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ミステリH③
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ミステリH ③
2024/5/25
PM1:56
「タスイさん」
「ハミル」
ハミルは先に店内で待っていたタスイに声をかけた。
タスイは料理雑誌を読んでいた。
熱田駅から徒歩5,6分の約束のカフェである。
「すいません、待ちましたか」
「まだ時間前やで。ちょっとゆっくりしたかったから30分前に着いてたで」
「そうですか」
店内の奥の二人テーブルで向かいあった。
ハシメはメニューを見ることもなく、近くを通った店員に声をかけブレンドコーヒーを注文した。
タスイのカフェラテはカップの三分の一ほどまで沈んでいた。
「久しぶりやな。ハミル、急にどうしたん?」
「ええ、久しぶりに会えて嬉しいです。実はですね」
ハミルはタスイには隠すことなく、全てを伝えようと思っていた。ある種の妄想があったことを除いて。
「あのですね、」
"ブレンドになります"
言いかけた途端ブレンドコーヒーが、ハシメの目の前に差し出された。
ありがとう、ごゆっくりどうぞ、形式的にやり取りを済ましてタスイの顔を見つめた。
(美しい)
瞬間的に感じてしまった。
「ああ、タスイさん、あのですね」
「うん」
「実はですね、こういうものがありまして」
ハミルは"好きです"を持参しており、タスイの前に差し出した。
「えっ、なに?好きです?なにこれ?ハミルもらったん!?すごいやん、誰!?」
「ええ、コホン」
咳払いは少し自慢気だった
「5月21日にサウナに行ったんですけどね」
「うん」
「17:00くらいだったかな、帰ったら置いてあったんです。もちろん、レターセットっていうんですか。シールされていて、中を開けたらその、それが」
「ホンマに、すごいやん、で、誰なん?」
「いや、それがわからないんです」
「わからない?」
「ええ」
タスイ、31歳
関西弁の彼女は大阪出身であった。
ある芸術家の拗顔我楽多な精神の塔に見守られた地域で育った。
容姿端麗でイタズラな関西弁を繰り出すから、男心をくすぐる。本人はそういったつもりはないが、とりわけ関西を基盤としていない、つまりその響きに免疫のない男子にとっては胸にズンと刺激を与えるトーンであった。
タスイに惚れている、ダイヤもその言葉の響きにやられたのは、"一つ"であった。
「名前書いてないってこと?」
「ええ、そうなんです」
「すごいな、そんなことってあるんやな」
「ええ、そうなんです」
「置かれてたって、なに?」
「そうなんです、家の玄関の前のジベタに置かれてたんです」
「ジベタ?ハミルん家、郵便受けないん?」
「あります、あります。玄関のドアにもついてるんですが、なぜかジベタに」
「変やな」
「そうなんです、で、その、切手も貼ってないし郵便局員が地べたに置くこともありえないから、本人が直接届けたということになると思うんです。」
「そうやな・・・カメラついてないん?」
「古いアパートなので、セキュリティもないから玄関前まで来ることは可能なのですが」
「そうなんや、誰か知りたいと」
「ええ、まあ、やっぱり気になるっていうか、あと」
「あと」
「お礼が言いたいんです、どうしても。名前を書いてないってことは、そっとして置いてほしいってことだと思うんですけど、やっぱりありがとうって気持ちが強くて」
「そっとしておいてほしい?」
「ええ」
「ちゃうやろ、」
「えっ」
「気づいてほしいやろ」
「気づいてほしい?」
「やろ、自分で正面切って伝えるのは怖いけど、前に進みたいって時やな」
「そうなんですか」
「ハミルは探したいんやろ?女、誰か」
「はい」
「向こうの方が上手やな」
「えっえっ」
「狙い通りや、探し出させて、ハミルの方から告白させる腹積りやで」
「そうなんですか!?」
「せやろ、女がこんなことする時は」
「なんでそんな」
「少なくとも、自分から告白しなければ振られるリスクは回避できる。ハミルが気づいてくれれば・・・男だって勝算ありってわかってたら、告白しやすいやろ」
「まあ、それは。そんなまさか」
「女っちゅうもんはな」
タスイの眉間が勝負師のそれに変わった。
「で、誰か、見当ついてねんな?」
「それが、ええ」
「うわ、ついてんねや」
タスイが興奮してきた。
「まあ」
「誰、誰?」
食い気味に。
「実は最近っていうか、よく話しをする機会があったのは」
「うん」
「チナナか、マンバさんか、ナツコちゃん」
「そう」
タスイがちょっと落ち着いた。
「その3人あたりじゃないかと」
「・・・マンバか」
「えっ、ええ、3人」
「マンバな」
タスイは顔を顰めている。
「どうしました?タスイさん」
「私、マンバ大好きやねん」
「明るくていい子ですね」
「うん、明るく見えるやろ」
「もちろん、いつも元気で」
「いつも元気で・・」
「そうですよね、メイクも個性的だし」
「マンバだとしたら、そういうやり方するかもな」
「えっ、そうなんですか」
「弱い子やから」
「弱い?そうですか?そんな風には」
「傷つくのは避けようとするかもな」
「マンバさんですか?」
「なんで、マンバが今のメイクをしてるか知ってる?」
「いや」
タスイは少し悲し気に
「あの子は黒猫やで」
#ハミル
#タスイ
#ミステリH
2024/5/25
PM1:56
「タスイさん」
「ハミル」
ハミルは先に店内で待っていたタスイに声をかけた。
タスイは料理雑誌を読んでいた。
熱田駅から徒歩5,6分の約束のカフェである。
「すいません、待ちましたか」
「まだ時間前やで。ちょっとゆっくりしたかったから30分前に着いてたで」
「そうですか」
店内の奥の二人テーブルで向かいあった。
ハシメはメニューを見ることもなく、近くを通った店員に声をかけブレンドコーヒーを注文した。
タスイのカフェラテはカップの三分の一ほどまで沈んでいた。
「久しぶりやな。ハミル、急にどうしたん?」
「ええ、久しぶりに会えて嬉しいです。実はですね」
ハミルはタスイには隠すことなく、全てを伝えようと思っていた。ある種の妄想があったことを除いて。
「あのですね、」
"ブレンドになります"
言いかけた途端ブレンドコーヒーが、ハシメの目の前に差し出された。
ありがとう、ごゆっくりどうぞ、形式的にやり取りを済ましてタスイの顔を見つめた。
(美しい)
瞬間的に感じてしまった。
「ああ、タスイさん、あのですね」
「うん」
「実はですね、こういうものがありまして」
ハミルは"好きです"を持参しており、タスイの前に差し出した。
「えっ、なに?好きです?なにこれ?ハミルもらったん!?すごいやん、誰!?」
「ええ、コホン」
咳払いは少し自慢気だった
「5月21日にサウナに行ったんですけどね」
「うん」
「17:00くらいだったかな、帰ったら置いてあったんです。もちろん、レターセットっていうんですか。シールされていて、中を開けたらその、それが」
「ホンマに、すごいやん、で、誰なん?」
「いや、それがわからないんです」
「わからない?」
「ええ」
タスイ、31歳
関西弁の彼女は大阪出身であった。
ある芸術家の拗顔我楽多な精神の塔に見守られた地域で育った。
容姿端麗でイタズラな関西弁を繰り出すから、男心をくすぐる。本人はそういったつもりはないが、とりわけ関西を基盤としていない、つまりその響きに免疫のない男子にとっては胸にズンと刺激を与えるトーンであった。
タスイに惚れている、ダイヤもその言葉の響きにやられたのは、"一つ"であった。
「名前書いてないってこと?」
「ええ、そうなんです」
「すごいな、そんなことってあるんやな」
「ええ、そうなんです」
「置かれてたって、なに?」
「そうなんです、家の玄関の前のジベタに置かれてたんです」
「ジベタ?ハミルん家、郵便受けないん?」
「あります、あります。玄関のドアにもついてるんですが、なぜかジベタに」
「変やな」
「そうなんです、で、その、切手も貼ってないし郵便局員が地べたに置くこともありえないから、本人が直接届けたということになると思うんです。」
「そうやな・・・カメラついてないん?」
「古いアパートなので、セキュリティもないから玄関前まで来ることは可能なのですが」
「そうなんや、誰か知りたいと」
「ええ、まあ、やっぱり気になるっていうか、あと」
「あと」
「お礼が言いたいんです、どうしても。名前を書いてないってことは、そっとして置いてほしいってことだと思うんですけど、やっぱりありがとうって気持ちが強くて」
「そっとしておいてほしい?」
「ええ」
「ちゃうやろ、」
「えっ」
「気づいてほしいやろ」
「気づいてほしい?」
「やろ、自分で正面切って伝えるのは怖いけど、前に進みたいって時やな」
「そうなんですか」
「ハミルは探したいんやろ?女、誰か」
「はい」
「向こうの方が上手やな」
「えっえっ」
「狙い通りや、探し出させて、ハミルの方から告白させる腹積りやで」
「そうなんですか!?」
「せやろ、女がこんなことする時は」
「なんでそんな」
「少なくとも、自分から告白しなければ振られるリスクは回避できる。ハミルが気づいてくれれば・・・男だって勝算ありってわかってたら、告白しやすいやろ」
「まあ、それは。そんなまさか」
「女っちゅうもんはな」
タスイの眉間が勝負師のそれに変わった。
「で、誰か、見当ついてねんな?」
「それが、ええ」
「うわ、ついてんねや」
タスイが興奮してきた。
「まあ」
「誰、誰?」
食い気味に。
「実は最近っていうか、よく話しをする機会があったのは」
「うん」
「チナナか、マンバさんか、ナツコちゃん」
「そう」
タスイがちょっと落ち着いた。
「その3人あたりじゃないかと」
「・・・マンバか」
「えっ、ええ、3人」
「マンバな」
タスイは顔を顰めている。
「どうしました?タスイさん」
「私、マンバ大好きやねん」
「明るくていい子ですね」
「うん、明るく見えるやろ」
「もちろん、いつも元気で」
「いつも元気で・・」
「そうですよね、メイクも個性的だし」
「マンバだとしたら、そういうやり方するかもな」
「えっ、そうなんですか」
「弱い子やから」
「弱い?そうですか?そんな風には」
「傷つくのは避けようとするかもな」
「マンバさんですか?」
「なんで、マンバが今のメイクをしてるか知ってる?」
「いや」
タスイは少し悲し気に
「あの子は黒猫やで」
#ハミル
#タスイ
#ミステリH
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