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3章 辺境の地ライムライトへ

7-1、カトラリーは裏稼業の人間にとって武器足り得る

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◯レオンハルト・ドレイク
 おっちゃんっぽい喋り方
◯ケイ
 敬語とそうじゃない時の半々。怒ると敬語になる。
◯ロイ
 口が悪い。たまにおじさんっぽくなる。
◯ヘルマン
 ~っす!と付けばこの子。
◯ヒューイ
 敬語できれいな話し方。
◯マグナス
 声を張ってください!
◯ユキト
 時代小説と武士語変換サイトを参考。拙者、~殿。「ござる」はなるべく使わないようにしている。
◯ゴルド ◯シルバ
 双子なので声が揃う。基本みんなに敬語だけどロイ相手だとちょっと崩れる。

 作中に残虐な描写が(ほんの少し)含まれます。
 別サイトでも公開中ですが、キリが良いところまでアルファポリスさんで先行公開します。
 ですので今回は短いですし、おまけの補遺はありません。
…………………………………………………………………………

 乾杯してすぐ注文していた料理がどんどん運ばれてきた。さすが冒険者向けの酒場、食事の量も半端ない。フライドポテトは大きな皿に山盛りで今にも崩れそうだし、サラダは洗面器ほどもある大きな木のボウルに入っている。

 料理が全てテーブルの上に並んだところで、『天上の射手』のパーティーメンバーが興味深そうにレオンハルトと僕の出会いから暗殺者ギルド壊滅までの話を根掘り葉掘り聞きはじめた。それに対しレオンハルトは嬉々として事細かに答えている。

 話を聞くのが二回目のゴルドさんとシルバさんは、レオンハルトの話を聞き流し、黙々と料理を少量だけ自分たちの小皿に取り分けていた。花見の時にけっこうたくさん食べていたので、ここでは酒のつまみ程度の量だけ食べるようだ。正直、僕も並べられた脂っこそうな料理は食べられそうにもない。こんもりと盛られた料理は見ているだけでお腹いっぱいになりそうだ。

 ロイさんたちパーティーメンバーはレオンハルトの話に耳を傾けながらもぱくぱくと料理を平らげ、目の前の皿がどんどん空になっていく。気持ち良いくらいの食べっぷりだ。大量だと思われた料理の量も、冒険者にとっては軽食のようなものらしい。

「そんで、毒を飲ませないように口ん中に指突っ込んで、奥歯を強引にグイッと……」
「ひええええ」

 レオンハルトの話は、戦闘が終わったあと、僕の奥歯に仕込まれた毒を無効化したところまで進んでいた。暗殺者はまず、ギルドに入った時に奴隷印を魔法で刻まれる。負けを確信した時や、ギルドの不利になるような情報を漏らしたり、裏切ろうとした時などに、自死を選ぶように奴隷印に刷り込むのだ。

『深海』では毒死だったが、死体も残らないような酷い死に方をするギルドもあり、それに比べれば『深海』はまだ人道的だったと言える。

 因みにだが、このレオンハルトが僕に行った痛覚遮断なしで歯を強引に抜く行為は、裏稼業の人間が拷問する時によくやる手でもある。あれは痛い。もう二度と歯を抜かれるのはごめんだ。

「治癒しようと近づいたらまたケイのうなじからむっちゃいい匂いがしてさぁ」

 そう、あの時は、匂いを嗅がれて、ディープなキスをされて、武器を隠し持ってないか確認するために服を脱がされて……、奴隷印を見られて散々だった。まさかそんな恥ずかしいことまで話さないと思うけど…………

 「だからつい匂いを嗅いで、唇を(ドスッ)して、服を(ザクッ)んだよなァ」

 僕の手から離れたステーキナイフとフォークがレオンハルトの横のスレスレを通り越して、後ろのテーブルを越えて壁に深く突き刺さった。紅い髪の毛が二本、はらりと床に落ちる。

「って、危ねぇなァ、おい!」
「すみません、手が滑りました」

 立ち上がって壁まで歩き、突き刺さったナイフとフォークを抜いた僕は、それを回しながら席に戻った。この、持ったものを落とさないように手の上でくるくると回したり、指と指の間を移動させたりするやり方はエースに教えてもらった。あの人はよく手すさびに暗器を回しながら獲物を追い詰めて遊んでいた。

「うっわ、えげつなっ!! ケイ、手前テメエわざと死角から攻撃しただろっ! 刺さってたら怪我してたぞ? それに、どんなスピードで投げたらカトラリーがこんなに深く壁に突き刺さんだよ!」

 そうは言うが、レオンハルトならどうせどこから攻撃しても避けるだろう。現に寸前で見切って避けやがった。こんな事でレオンハルトに一撃入れられるとは思っていなかったけれど、こうも簡単に避けられると元暗殺者としては悔しい。どんな反射神経をしてるんだ。
 
「僕はあの異空間であなたにされた事を他の人に聞かれたくないので、しばらく黙っていて下さい。話を続ける気なら次は確実に突き刺します」

 キッとレオンハルトを睨むも、下を向いて「それって二人だけの秘密にしたいってことか……?」と、何やら嬉しそうにボソボソ小声で呟いているだけだ。

 レオンハルトは放っておいて、カトラリーを指から指へと移動させつつ、パーティーメンバー一人一人の顔を威圧し睥睨する。

「さて、どこまでお話が進んでいましたか? ああ、そうそう! レオンハルトさんが暗殺者ギルドに単身乗り込んだところですよね?」

 あからさまに話を変えようとする僕に、全員が青い顔をしてギクシャク頷いた。

 さすがにギルマスの立場にいる三人は、僕が魔力を込めて『威圧』を出してもまったく様子は変わらない。恐怖耐性が高いのだろう。あの異空間で何があったのか、その話をされるのを嫌がっている僕の意を汲んで、ゴルドさんとシルバさんがやんわりと口を出し、話を変えてくれる。

「レオンハルトさま。ここにいる皆さまは、レオンハルトさまお一人でどう暗殺者ギルドを壊滅させたかに興味があるようですよ」
「お花見にお供させていただいた際に、独りで大人数を相手取るときの立ち回り方をレオンハルトさまに詳しくお聞きしましたが、大変為になりました。レオンハルトさまのお話を聞けば、きっと皆さまの山賊討伐に役立つと思います」

 ゴルドさんとシルバさんに目配せされたロイさんがようやく顔色を取り戻し二人に続いた。

「ーーあ、ああ。俺たちギルマスの戦いっぷりが知りたいなぁ、なあ、みんなもそう思うだろ!?」
「えっと、そ、そうっすよね! 暗殺者って強い奴ばっかっすけど、全員を相手にレオンさんが勝ったんすよね? すごいっす!」
「今後のためにも是非レオンハルト殿に多人数相手の戦い方を教示して頂きたく思うが如何であろうか?」
「…………ぃ。」
「レオンさん。いつまでもぶつぶつ独り言言ってないで、ほら、マグナスも話をぜひ聞きたいと言ってますよ」

 そこまで言われて流石にレオンハルトはようやく話の軌道修正した。僕は持っていたカトラリーをゆっくりとテーブルの上に戻した。

「仕方ねぇなァ。多人数と戦う時にゃあなぁ……」

 マジックバッグの武器は、返してもらった籠手ガントレット以外全てレオンハルトに取り上げられてまだ返してもらっていないけれど、僕たち裏稼業の人間にとってはカトラリー類も簡単に武器足り得る。

 壁の修理代はレオンハルトに支払ってもらおう。

 数ヶ月後、山賊の討伐を終えてライムライトに戻ってきた『天上の射手』のパーティーメンバーに会った時、威圧しながらカトラリーを持つ僕はまるで魔王みたいだったと若干引いた顔で言われた。僕はそんなに怖くありません。多分。

 
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