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35『ファックユー・デバイス』
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システムA・トカゲのビル
システムB・コゼット
この二つを親とし疑似的な交配をオープンスペースで行なう
仮想ステージへのアクセスはフリー
この世界の科学者は自分以外死滅していると断定し
七つの電磁ポールを観客の代わりとする
一転
工程を削り取ることで不具合の発生因を強制的に削除
代替行為として自身のクローンを一体融解させ逆再生
生命誕生の代理とする
生命誕生の代理とする
生命誕生の代理とせよ
二転
システムA・寿命に類似した理由で停止
システムB・コピーして廃棄
三転
コピーしたファイルをコゼットからスロー変換開始
変換後の名称をユルシュールに仮想設定
ユルシュールへの完全変態を不完全変態に書き換え
変換中に強制停止する
「ルールー・ララトアレの名のもとに、システムの再起動を許可する」
音声入力にて再起動
起動直後に避雷針と接続
落雷を待つ
「…………」
ユルシュールの変態エラー
電圧の急上昇を確認
システム保護プログラム起動失敗
「不可」
システムエラー
システムエラー
システムエラー
シ システムエラー
システ ムエラー
シ S ys temerror
不可とする
「くそっ……だめか」
アリス不在中のある日、ルールー・ララトアレはコンピュータのシステム上に死亡した恋人ナターシャの再現を試み……失敗しました。
このミスにより彼女は、実験に使用した自身のクローン一体、低温保存していた予備のクローン六体の維持管理システムと、数々の理論を構築するための礎でもあった高性能コンピュータを失ったのです。
二時間ほど、呆けた後…………………………………………。
肩を落としたルールーは、レコードをかけました。選択した曲は、カルチャー・クラブのカーマは気まぐれ。これは、ナターシャが大好きだった曲。
「ナターシャ、私は君をあきらめることにするよ」
珈琲が不味いのは冷めているからではありません。心がひび割れているからです。
「ああ、そうだ。アリスが帰ってくる」
たまには喜ばせてやろうと、ルールーはクローゼットの上の段からクリスマスツリーの入った箱を取り出しました。
「神に逆らう私には、クリスマスを祝う資格もないか」
箱の中には、赤、金、緑の宝石がありました。でも、ツリーそのものは風化してボロボロになってしまっていました。
「神こそ! 人間を冒涜しているじゃないか!」
宝石を掴み、壁に強く投げつけました。そして、怒り任せにナイフで右手の中指の第一関節を切断したのです。
「なにが平面世界だ! なにが不思議の国だ! 人間を馬鹿にしやがって! 私が必ず、必ずこの世界を救ってやる! 糞っ! 糞ったれの神野郎が!」
ルールーは、天井に向かって中指を立てました。
「海が全て流れ出る前に、世界をつなぎとめる。問題はその先、維持だけではやがて収束し、終息する。死んでたまるか、死なせてたまるか。科学者は、世界が終わる寸前まで足掻くものだ!」
ルールーが傷口からあふれる血液で壁に描きはじめたものは、数式であり、理論であり、記録であり、実験でした。
「時間切れになる前に海溝の位置を把握するためには、ナターシャの復活は必要不可欠だ。ああ、ナターシャであれば恋人でなくていい、恋人である必要はない。航海士としてのナターシャを現出させなければ!」
ルールーは願います。このフィクションに侵された世界の中に、ひとひらでもいいから確固たる理論あれと。それは、神頼みや呪詛のような不確定なものではありません。彼女が願う相手は自分自身。コンピュータを超えろと己に課し、純粋頭脳で世界に勝負を仕掛けているのです。
「ナターシャ、戻ってこい。君こそ、君こそ、君こそ、君こそ! この世界を守りたかったはずだろう!」
中指を切断したのは、狂ったからではありません。不思議の世界にダイレクトにアクセスするデバイスは、無機物でつくられたコンピュータよりも血と肉の犠牲のほうが適していると確信したからです。
「人間には宿命に抗う義務があるだろう!」
ルールー・ララトアレは今でも、ゆるぎない科学の実践者なのです。
システムB・コゼット
この二つを親とし疑似的な交配をオープンスペースで行なう
仮想ステージへのアクセスはフリー
この世界の科学者は自分以外死滅していると断定し
七つの電磁ポールを観客の代わりとする
一転
工程を削り取ることで不具合の発生因を強制的に削除
代替行為として自身のクローンを一体融解させ逆再生
生命誕生の代理とする
生命誕生の代理とする
生命誕生の代理とせよ
二転
システムA・寿命に類似した理由で停止
システムB・コピーして廃棄
三転
コピーしたファイルをコゼットからスロー変換開始
変換後の名称をユルシュールに仮想設定
ユルシュールへの完全変態を不完全変態に書き換え
変換中に強制停止する
「ルールー・ララトアレの名のもとに、システムの再起動を許可する」
音声入力にて再起動
起動直後に避雷針と接続
落雷を待つ
「…………」
ユルシュールの変態エラー
電圧の急上昇を確認
システム保護プログラム起動失敗
「不可」
システムエラー
システムエラー
システムエラー
シ システムエラー
システ ムエラー
シ S ys temerror
不可とする
「くそっ……だめか」
アリス不在中のある日、ルールー・ララトアレはコンピュータのシステム上に死亡した恋人ナターシャの再現を試み……失敗しました。
このミスにより彼女は、実験に使用した自身のクローン一体、低温保存していた予備のクローン六体の維持管理システムと、数々の理論を構築するための礎でもあった高性能コンピュータを失ったのです。
二時間ほど、呆けた後…………………………………………。
肩を落としたルールーは、レコードをかけました。選択した曲は、カルチャー・クラブのカーマは気まぐれ。これは、ナターシャが大好きだった曲。
「ナターシャ、私は君をあきらめることにするよ」
珈琲が不味いのは冷めているからではありません。心がひび割れているからです。
「ああ、そうだ。アリスが帰ってくる」
たまには喜ばせてやろうと、ルールーはクローゼットの上の段からクリスマスツリーの入った箱を取り出しました。
「神に逆らう私には、クリスマスを祝う資格もないか」
箱の中には、赤、金、緑の宝石がありました。でも、ツリーそのものは風化してボロボロになってしまっていました。
「神こそ! 人間を冒涜しているじゃないか!」
宝石を掴み、壁に強く投げつけました。そして、怒り任せにナイフで右手の中指の第一関節を切断したのです。
「なにが平面世界だ! なにが不思議の国だ! 人間を馬鹿にしやがって! 私が必ず、必ずこの世界を救ってやる! 糞っ! 糞ったれの神野郎が!」
ルールーは、天井に向かって中指を立てました。
「海が全て流れ出る前に、世界をつなぎとめる。問題はその先、維持だけではやがて収束し、終息する。死んでたまるか、死なせてたまるか。科学者は、世界が終わる寸前まで足掻くものだ!」
ルールーが傷口からあふれる血液で壁に描きはじめたものは、数式であり、理論であり、記録であり、実験でした。
「時間切れになる前に海溝の位置を把握するためには、ナターシャの復活は必要不可欠だ。ああ、ナターシャであれば恋人でなくていい、恋人である必要はない。航海士としてのナターシャを現出させなければ!」
ルールーは願います。このフィクションに侵された世界の中に、ひとひらでもいいから確固たる理論あれと。それは、神頼みや呪詛のような不確定なものではありません。彼女が願う相手は自分自身。コンピュータを超えろと己に課し、純粋頭脳で世界に勝負を仕掛けているのです。
「ナターシャ、戻ってこい。君こそ、君こそ、君こそ、君こそ! この世界を守りたかったはずだろう!」
中指を切断したのは、狂ったからではありません。不思議の世界にダイレクトにアクセスするデバイスは、無機物でつくられたコンピュータよりも血と肉の犠牲のほうが適していると確信したからです。
「人間には宿命に抗う義務があるだろう!」
ルールー・ララトアレは今でも、ゆるぎない科学の実践者なのです。
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