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38『人間のレシピ』
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ルールー・ララトアレはつい先日思いついた第一関節から先を切断した中指を不思議化した世界にアクセスするためのデバイスとして使用するという画期的なアイデアを、早々に却下していました。
「科学者がいつまでも中指を立てていると思うなよ。私たちは、感情ではなく理屈で考えるプロフェッショナルだ」
今、ルールーがインク代わりに使用しているものは、特別なブレンド品。彼女は、血液よりもより効果的な液体を作り上げていたのです。さすが、天才科学者ですね!
レシピは、こう。
【一】残っていた六体のクローンを分解して取り出した脳をペースト状に加工します。え? なぜ、クローンがあの爆発の中で無事だったかって? それは、事前にシェルターに移していたからですよ。さすが、天才科学者ですね!
【二】そのままだと粘度が高すぎるので、今生きているルールーの静脈から取り出した老廃物や二酸化炭素を多く含んだ血液、つまりは、人間性を多く含んだ血液を適量使用して薄めましょう。
【三】世界にアクセスする際の解像度をあげるためにクローンから十二個の眼球を全て摘出しミキサーにかけて配合、三十九度まで加熱してゆっくりと攪拌してください。
【四】しっかりと混ざり合ったら室温のまま置いて、ルールーの平熱である三十五度まで冷めたら完成です! 完璧なお手際! さすが、天才科学者ですね!
こうしてつくったルールー液をアリスの毛髪で作った面相筆につけ、地下シェルター内の研究室にある全ての物質に対し細かな模様を描いていきます。これは数式でもなく、言語でもありません。記号に近いけれど、記号ではありません。これは、ルールー液でつくる回路。彼女は今、研究室を箱とするコンピュータを組みあげているのです。
研究室の隣のリビングでは
アリスとエリーがお茶会を続けている
アリスが笑う声がする
アリスが笑う声がする
アリスが笑う声が 止まる
エリーが思い出せないのと泣く声がした
アリスが大丈夫よ私がいるからと笑う声がする
エリーがなにが大丈夫なの? と聞きかえし
アリスが謝罪する
アリスが謝罪した
それが何時間も何時間も何日も何日もループする
二人のお茶会は終わらない
終わらないらしい
ルールーが回路を描き切ったのは、七日後のことでした。
「さあ、世界よその正体を見せろ。暴いてくれマリー」
ルールーは完成したコンピュータに雌の狼と名付け起動させます。電源は必要ありません。この最新型のコンピュータは生命を材料とした生物装置なのですから。
「よし、安定しているな」
材料に自分自身のクローンを用いたことで、ルールーはコンピュータと完全シンクロすることができました。コマンドを打ち込む必要もなく、意志で全てを操ることができます。
「そうか、君は空からくるかナターシャ!」
ルールーは地下シェルターの中で、空を見ずしてボイジャー二号の落下を補足しました。六体分の脳で作った緻密な回路がその超常性能を駆使して、究極速度の演算を行なっているのです。
「科学者がいつまでも中指を立てていると思うなよ。私たちは、感情ではなく理屈で考えるプロフェッショナルだ」
今、ルールーがインク代わりに使用しているものは、特別なブレンド品。彼女は、血液よりもより効果的な液体を作り上げていたのです。さすが、天才科学者ですね!
レシピは、こう。
【一】残っていた六体のクローンを分解して取り出した脳をペースト状に加工します。え? なぜ、クローンがあの爆発の中で無事だったかって? それは、事前にシェルターに移していたからですよ。さすが、天才科学者ですね!
【二】そのままだと粘度が高すぎるので、今生きているルールーの静脈から取り出した老廃物や二酸化炭素を多く含んだ血液、つまりは、人間性を多く含んだ血液を適量使用して薄めましょう。
【三】世界にアクセスする際の解像度をあげるためにクローンから十二個の眼球を全て摘出しミキサーにかけて配合、三十九度まで加熱してゆっくりと攪拌してください。
【四】しっかりと混ざり合ったら室温のまま置いて、ルールーの平熱である三十五度まで冷めたら完成です! 完璧なお手際! さすが、天才科学者ですね!
こうしてつくったルールー液をアリスの毛髪で作った面相筆につけ、地下シェルター内の研究室にある全ての物質に対し細かな模様を描いていきます。これは数式でもなく、言語でもありません。記号に近いけれど、記号ではありません。これは、ルールー液でつくる回路。彼女は今、研究室を箱とするコンピュータを組みあげているのです。
研究室の隣のリビングでは
アリスとエリーがお茶会を続けている
アリスが笑う声がする
アリスが笑う声がする
アリスが笑う声が 止まる
エリーが思い出せないのと泣く声がした
アリスが大丈夫よ私がいるからと笑う声がする
エリーがなにが大丈夫なの? と聞きかえし
アリスが謝罪する
アリスが謝罪した
それが何時間も何時間も何日も何日もループする
二人のお茶会は終わらない
終わらないらしい
ルールーが回路を描き切ったのは、七日後のことでした。
「さあ、世界よその正体を見せろ。暴いてくれマリー」
ルールーは完成したコンピュータに雌の狼と名付け起動させます。電源は必要ありません。この最新型のコンピュータは生命を材料とした生物装置なのですから。
「よし、安定しているな」
材料に自分自身のクローンを用いたことで、ルールーはコンピュータと完全シンクロすることができました。コマンドを打ち込む必要もなく、意志で全てを操ることができます。
「そうか、君は空からくるかナターシャ!」
ルールーは地下シェルターの中で、空を見ずしてボイジャー二号の落下を補足しました。六体分の脳で作った緻密な回路がその超常性能を駆使して、究極速度の演算を行なっているのです。
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