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王国編 序章

10.相談

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 皆が出ていって大体10分くらいだろうか。軽く2回ほど扉を叩く音がしたので、扉を開けるといつも通りニカッという擬音が聞こえてきそうなほど明るい笑顔のリーリアが立っていた。


「急に会いたいなんてどうしたのー?昨日の今日でもう寂しくなっちゃった?」


 少しからかい気味に言うリアを、レオは唐突に抱きしめた。あまり甘えるような仕草は見せた事がないレオだが、唐突なハグにリアは少し不信感を抱いた。


「え、ほんとにどうしたの?今日って儀式だったで……まさか、カミサマと会って何か言われたとか?」


 儀式終わりにこんな様子になるとしたらそれ以外で何があるだろうか。能力が希望通りにいかなかったからといって、それで落ち込むような人間じゃないのは前世から知っている。

 急いで部屋に入り、しっかり扉を閉めると二人はベッドで横たわる。相変わらずレオは抱き着いたままだ。

 珍しいその姿に愛くるしさを感じ、そっと頭を撫でる。


「ちゃんと聞いててあげるから教えて?」

「……実はな、魔紋オドリングが刻まれた後にもう一度霧が出て来たんだ」

「それで?」

「その霧が人型になって散らばったと思ったらそこに人がいたんだ。顎髭たっぷりのおじいさんが」


 霧の中から現れたおじいさん。そう聞いて仙人を想像した。


「その人はなんて?」

「『家に帰りたければ北の果てで待つ』」

「っ!!」


 家に帰る。もし記憶が目覚める前であれば何の事か分からなかっただろう。

 二人にとってその言葉は希望であり、絶望も含んでいた。

 およそ数十年前にいた勇者によって倒された魔王だが、魔族を滅ぼし切らなかったせいで次の魔王が生まれてしまった。今代の魔王は先代とは違い今のところほとんど侵略戦争は行わずに裏でこそこそ動いているらしい。

 魔王は魔物を人間が犬や羊を扱うように魔物を従える魔族の長だ。人間と同じく、魔族も同じ生命として魔紋オドリングを授かるのだが、魔族は魔力オド量が低くても80前後あるのだ。

 魔王に至っては400を超えると云われている。そんな化け物が住まう城にレオとリアが地球に帰る何かがあるという。


「でも、家に帰れる可能性が見つかっただけ十分じゃない」


 その通りだ。家に帰れるかもしれない。

 だが、目覚めてからは必死に過去を忘れて今の家族を大切にしようと決めていた。なるべく思い出さないように必死に別の事で紛らわせようとしていた。

 しかし、儀式で家に帰ることが出来る可能性を、その後に両親とは血が繋がっていない事を知ってしまいその決心は非常に揺らいでしまった。これからどうやって生きていくかを考えていた矢先にそんな出来事があっては混乱するのも仕方がないのかもしれない。


「で、何で迷ってるの?たぶん、家に帰るのを目指すべきか、諦めてこの世界で楽しく生きていくかってところでしょう?」


 やはり、この子には敵わない。前世でも親以上にレオを理解していたといっても過言ではない。生まれた時からほとんどの時間を一緒に過ごし、楽しい時も、辛い時も、悲しい時も常に彼女が傍に居た。

 何を考えているかなんて手に取るようにわかるんだろう。


「私はその話聞いて決めたよ。これからする事」

「……だろうね。それでリアはどうするの?」

「私は……家に帰りたい。日本に帰りたい。」


 ずっと胸に埋めていた顔をあげ、リアの顔を見る。彼女の顔はすでに決心したという表情だった。

 こうなったからには相当な理由が無ければ彼女は絶対に諦めない。例え片腕が失われようとも足を奪われようとも絶対諦めない。


「レオはどうしたい?諦めてこの世界で過ごす?」

「……リアが、マリが諦めてないのに俺が諦めるわけにはいかないだろ。当然、俺もいくよ」

「よしっ!いい子や~」


 うりうりと頭を撫でられる。


「あ、もう一つ俺空間の王位精霊の加護授かったんだけどさ、父上が言うに「え?ちょ、ちょっとまって」」


 リアが唖然とした表情で見つめてくる。


「あぁ!そっか、まだ言ってなかった。俺、空間の王位精霊、水の中位精霊、風の上位精霊の加護授かったんだ」

「お、王位精霊……ずるいいいいいい!!」


 急にヘッドロックをし始めるリア。その力には殺気が籠っている。


「ぃい、痛い!痛い痛い痛い、ちょ潰れちゃうから!やめ、やめてえええ!」

「あ、ごめんごめん。それで?」


 すぐ離したが、謝罪の言葉に一切気持ちが見えない。


「久しぶりにされたよ……まぁいいか、それで父上が言うには空間の王位精霊は異世界人しか加護を授かれないっていう説があるみたいで」

「えっ、じゃあもしかしてもうバレたの?」

「バレかけてる……かな、それが一説にあるって話。そういえば思ったんだけどさ」

「う、うん?」

「俺とリアって目の色同じじゃん?」

「そうだね」

「俺、実は両親と血がつながってないみたいでさ」

「うん……は?」


 再び口をあんぐりと開けて啞然としている。


「なんでも、10年前に魔族に攫われたところをルーフが助けてくれたんだってさ。俺もさっき聞いて、それも相まって色々迷ってたんだけど……リアのおかげだよ。ありがと」

「その急にデレるの可愛いからやめてぇ」


 レオを抱きしめながらうねうねうねっている。


「あ、じゃあこの間の襲撃事件はそれが原因?」

「みたいだね。でさ!俺の目が両親のどちらとも違うのはそれで理由がつくかもしれんけど、リアは両親と目の色一緒?」

「いや……お父様は金色で母様は茶色だったかな」

「そうか……もしかして、異世界人って瞳が紫になるとか?」

「あーでもそうかも。最近、おじい様に勇者の話を聞いたんだけど、髪は黒いんだけど目は紫だったんだって」


 先代勇者の目が紫。そしてレオとリアの目も紫。更にはレオが授かった空間の王位精霊の加護は、過去に授かった人物は確認できる限り皆異世界人だった。


「ここまで一致すると偶然には思えないね」

「そうね……それで、おじ様達にその事話すの?」

「……帰るためには力をつけなきゃいけないし、話して色々勉強した方が良いと思う」

「私もそう思う。私はどうしようかしら……一応、父上が王になった後の王位継承権は、おじ様方が放棄してらっしゃるから弟のフェイトスに渡ると思うのよね」

「フェイトス君か。昨日初めて会ったけど優しそうな男の子だったね」

「覚醒後に見た時はレンそっくりで泣きそうになっちゃった」


 レンというのは、日本でのマリの弟だ。年齢差も今と同じくらいだった。


「そっか。それで、話すの?」

「うーん……話すかな。やっぱ、帰るって決めたからにはレオも言ってたけど力つけなきゃいけないし」

「そうだね、あ、でも、リアのとこのおじさんて……」

「そうなんだよねぇ」


 リアの父、皇太子であるルーリエン・フェル・ハイル・リルフィストは所謂いわゆる子煩悩だ。

 その溺愛っぷりは周囲が引くレベルで、リアの誕生祝いにリアの銅像を作って教会の広場に置こうとしていたらしい。慌てて奥さんのルミーニャが止めに入ったのだが。


「父上をどうにかして説得しないと……母上は理由がしっかりしていればやりたいようにさせてくれるから大丈夫だと思う」

「が、頑張って。はは」


 最近のルーリエンはその溺愛ぶりに拍車が掛かって目も当てられない。もしかしたら、リアが日本に帰ると言い出したら一緒に付いてくるとか言い出しそうだ。

 思っているより難航しそうな今後に溜息をつく二人だった。
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