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第十二話 問い詰めてみましょう。
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「……でも俺はしっかりとこの目で見たんだって。例えば神官のバラエっていただろ?」
「バラエ? ……その男がなにか?」
「おまえは、あいつとキスしてた」
「……はあ」
なんだその、気のない返事はっ!
「【はあ】じゃねえんだよ。たんまり身に覚えがあるだろうが!」
「そもそも、そのバラエという名前に、全く心当たりがありません」
「はあああ?」
「カルス様……、俺の身分わかって言ってます? あなたの世話を任せていた責任者と、要職についている者以外は、逐一覚えてなどおりませんよ。下位の神官や使用人の管理は、補佐の者に一任してあります」
「え? そうなの?」
すごく頭のキレる奴って、そういうの全部覚えているのが、お約束なんじゃないの?
それでたまに、諜報員が侵入したりして、「きさま見覚えのない奴だな、名を名乗れっ!」的な展開があったりするもんじゃないの?
……変な映画の見すぎだな、やばいな俺。
「じゃ、じゃあ……名前では無理でも、キスした場所を手がかりにして思い出せ。ほら、俺の寝室の前の廊下でキスしてただろ? 俺に就寝の挨拶にきた後で」
「……夜に、あなたの寝室の前で……ですか?」
「そうだ。そのあとふたりで、近くの部屋にしけこんで行ったの見たんだからな。しばらくして、ドア前まで行ったら……バラエの、あ、喘ぎ声が聞こえたしっ!」
「ほお? 清純そうな黒神子様が、よその閨を盗み聞きとは」
「うるさいっ! なんでも気になるお年頃だったんだよ!」
それがショックで、【私】は夜通し泣いていたんだからな。
初恋の人が、すぐ近くの部屋で急におっぱじめたら、そりゃ泣くわな。
「しかし俺には、男を抱く趣味はないので、そう言われましてもねえ」
――――はい?
「……えっ! ないの? 男も女も手当り次第なんじゃないの?」
「だから、どうしてそういった考えになるんですか。同性相手だなんて冗談じゃないですよ」
オスカーは、水色のまつ毛を伏せて、深く溜め息をついた。
「……だって、俺なんかに手を出そうとしてるじゃねえか」
「あなたの容姿は特別だということを、いい加減自覚してもらえます? ……おっと、話がそれましたね。……寝室の前で、俺が男を口説いていたと……」
考え込むときに俺の肩口へ顎(あご)を乗せるんじゃない!
「……ああ、そういうことでしたか。わかりました」
「そらみろ! 覚えがあったじゃねえか」
「あるにはありましたが……、その者に手を出したのは、正確には俺ではないのです」
……んん? どういうこと?
「……何言ってんだ? お前以外に誰がいるんだよ」
「いたんですよ、それが。説明しましょう」
「……」
「俺があなたの部屋を訪れるときは、大概ひとりなのですが、それを見越したように、偶然を装って近づいてきた者がいましてね。俺もそれなりに腕に覚えがあるので、相手のやりたいように少し泳がせてみたんですよ。しかし大したことはなく、ただの色仕掛けでした。物音をたてて、あなたを起こすのも……と思い、近くの部屋に連れ込んでベッドに組み伏せて、そのあとは、泣いて許しを請うまで、縛りあげて尋問してやりましたよ」
「なっ……や、やっぱり、お楽しみだったんじゃねえか!」
「いいえ違います。縛り上げた後、【俺は】指一本も触れてないんです」
さっきから、コイツの言ってることがさっぱりわからん。
「あなたの就寝中に、警備の神官が2人、一晩中、扉の外に立っていたのをご存知ですか?」
「へ?」
「あなたの寝室のすぐ近くに、警備のものが常駐できる部屋がありましてね。俺があなたの寝室から出て、その部屋の者に指示をだせば、警備の者が配置される流れになっていました。いうなれば、あなたへの【夜這い防止】のためです。警備を任せていた神官ふたりは、崇高なる黒神子様の眠りを守るために、職務を快く引き受けていましたよ」
なんだそれ! 知らね――――!
「あの日は、あなたに就寝の挨拶をして、丁度部屋を出たところで色仕掛けに合いましたから……。面倒だったので、そのまま警備担当の部屋へと誘導し、ベッドへ括り付けて尋問したんです」
「……」
「先程も言った通り、俺は男には興味なかったのですが、警備ふたりは違っていたようなので、情報を引き出すまで、好きなようにさせましたよ。報告によると、彼らは一晩中楽しんでいたみたいです。結局、王の手の者だと白状したので、身柄は王宮へ戻しました」
……え? え?
いまコイツ、スルスルっと怖いこと言いませんでした?
それってつまり、バラエ神官を警備の奴らに……え? え?
「静かに事を進めたつもりでしたが、まさかあなたに見られていたとはね。そこは俺も迂闊でした」
「……」
「もしやその、バラエとお知り合いでしたか?」
「いや、知り合いじゃないけど……、すごい美少年が入ってきたって、当時、神殿中で大騒ぎだったのに、まさかお前が知らないなんて」
「知りませんし、あなた以外はどうでもいいです。俺が知らないということは、身分も低かったのでしょう。間者をあなたの部屋近くに配置した責任者は、処罰しておきました。これで俺の【浮気疑惑】は晴れましたか?」
「う、浮気疑惑ってなんだ! バカ言うな!」
「おや、違うんですか?」
ハタと、今までの会話を振り返ってみる。
……確かに、そんな女々しい内容だった気がする。
あれ? いつからだ?
コイツに振り回された【私】が不憫で、つい興奮しちまったが……。
なんでこんな、【俺】にとってどうでもいい話を、深掘りする羽目になったんだ?
「……いや、違わねえか。黒神子だった頃の【私】が、勝手に妄想していろいろ誤解していたのは素直に悪かったと思う」
「おや、急に素直ですね」
「しかし真実は、俺の想像を遥かに上回るえげつない内容だった。やはり俺はお前という男が恐ろしい。どうしても好きになれそうもない」
「いまはそれで構わないと言っているでしょう? ……ところで、もう防御するのはやめたのですか? 先程からずっと、可愛い唇がガラ空きですけど」
げげっ! しまった!
「バラエ? ……その男がなにか?」
「おまえは、あいつとキスしてた」
「……はあ」
なんだその、気のない返事はっ!
「【はあ】じゃねえんだよ。たんまり身に覚えがあるだろうが!」
「そもそも、そのバラエという名前に、全く心当たりがありません」
「はあああ?」
「カルス様……、俺の身分わかって言ってます? あなたの世話を任せていた責任者と、要職についている者以外は、逐一覚えてなどおりませんよ。下位の神官や使用人の管理は、補佐の者に一任してあります」
「え? そうなの?」
すごく頭のキレる奴って、そういうの全部覚えているのが、お約束なんじゃないの?
それでたまに、諜報員が侵入したりして、「きさま見覚えのない奴だな、名を名乗れっ!」的な展開があったりするもんじゃないの?
……変な映画の見すぎだな、やばいな俺。
「じゃ、じゃあ……名前では無理でも、キスした場所を手がかりにして思い出せ。ほら、俺の寝室の前の廊下でキスしてただろ? 俺に就寝の挨拶にきた後で」
「……夜に、あなたの寝室の前で……ですか?」
「そうだ。そのあとふたりで、近くの部屋にしけこんで行ったの見たんだからな。しばらくして、ドア前まで行ったら……バラエの、あ、喘ぎ声が聞こえたしっ!」
「ほお? 清純そうな黒神子様が、よその閨を盗み聞きとは」
「うるさいっ! なんでも気になるお年頃だったんだよ!」
それがショックで、【私】は夜通し泣いていたんだからな。
初恋の人が、すぐ近くの部屋で急におっぱじめたら、そりゃ泣くわな。
「しかし俺には、男を抱く趣味はないので、そう言われましてもねえ」
――――はい?
「……えっ! ないの? 男も女も手当り次第なんじゃないの?」
「だから、どうしてそういった考えになるんですか。同性相手だなんて冗談じゃないですよ」
オスカーは、水色のまつ毛を伏せて、深く溜め息をついた。
「……だって、俺なんかに手を出そうとしてるじゃねえか」
「あなたの容姿は特別だということを、いい加減自覚してもらえます? ……おっと、話がそれましたね。……寝室の前で、俺が男を口説いていたと……」
考え込むときに俺の肩口へ顎(あご)を乗せるんじゃない!
「……ああ、そういうことでしたか。わかりました」
「そらみろ! 覚えがあったじゃねえか」
「あるにはありましたが……、その者に手を出したのは、正確には俺ではないのです」
……んん? どういうこと?
「……何言ってんだ? お前以外に誰がいるんだよ」
「いたんですよ、それが。説明しましょう」
「……」
「俺があなたの部屋を訪れるときは、大概ひとりなのですが、それを見越したように、偶然を装って近づいてきた者がいましてね。俺もそれなりに腕に覚えがあるので、相手のやりたいように少し泳がせてみたんですよ。しかし大したことはなく、ただの色仕掛けでした。物音をたてて、あなたを起こすのも……と思い、近くの部屋に連れ込んでベッドに組み伏せて、そのあとは、泣いて許しを請うまで、縛りあげて尋問してやりましたよ」
「なっ……や、やっぱり、お楽しみだったんじゃねえか!」
「いいえ違います。縛り上げた後、【俺は】指一本も触れてないんです」
さっきから、コイツの言ってることがさっぱりわからん。
「あなたの就寝中に、警備の神官が2人、一晩中、扉の外に立っていたのをご存知ですか?」
「へ?」
「あなたの寝室のすぐ近くに、警備のものが常駐できる部屋がありましてね。俺があなたの寝室から出て、その部屋の者に指示をだせば、警備の者が配置される流れになっていました。いうなれば、あなたへの【夜這い防止】のためです。警備を任せていた神官ふたりは、崇高なる黒神子様の眠りを守るために、職務を快く引き受けていましたよ」
なんだそれ! 知らね――――!
「あの日は、あなたに就寝の挨拶をして、丁度部屋を出たところで色仕掛けに合いましたから……。面倒だったので、そのまま警備担当の部屋へと誘導し、ベッドへ括り付けて尋問したんです」
「……」
「先程も言った通り、俺は男には興味なかったのですが、警備ふたりは違っていたようなので、情報を引き出すまで、好きなようにさせましたよ。報告によると、彼らは一晩中楽しんでいたみたいです。結局、王の手の者だと白状したので、身柄は王宮へ戻しました」
……え? え?
いまコイツ、スルスルっと怖いこと言いませんでした?
それってつまり、バラエ神官を警備の奴らに……え? え?
「静かに事を進めたつもりでしたが、まさかあなたに見られていたとはね。そこは俺も迂闊でした」
「……」
「もしやその、バラエとお知り合いでしたか?」
「いや、知り合いじゃないけど……、すごい美少年が入ってきたって、当時、神殿中で大騒ぎだったのに、まさかお前が知らないなんて」
「知りませんし、あなた以外はどうでもいいです。俺が知らないということは、身分も低かったのでしょう。間者をあなたの部屋近くに配置した責任者は、処罰しておきました。これで俺の【浮気疑惑】は晴れましたか?」
「う、浮気疑惑ってなんだ! バカ言うな!」
「おや、違うんですか?」
ハタと、今までの会話を振り返ってみる。
……確かに、そんな女々しい内容だった気がする。
あれ? いつからだ?
コイツに振り回された【私】が不憫で、つい興奮しちまったが……。
なんでこんな、【俺】にとってどうでもいい話を、深掘りする羽目になったんだ?
「……いや、違わねえか。黒神子だった頃の【私】が、勝手に妄想していろいろ誤解していたのは素直に悪かったと思う」
「おや、急に素直ですね」
「しかし真実は、俺の想像を遥かに上回るえげつない内容だった。やはり俺はお前という男が恐ろしい。どうしても好きになれそうもない」
「いまはそれで構わないと言っているでしょう? ……ところで、もう防御するのはやめたのですか? 先程からずっと、可愛い唇がガラ空きですけど」
げげっ! しまった!
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