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第十五話 いろいろ語り合ってみましょう。
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俺はガックリと項垂れた。
神殿から出てインドア生活やめたから、少しは見た目が男らしく変わったと思っていたんだが……大して成果がなかったということか?
そもそも両性具有だから、肌質とか骨格とかが、普通の男とは違うのかもしれない。今更気づいても遅いのだが。二年かけて鍛えてもこれか。もう成長期終わっちまうぞ。どうしろってんだ。
「俺もアーチーみたいに、男らしい身体で生まれたかったなあ」
握りこぶしを作って、ムンッと右腕を曲げてみる。チカラコブ……全然出来てない。目の前には透き通るように白い肌……泣く。
「……ユキはそんなに、男っぽくなりたいのか?」
「うん。だって俺は男だし。そりゃ男っぽくなりたいよ」
「そうか、まあ頑張れ。せいぜいムキムキになれ」
「投げやりだなっ!」
ペチリと右隣りの肩を叩くが、ビクともしない。泣く。
アーチーは大して痛くもないだろうに、叩かれた肩をさすりながら、
「どんな姿になってもユキはユキだからな。俺は好きだ」
そう言って、ふわりと笑った。
……だから、そういった不意打ちスマイルは、女の子相手にやりなさい。無駄撃ちだぞ? こんなイケメンに正面きって「好きだ」なんて言われたら、おじさんでも照れちまう。女の子なら心臓射抜かれて一発だ。絶対におちるから。
「ユキ、耳が赤いぞ」
「……うるさい。俺は人の好意を受け止めるのに慣れていないんだ。手加減しろ」
「そうなのか? この村に来る前に、誰かと付き合ったりしたこともないのか?」
「……ない」
前世では既婚者だったが、それはノーカウントだろう。
アーチーは、慣れない村の生活で俺が困っていた時に、なにかと心配して相談に乗ってくれた。
そんな相手に嘘を言うのは気が引けるため、答えられる範囲の質問には、素直に答えたいと思う。バカにされることもないので、見栄を張る気も起こらない。
オスカー相手にはバンバン嘘を吐けたが、それはアイツの日頃の行いが悪すぎたのだ。俺のせいではない。
「そうか。きっと高嶺の花だったんだな」
「ハハ、違うって。実はさ。勝手に決められた婚約者がいたんだよ。そのせいで恋愛する機会も気力もなかったんだ」
「……婚約者?」
「うん……ああでも、ソレ破談になったから。元々付き合ってもいなかったし。そういう、なんかいろいろ縛られる生活が嫌で、じいちゃんたちを頼ってこの村に来たんだ」
だいぶ大雑把な説明だが、嘘ではないよな。うん。
「……そうだったのか。正直驚いた。村の話題以外でユキと話をするのは初めてじゃないか?」
「そういえばそうだね」
俺がそういう話をあからさまに避けてたからな。アーチーもなんとなく察してくれて、あえて自分からは聞いてこなかったし。
「俺の身の上話なんて、全然つまんないよ。それより、アーチーの方こそ最近はどうなんだ? 王都の医学校へ通ってるんだろう? 順調?」
「ああ、もうすぐ医師免許が取れそうだ」
「ええっ本当に? すごいじゃないか!」
この小さな村から、なんのコネもなく王都の医学校へ入れただけでも、超エリートなのに、この若さで難関の医師資格も手に入れたら、出世街道間違いなしだ。
「資格を取ったら、しばらくは王都に住むの?」
「たぶん、そうなるだろうな。大神殿の医学図書館に、俺が師と仰ぐ先生がいるんだ。その先生のところで、医学文献をまとめる作業や、医療研究の手伝いをすることが決まっている。もちろん治療も学ばせてもらう。経験を積んで、いずれは村にも貢献できたらと思っている」
「……おまえ、本当にすごいな」
俺とほぼ同い年とは思えんぞ。
王都の医学図書館には、国中の医学書が集められていると言っていい。医学を志す者にとっては、一度は経験したい憧れの職場だ。
大神殿の敷地内だったため、黒神子時代は【私】もたまに訪れていた。アーチーの師って誰なんだろうな。俺の知ってる人だったりして……。
「全然すごくなんかない。黒神子様のように治療できたら、一番いいんだろうけど……それはさすがに無理だからな」
ドキリとした。
まさかアーチーの口から、黒神子という言葉が飛び出すなんて……。
「おまえのおじいさんの足も、黒神子様に治していただいたと聞いた。当時、村の医師が診察する様子を、俺は近くで見させてもらっていたんだが……、それは酷い状態で、俺も治らないものだと決めてかかっていた。それがいまではあんなに元気そうで……本当に驚いたよ。よかったなユキ」
「……うん」
「大神殿の医学図書館には、黒神子様の残された治療法も、文献として残されているそうだ。医師の腕次第で治療できる手法もあるらしい。俺はそれを読んでみたいんだ」
……そういえば、そんなもの書いた気がするぞ。
本の虫だった黒神子の【私】は、興味あるものに関する記憶力がエゲツなかった。
治癒術を使わずとも治るような患者が来れば、「この治し方は〇〇の本に載っている」と、病状を細かくメモに書き、参照先の本の情報とともに、オスカーに頼んで、医学図書館の医師に渡してもらっていた。
何度も同じような患者がくるのを未然に防ぎ、その分重症患者を受け入れるためだったのだが、黒神子が知らないうちに、それは小冊子としてまとめられ、医学書として出回っていたようだ。
……あのう、印税っていただけないのでしょうか?
更に黒神子は、重症患者を治癒した際にも、病気になったときの兆候や、食生活までを細かく聞きだし、大病を未然に防ぐ方法を発見すれば、それもメモしてオスカーに随時手渡していた。
初期症状のサインや、食生活の改善案を、それはもう事細かく、思いついたら寝る間も惜しんで文書化していたのだ。
今にして思う……。
黒神子は、ワーカーホリックなドMだったのではないかと。
しかしまさか、そのメモ書きをアーチーに見られてしまうのか?
あの下手くそな走り書きを! たまに落書きもしちゃったし! ぎゃあああ恥ずかしいっ!
こんなことなら、通信講座でペン字を習っておけばよかった!
図書館へ忍び込んで、全部書き直したい!
俺はなぜ前世で、折り紙講座を選んでしまったんだ――――!
神殿から出てインドア生活やめたから、少しは見た目が男らしく変わったと思っていたんだが……大して成果がなかったということか?
そもそも両性具有だから、肌質とか骨格とかが、普通の男とは違うのかもしれない。今更気づいても遅いのだが。二年かけて鍛えてもこれか。もう成長期終わっちまうぞ。どうしろってんだ。
「俺もアーチーみたいに、男らしい身体で生まれたかったなあ」
握りこぶしを作って、ムンッと右腕を曲げてみる。チカラコブ……全然出来てない。目の前には透き通るように白い肌……泣く。
「……ユキはそんなに、男っぽくなりたいのか?」
「うん。だって俺は男だし。そりゃ男っぽくなりたいよ」
「そうか、まあ頑張れ。せいぜいムキムキになれ」
「投げやりだなっ!」
ペチリと右隣りの肩を叩くが、ビクともしない。泣く。
アーチーは大して痛くもないだろうに、叩かれた肩をさすりながら、
「どんな姿になってもユキはユキだからな。俺は好きだ」
そう言って、ふわりと笑った。
……だから、そういった不意打ちスマイルは、女の子相手にやりなさい。無駄撃ちだぞ? こんなイケメンに正面きって「好きだ」なんて言われたら、おじさんでも照れちまう。女の子なら心臓射抜かれて一発だ。絶対におちるから。
「ユキ、耳が赤いぞ」
「……うるさい。俺は人の好意を受け止めるのに慣れていないんだ。手加減しろ」
「そうなのか? この村に来る前に、誰かと付き合ったりしたこともないのか?」
「……ない」
前世では既婚者だったが、それはノーカウントだろう。
アーチーは、慣れない村の生活で俺が困っていた時に、なにかと心配して相談に乗ってくれた。
そんな相手に嘘を言うのは気が引けるため、答えられる範囲の質問には、素直に答えたいと思う。バカにされることもないので、見栄を張る気も起こらない。
オスカー相手にはバンバン嘘を吐けたが、それはアイツの日頃の行いが悪すぎたのだ。俺のせいではない。
「そうか。きっと高嶺の花だったんだな」
「ハハ、違うって。実はさ。勝手に決められた婚約者がいたんだよ。そのせいで恋愛する機会も気力もなかったんだ」
「……婚約者?」
「うん……ああでも、ソレ破談になったから。元々付き合ってもいなかったし。そういう、なんかいろいろ縛られる生活が嫌で、じいちゃんたちを頼ってこの村に来たんだ」
だいぶ大雑把な説明だが、嘘ではないよな。うん。
「……そうだったのか。正直驚いた。村の話題以外でユキと話をするのは初めてじゃないか?」
「そういえばそうだね」
俺がそういう話をあからさまに避けてたからな。アーチーもなんとなく察してくれて、あえて自分からは聞いてこなかったし。
「俺の身の上話なんて、全然つまんないよ。それより、アーチーの方こそ最近はどうなんだ? 王都の医学校へ通ってるんだろう? 順調?」
「ああ、もうすぐ医師免許が取れそうだ」
「ええっ本当に? すごいじゃないか!」
この小さな村から、なんのコネもなく王都の医学校へ入れただけでも、超エリートなのに、この若さで難関の医師資格も手に入れたら、出世街道間違いなしだ。
「資格を取ったら、しばらくは王都に住むの?」
「たぶん、そうなるだろうな。大神殿の医学図書館に、俺が師と仰ぐ先生がいるんだ。その先生のところで、医学文献をまとめる作業や、医療研究の手伝いをすることが決まっている。もちろん治療も学ばせてもらう。経験を積んで、いずれは村にも貢献できたらと思っている」
「……おまえ、本当にすごいな」
俺とほぼ同い年とは思えんぞ。
王都の医学図書館には、国中の医学書が集められていると言っていい。医学を志す者にとっては、一度は経験したい憧れの職場だ。
大神殿の敷地内だったため、黒神子時代は【私】もたまに訪れていた。アーチーの師って誰なんだろうな。俺の知ってる人だったりして……。
「全然すごくなんかない。黒神子様のように治療できたら、一番いいんだろうけど……それはさすがに無理だからな」
ドキリとした。
まさかアーチーの口から、黒神子という言葉が飛び出すなんて……。
「おまえのおじいさんの足も、黒神子様に治していただいたと聞いた。当時、村の医師が診察する様子を、俺は近くで見させてもらっていたんだが……、それは酷い状態で、俺も治らないものだと決めてかかっていた。それがいまではあんなに元気そうで……本当に驚いたよ。よかったなユキ」
「……うん」
「大神殿の医学図書館には、黒神子様の残された治療法も、文献として残されているそうだ。医師の腕次第で治療できる手法もあるらしい。俺はそれを読んでみたいんだ」
……そういえば、そんなもの書いた気がするぞ。
本の虫だった黒神子の【私】は、興味あるものに関する記憶力がエゲツなかった。
治癒術を使わずとも治るような患者が来れば、「この治し方は〇〇の本に載っている」と、病状を細かくメモに書き、参照先の本の情報とともに、オスカーに頼んで、医学図書館の医師に渡してもらっていた。
何度も同じような患者がくるのを未然に防ぎ、その分重症患者を受け入れるためだったのだが、黒神子が知らないうちに、それは小冊子としてまとめられ、医学書として出回っていたようだ。
……あのう、印税っていただけないのでしょうか?
更に黒神子は、重症患者を治癒した際にも、病気になったときの兆候や、食生活までを細かく聞きだし、大病を未然に防ぐ方法を発見すれば、それもメモしてオスカーに随時手渡していた。
初期症状のサインや、食生活の改善案を、それはもう事細かく、思いついたら寝る間も惜しんで文書化していたのだ。
今にして思う……。
黒神子は、ワーカーホリックなドMだったのではないかと。
しかしまさか、そのメモ書きをアーチーに見られてしまうのか?
あの下手くそな走り書きを! たまに落書きもしちゃったし! ぎゃあああ恥ずかしいっ!
こんなことなら、通信講座でペン字を習っておけばよかった!
図書館へ忍び込んで、全部書き直したい!
俺はなぜ前世で、折り紙講座を選んでしまったんだ――――!
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