……それだけ?」
「ユキの容姿はかなり目を引くから、それだけで効果抜群だ……というのが、親父と神父様の主張だ」

 神父様も共犯かいっ!

 しかし……まさか本当に、客寄せパンダの仕事が舞い込んでくるとは思わなかった。
 この顔でパンダになれと言われても、こんなレベルの顔、王都に行けばゴロゴロ転がっていると思うのだが……、みんな俺を過大評価しすぎじゃねえか?

「えーっと、村長の期待には応えられそうもないけど、手伝いには参加させてもらう。王都のお祭りにはすごく興味があるし」
「いいのか?」
「うん、いいよ。アーチーは参加するの?」
「学校が終わり次第、駆け付ける」
「了解」
「ウチが出店する物産エリアは夕方まで使用許可がでているそうだ。そのあとは店を閉めて、各々自由行動らしい。花火も打ちあがるし、屋台も遅くまでやっているから、きっとユキも楽しめると思う」
「やった! じゃあ、ふたりで街を回ろう。道案内はアーチーに任せるよ」
「……ああ、わかった」
「うわあ、お祭りかあ。すごく楽しみだ」

 宿に泊まるのも、夜店も、花火大会も、なにもかもが楽しみ過ぎる!
 明日はキビキビ働いて、お祭りで久しぶりに羽を伸ばすんだ。女の子もたくさんいるだろうから、素敵な出逢いもあるかもしれない。やっほーい!

 ニヨニヨと想像している俺の横で、耳を赤くしたアーチーが、「……デートか」と呟いていたことなど、このときの俺は知る由もなかった。
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