5月の森

プランツ

文字の大きさ
上 下
1 / 1

5月の森

しおりを挟む
私は定期試験に向けて徹夜でヘッドフォンを付けて勉強していた。しかし、人間なんてものはそう長く勉強なんてしていられないものであり、あっという間に集中力がきれてしまった。その集中力が切れた時に、なんとなく窓からスルスルと入ってきた冷気に自然と注意がいった。
その窓からスルスルと私の足にやってきた冷気はどこか変だった。何か臭いがするとか何か変な色が付いた気体があるとかそういうのではない。言ってしまうとおかしいのは、その冷たさだった。5月に入りカエルも鳴いているというのに、その日の夜は健やかな冷たさをまとっていた。もちろん、気温というのは急に「やっぱやーめたっ」てな具合に変わったりするものであり、5月に入っても寒くなることぐらいあるものだ。
しかし、私が窓のカーテンから外の様子や空気を感じたとき、やはりおかしかった。というのは、夜にしてもあまりにも静かすぎたし、空気が朝靄のような一種の神秘性を帯びていたのだ。そういった静けさや神秘性は近くにある標高500メートルの山の荘厳さと相まってさらに興味深いものになっていた。
私は怖い物見たさや好奇心から山に向かうことにした。こんな真夜中に山にいっても、もちろん何も見えないことぐらい分かっていたが、その時ばかりはいけるような気がしていた。

実際に、山の麓まで行ってみるとそこには境界線があった。こちらとあちらを結ぶ境界線。私はあちらに行くべき存在であり、行かなければならなかった。しかし、私はあちらへは行けなかった。あちらの世界へ行くための試練に私はひるんでしまったためである。こうなってしまった以上、もう扉は開かない。私はチャンスを逃したのだ。
私は翌日の朝もう一度森に行ってみたがやはり扉は消えていた。
そうして、5月の森は消えた。
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

妻と愛人

遠藤良二
現代文学
 俺は35歳で|山国雄一《やまくにゆういち》という。奥さんは9つ年下の山国|達子《たつこ》、26歳。結婚6年目。今日は3月3日、ひな祭りの日で、結婚記念日。子どもは1人いて3歳の女の子で年少さん。幼稚園に通っている。達子はとても娘の|凛《りん》を可愛がっている。でも、俺は子どもが嫌いだ。だから、自分の子どもでも可愛いとは思えない。このことは達子には言っていないけれど。できちゃった婚だから責任をとるために結婚しただけだ。達子1人じゃ、凛を育てられないし。経済的にも難しいし。生活保護という手もあるけれど、それは達子は嫌みたいだ。なぜ嫌かと言うと多分、車を持てなくなるからだろう。確かに、この地域は車がないと非常に不便だし、困る。車は俺の普通車と、達子の軽自動車の2台ある。チャイルドシートは達子の車の助手席に設置されている。一応、念のため俺の車にもチャイルドシートは助手席に設置してある。

俳句庫

じゅしふぉん
現代文学
俳句?川柳? そんな感じの5▪7▪5です

いじめられっ子たち

星磨よった
現代文学
その頃、日本でいじめが急激に増加していた。いじめられっ子達は状況を変えるため、ある計画を実行に移す! ※エブリスタ、ノベリズムでも投稿しています。

千夏の髪

マーヤ
現代文学
断髪フェチのための小説です。 断髪の間の女の子の気持ち、 羞恥心や屈辱感、その中の快感、ドキドキ感を味わいたい方はぜひ! 過激な表現はほぼありません。 読者の皆様にちょっとでもフェチ心をくすぐれるような楽しめる小説を書こうと心がけています。

愛と死を乞う

嶼船井
現代文学
君を愛することは、この世で最も哀しい悲歌だ。

三人のママ友

たんぽぽ。
現代文学
「ママ友」──「友」という字が入っていても、決して「友人」なんかではない。それは子どもを間に挟んだ関係。在宅ワークをひた隠しにする秘密主義者ユリ、働きたくても働けないマミコ、「普通」に憧れるミズホ。子どもが同じ幼稚園、息子が一人、転勤族という共通点でなんとなくつるむ三人は日々悩みながら生きている。しかしユリの夫の浮気によって、三人の関係は少しずつ変化していき──

山頂晴れて

ざしきあらし
現代文学
 少年は不治の病である。生まれてからずっと、少年はベッドの上。生きることとは何か。死とは何か。少年には分からない。  少年は突発的に旅に出る。それは生死を探る一人旅。  その果てにあるのは何か、誰にも分からない。少年にも分からない。  

足りない言葉、あふれる想い〜地味子とエリート営業マンの恋愛リポグラム〜

石河 翠
現代文学
同じ会社に勤める地味子とエリート営業マン。 接点のないはずの二人が、ある出来事をきっかけに一気に近づいて……。両片思いのじれじれ恋物語。 もちろんハッピーエンドです。 リポグラムと呼ばれる特定の文字を入れない手法を用いた、いわゆる文字遊びの作品です。 タイトルのカギカッコ部分が、使用不可の文字です。濁音、半濁音がある場合には、それも使用不可です。 (例;「『とな』ー切れ」の場合には、「と」「ど」「な」が使用不可) すべての漢字にルビを振っております。本当に特定の文字が使われていないか、探してみてください。 「『あい』を失った女」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/572212123/802162130)内に掲載していた、「『とな』ー切れ」「『めも』を捨てる」「『らり』ーの終わり」に加え、新たに三話を書き下ろし、一つの作品として投稿し直しました。文字遊びがお好きな方、「『あい』を失った女」もぜひどうぞ。 ※こちらは、小説家になろうにも投稿しております。 ※扉絵は管澤捻様に描いて頂きました。

処理中です...