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3章 辺境の地ライムライトへ
26-1、ケイとレオンハルトは服を買う
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僕たちが向かったのは、レオンハルトの知り合いが開いているという街の目抜通りにある服飾店だった。店内は天井が高く、照明が多く配置されており、明るく清潔感がある。綺麗に畳まれた服が中央の平棚に陳列され、壁に沿って置かれているハンガーラックにはビタミンカラーを中心としたカラフルな色の服がかけられていた。半分以上がレディース服だが、一部でメンズ服も取り扱っているようだ。
ディスプレイ用のトルソーには小さな服が飾られているが、デザインは洗練された落ち着いたものなので、これはハーフリングやドワーフの大人用なのだろう。
「いらっしゃいマセ。あら、レオンハルトサマじゃないですカ」
店の中で立ち働いていたのは、腰から下が蜘蛛、上半身が女性である亜人種の蜘蛛人だった。発音器官が人間と少し異なるのか、言葉の所々にビブラートがかかっている。
身長……蜘蛛なので体高? は僕と同じくらい。本来蜘蛛は八本の脚を持つが、アラクネの場合、上半身にヒトの手を持つからか、下肢の脚は六本しかない。
左肩で一つに結んで胸に垂らした髪の色は黒と白のツートンカラーで、前髪が斜めにカットされている。弧を描く弓なりの整った眉に黒曜石のような瞳、少し分厚い艶めく赤い唇が扇状的な、とても美人なアラクネだ。
レオンハルトが片手を挙げた。
「おう! 久しぶりだな。今から『西の斗食兎宇亭』にメシ食いに行くとこなんだ。悪いが、俺とコイツの服を適当に見繕ってくれや」
「『西の斗食兎宇亭』ですカ。マア確かに今日のレオンハルトサマの装いでハ……アラ?」
そこで彼女とレオンハルトの影に隠れるように立っていた僕の視線が交差した。みるみるうちにアラクネの目が大きく見開かれていく。
鍛冶屋のキーリさんと同じように、彼女はレオンハルトを邪魔とばかりに脇に押しのけ僕の対面に来た。
「あらあら、まあまあァ! レオンハルトサマ、新しいお客様ヲ連れて来てくれたんですカ? マア何てキレイな銀髪なの!」
そして僕の顔を見てあらまあと奇声を上げられるのも本日二度目だった。キーリさんとアラクネの美女、反応がよく似ている。
「この街の女はどうしてみんなこんなにもアグレッシブなんだよ……」
押しのけられてよろけたレオンハルトが腰をさすりながら呟いた。
「私が服を選んでいいのですカ? すぐに店に相応しく、この子に似合うピッタリな服をご用意させて頂きますワ。ハイ、アナタ、少しだけ動かないデ」
僕がその場から動かずにいると、すぐにチリチリと肌を刺すような魔法の気配が僕を包み込んだ。これは生活魔法の『採寸』だろう。縫製をする者がよく使う魔法だ。アラクネは背丈や胸囲など、体型に関わる部位の寸法を一目見ただけで正確に把握し教えてくれた。首まわり、手首まわり、背肩幅なんて今まで測ったことがなかった。
魔法の気配が消えた後、アラクネがレオンハルトを睨んだ。
「ちょっと! この子が今着てる服、サイズが全然合ってないわヨ。え? 適当に買って来た? 既製品を買う時は必ず本人を連れて行って試着しないとダメでしょう! それにこの子、腰回りが細すぎやしませんカ? ちょっとレオンハルトサマ! ちゃんと食べさせてマス!?」
ボソッと女の敵……と聞こえた気がするけれど……気のせいにしておいた方が良いかもしれない。
「服はすぐに必要なのよネ? じゃあ既製品をお直しするしかないわネ。ハァ……。一週間ほど時間をもらえればオーダーメイドでこの子にピッタリな服を作れたノニ……」
アラクネはため息混じりに肩を落とした。
「実は私、最近知り合った『落ち人』から、王子系ロリータファッションっていう服があるって教えてもらったノ。デザイン画を見せてもらっただけだけど、その服がアナタにとっても似合いそうなのヨ!」
王子系ロリータファッションとは、可愛らしさと格好良さ兼ね揃えた、王子様が着ていそうな装いの服のことを言うらしい。『王子』と付いているけれど不敬罪とかにならないのだろうか。
「それで私、その服を作ってみようかと思って。縫って誰かに試着してもらって良さげナラ、売り出そうと思ってるノ。ちょうどアナタみたいな若い男の子が着る服を新たに手がけようト思っていたトコロなのよ!」
アラクネは僕の手を取った。
「ネ、お願い。完成したらレオンハルトサマ宛に送るから、服のモニターをしてもらえないカシラ? 試着してみた感想や周りの反応を教えてくれると助かるワ」
「ま、まあ、そんなことでいいのなら……」
あまりの圧の強さに僕は思わず頷いた。
「おお、いいじゃねえか。じゃあ服が出来上がり次第ライムギルド宛に送ってくれ。そうしたら俺が服を試着したケイの姿を魔道カメラで撮って写真を送ってやろう」
「マア是非!」
「モニターするのは吝かではないですが、写真はやめてください」
レオンハルトに隠し撮りしないよう言い含めておこう。
「ところでこの店の服はあなたが作っているんですか?」
店内をぐるりと見渡す。この店にある服はどれもコンセプトが似ているので、同じ人がデザインしているのだろうと想像がつく。
「エエ、そうヨ。縫い物だけは一人じゃ追いつかないカラお針子さんに手伝ってもらうコトもあるけれど、服のデザインや型紙作りは私ガ。あと、原材料の布はアラクネ種である私が吐いた糸を紡いで織ったモノを使っているワ」
アラクネの糸は、強度とその美しさから高値で取引されている。その糸で織った布はアラクネシルクと呼ばれ、正妃が好んで愛用されていると聞く。そんな原材料から作られているこの店の服も本当なら高級品だが、この店の服はアラクネ自身が原材料を用意できるからか、手に入れやすい値札がついていた。
確かにこの店の服であれば、どこへ行っても門前払いされることなく、寧ろ賓客として丁寧に扱われるだろう。
ディスプレイ用のトルソーには小さな服が飾られているが、デザインは洗練された落ち着いたものなので、これはハーフリングやドワーフの大人用なのだろう。
「いらっしゃいマセ。あら、レオンハルトサマじゃないですカ」
店の中で立ち働いていたのは、腰から下が蜘蛛、上半身が女性である亜人種の蜘蛛人だった。発音器官が人間と少し異なるのか、言葉の所々にビブラートがかかっている。
身長……蜘蛛なので体高? は僕と同じくらい。本来蜘蛛は八本の脚を持つが、アラクネの場合、上半身にヒトの手を持つからか、下肢の脚は六本しかない。
左肩で一つに結んで胸に垂らした髪の色は黒と白のツートンカラーで、前髪が斜めにカットされている。弧を描く弓なりの整った眉に黒曜石のような瞳、少し分厚い艶めく赤い唇が扇状的な、とても美人なアラクネだ。
レオンハルトが片手を挙げた。
「おう! 久しぶりだな。今から『西の斗食兎宇亭』にメシ食いに行くとこなんだ。悪いが、俺とコイツの服を適当に見繕ってくれや」
「『西の斗食兎宇亭』ですカ。マア確かに今日のレオンハルトサマの装いでハ……アラ?」
そこで彼女とレオンハルトの影に隠れるように立っていた僕の視線が交差した。みるみるうちにアラクネの目が大きく見開かれていく。
鍛冶屋のキーリさんと同じように、彼女はレオンハルトを邪魔とばかりに脇に押しのけ僕の対面に来た。
「あらあら、まあまあァ! レオンハルトサマ、新しいお客様ヲ連れて来てくれたんですカ? マア何てキレイな銀髪なの!」
そして僕の顔を見てあらまあと奇声を上げられるのも本日二度目だった。キーリさんとアラクネの美女、反応がよく似ている。
「この街の女はどうしてみんなこんなにもアグレッシブなんだよ……」
押しのけられてよろけたレオンハルトが腰をさすりながら呟いた。
「私が服を選んでいいのですカ? すぐに店に相応しく、この子に似合うピッタリな服をご用意させて頂きますワ。ハイ、アナタ、少しだけ動かないデ」
僕がその場から動かずにいると、すぐにチリチリと肌を刺すような魔法の気配が僕を包み込んだ。これは生活魔法の『採寸』だろう。縫製をする者がよく使う魔法だ。アラクネは背丈や胸囲など、体型に関わる部位の寸法を一目見ただけで正確に把握し教えてくれた。首まわり、手首まわり、背肩幅なんて今まで測ったことがなかった。
魔法の気配が消えた後、アラクネがレオンハルトを睨んだ。
「ちょっと! この子が今着てる服、サイズが全然合ってないわヨ。え? 適当に買って来た? 既製品を買う時は必ず本人を連れて行って試着しないとダメでしょう! それにこの子、腰回りが細すぎやしませんカ? ちょっとレオンハルトサマ! ちゃんと食べさせてマス!?」
ボソッと女の敵……と聞こえた気がするけれど……気のせいにしておいた方が良いかもしれない。
「服はすぐに必要なのよネ? じゃあ既製品をお直しするしかないわネ。ハァ……。一週間ほど時間をもらえればオーダーメイドでこの子にピッタリな服を作れたノニ……」
アラクネはため息混じりに肩を落とした。
「実は私、最近知り合った『落ち人』から、王子系ロリータファッションっていう服があるって教えてもらったノ。デザイン画を見せてもらっただけだけど、その服がアナタにとっても似合いそうなのヨ!」
王子系ロリータファッションとは、可愛らしさと格好良さ兼ね揃えた、王子様が着ていそうな装いの服のことを言うらしい。『王子』と付いているけれど不敬罪とかにならないのだろうか。
「それで私、その服を作ってみようかと思って。縫って誰かに試着してもらって良さげナラ、売り出そうと思ってるノ。ちょうどアナタみたいな若い男の子が着る服を新たに手がけようト思っていたトコロなのよ!」
アラクネは僕の手を取った。
「ネ、お願い。完成したらレオンハルトサマ宛に送るから、服のモニターをしてもらえないカシラ? 試着してみた感想や周りの反応を教えてくれると助かるワ」
「ま、まあ、そんなことでいいのなら……」
あまりの圧の強さに僕は思わず頷いた。
「おお、いいじゃねえか。じゃあ服が出来上がり次第ライムギルド宛に送ってくれ。そうしたら俺が服を試着したケイの姿を魔道カメラで撮って写真を送ってやろう」
「マア是非!」
「モニターするのは吝かではないですが、写真はやめてください」
レオンハルトに隠し撮りしないよう言い含めておこう。
「ところでこの店の服はあなたが作っているんですか?」
店内をぐるりと見渡す。この店にある服はどれもコンセプトが似ているので、同じ人がデザインしているのだろうと想像がつく。
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