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43『煙のバラード』
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間違いなく人類史上最高の頭脳を持つ科学者であるルールー・ララトアレは人生最大の悩みを抱えていました。今、この地下シェルターにいるエリーという名の少女は、世界の平面化の際に失われたと思われていた『地下の国のアリス』の所有者であることは明らかに等しい………………でも的確な活用法が思いつかないのです。
「冒険するには、貴重品すぎる」
仲良く遊ぶアリスとエリーを見ながら、ルールーはぼやきます。そんな彼女が暮らすシェルターの上をぐるぐる、ぐるぐるぐるぐるとずっと旋回しているのは、悪魔の翼を一枚だけ持つ半悪魔ナターシャ。もう、一週間以上も前からこうしているのですがその姿は地下からは見えません。
「猫鬼は全て死んだのか?」
ハーヴィの爆発で猫鬼が滅んだのか、それとも、残っているのか。それを確かめられるレベルのコンピュータをルールーはつくりあげたはずなのですが、材料が脳と血液と眼球であったため、腐り、性能が著しく低下してしまい使い物にならなくなってしまっていました。
「賢すぎると、勇気を失うものなのだな」
アリスは左目がなく、エリーには右目がない。それぞれ、一つずつ持っている美しいライトブルーの瞳。これを、どちらかの頭にまとめれば、より純度の高いアリスをつくり出すことができるかもしれない。
「どちらだ……」
どちらの目を奪うのが正しいのか、どちらに目を移植するのが正しいのか。ルールーがなんとなく感づいているのは、どちらでもいいなんていう生易しい問題ではないということだけです。
「おい、アリス」
「なにかしら?」
「いや、なんでもない」
「相変わらず、変な人ね。ねぇ! エリー、今度はしりとりをして遊ばない? これも言葉遊びよ!」
走り去っていくアリスの背中を見て、ルールーは心の中で頭を抱えます。この選択を間違えれば、世界が滅んでしまうと。
ルールーは頭を冷やそうと、シェルターの扉を持ち上げて外へと出て空を見上げました。黒い雨はもう降っておらず、でも、空はまだ晴れてはいません。
「おーい、ナターシャ!」
呼びかけても、恋人はこちらを見ることはありません。ただ、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるとシェルターの上を旋回しているだけなのです。
「まったく……相変わらず自由すぎる女だ。なぜあんなやつを好きになったかな私は」
ポケットから取り出したのは、ナターシャが処刑されたあの日にやめたはずの煙草。二百年以上も前にしまい込んでしまった煙草です。
「もう、吸ってもいいだろう。君はもう生き返ったのだから」
煙草を咥え思い出すように吸い込み、火をつける。身体の中に入り込んでくる煙――――ズキン、ルールーの胸が恋を覚えたばかりの少女のように痛みました。
「げほっげほっ……」
咳を受け止めた手に着いたのは、肺から出たことを示すとても綺麗な真紅の血液。
「雨を浴びたのが、間違いだったか……はは、私もまだ人間ということだな」
ルールーのクローンは、もう一体もありません。そして、クローンの製造を指揮できるだけの性能を持つコンピュータも、ありません。
「イギリスの煙草は、最終的に幾らまで値上がりしたんだっけなぁ。げほっ、げほっ……」
咳込みながら吸う煙草は、旨い。ルールーはじっくりと時間をかけて、一本だけ残しておいたこの世で最後の煙草を味わったのです。
「冒険するには、貴重品すぎる」
仲良く遊ぶアリスとエリーを見ながら、ルールーはぼやきます。そんな彼女が暮らすシェルターの上をぐるぐる、ぐるぐるぐるぐるとずっと旋回しているのは、悪魔の翼を一枚だけ持つ半悪魔ナターシャ。もう、一週間以上も前からこうしているのですがその姿は地下からは見えません。
「猫鬼は全て死んだのか?」
ハーヴィの爆発で猫鬼が滅んだのか、それとも、残っているのか。それを確かめられるレベルのコンピュータをルールーはつくりあげたはずなのですが、材料が脳と血液と眼球であったため、腐り、性能が著しく低下してしまい使い物にならなくなってしまっていました。
「賢すぎると、勇気を失うものなのだな」
アリスは左目がなく、エリーには右目がない。それぞれ、一つずつ持っている美しいライトブルーの瞳。これを、どちらかの頭にまとめれば、より純度の高いアリスをつくり出すことができるかもしれない。
「どちらだ……」
どちらの目を奪うのが正しいのか、どちらに目を移植するのが正しいのか。ルールーがなんとなく感づいているのは、どちらでもいいなんていう生易しい問題ではないということだけです。
「おい、アリス」
「なにかしら?」
「いや、なんでもない」
「相変わらず、変な人ね。ねぇ! エリー、今度はしりとりをして遊ばない? これも言葉遊びよ!」
走り去っていくアリスの背中を見て、ルールーは心の中で頭を抱えます。この選択を間違えれば、世界が滅んでしまうと。
ルールーは頭を冷やそうと、シェルターの扉を持ち上げて外へと出て空を見上げました。黒い雨はもう降っておらず、でも、空はまだ晴れてはいません。
「おーい、ナターシャ!」
呼びかけても、恋人はこちらを見ることはありません。ただ、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐる、ぐるぐるとシェルターの上を旋回しているだけなのです。
「まったく……相変わらず自由すぎる女だ。なぜあんなやつを好きになったかな私は」
ポケットから取り出したのは、ナターシャが処刑されたあの日にやめたはずの煙草。二百年以上も前にしまい込んでしまった煙草です。
「もう、吸ってもいいだろう。君はもう生き返ったのだから」
煙草を咥え思い出すように吸い込み、火をつける。身体の中に入り込んでくる煙――――ズキン、ルールーの胸が恋を覚えたばかりの少女のように痛みました。
「げほっげほっ……」
咳を受け止めた手に着いたのは、肺から出たことを示すとても綺麗な真紅の血液。
「雨を浴びたのが、間違いだったか……はは、私もまだ人間ということだな」
ルールーのクローンは、もう一体もありません。そして、クローンの製造を指揮できるだけの性能を持つコンピュータも、ありません。
「イギリスの煙草は、最終的に幾らまで値上がりしたんだっけなぁ。げほっ、げほっ……」
咳込みながら吸う煙草は、旨い。ルールーはじっくりと時間をかけて、一本だけ残しておいたこの世で最後の煙草を味わったのです。
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