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1章 暗殺者から冒険者へジョブチェンジ!
9、新人冒険者たちは失敗する
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*
三人は同じくらいの時期に冒険者ギルドに登録した。何度かギルドの依頼板の前で顔を合わせ、採取場も一緒になり、同い年ということもあって話すようになって友人となり、そして三人でパーティーを組むことにした。
薬草採取、スライム討伐と、初心者が行う依頼をなんとかこなし、今回は少しだけ上のランクの草原大鼠討伐(討伐証明:切歯)の依頼を受け、乗合馬車でここエアリアル大草原へとやってきた。この依頼が成功すれば、何もできない全くの初心者から、多少できるようになった初心者になる。
「ようやく新しい魔法が使えるようになったんだ!」
魔術師のシンがまだソバカスの浮いた顔を赤らめて興奮したように言う。シンは火属性の魔術師で、使える魔法もまだ単体魔法の『発火』のみだったが、最近ようやく他の火魔法を覚え、それを披露したくて仕方がなかった。ちなみに『発火』は対象の相手の身体を発火させる火属性魔法の最も初歩の魔法である。
「さっそく今日お披露目するね!」
「それは楽しみだね」
弓矢の弦の張り具合を確認していた弓使いのカーンが応えた。貧しい猟師の子であるカーンが持っている弓は父親の使い古した代物だ。体格が違う父親の弓はカーンには少し大き目で、弦も強く多少手に余るが、新調する金がなくてそのまま使っていた。
「ね、ねえ。まだぼくたちにはグラスラットは早くない?」
剣士のセンが情けない声を出した。センは三人の中で一番図体が大きいのに一番気が小さい小心者だが、堅実で慎重なところがあり、調子のいい二人のストッパーになっている。腰に差している剣は初心者向けの鉄剣だ。
「薬草採取でもうちょっとお金貯めて、武器を良いものにしてからの方がいいよ」
「グラスラットなんてただのでっかいネズミだろ? 大丈夫だって。魔法もあるし」
「う、うん……」
シンがセンの背をバンバン叩いて笑顔を見せる。明るくて前向きなシンはこのパーティーのムードメーカーだ。センは何とか気を取り直し、ぎこちない笑顔を二人に向けた。
エアリアル大草原へ着くまでに、三人は討伐の計画を確認した。まずセンが剣で斬りかかり、カーンが弓で援護。二人がグラスラットを引き付けている間にシンが詠唱をして魔法を放つ。前衛二人、後衛一人という、顔見知りが寄り集まってできたにしてはバランスの良い編成のパーティーだ。
大草原の入り口で馬車を降りた三人は、意気揚々と草原へと足を踏み入れた。
ガキンッ! とセンの持つ鉄剣がグラスラットの固い皮膚に弾かれた。
「……っ! 固っ……!!」
何度斬りつけても、グラスラットはその固い皮膚で剣を弾くか、鼠ならではの素早い動きで剣を避けてしまう。浅い傷を多少つけただけで、センの剣は皮膚の中に深く刺さることはなかった。
「何で……! このっ、このっ!!」
「センっ 離れて!」
カーンが矢を弓に番え放つ。しかしその矢もグラスラットの皮膚を通せず、カツンと跳ねて草の上に落ちた。矢立の中にある矢の本数が少なくなってきて、カーンは草原に隠れて待ち伏せをしながら魔法の詠唱をするシンの方を見た。
『我が盟約に従い炎の精霊よ……』
「ちっ、詠唱まだ終わんないのかよっ!」
まだ冒険者をはじめたばかりのシンの魔法の詠唱は長い。魔法の短縮詠唱が出来るのは、魔法の扱いに長けたベテラン冒険者だけだ。初心者は決められた長ったらしい詠唱を、最初から最後まで間違えずに言うことでようやく魔法を発動することが可能になる。
カーンがグラスラットから眼を離し、弓の攻撃が一瞬止まった隙を見逃さず、グラスラットが大きく尻尾を振った。尻尾はセンの横腹に当たり、センは勢いよく後方へ吹っ飛ばされた。
「センっ!」
「大丈夫!」
センはポケットからポーションを出して歯で蓋を開けると、どす黒い中身を息を止めて飲んだ。これは最下級のポーションで、見た目も腐ったドブのようでまずそうだが、味も信じられないほどまずい。でも味はともかく打ち身くらいなら痛みをすぐ取ってくれるし、何より安いので新人御用達のポーションだ。
センは剣をグラスラットに向け、隙を探しながらジリジリと前進する。カーンも残り少ない矢を矢立から一本抜き、ギリリと弓を引き絞った。
「二人とも、おまたせ! 場所を開けて!」
ようやく詠唱が終わりに近づいたシンが草むらから出て二人に下がるよう指示した。二人が指示通り走って下がると、シンは詠唱の最後の文字を詠み上げる。
『我が手に炎を、集い来たれ。炎のーー……」
ガツン。
今まさに放たれようとしていた広域範囲魔法、炎嵐がぷしゅんと音を立てて消えた。
最後の詠唱文を口にする前に、誰かがシンのひたいをチョップしたのだ。
「痛ってええぇェ!!」
痛みに悶絶したシンがひたいを押さえてその場にしゃがみ込んだ。
「 バ カ か、テ メ ェ !! 」
大音量の声とピリピリとした魔力をまとった空気が辺り一面にぶわっと広がった。三人は金縛りにあったようにその場から動けなくなり、グラスラットは糸が切れた操り人形のように地面に倒れて動かなくなった。
急に現れた背の高い男は、片手でシンの襟首をつかんで身体を持ち上げると、乱暴とも思える強さで後ろへと投げて怒鳴った。
「草原で広範囲の火炎魔法使うなんてテメェはバカか!? ギルドで注意されなかったのか! 火が草に燃え移って火事になったらどう責任取るつもりだ!? あん!? それにオメェら全員、そんな武器と防具でまともに戦えると思ってんのか!? 武器と防具まともなのに変えて出直してこいっ!!」
あまりの剣幕に三人はへなへなと草の上に座り込んだ。いきなり現れた男に怒鳴られた上に、言われたことは正論である。
呆然と男の顔を見ながらシンは新しい魔法をみんなに披露して自慢したいとはしゃいでいた自分を恥じた。確かにギルドの受付のお姉さんに、草原での火魔法は不利で、攻撃を受ける範囲を敵単体に絞った『発火』や『発熱』『発熱思考妨害』なら周囲に影響がないため使用してもいいが、広範囲火魔法は絶対に止めるようにと説明を受けていたけれど、シンは浮かれてちゃんと聞いていなかった。
カーンとセンも、初めて自分達よりも少し上のランクの魔獣を相手にするのに、敵性魔獣の弱点も調べず、武器も貧乏だからと新調しなかった自分を反省した。
がくりと項垂れる三人を尻目に、男は飄々とした足取りでグラスラットに歩み寄り、長い足で軽く腹を蹴った。グラスラットはその刺激にも身体をピクリとも動かすことはなかった。
「うん、死んでるな」
こともなげに背の高い男が言った。三人はわけもわからずただ目をぱちくりとさせた。彼は何もしていない。ただ大きな声で三人を怒鳴っただけだ。
「少し『威圧』しただけだ。びっくりして心臓止まったんだろ」
「ーーーー……? って……」
『威圧』スキルだけで自分達があれほど倒すのに苦労したグラスラットを簡単に倒すって……。と、そこまで思考が回復したところでセンは何かに気づいたように、おずおずと男を指差して声を上げた。
「え、ええっ、あ、こ、『紅竜』のレオンハルトさんっ!?」
カーンとシンもセンの声を聞いてようやく男の顔に焦点が合い、正体に気づいて息を呑んだ。
「え、ほ、本物!?」
「な、な、何でこんな所に!」
三人は有名人の登場に顔を紅潮させた。自分たち冒険者、誰もが憧憬の念を抱く魔王討伐メンバー『紅竜』のレオンハルトが目の前にいる奇跡が信じられなかった。
「さて、お前ら」
レオンハルトは腕を組んで眦を上げた。
「お説教の時間だな」
そしてレオンハルトの怒涛の説教タイムがはじまり、三人は涙を流しあやまることになる。
*
サンドイッチを食べる手を止めて、僕はレオンハルトが歩いて行った草原の先を見た。
「どうしたんですか?」
草原の一点を見つめる僕を訝ったのか、エリオットさんが声をかけた。
「レオンハルトさんの魔力が一瞬だけ大きく膨れ上がりました。何かあったのかもしれません」
僕は立ち上がり、お尻をパンパンと叩いて草を払ってから、レオンハルトの分のサンドイッチが残るバスケットを手に持った。
「昼食を持って行きがてら、何があったのか見て来ます。すぐ戻りますのでお二人はこのまま休憩していて下さい。結界内から出ないでくださいねーー付加、『速度強化』、『防護』」
エンチャントとは、物に魔力を付与して増強することを言う。『速度強化』を足にかけて早く走れるようにし、それにより無理な強化で筋肉を壊さないように、速度が速くなることによって、風が身体に当たってしまうことを避ける二つの目的のために、全身に『防護』をかけたわけだ。
三キーロの距離を一気に走り抜ける。僕のスピードに驚いた真っ白なホーンラビットが草むらの中に立ち尽くしている。うう、かわいい。遠くにはグラスハイエナが十頭ほどの群れを作って固まっているのが見えた。
前方に目を向けると、草原の合間からひょっこりと頭を出しているレオンハルトの姿があった。
ーーん? 足元の三つの塊はなんだ?
近づくにつれ、それがレオンハルトの足元の土の上に直に坐って頭を下げている三人の少年だと分かった。
……一体どういう状況?
走るスピードを落とした僕はレオンハルトの前まで歩いて足を止め、レオンハルトと三人の少年の姿を交互にまじまじと見た。
…………………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(side.三人の冒険者 三人の名前)
オレの名前はシン。魔術師だよ。魔法はまだまだ使えるものが少ないけど、たくさん覚えていつか王宮魔術師になりたい!
ぼくの名前はカーン。弓使いです。父さんが猟師です。アーチャーって言っても赤い人(分かる人だけ笑って下さい)じゃないよ。
ぼ、僕の名前はセンです。よ、よろしくお願いします。剣士です。一度でいいからオリハルコンの剣を触ってみたいと思っています。
いっせーーの。
「「「三人揃ってシンカーンセンです!」」」
シン「ところでシンカンセンって何?」
カーン「異世界の速い乗り物の名前だってさ。作者さんがみんなが覚えやすいようにって」
セン「じゃあもしかして覚えやすい名前を作者につけてもらえた僕たちは、この後にもちょくちょくメインキャラとして登場させてもらえるかも!」
シン「『あんなに弱かったシンカーンセンが立派な冒険者になって目の前に現れるとは思っても見なかった……』とかって!!」
カーン「おおーー! カッコいい!! そうなるといいな」
セン「うん、がんばろう!」
作者(小声でボソッと)「この三人は今回だけの登場なので(多分)、名前を覚えなくてもいいですよ」
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三人は同じくらいの時期に冒険者ギルドに登録した。何度かギルドの依頼板の前で顔を合わせ、採取場も一緒になり、同い年ということもあって話すようになって友人となり、そして三人でパーティーを組むことにした。
薬草採取、スライム討伐と、初心者が行う依頼をなんとかこなし、今回は少しだけ上のランクの草原大鼠討伐(討伐証明:切歯)の依頼を受け、乗合馬車でここエアリアル大草原へとやってきた。この依頼が成功すれば、何もできない全くの初心者から、多少できるようになった初心者になる。
「ようやく新しい魔法が使えるようになったんだ!」
魔術師のシンがまだソバカスの浮いた顔を赤らめて興奮したように言う。シンは火属性の魔術師で、使える魔法もまだ単体魔法の『発火』のみだったが、最近ようやく他の火魔法を覚え、それを披露したくて仕方がなかった。ちなみに『発火』は対象の相手の身体を発火させる火属性魔法の最も初歩の魔法である。
「さっそく今日お披露目するね!」
「それは楽しみだね」
弓矢の弦の張り具合を確認していた弓使いのカーンが応えた。貧しい猟師の子であるカーンが持っている弓は父親の使い古した代物だ。体格が違う父親の弓はカーンには少し大き目で、弦も強く多少手に余るが、新調する金がなくてそのまま使っていた。
「ね、ねえ。まだぼくたちにはグラスラットは早くない?」
剣士のセンが情けない声を出した。センは三人の中で一番図体が大きいのに一番気が小さい小心者だが、堅実で慎重なところがあり、調子のいい二人のストッパーになっている。腰に差している剣は初心者向けの鉄剣だ。
「薬草採取でもうちょっとお金貯めて、武器を良いものにしてからの方がいいよ」
「グラスラットなんてただのでっかいネズミだろ? 大丈夫だって。魔法もあるし」
「う、うん……」
シンがセンの背をバンバン叩いて笑顔を見せる。明るくて前向きなシンはこのパーティーのムードメーカーだ。センは何とか気を取り直し、ぎこちない笑顔を二人に向けた。
エアリアル大草原へ着くまでに、三人は討伐の計画を確認した。まずセンが剣で斬りかかり、カーンが弓で援護。二人がグラスラットを引き付けている間にシンが詠唱をして魔法を放つ。前衛二人、後衛一人という、顔見知りが寄り集まってできたにしてはバランスの良い編成のパーティーだ。
大草原の入り口で馬車を降りた三人は、意気揚々と草原へと足を踏み入れた。
ガキンッ! とセンの持つ鉄剣がグラスラットの固い皮膚に弾かれた。
「……っ! 固っ……!!」
何度斬りつけても、グラスラットはその固い皮膚で剣を弾くか、鼠ならではの素早い動きで剣を避けてしまう。浅い傷を多少つけただけで、センの剣は皮膚の中に深く刺さることはなかった。
「何で……! このっ、このっ!!」
「センっ 離れて!」
カーンが矢を弓に番え放つ。しかしその矢もグラスラットの皮膚を通せず、カツンと跳ねて草の上に落ちた。矢立の中にある矢の本数が少なくなってきて、カーンは草原に隠れて待ち伏せをしながら魔法の詠唱をするシンの方を見た。
『我が盟約に従い炎の精霊よ……』
「ちっ、詠唱まだ終わんないのかよっ!」
まだ冒険者をはじめたばかりのシンの魔法の詠唱は長い。魔法の短縮詠唱が出来るのは、魔法の扱いに長けたベテラン冒険者だけだ。初心者は決められた長ったらしい詠唱を、最初から最後まで間違えずに言うことでようやく魔法を発動することが可能になる。
カーンがグラスラットから眼を離し、弓の攻撃が一瞬止まった隙を見逃さず、グラスラットが大きく尻尾を振った。尻尾はセンの横腹に当たり、センは勢いよく後方へ吹っ飛ばされた。
「センっ!」
「大丈夫!」
センはポケットからポーションを出して歯で蓋を開けると、どす黒い中身を息を止めて飲んだ。これは最下級のポーションで、見た目も腐ったドブのようでまずそうだが、味も信じられないほどまずい。でも味はともかく打ち身くらいなら痛みをすぐ取ってくれるし、何より安いので新人御用達のポーションだ。
センは剣をグラスラットに向け、隙を探しながらジリジリと前進する。カーンも残り少ない矢を矢立から一本抜き、ギリリと弓を引き絞った。
「二人とも、おまたせ! 場所を開けて!」
ようやく詠唱が終わりに近づいたシンが草むらから出て二人に下がるよう指示した。二人が指示通り走って下がると、シンは詠唱の最後の文字を詠み上げる。
『我が手に炎を、集い来たれ。炎のーー……」
ガツン。
今まさに放たれようとしていた広域範囲魔法、炎嵐がぷしゅんと音を立てて消えた。
最後の詠唱文を口にする前に、誰かがシンのひたいをチョップしたのだ。
「痛ってええぇェ!!」
痛みに悶絶したシンがひたいを押さえてその場にしゃがみ込んだ。
「 バ カ か、テ メ ェ !! 」
大音量の声とピリピリとした魔力をまとった空気が辺り一面にぶわっと広がった。三人は金縛りにあったようにその場から動けなくなり、グラスラットは糸が切れた操り人形のように地面に倒れて動かなくなった。
急に現れた背の高い男は、片手でシンの襟首をつかんで身体を持ち上げると、乱暴とも思える強さで後ろへと投げて怒鳴った。
「草原で広範囲の火炎魔法使うなんてテメェはバカか!? ギルドで注意されなかったのか! 火が草に燃え移って火事になったらどう責任取るつもりだ!? あん!? それにオメェら全員、そんな武器と防具でまともに戦えると思ってんのか!? 武器と防具まともなのに変えて出直してこいっ!!」
あまりの剣幕に三人はへなへなと草の上に座り込んだ。いきなり現れた男に怒鳴られた上に、言われたことは正論である。
呆然と男の顔を見ながらシンは新しい魔法をみんなに披露して自慢したいとはしゃいでいた自分を恥じた。確かにギルドの受付のお姉さんに、草原での火魔法は不利で、攻撃を受ける範囲を敵単体に絞った『発火』や『発熱』『発熱思考妨害』なら周囲に影響がないため使用してもいいが、広範囲火魔法は絶対に止めるようにと説明を受けていたけれど、シンは浮かれてちゃんと聞いていなかった。
カーンとセンも、初めて自分達よりも少し上のランクの魔獣を相手にするのに、敵性魔獣の弱点も調べず、武器も貧乏だからと新調しなかった自分を反省した。
がくりと項垂れる三人を尻目に、男は飄々とした足取りでグラスラットに歩み寄り、長い足で軽く腹を蹴った。グラスラットはその刺激にも身体をピクリとも動かすことはなかった。
「うん、死んでるな」
こともなげに背の高い男が言った。三人はわけもわからずただ目をぱちくりとさせた。彼は何もしていない。ただ大きな声で三人を怒鳴っただけだ。
「少し『威圧』しただけだ。びっくりして心臓止まったんだろ」
「ーーーー……? って……」
『威圧』スキルだけで自分達があれほど倒すのに苦労したグラスラットを簡単に倒すって……。と、そこまで思考が回復したところでセンは何かに気づいたように、おずおずと男を指差して声を上げた。
「え、ええっ、あ、こ、『紅竜』のレオンハルトさんっ!?」
カーンとシンもセンの声を聞いてようやく男の顔に焦点が合い、正体に気づいて息を呑んだ。
「え、ほ、本物!?」
「な、な、何でこんな所に!」
三人は有名人の登場に顔を紅潮させた。自分たち冒険者、誰もが憧憬の念を抱く魔王討伐メンバー『紅竜』のレオンハルトが目の前にいる奇跡が信じられなかった。
「さて、お前ら」
レオンハルトは腕を組んで眦を上げた。
「お説教の時間だな」
そしてレオンハルトの怒涛の説教タイムがはじまり、三人は涙を流しあやまることになる。
*
サンドイッチを食べる手を止めて、僕はレオンハルトが歩いて行った草原の先を見た。
「どうしたんですか?」
草原の一点を見つめる僕を訝ったのか、エリオットさんが声をかけた。
「レオンハルトさんの魔力が一瞬だけ大きく膨れ上がりました。何かあったのかもしれません」
僕は立ち上がり、お尻をパンパンと叩いて草を払ってから、レオンハルトの分のサンドイッチが残るバスケットを手に持った。
「昼食を持って行きがてら、何があったのか見て来ます。すぐ戻りますのでお二人はこのまま休憩していて下さい。結界内から出ないでくださいねーー付加、『速度強化』、『防護』」
エンチャントとは、物に魔力を付与して増強することを言う。『速度強化』を足にかけて早く走れるようにし、それにより無理な強化で筋肉を壊さないように、速度が速くなることによって、風が身体に当たってしまうことを避ける二つの目的のために、全身に『防護』をかけたわけだ。
三キーロの距離を一気に走り抜ける。僕のスピードに驚いた真っ白なホーンラビットが草むらの中に立ち尽くしている。うう、かわいい。遠くにはグラスハイエナが十頭ほどの群れを作って固まっているのが見えた。
前方に目を向けると、草原の合間からひょっこりと頭を出しているレオンハルトの姿があった。
ーーん? 足元の三つの塊はなんだ?
近づくにつれ、それがレオンハルトの足元の土の上に直に坐って頭を下げている三人の少年だと分かった。
……一体どういう状況?
走るスピードを落とした僕はレオンハルトの前まで歩いて足を止め、レオンハルトと三人の少年の姿を交互にまじまじと見た。
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【おまけの補遺】
(side.三人の冒険者 三人の名前)
オレの名前はシン。魔術師だよ。魔法はまだまだ使えるものが少ないけど、たくさん覚えていつか王宮魔術師になりたい!
ぼくの名前はカーン。弓使いです。父さんが猟師です。アーチャーって言っても赤い人(分かる人だけ笑って下さい)じゃないよ。
ぼ、僕の名前はセンです。よ、よろしくお願いします。剣士です。一度でいいからオリハルコンの剣を触ってみたいと思っています。
いっせーーの。
「「「三人揃ってシンカーンセンです!」」」
シン「ところでシンカンセンって何?」
カーン「異世界の速い乗り物の名前だってさ。作者さんがみんなが覚えやすいようにって」
セン「じゃあもしかして覚えやすい名前を作者につけてもらえた僕たちは、この後にもちょくちょくメインキャラとして登場させてもらえるかも!」
シン「『あんなに弱かったシンカーンセンが立派な冒険者になって目の前に現れるとは思っても見なかった……』とかって!!」
カーン「おおーー! カッコいい!! そうなるといいな」
セン「うん、がんばろう!」
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