フラックリン

プランツ

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フラックリン

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 水銀灯が光る夕刻、彼と一緒にレンガ調の広場まで行くとそこにはマッサージ台がぽつんと1台だけ野ざらしに設置されていた。そのマッサージ台にはうつ伏せになっている男性と小さな人型の生物が何体(?)かいた。

 「あれはフラックリンだ。ここに住んでいる人はこうやって夕方になると仕事の疲れや生活の疲れを癒してもらうためにここに来るんだ。そして、何かの弾みでズレたものをフラックリン達に治してもらうんだ」彼はそう説明した。
 そう言ってる間に、彼が言うところのフラックリン達は刃渡り40cm程の刃物を使い、マッサージ台にうつ伏せになっている男の背中の肉を綺麗に詰まることなくサーッと捌いた。
 男は、叫び声や悶絶することなくまるで冷え切った体が温かいお湯で癒されていくかのように「あぁ~っ」と気持ち良さそうな声を上げた。またマッサージされているかのように相手の行動を受け入れじっとしていた。

 フラックリン達は削いで骨が丸見えになっている背中に対して各々行動を開始した。
 1人は針で骨と肉の間にある白い物体をほじくりかえして取り除き、1人は小さなハンマーと当て木を使って骨のズレを直すかのように迷いなく叩き、またある1人は背骨を捻り、動かしてポキポキと音を鳴らしたり骨を引っ張ったりし、またある1人はむき出しになった肉に極小な針を次々と刺していた。
 フラックリンは無表情に単一的に治療を行なっていた。

 治療を受けている間、なおも男は至極のマッサージを受けているかのように気持ちよさそうな声を出していた。また男の顔の方から涎らしきものが垂れていたり、涙と思われる雫が落ちていっていた。おそらく彼の顔から体液という体液が出ているのだろう。マッサージ台付近は彼の涎やら涙やらの体液で埋め尽くされていった。
 しかし、彼から涎やら涙やらが出る一方で背中からは血は噴き出てこなかったし、彼はうっとりしてるだけで死にかけてはいなかった。

 私には「なぜ背中を削いでいるのに血が出ないんだ?なぜそんなに気持ち良さそうなんだ?なぜこんな広場で仕切りもなくやるんだ?それにそもそもフラックリンとは一体何なんだ?」そのような疑問が沸々と色々わきあがってきた。
 しかし、フラックリンの迷いなき完全化されている手捌きに見惚れてしまい、そうしたことは彼に聞く余裕がなかった。それに見惚れなかったとしてもこの場で訊くのは場違いな気がした。

 そうして、広場の水銀燈がぼんやりと光る中人々はフラックリンによる治療を受け、1人また1人と広場からうっとりした顔で黙々と去って行った。フラックリンもまた仕事を終えると手際良く片付け、一列になって郊外の方へと去って行ってしまった。
 「これがこの街の仕組みだよ」彼は最後にそう言ってそれから喋ることはなかった。
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