自殺愛

目黒サイファ

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1. 出会い

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「だれか一緒に死んでくれないかな」
 SNSでたまたま目に入った投稿だった。よくある無理心中のお相手探しなのだが、気持ちの沈んでいた今、その投稿に目が離せないでいた。
 ――この人、殺してみたい。
 俺が殺人欲求に目覚めた初めての衝撃だった。この短文の何に惹かれるのかいまだに分からないでいたが、気持ちは本物だった。アパートの冷えた一室で、壊れかけのベッドに横になりながら、スマートフォンを見つめた。
 二十歳になった十二月二日。今日は俺の人格が変質した記念日だ。いや、変態したと言うべきだろうか。イモムシだった幼心が、ストレスに晒されながらサナギになった。そのサナギからようやく成虫が顔を出したのだ。
 つぶやきを投稿したアカウントのページに飛ぶ。プロフィール欄には「十七歳の女、自殺界隈の民」と書かれていた。
 ――自殺界隈の民。この言葉を目にして、なんだそれと笑ってしまう。SNSには自殺志願者にもコミュニティが存在しているらしい。近いうちに死ぬような人達が集まるコミュニティがなぜ今まで存続しているのかと疑問に思う。深く考えるまでもなく、本当は死ぬ気がないのだという結論に至る。社会から爪弾きにあった人々がお互いの傷を舐めあうだけのつまらない界隈なのだろう。
「死にたいなら即刻死んでしまえばいいのに」と俺は呟いた。
 死にたいなら未練がましく人に「死にたい」と言いふらす必要はないのだ。言いふらしても結局は「死んだら駄目だ」と至極当然の解答しか返ってこない。人の死を引き留める言葉は、バリエーションに乏しい。ドラマで何回も繰り返された決めゼリフを吐くだけだ。
 しかし、簡単に死ねないからこそ生物なのだ。人の意識が「死にたい」と思っていたとしても、心臓は全身に血液を循環させるし、肺は酸素を取り入れようとする。精神が駄目になっても肉体は死ぬことに抗うのだ。
 このアカウントの過去の投稿を見てみる。「死にたい」「今日も最悪」など、端的に自身の死にたい欲求をそのまま投稿しているようだった。投稿の中には写真を掲載しているものもあり、リストカットをしたであろう痛々しい腕の写真が投稿されていた。
 まるで自殺界隈の模範生だ。真面目に「死にたい」と定期的に投稿し、自殺界隈の民たちの共感を集めている。
 自分もこのアカウントに感化されてしまった一人になった。アカウントの持ち主、自称十七歳の少女にメッセージを送ろうと決意した。少しの間メッセージを推敲し、勢いで送った。
「俺も死にたいんだけど、一緒に死なない?」と極めてフランクに誘った。死にたいのは嘘だ。
 返信が来たのはメッセージを送ってから十時間後だった。
「いいね」
 彼女からの返信はたった三文字だった。しかし、内容は肯定の意を示している。
「今週の土曜日空いてる?」と俺は再びメッセージを送った。
 今度はメッセージを送ってすぐに「空いてる」とだけ返信が来た。
 そうして彼女と会う約束を取りつけることができた。大学の講義とアルバイト以外予定の無かった自分には、余分な時間が腐るほどある。これから忙しくなることに初めて胸が躍った。
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