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3章 辺境の地ライムライトへ
4、四人は街歩きをする
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船頭さんの櫂捌きは巧みだ。寸分の狂いなく舟着場に舟が吸い込まれていく。河岸に立ったヤナギが空に浮かぶ金色と銀色の二つの月光に照らされて、陰影を川面に落としている。
舟着場は繁華街に近いのか、先の道から大勢の人のざわめきが聞こえ、明るい光がこちらまで漏れ出していた。
「よいっしょっと」
「うひゃあ! 急に触んなっ!」
揺れる舟から船着場にひらりと下りたレオンハルトは、小さい子にするように僕の両脇に手を入れて舟から地上へと下ろした。そんな僕らを生温かい目で見つつ、シルバさんとゴルドさんが後に続く。
「いつもンとこだよな?」
「はい、レオンハルトさま」
「んじゃ行くぜ~~」
断りもなく僕の手を掴んだレオンハルトは半ば引っ張るようにして明るい道の方へと進んだ。いつもの所とはどこなのか、どこに向かっているのか後ろの二人には見当がついているようで、僕だけが蚊帳の外だ。
しかしこの掴まれた手は何なんだ。手を振り払おうとしたけれど離すつもりはないようで、逆にさっきよりもがっちりと握られてしまった。
「こっちこっち」
「ちょ、ちょっと引っ張んなよ! どこ連れてく気だよ」
振り返ったレオンハルトはにやりと笑って小首を傾げた。
「ん? まだちょいっと飲み足りねぇなと思ってさ」
「はあ!?」
後ろで二人もうんうんと頷いている。あれだけ舟の上で飲み食いしておいてまだ飲むのか。
「アンタらまだ飲む気かよ!」
「あははは~~。まあまあ。タダ酒は美味えぞ~~。ほら、行くぜ!」
話の流れからするとタダ酒を飲むためにどこかへ行くつもりのようだ。手を離す気配はないし、土地勘がなく一人じゃ宿屋へ戻ることができないため、仕方なくレオンハルトの傷ついた左眼の側を手を引かれながら大人しく付いていく。
舟着場がある路地裏から出ると賑やかな大通りに出た。小さなアーチ橋が架けられた水路が道の真ん中に流れ、左右に石造りの酒場や飲食店が立ち並んでいる。建物から溢れる光や橋の灯りが水面を照らし、きらきらと光っていた。
「わあ……」
通りにはざわざわと人が行き交っていた。僕らが泊まっている宿屋の周辺は大きな商会が多く、きれいに整えられていて、商人や旅の行商人などが多かったのに対し、こちらは建物の幅が狭くてゴミゴミしている印象だ。
まだ夜は浅いので、小さな子供の手を引いた家族連れや、年若なカップルもちらほら見かけるが、多く目に付くのは冒険者たちだ。冒険者は自分の得物を手放さず持ったままのことが多いし、体格や眼つき、着ている服などで何となく分かる。
さすがに冒険者に対し掏摸を行うものはいないようで、怪しげな行動を取ったり不審な雰囲気を出している者はいない。気配察知に優れ喧嘩慣れした冒険者に手を出すよりも、身なりの良い旅行者の懐を狙った方が安全で簡単に掏摸が出来ることをスラムの子たちは分かっているのだろう。僕がただの子供だったら掏摸は成功していたかと思うと、あのスラムの男の子は今日の夕食にありつけたのかと心配になる。
「ほら、気をつけねぇと人にぶつかるぞ」
「そんなヘマするわけないだろ」
きょろきょろしていたらレオンハルトに迷子になりやすい子供のような扱いをされた。僕が元暗殺者ってこと忘れてるんじゃないだろうか。
「冒険者が多いでしょう」
「こちらは東地区で、わたくしどもがギルドマスターを勤めておりますメレキオール冒険者ギルドはこの通りにあるんですよ」
「冒険者たちが集まる食堂や酒場、他にも冒険者専用の宿屋などが連なっています」
僕が見ていたのが冒険者たちだと気付いたゴルドさんとシルバさんが色々と説明してくれる。
冒険者は依頼を終えて帰って来ると、依頼達成報告をするために直ぐにギルドへ行くと思われがちだが、よほどの不精者じゃない限りまず宿屋へ行き、裏庭にある冒険者専用の水場で依頼された魔獣の牙や皮を洗ったり、自分の身体についた返り血や汚れを綺麗に洗い流す。魔獣の体液や血液は鼻をつまむほど臭いからだ。
水場の水は火の魔石が嵌められているのでちゃんとお湯が出るし、魔獣の体液を落とす強力な洗剤やタオルの販売、依頼品や武器、貴重品を置いておく鍵のかかるロッカーなんてものもある。
この水場が外にあるのが冒険者専用の宿屋で、僕たちが泊まっている旅行者用の宿は逆に室内の個々の部屋にシャワーが付いている。
「俺らが泊まってる宿屋があるのは北地区な。外からの観光客や旅行者が泊まる宿屋とかが多いから、見栄えを良くするためにここ東地区よりも外観だけは整ってる」
レオンハルトは少しだけ視線を落とした。どこの街でもだいたいそうだが、観光客が行き交う通りを一歩裏に入れば途端に薄汚れた景色へと様変わりする。さらにもっと奥に入ると、ここメレキオールのようにスラムが形成されているところも多い。そういえばレオンハルトは月に一度、孤児院に寄付に通っていることが資料に記載してあった。レオンハルトにも何か思うことがあるのだろう。
向かいから来る人を避けつつ四人で道をゆっくりと歩く。すぐに食べられる屋台や、二階から上が宿屋になっている酒場やカフェなどの飲食店、武器や武具を売る店、魔石屋、迷宮に潜るのに必要な魔道具屋など、冒険者ギルドがある地区らしい店が軒を連ねている。その合間に女の子が好きそうな可愛らしい雑貨屋やアクセサリー店などがあるのも面白い。
テラス席を出したカフェでは小さな演奏会が開かれ、陽気な音楽が流れている。音楽に合わせて踊る男は酔っ払っているのか調子はずれで、あまりのダンスの下手さに周りから大きな笑い声が響く。その隣の店は店頭で串に刺した肉を焼いていて、煙とともにいい匂いが周りに漂い、その匂いに釣られた人たちが列を作っている。
僕たちはそんな店を楽しく覗き込んだり、時には冷やかしながら進み、ある酒場の前でレオンハルトが足を止めた。どうやらここが目的地らしい。
冒険者の客を見越した酒場だろう、そこは冒険者専用宿の隣にあった。看板に『黄金の弓矢亭』の名前と、弓と矢の絵が描いてある。
「おうっ邪魔するぜ!」
入り口に掛かっていた暖簾をばさっと豪快に上げてレオンハルトが中に入ると、店内の客の目が全てレオンハルトに注がれ、騒めきが広がった。
「げえギルマス!? 何でこんなとこに!」
椅子を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がったのは、暗めの茶色い短髪に茶色い瞳の二十代くらいの男の人だ。レオンハルトよりは小さいが、それでも僕が見上げるほど身長が高く、いかにも冒険者らしく服の上からでも肉体が鍛えられているのが分かる。
ぴったりとした黒のノースリーブのタンクトップから伸びる両腕は太く、矢筒をベルトで腰に装着し、足下に大きな合成弓が立てかけてあるのを見れば、この人は弓士であろうと容易に想像がつく。
でも……。
そんなことよりも僕は、というか僕たち一行は男の人のある一点に目線が吸い寄せられている。
冒険者にしては色が白いその男の人の頬に、叩かれたような赤い痕と長い爪で引っ掻いたような痕が残っていたからだった。
堪え切れずにぷっと吹き出したレオンハルトは次第に大きく声を立てて笑い出した。
「ぷっく、ははっ、わはははははは! おいロイ、お前はまァた女の子に叩かれたのかっ!? 今度は何やったんだよ、くっ、くくく、あははははははっ!!」
お腹を抱えて大きな身体を揺するように呵々大笑するレオンハルトを横目で見ながら、舟の上で交わされた会話を思い出す。
ロイ。
その名前はさっき舟の上で聞いたばかりだ。
僕は軽くぽんっと手を叩き、何気なく声を上げた。
「ああ、ロイさんって『天上の射手』のリーダーさんかあ。確か、『大きなおっぱい』が大好きだって人」
ポツリと呟いただけなのに一瞬で酒場が氷を張ったような静寂に包まれた。レオンハルトはぴたりと笑いをおさめ、メレキオールのギルマスの二人はきょとんとし、酒を呑んでいた男たちはそのままの姿勢で凍りついたように動きを止めた。
しかし次の瞬間、酒場の中に雷が鳴り響くような爆笑が起きた。
ロイと呼ばれた男の人は、みるみるうちに頬の赤さが分からなくなるくらい顔を真っ赤に染め、崩れるように椅子に座ると、顔を両手で隠して机の上に突っ伏した。
小声だったはずなのに、五感の優れた冒険者たちには僕の声がバッチリと聞こえたようだ。
なんか……ごめんなさい。
…………………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.『天上の射手』弓士ヘルマン 弓の違い)
うっす! オレはヘルマン・リンゲン。『天上の射手』のメンバーで、ロイさんと同じ弓士っす。「1、少年は暗殺者ナンバー『K』」の【おまけの補遺】で仲間うちで一番最後にしゃべったのがオレっす! 語尾に『っす』を付けてしゃべるのは方言っす。
オレが使ってる弓は、一つの素材から作った丸木弓って言われる素朴な弓で、木の魔物トレントから削り出した短弓っす。気温によって弓の強さに変化が出る、元は魔物から出来てるっていってもしょせんは木素材っすから壊れやすい、射程が短いっていう欠点があるっすけど、そこは技量でカバーするっす!
それに何よりもこの弓はオレのお師匠サンがトレントを倒して、手ずから作ってくれた大事な大事なものなんっすよ。
オレの弓のお師匠サンは男のエルフだったっすけど、弓に矢をつがえるときの姿勢や獲物を見据える鋭い目、そして何よりもその流れるような所作の美しさは筆舌に尽くしがたいほどだったっす! オレの目標はお師匠サンみたいになることっすね。今ごろどこを旅しているっすかねぇ……。
ま、オレの話は本文と全く関係ないからいいっす!
ロイさんが使ってる弓は合成弓って呼ばれるものっす! その名の通り、いろんな素材ーー魔獣の骨や腱、角、ミスリル合金や鉄なんかの金属板を張り合わせて作った弓っすね。射程と破壊力が半端ないっすけど、その分張力が高くなっているから引くのが大変っす。
でもロイさんはバカ力……じゃなくって力が強いから簡単に弓を引くことができるっす。技量も優れてて、ほんっとマジで弓の技量だけはリスペクトするっす!
ーーあ、誤解しないでほしいっすけど、あくまでも尊敬するのは弓の技量だけっす。
女の子と一緒にいても、すぐに別の大きな胸の女の子に目移りするところはサイテーだと思ってるっす! だから女の子に殴られるっすよ……。
…………………………………………………………………………
舟着場は繁華街に近いのか、先の道から大勢の人のざわめきが聞こえ、明るい光がこちらまで漏れ出していた。
「よいっしょっと」
「うひゃあ! 急に触んなっ!」
揺れる舟から船着場にひらりと下りたレオンハルトは、小さい子にするように僕の両脇に手を入れて舟から地上へと下ろした。そんな僕らを生温かい目で見つつ、シルバさんとゴルドさんが後に続く。
「いつもンとこだよな?」
「はい、レオンハルトさま」
「んじゃ行くぜ~~」
断りもなく僕の手を掴んだレオンハルトは半ば引っ張るようにして明るい道の方へと進んだ。いつもの所とはどこなのか、どこに向かっているのか後ろの二人には見当がついているようで、僕だけが蚊帳の外だ。
しかしこの掴まれた手は何なんだ。手を振り払おうとしたけれど離すつもりはないようで、逆にさっきよりもがっちりと握られてしまった。
「こっちこっち」
「ちょ、ちょっと引っ張んなよ! どこ連れてく気だよ」
振り返ったレオンハルトはにやりと笑って小首を傾げた。
「ん? まだちょいっと飲み足りねぇなと思ってさ」
「はあ!?」
後ろで二人もうんうんと頷いている。あれだけ舟の上で飲み食いしておいてまだ飲むのか。
「アンタらまだ飲む気かよ!」
「あははは~~。まあまあ。タダ酒は美味えぞ~~。ほら、行くぜ!」
話の流れからするとタダ酒を飲むためにどこかへ行くつもりのようだ。手を離す気配はないし、土地勘がなく一人じゃ宿屋へ戻ることができないため、仕方なくレオンハルトの傷ついた左眼の側を手を引かれながら大人しく付いていく。
舟着場がある路地裏から出ると賑やかな大通りに出た。小さなアーチ橋が架けられた水路が道の真ん中に流れ、左右に石造りの酒場や飲食店が立ち並んでいる。建物から溢れる光や橋の灯りが水面を照らし、きらきらと光っていた。
「わあ……」
通りにはざわざわと人が行き交っていた。僕らが泊まっている宿屋の周辺は大きな商会が多く、きれいに整えられていて、商人や旅の行商人などが多かったのに対し、こちらは建物の幅が狭くてゴミゴミしている印象だ。
まだ夜は浅いので、小さな子供の手を引いた家族連れや、年若なカップルもちらほら見かけるが、多く目に付くのは冒険者たちだ。冒険者は自分の得物を手放さず持ったままのことが多いし、体格や眼つき、着ている服などで何となく分かる。
さすがに冒険者に対し掏摸を行うものはいないようで、怪しげな行動を取ったり不審な雰囲気を出している者はいない。気配察知に優れ喧嘩慣れした冒険者に手を出すよりも、身なりの良い旅行者の懐を狙った方が安全で簡単に掏摸が出来ることをスラムの子たちは分かっているのだろう。僕がただの子供だったら掏摸は成功していたかと思うと、あのスラムの男の子は今日の夕食にありつけたのかと心配になる。
「ほら、気をつけねぇと人にぶつかるぞ」
「そんなヘマするわけないだろ」
きょろきょろしていたらレオンハルトに迷子になりやすい子供のような扱いをされた。僕が元暗殺者ってこと忘れてるんじゃないだろうか。
「冒険者が多いでしょう」
「こちらは東地区で、わたくしどもがギルドマスターを勤めておりますメレキオール冒険者ギルドはこの通りにあるんですよ」
「冒険者たちが集まる食堂や酒場、他にも冒険者専用の宿屋などが連なっています」
僕が見ていたのが冒険者たちだと気付いたゴルドさんとシルバさんが色々と説明してくれる。
冒険者は依頼を終えて帰って来ると、依頼達成報告をするために直ぐにギルドへ行くと思われがちだが、よほどの不精者じゃない限りまず宿屋へ行き、裏庭にある冒険者専用の水場で依頼された魔獣の牙や皮を洗ったり、自分の身体についた返り血や汚れを綺麗に洗い流す。魔獣の体液や血液は鼻をつまむほど臭いからだ。
水場の水は火の魔石が嵌められているのでちゃんとお湯が出るし、魔獣の体液を落とす強力な洗剤やタオルの販売、依頼品や武器、貴重品を置いておく鍵のかかるロッカーなんてものもある。
この水場が外にあるのが冒険者専用の宿屋で、僕たちが泊まっている旅行者用の宿は逆に室内の個々の部屋にシャワーが付いている。
「俺らが泊まってる宿屋があるのは北地区な。外からの観光客や旅行者が泊まる宿屋とかが多いから、見栄えを良くするためにここ東地区よりも外観だけは整ってる」
レオンハルトは少しだけ視線を落とした。どこの街でもだいたいそうだが、観光客が行き交う通りを一歩裏に入れば途端に薄汚れた景色へと様変わりする。さらにもっと奥に入ると、ここメレキオールのようにスラムが形成されているところも多い。そういえばレオンハルトは月に一度、孤児院に寄付に通っていることが資料に記載してあった。レオンハルトにも何か思うことがあるのだろう。
向かいから来る人を避けつつ四人で道をゆっくりと歩く。すぐに食べられる屋台や、二階から上が宿屋になっている酒場やカフェなどの飲食店、武器や武具を売る店、魔石屋、迷宮に潜るのに必要な魔道具屋など、冒険者ギルドがある地区らしい店が軒を連ねている。その合間に女の子が好きそうな可愛らしい雑貨屋やアクセサリー店などがあるのも面白い。
テラス席を出したカフェでは小さな演奏会が開かれ、陽気な音楽が流れている。音楽に合わせて踊る男は酔っ払っているのか調子はずれで、あまりのダンスの下手さに周りから大きな笑い声が響く。その隣の店は店頭で串に刺した肉を焼いていて、煙とともにいい匂いが周りに漂い、その匂いに釣られた人たちが列を作っている。
僕たちはそんな店を楽しく覗き込んだり、時には冷やかしながら進み、ある酒場の前でレオンハルトが足を止めた。どうやらここが目的地らしい。
冒険者の客を見越した酒場だろう、そこは冒険者専用宿の隣にあった。看板に『黄金の弓矢亭』の名前と、弓と矢の絵が描いてある。
「おうっ邪魔するぜ!」
入り口に掛かっていた暖簾をばさっと豪快に上げてレオンハルトが中に入ると、店内の客の目が全てレオンハルトに注がれ、騒めきが広がった。
「げえギルマス!? 何でこんなとこに!」
椅子を蹴り倒しそうな勢いで立ち上がったのは、暗めの茶色い短髪に茶色い瞳の二十代くらいの男の人だ。レオンハルトよりは小さいが、それでも僕が見上げるほど身長が高く、いかにも冒険者らしく服の上からでも肉体が鍛えられているのが分かる。
ぴったりとした黒のノースリーブのタンクトップから伸びる両腕は太く、矢筒をベルトで腰に装着し、足下に大きな合成弓が立てかけてあるのを見れば、この人は弓士であろうと容易に想像がつく。
でも……。
そんなことよりも僕は、というか僕たち一行は男の人のある一点に目線が吸い寄せられている。
冒険者にしては色が白いその男の人の頬に、叩かれたような赤い痕と長い爪で引っ掻いたような痕が残っていたからだった。
堪え切れずにぷっと吹き出したレオンハルトは次第に大きく声を立てて笑い出した。
「ぷっく、ははっ、わはははははは! おいロイ、お前はまァた女の子に叩かれたのかっ!? 今度は何やったんだよ、くっ、くくく、あははははははっ!!」
お腹を抱えて大きな身体を揺するように呵々大笑するレオンハルトを横目で見ながら、舟の上で交わされた会話を思い出す。
ロイ。
その名前はさっき舟の上で聞いたばかりだ。
僕は軽くぽんっと手を叩き、何気なく声を上げた。
「ああ、ロイさんって『天上の射手』のリーダーさんかあ。確か、『大きなおっぱい』が大好きだって人」
ポツリと呟いただけなのに一瞬で酒場が氷を張ったような静寂に包まれた。レオンハルトはぴたりと笑いをおさめ、メレキオールのギルマスの二人はきょとんとし、酒を呑んでいた男たちはそのままの姿勢で凍りついたように動きを止めた。
しかし次の瞬間、酒場の中に雷が鳴り響くような爆笑が起きた。
ロイと呼ばれた男の人は、みるみるうちに頬の赤さが分からなくなるくらい顔を真っ赤に染め、崩れるように椅子に座ると、顔を両手で隠して机の上に突っ伏した。
小声だったはずなのに、五感の優れた冒険者たちには僕の声がバッチリと聞こえたようだ。
なんか……ごめんなさい。
…………………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.『天上の射手』弓士ヘルマン 弓の違い)
うっす! オレはヘルマン・リンゲン。『天上の射手』のメンバーで、ロイさんと同じ弓士っす。「1、少年は暗殺者ナンバー『K』」の【おまけの補遺】で仲間うちで一番最後にしゃべったのがオレっす! 語尾に『っす』を付けてしゃべるのは方言っす。
オレが使ってる弓は、一つの素材から作った丸木弓って言われる素朴な弓で、木の魔物トレントから削り出した短弓っす。気温によって弓の強さに変化が出る、元は魔物から出来てるっていってもしょせんは木素材っすから壊れやすい、射程が短いっていう欠点があるっすけど、そこは技量でカバーするっす!
それに何よりもこの弓はオレのお師匠サンがトレントを倒して、手ずから作ってくれた大事な大事なものなんっすよ。
オレの弓のお師匠サンは男のエルフだったっすけど、弓に矢をつがえるときの姿勢や獲物を見据える鋭い目、そして何よりもその流れるような所作の美しさは筆舌に尽くしがたいほどだったっす! オレの目標はお師匠サンみたいになることっすね。今ごろどこを旅しているっすかねぇ……。
ま、オレの話は本文と全く関係ないからいいっす!
ロイさんが使ってる弓は合成弓って呼ばれるものっす! その名の通り、いろんな素材ーー魔獣の骨や腱、角、ミスリル合金や鉄なんかの金属板を張り合わせて作った弓っすね。射程と破壊力が半端ないっすけど、その分張力が高くなっているから引くのが大変っす。
でもロイさんはバカ力……じゃなくって力が強いから簡単に弓を引くことができるっす。技量も優れてて、ほんっとマジで弓の技量だけはリスペクトするっす!
ーーあ、誤解しないでほしいっすけど、あくまでも尊敬するのは弓の技量だけっす。
女の子と一緒にいても、すぐに別の大きな胸の女の子に目移りするところはサイテーだと思ってるっす! だから女の子に殴られるっすよ……。
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