Hの経験人数=レベルなので色々な男と寝ようと思います

ノルねこ

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10、翡翠(ジェイド)

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 宿に荷物を置いたまま、ルネは帰って来なかった。
 宿の主人に娼館の場所を聞いてきたということは、昨日俺たちが出かけている間に店に行ったんだろう。ルネの荷物には貴重品がなく、簡単な着替えしか残っていなかったからもう宿には戻って来ないかもしれない。

 少しだけ寂しい気持ちになりながら、ルネを王都まで護衛した三人の冒険者達は荷物をまとめた。宿にずっと泊まる訳にはいかないし金もかかる。そこでギルドの近くに小さな家を借りたのだ。昨日出かけたのは、ギルドから紹介された借家を見に行っていたのだった。

「あ」

 金を支払うため三人が荷物を持って一階の受付に下りると、そこにはルネともう一人、黒髪の背が高い男がいた。
 ピシリと三人が固まった。



 ーーコイツは強い。
 冒険者の経験と本能でそう悟った。




 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 





 目が覚めるとベッドにはエドワードは居らず、モリオンが起きるようにと僕の肩を揺らしていた。
 カーテンが閉められ部屋が薄暗いので、いったい今が朝なのかも分からなかった。

「んーー、今何時?」
「朝の九時だ。いつまで寝てるんだ。早く起きろ」

 気だるい身体を起こしてベッドの下に落ちていた僕の服を拾いもう一度腕を袖に通す。置きっぱなしだったので皺になっていたが、これしか着るものがないので仕方ない。着替えが入った荷物は宿に置きっぱなしだ。
 昨日の夜、エドワードに散々後ろの穴を嬲られそのまま眠ってしまったらしい。中には出してもらえなかったけれど、抜いてはくれたのでとりあえずはスッキリしている。
 身体はきちんと清められていた。エドワードがやってくれたのか、それとも目の前の彼か。僕には判断がつかなかった。
 
 ベッドの前の椅子に座ったモリオンは胸ポケットから煙草を取り出して指先で火をつけた。火属性の魔法だ。彼が煙草を燻らせるのをぼんやりと見る。
 プレスがばっちりかかった清潔な白いシャツ。スクエアショルダーの黒いジャケットと同じ生地で作った黒い細身のスラックス。ピカピカに磨かれた黒い革靴から覗く白い靴下。こいつのクローゼットには黒と白のツートンカラーしか置いてないのか?
 長くすらりとした指と血管の浮き出た大きな手にぞくっとするほどの色気を感じる。少し伏せた瞳の睫毛は案外長く、男らしさの中に優美さも感じる端正な横顔だ。さすが元男娼。男にも女にもさぞかしモテただろうと想像がつく。

 モリオンの指から煙草を抜き取って灰皿に置き、膝の上に足を広げて跨り首に腕を回す。小鳥がするような軽いキスをするが相手からの反応はない。口を開けるように舌でノックをすると、モリオンは諦めたように一度軽く溜息を吐いたあと、後頭部を動かないように固定して黒水晶の瞳を開けたまま僕の下唇を喰んだ。

「んはっ、ん……」

 舌と舌を絡み合わせ、唾液を流し込まれる。口の中を吸われ舌が唇をなぞり、僕の舌の裏の奥から先まで撫でた。頭がジン…と痺れる感覚がとても気持ちいい。腰が砕けそうなほどの快感。何度か角度を変えてお互いの舌をねっとりと重ね合わせてじゅっと唾液を飲む。飲み切れなかった唾液が銀の糸を引き唇の横から顎に流れた。
 膝から下りてそれをぐっと手で拭う。これ以上すると止められなくなる。今日はここまでかな。

「すっごい気持ちよかった。またしてね」

 キスをする前に置いておいた煙草を灰皿から取り上げて再び煙草を吸い出したモリオンにそう言っても、色良い返事は帰って来そうになかった。冷静すぎてすごいムカムカした。

「あ、そうだ。これを渡しておく」
「えっ……、金貨?」

 モリオンが布袋から金貨を一枚取り出してルネへ渡した。

「これは今日の仕事の前払いだ。返さなくてもいい。まだ店の人間ではないお前に頼むのは間違っているのは分かっているが、子爵とのことよろしく頼む」
 
 ありがたく頂戴することにして金貨を手に取り照明に当てた。キラリと金貨が光る。初めて触れる重みを確かめていたらモリオンに声をかけられた。

「それとお前は今日から『翡翠ジェイド』と名乗れ」
「あはは。モリオンが言った通りになったね」
「それ以上の名はないだろう」

 煙草を灰皿に押し付けて立ち上がったモリオンは僕に付いてくるように促した。

「部屋に案内しよう。基本的にこの店の従業員は全員住み込みだ。外に出る時は監視がつく」

 言われてそういえば、と思い出した。

「あ。荷物、宿に置いたままだった。お金も返したいし、一度戻ってもいい? 監視が必要ならあんたが付いてきてよ」

 ここに来る時は三人に何も言わずに出てきてしまった。荷物が置きっぱなしだから心配はしてないだろうけど、入国料や宿屋代、払わなくてもいいと言われた正式な護衛任務代、下級ポーション代などのお金も金貨で返せるし、色々と世話になったから、別れの挨拶くらいはしておきたい。

 モリオンが了承の返事をした。こっちから働かせてと言ったので逃げるつもりはさらさらないけれど、コイツは力がありそうだし荷物持ちにちょうどいい。

「じゃあ『ジェイド』、まずは店の説明をしながら部屋へ案内する。部屋を見て必要なものがあったら、それを買いに行くついでにお前の荷物を取りに宿へ行こう」
「ジェイドって言われ慣れてないからなんか変な感じ」

 ジェイド、ジェイドか。少し男臭く大人っぽい名前で何だかとても面映い。けれどこれからベッドで何度も名前を呼ばれるうちにだんだんと慣れてくるだろう。

 ここ『フォルトゥーナ』は一階が受付や従業員たちの控室、二階が仕事部屋、三階が娼婦たちの部屋になっていた。男娼の部屋も三階にある。四人部屋、二人部屋、個室があって、人気がある娼婦は大きな個室を使うことが出来た。店にいる三人の男娼は四人部屋の一室を使っているのでルネもそこに入ればいいのだが、子爵の相手をすることで店に貢献すること、借金がないこと、売れっ子になるだろう将来性も加味され個室を使うことになった。

 そういう事を歩きながらモリオンが説明してくれた。
 彼の私室は一階の、管理人室の隣にあるそうだ。何となく黒と白を基調とした趣味の良いモダンな部屋に住んでいるイメージがある。服もモノクロだからな、こいつ。

「僕、あんたの部屋に遊びに行ってもいい?」
「駄目だ。俺の部屋は誰も入れさせねぇ」
「ケチ」
「なんとでも言え」

 どんな部屋なのか気になりすぎるので、今度突撃してやろう。

「仕事の報酬は7対3、もちろん3がお前だ。一晩の相手は一人だ。仕事は夕方17時から朝まで。客は10時までには返せ」
「はーい、分かった」

 僕の返事を聞いたモリオンはその場に立ち止まって首を振った。

「あのなあ、一応俺はこの店の副支配人だぞ。敬語を使え、敬語を」
「敬語なんて知らないもの」

 まあそうだよなぁと諦めたように僕に言ってモリオンはため息を吐いた。

「この店の休みは週二日。休みの日に俺がお前を躾ける。お前、文字の読み書きは?」
「僕、身体が弱くて外に出られない時は本ばかり読んでた。だから読み書きはできるよ」

 この国の人たちの識字率は半々だ。辺境の村人なんかは読み書きができない人が多い。でも僕は小さい頃からほとんど家から出られず、部屋に篭りがちだったため暇だけはいくらでもあった。そんな時は本を読んで過ごした。書く方は母さんが教えてくれた。母さんはどこかのお嬢様だったらしい。父さんと知り合って、身分違いで駆け落ちしたんだと聞いている。

「じゃああとは礼儀作法と教養だな。俺は厳しいから覚悟しておけ」

 ピッと指を向けられて、冷や汗を浮かべるしかなかった。

 案内された部屋は、備え付けのクローゼットにベッドと小さな机があるだけの殺風景なこじんまりとした部屋だったが、一人で住むには十分だった。小さめな窓が一つあり、カーテンが付いていないので隣の建物の壁が部屋の中からよく見える。
 続き部屋には手洗いと洗面所があるが風呂場はない。聞けば二階の各仕事部屋に浴室があるからほとんどの娼婦は情事の後にそっちで入るそうだ。仕事がない人は一階にある大風呂に入る。

「食事や洗濯はどうするの?」
「食事は部屋に運ばれる。洗濯や掃除は使用人がお前たちの仕事中にやる」

 いたせり尽せりだと思ったが、ここに住んでいる娼婦たちは借金がある者ばかりで、彼女らを逃さないためになるべく店から出さないようにするための措置だった。

 部屋をざっと見回して生活に必要そうなものを考える。この部屋ならカーテンとラグマット、それに小さめの一人掛けの椅子かソファがあればいいだろう。白い壁に家具と床は明るめのブラウンだから、オレンジ系統の温かみがある色がいい。後は清潔な服と下着かな。さっそくモリオンを買い物に連れ回して荷物持ちをさせてコキ使ってやろう。

「じゃ、行こう。荷物持ちよろしく」

 あの冒険者三人とモリオンが顔を合わせたらどんな感じになるんだろう。
 面白くなりそうだと思って少しワクワクした。
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