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1章 暗殺者から冒険者へジョブチェンジ!
6、ケイは成人するまで保護観察処分(※本文キス、おまけ自慰あり)
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手を振り払いたかったけれど、僕が力でレオンハルトに勝てるはずもなかった。ぐっと掴まれた手に、絶対に離さないという意志を感じる。
「……っ離せ!」
ただならぬ二人の様子に周りの人たちがざわつき出す。不躾な目線と「夫婦喧嘩してる」や「痴話喧嘩?」「レオンさん振られた~」などという揶揄う声が聞こえてきたが、レオンハルトはどこ吹く風だ。いかにも常連同士の軽口の掛け合いという感じで悪感情は全く感じられない。
「エリオット、話はまた後でいいかい?」
暴れる僕の手を掴んだまま、レオンハルトが振り向いてエリオットさんに声をかけた。
エリオットさんは眼をぱちくりと瞬かせた後で蜂蜜酒が入ったグラスを掲げた。
「平気です。私はまだここで飲んでますし、宿屋には商談で明後日まで泊まっていますから。ごゆっくり」
レオンハルトはおかみさんと二言三言言葉を交わしてから、手を掴んだまま僕の腰を抱き階段を上った。『夜見月亭』は一階は食事処、二階と三階が宿泊部屋になっている。階段を三階まで上ると、そのうちの一室に強引に僕を押し込んだ。
白と黒と薄い青色で統一された落ち着いた色合いの部屋は、一人で泊まるには少し大きい部屋だった。おそらくこの宿屋の中で一番良い部屋だろう。黒い革張りのソファとテーブルに、小さなチェストが置いてある。続き部屋には風呂とトイレが付いている。この等級の宿屋の部屋に洗面所があるのは珍しい。普通は共同だ。
レオンハルトの大きな身体でもゆったり眠れそうな大きなベッドもあるが、片付けが苦手なのか、マジックバッグから脱いだままの服や下着、出して置いたままの洗面用具などの小物がはみ出して散乱しており、大きなベッドも小さく見える。
「ちっ」
自分のベッドの上の惨状を見て舌打ちをしたレオンハルトは、ソファの座面に置いたままになっていた読みかけの本を床にざっと落として僕を座らせると、上から覆いかぶさってきた。
するり、と手が僕の顎を掬う。
「悪いな。俺はもうお前を手離すことはできねぇ」
後頭部を押さえられ、歯と歯がぶつかり合うような勢いの口づけが落ちてきた。文句を言うために口を開けたところに舌が容赦なく潜り込んでくる。
長く肉厚のある舌が口腔内を縦横無尽に動き回り、僕の舌を引きずり出し、絡め、甘噛みをする。ジュルジュルと音を立てて溜まった唾液を嚥下し、飲み切れない分は口の端から流れて落ちた。鼻で息をするのも忘れ、ただ荒い奔流の中に飲み込まれる。次第に頭の奥が痺れて気が遠くなり、身体の力が抜けて、ソファの背もたれに身体を預けていなかったらその場に崩れ落ちていただろう。
最後の力を振り絞ってレオンハルトの腕をタップすると、ようやく唇が離れ、嵐のような時間が終わりを告げる。ゼイゼイと全力疾走した後のように息を取り込んだ。
レオンハルトは僕の身体をソファに横たえ、両腕をついて僕の身体を囲んだ。そして僕の息が整うまで、あやすように何度も額や瞼に軽くキスを落とす。
僕の顔を至近距離で見つめる右眼の虹彩は煌めいて、まるで至宝の宝石のようだ。レッドスピネルのように鮮やかで澄み切った朝焼けの色。もし両方の瞳が揃っていたとしたら、その美しさに僕はすぐにレオンハルトに堕ちていたかもしれない。
「何と言おうとお前は俺のつがいだ。俺の心が、魂が、俺の全てがお前をこんなにも欲しいと求めている」
レオンハルトは僕の手を引き、固くなっている下半身の昂りに触れさせた。熱を孕んだそれは存在を主張するようにズボンの布地を押し上げていた。
「……分かるだろ? キスだけでこんなだ。もしお前が成人してたら俺はこのままお前をぐちゃぐちゃに抱いていたかもしれねぇ」
耳元で囁く声には明らかに情欲の色が込められている。少し荒い吐息が頬にかかり、優しさの込められた甘い囁きは低く低く僕の耳朶を打つ。僕を本能のままに襲わないようにじっと耐える眉間の皺と、手首を掴んだ手の強さ。強い視線が僕を射抜く。いつか僕はこの男に陥落させられる、そんな予感がした。
「今すぐにでもお前を犯して巣に一生閉じ込めてしまいたいが、まだ心が伴っていないお前にそんな無体な事はしたくねえ。だからお前が成人するまでは待つ。それまでに俺はお前を必ず口説き落とす」
だから。
成人したら抱かせろ。
そう言ってレオンハルトは再び強引に僕の唇を奪ったのだった。
インスタントのお茶のパックにポットのお湯を注ぐと、部屋に薬草のにおいが漂った。この宿のお付き菓子と共に置いてあるマイゲン草を使った薬草茶で、疲労軽減の働きがある。
今の僕の立場は保護観察処分中らしい。逃げないように言い置いてレオンハルトはシャワーを浴びに行った。時間がかかっているのはまあ仕方ないだろう。
ふわふわと立ち上る湯気を見るとは無しにぼんやりと眺め、シャワー前にレオンハルトに言われたことを思い出す。
「お前は暗殺者だったがまだ未成年ということと、奴隷印で強制的に働かされていたことを鑑みて、成人するまで俺がお前の保護者代わりとなり監視、矯正することになった。成人するまでに問題を起こさなければ晴れて自由の身だ。俺の監視下ならどこへ行くのも自由だが、監視下から外れた行動を取った場合は処罰される」
いつの間にか僕に保護者が出来ていた。どのみちレオンハルトの愛情を受け入れるにしても断るにしても、僕が成人するまでは必ずレオンハルトが傍にいるということだ。
(でも多分、さっきの様子から考えると僕がレオンハルトを拒絶しても、絶対に諦めないんだろうなぁ)
天井に手を伸ばす。
白い指。この指に何人の血を吸わせただろう。
今まで好意というものに触れたことがなかった。両親からの愛情も知らず、誰からも誉められる事はなく、ただ淡々と暗殺の技術を磨く日々。そんな毎日だったから、こんなに真っ直ぐに好意を向けられるとどうしたらいいのか分からなくなる。
僕は幸せになる資格がない。
いくら殺めた相手が悪人だったとしても僕は許されないだろう。
未成年でも奴隷印で働かされていたとしても、この手が汚れていることにかわりない。
暗殺に失敗した時、ちゃんと死ねたらこんな思いはしなかったのに。
かちゃりと音を立てて洗面所の扉が開く。
首にタオルを掛けた上半身裸のレオンハルトが、長い髪から湯を滴らせたまま出てきた。
喋り方もそうだが、この人は豪快な人だ。ずぼらとも言うが。
まだ湯気が上がる筋肉質な上半身には、脇の下から腰にかけて紅い鱗が生えている。竜の喉元にあると言われる逆鱗は人間の姿になっている今はどこにも見えない。
髪をタオルでガシガシと勢いよく拭きながら冷蔵の魔道具『冷蔵庫』の扉を開けて中から酒瓶を取り出し中身を口にする。まだ飲むのか。この人にとってしてみれば、酒は水と同じなんだろう。あっという間にカップに入った一杯を飲み終え、机の上に置いてからドサっと僕の隣に座る。
風呂上がりの肌は隣にいるだけで上気して温かく、まだ水滴の残る肌は意外なほどしっとりとしているように見える。どこを見ていいのか分からなくて、膝に置いた自分の組んだ手を見つめた。
「王都での用は終わったから俺はそろそろライムライトに戻る。当然お前も連れて行くことになる。一応監視役だからな。でも俺は逃亡の危険がない限り、ケイがすることの邪魔はしない」
下を向いたままの僕の髪を家からぐちゃっとかき混ぜてから頭をぽんぽんと叩く。
「危険なことや悪いことをしようとした時は阻止するが、俺の傍から離れなければ基本お前は自由だ。まぁ半自由ってやつだなァ」
ケタケタと笑う声が聞こえたかと思うと、すぐにぴたりと止まり、頭を叩く手が撫でる動きに変わった。
「肉美味かったか?」
「うん」
「腹一杯になったか?」
「うん」
「そうかァ」
たわいもない話。
それが今は心地良い。
それなのに、涙が出るのは何でだろう。
「お前は物心つく前から暗殺者ギルドに育てられて、罪の意識がないまま仕事として暗殺をさせられていただけだ」
優しい言葉は頭上を素通りするだけだ。
僕にとって暗殺とは作業に過ぎなかった。ただの道具だった僕は人を殺すことに抵抗を覚える事はなく、暗殺に失敗したら暗殺者ギルドに迷惑をかけないように消えればよかった。死ねなかった後のことなんて頭になかった。こんなにも罪悪感を感じるものだなんて知りたくなかった。
「罪悪感を感じるなら、それはお前が道具ではなく人間である証拠だ」
その罪悪感に押し潰されてしまうから、暗殺者はみんな暗殺が失敗した時に死を選ぶのかもしれない。
「今はとりあえず何も考えずに休め。毎日美味いモン腹一杯食ってゆっくり寝ろ。落ち着いたらこれからのことを考えればいい。それでも罪悪感に駆られてどうしても死にたいって言うんだったら俺に言え」
いつの間にか頭にあったはずの手が背中にまわされていた。その手がゆっくりと上下に動く。
「お前を生かしたのは俺だ。その時は責任取ってお前を殺してやるよ」
目が醒めるとベッドに一人寝かされていた。
まだ月が中天に差しかかった時間帯だ。
あれほど乱雑に物が置かれていたベッドには僕のほかには何もなかった。さすがに僕を寝かせるにあたって片付けたのだろう。
部屋の中には誰の姿もない。またエリオットさんと酒を酌み交わしに一階へ行ったのかもしれない。
布団はふわふわで、とても柔らかくて温かい。ギルドで使っていた薄くて粗末な布団とは大違いだ。
何も考えずに休む。
それが今の僕の仕事。
僕はまた自分の体温の残る布団へとくるまって、ぎゅっと強く目を閉じた。
………………………………………………………………………
【おまけ】
(sideレオンハルト シャワーで……)
あーー、チクショウ!!
つがいってヤツを甘く見ていた。
いくらつがいだって言っても、この俺がガキに欲情するなんて。
何だありゃ、凶器かよ。
近くにいるだけですっげえいい匂いがしやがる。本能がさっさとアイツを犯して貪り喰えって言ってくる。キスだけでこんなにおっ勃てて、よく襲うの我慢できたなぁ。
そそり勃った自分の陰茎を輪の形にした手で掴み、ゆるゆると上下に扱く。
ああ、もう! 部屋にケイがいると思うだけですぐに暴発しそうだぜ。
ケイは奴隷契約書によると十三年間、暗殺者ギルドで働いている。二、三歳で引き取られたとすると今は十五、六か。と、なると成人まであと四、五年……。長《なげ》えなオイ。それまで手を出さない自信がねぇ。挿れさえしなけりゃ平気かな……。せめて素股とかしてもいいかなァ……。
すっかり頭をもたげた陰茎を扱きながら、指先で裏筋をくすぐる。先端からは先走りが溢れてシャワーと一緒に流れていった。
「……ふっ……、くっ……、んっ…………」
反対の手で睾丸を揉みながら手の動きを速くしていく。亀頭を指の腹でさすったり、尿道口を指で抉ったりすると、堪らず吐息が漏れる。ケイに聞こえないようにしねぇと。こんな赤黒くて血管が浮き上がってギンギンに勃っている俺の使い込んだペニスとは違って、アイツのはまだ誰にも触れさせたことのない、可愛らしいピンク色のペニスだろう。
それを口に含んで舐めさすったら、どんな表情をしてどんな声を出すんだろうか。
「ああ、もうっ! ヤベェ。想像だけでイっちまいそうだぜ」
そういやアイツ、精通してねえってことはねえよな。精通しててもまだ自慰を覚えたくれえか。もちろん秘部もまだ誰にも犯されずに固えんだろう。そこを指で拡張してぐずぐずにするのは俺の役目だ。
キスの時のケイの吐息。甘い香り。長い睫毛。銀糸のような髪。
セックスした時、俺の腕の中でアイツはどんな声で哭くんだろう。しどけない身体に潤んだ瞳で俺の名を呼ぶんだろうか。
『レオンハルト……』
俺以外の誰からも触れさせないように、大事に大事に育てねぇとなぁ。
なんたってケイは俺のつがいなんだから。
「ヤバッ、出る……っ!!」
あっという間に限界を迎えた俺のペニスから勢いよく真っ白い液体が吐き出された。シャワーで流れて行くそれを呆然と見つめる。
最速……かよ……。
つがいって凄え。
【補遺】
平民は十五歳から働き始め、貴族は貴族学園に入学し、三年で卒業、卒業と同時に結婚するパターンが多いです。二十歳の誕生日を迎えた闇の月の末日(ニホンだと三月三十一日に教会で成人の儀を行い、成人となります。
………………………………………………………………………
「……っ離せ!」
ただならぬ二人の様子に周りの人たちがざわつき出す。不躾な目線と「夫婦喧嘩してる」や「痴話喧嘩?」「レオンさん振られた~」などという揶揄う声が聞こえてきたが、レオンハルトはどこ吹く風だ。いかにも常連同士の軽口の掛け合いという感じで悪感情は全く感じられない。
「エリオット、話はまた後でいいかい?」
暴れる僕の手を掴んだまま、レオンハルトが振り向いてエリオットさんに声をかけた。
エリオットさんは眼をぱちくりと瞬かせた後で蜂蜜酒が入ったグラスを掲げた。
「平気です。私はまだここで飲んでますし、宿屋には商談で明後日まで泊まっていますから。ごゆっくり」
レオンハルトはおかみさんと二言三言言葉を交わしてから、手を掴んだまま僕の腰を抱き階段を上った。『夜見月亭』は一階は食事処、二階と三階が宿泊部屋になっている。階段を三階まで上ると、そのうちの一室に強引に僕を押し込んだ。
白と黒と薄い青色で統一された落ち着いた色合いの部屋は、一人で泊まるには少し大きい部屋だった。おそらくこの宿屋の中で一番良い部屋だろう。黒い革張りのソファとテーブルに、小さなチェストが置いてある。続き部屋には風呂とトイレが付いている。この等級の宿屋の部屋に洗面所があるのは珍しい。普通は共同だ。
レオンハルトの大きな身体でもゆったり眠れそうな大きなベッドもあるが、片付けが苦手なのか、マジックバッグから脱いだままの服や下着、出して置いたままの洗面用具などの小物がはみ出して散乱しており、大きなベッドも小さく見える。
「ちっ」
自分のベッドの上の惨状を見て舌打ちをしたレオンハルトは、ソファの座面に置いたままになっていた読みかけの本を床にざっと落として僕を座らせると、上から覆いかぶさってきた。
するり、と手が僕の顎を掬う。
「悪いな。俺はもうお前を手離すことはできねぇ」
後頭部を押さえられ、歯と歯がぶつかり合うような勢いの口づけが落ちてきた。文句を言うために口を開けたところに舌が容赦なく潜り込んでくる。
長く肉厚のある舌が口腔内を縦横無尽に動き回り、僕の舌を引きずり出し、絡め、甘噛みをする。ジュルジュルと音を立てて溜まった唾液を嚥下し、飲み切れない分は口の端から流れて落ちた。鼻で息をするのも忘れ、ただ荒い奔流の中に飲み込まれる。次第に頭の奥が痺れて気が遠くなり、身体の力が抜けて、ソファの背もたれに身体を預けていなかったらその場に崩れ落ちていただろう。
最後の力を振り絞ってレオンハルトの腕をタップすると、ようやく唇が離れ、嵐のような時間が終わりを告げる。ゼイゼイと全力疾走した後のように息を取り込んだ。
レオンハルトは僕の身体をソファに横たえ、両腕をついて僕の身体を囲んだ。そして僕の息が整うまで、あやすように何度も額や瞼に軽くキスを落とす。
僕の顔を至近距離で見つめる右眼の虹彩は煌めいて、まるで至宝の宝石のようだ。レッドスピネルのように鮮やかで澄み切った朝焼けの色。もし両方の瞳が揃っていたとしたら、その美しさに僕はすぐにレオンハルトに堕ちていたかもしれない。
「何と言おうとお前は俺のつがいだ。俺の心が、魂が、俺の全てがお前をこんなにも欲しいと求めている」
レオンハルトは僕の手を引き、固くなっている下半身の昂りに触れさせた。熱を孕んだそれは存在を主張するようにズボンの布地を押し上げていた。
「……分かるだろ? キスだけでこんなだ。もしお前が成人してたら俺はこのままお前をぐちゃぐちゃに抱いていたかもしれねぇ」
耳元で囁く声には明らかに情欲の色が込められている。少し荒い吐息が頬にかかり、優しさの込められた甘い囁きは低く低く僕の耳朶を打つ。僕を本能のままに襲わないようにじっと耐える眉間の皺と、手首を掴んだ手の強さ。強い視線が僕を射抜く。いつか僕はこの男に陥落させられる、そんな予感がした。
「今すぐにでもお前を犯して巣に一生閉じ込めてしまいたいが、まだ心が伴っていないお前にそんな無体な事はしたくねえ。だからお前が成人するまでは待つ。それまでに俺はお前を必ず口説き落とす」
だから。
成人したら抱かせろ。
そう言ってレオンハルトは再び強引に僕の唇を奪ったのだった。
インスタントのお茶のパックにポットのお湯を注ぐと、部屋に薬草のにおいが漂った。この宿のお付き菓子と共に置いてあるマイゲン草を使った薬草茶で、疲労軽減の働きがある。
今の僕の立場は保護観察処分中らしい。逃げないように言い置いてレオンハルトはシャワーを浴びに行った。時間がかかっているのはまあ仕方ないだろう。
ふわふわと立ち上る湯気を見るとは無しにぼんやりと眺め、シャワー前にレオンハルトに言われたことを思い出す。
「お前は暗殺者だったがまだ未成年ということと、奴隷印で強制的に働かされていたことを鑑みて、成人するまで俺がお前の保護者代わりとなり監視、矯正することになった。成人するまでに問題を起こさなければ晴れて自由の身だ。俺の監視下ならどこへ行くのも自由だが、監視下から外れた行動を取った場合は処罰される」
いつの間にか僕に保護者が出来ていた。どのみちレオンハルトの愛情を受け入れるにしても断るにしても、僕が成人するまでは必ずレオンハルトが傍にいるということだ。
(でも多分、さっきの様子から考えると僕がレオンハルトを拒絶しても、絶対に諦めないんだろうなぁ)
天井に手を伸ばす。
白い指。この指に何人の血を吸わせただろう。
今まで好意というものに触れたことがなかった。両親からの愛情も知らず、誰からも誉められる事はなく、ただ淡々と暗殺の技術を磨く日々。そんな毎日だったから、こんなに真っ直ぐに好意を向けられるとどうしたらいいのか分からなくなる。
僕は幸せになる資格がない。
いくら殺めた相手が悪人だったとしても僕は許されないだろう。
未成年でも奴隷印で働かされていたとしても、この手が汚れていることにかわりない。
暗殺に失敗した時、ちゃんと死ねたらこんな思いはしなかったのに。
かちゃりと音を立てて洗面所の扉が開く。
首にタオルを掛けた上半身裸のレオンハルトが、長い髪から湯を滴らせたまま出てきた。
喋り方もそうだが、この人は豪快な人だ。ずぼらとも言うが。
まだ湯気が上がる筋肉質な上半身には、脇の下から腰にかけて紅い鱗が生えている。竜の喉元にあると言われる逆鱗は人間の姿になっている今はどこにも見えない。
髪をタオルでガシガシと勢いよく拭きながら冷蔵の魔道具『冷蔵庫』の扉を開けて中から酒瓶を取り出し中身を口にする。まだ飲むのか。この人にとってしてみれば、酒は水と同じなんだろう。あっという間にカップに入った一杯を飲み終え、机の上に置いてからドサっと僕の隣に座る。
風呂上がりの肌は隣にいるだけで上気して温かく、まだ水滴の残る肌は意外なほどしっとりとしているように見える。どこを見ていいのか分からなくて、膝に置いた自分の組んだ手を見つめた。
「王都での用は終わったから俺はそろそろライムライトに戻る。当然お前も連れて行くことになる。一応監視役だからな。でも俺は逃亡の危険がない限り、ケイがすることの邪魔はしない」
下を向いたままの僕の髪を家からぐちゃっとかき混ぜてから頭をぽんぽんと叩く。
「危険なことや悪いことをしようとした時は阻止するが、俺の傍から離れなければ基本お前は自由だ。まぁ半自由ってやつだなァ」
ケタケタと笑う声が聞こえたかと思うと、すぐにぴたりと止まり、頭を叩く手が撫でる動きに変わった。
「肉美味かったか?」
「うん」
「腹一杯になったか?」
「うん」
「そうかァ」
たわいもない話。
それが今は心地良い。
それなのに、涙が出るのは何でだろう。
「お前は物心つく前から暗殺者ギルドに育てられて、罪の意識がないまま仕事として暗殺をさせられていただけだ」
優しい言葉は頭上を素通りするだけだ。
僕にとって暗殺とは作業に過ぎなかった。ただの道具だった僕は人を殺すことに抵抗を覚える事はなく、暗殺に失敗したら暗殺者ギルドに迷惑をかけないように消えればよかった。死ねなかった後のことなんて頭になかった。こんなにも罪悪感を感じるものだなんて知りたくなかった。
「罪悪感を感じるなら、それはお前が道具ではなく人間である証拠だ」
その罪悪感に押し潰されてしまうから、暗殺者はみんな暗殺が失敗した時に死を選ぶのかもしれない。
「今はとりあえず何も考えずに休め。毎日美味いモン腹一杯食ってゆっくり寝ろ。落ち着いたらこれからのことを考えればいい。それでも罪悪感に駆られてどうしても死にたいって言うんだったら俺に言え」
いつの間にか頭にあったはずの手が背中にまわされていた。その手がゆっくりと上下に動く。
「お前を生かしたのは俺だ。その時は責任取ってお前を殺してやるよ」
目が醒めるとベッドに一人寝かされていた。
まだ月が中天に差しかかった時間帯だ。
あれほど乱雑に物が置かれていたベッドには僕のほかには何もなかった。さすがに僕を寝かせるにあたって片付けたのだろう。
部屋の中には誰の姿もない。またエリオットさんと酒を酌み交わしに一階へ行ったのかもしれない。
布団はふわふわで、とても柔らかくて温かい。ギルドで使っていた薄くて粗末な布団とは大違いだ。
何も考えずに休む。
それが今の僕の仕事。
僕はまた自分の体温の残る布団へとくるまって、ぎゅっと強く目を閉じた。
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【おまけ】
(sideレオンハルト シャワーで……)
あーー、チクショウ!!
つがいってヤツを甘く見ていた。
いくらつがいだって言っても、この俺がガキに欲情するなんて。
何だありゃ、凶器かよ。
近くにいるだけですっげえいい匂いがしやがる。本能がさっさとアイツを犯して貪り喰えって言ってくる。キスだけでこんなにおっ勃てて、よく襲うの我慢できたなぁ。
そそり勃った自分の陰茎を輪の形にした手で掴み、ゆるゆると上下に扱く。
ああ、もう! 部屋にケイがいると思うだけですぐに暴発しそうだぜ。
ケイは奴隷契約書によると十三年間、暗殺者ギルドで働いている。二、三歳で引き取られたとすると今は十五、六か。と、なると成人まであと四、五年……。長《なげ》えなオイ。それまで手を出さない自信がねぇ。挿れさえしなけりゃ平気かな……。せめて素股とかしてもいいかなァ……。
すっかり頭をもたげた陰茎を扱きながら、指先で裏筋をくすぐる。先端からは先走りが溢れてシャワーと一緒に流れていった。
「……ふっ……、くっ……、んっ…………」
反対の手で睾丸を揉みながら手の動きを速くしていく。亀頭を指の腹でさすったり、尿道口を指で抉ったりすると、堪らず吐息が漏れる。ケイに聞こえないようにしねぇと。こんな赤黒くて血管が浮き上がってギンギンに勃っている俺の使い込んだペニスとは違って、アイツのはまだ誰にも触れさせたことのない、可愛らしいピンク色のペニスだろう。
それを口に含んで舐めさすったら、どんな表情をしてどんな声を出すんだろうか。
「ああ、もうっ! ヤベェ。想像だけでイっちまいそうだぜ」
そういやアイツ、精通してねえってことはねえよな。精通しててもまだ自慰を覚えたくれえか。もちろん秘部もまだ誰にも犯されずに固えんだろう。そこを指で拡張してぐずぐずにするのは俺の役目だ。
キスの時のケイの吐息。甘い香り。長い睫毛。銀糸のような髪。
セックスした時、俺の腕の中でアイツはどんな声で哭くんだろう。しどけない身体に潤んだ瞳で俺の名を呼ぶんだろうか。
『レオンハルト……』
俺以外の誰からも触れさせないように、大事に大事に育てねぇとなぁ。
なんたってケイは俺のつがいなんだから。
「ヤバッ、出る……っ!!」
あっという間に限界を迎えた俺のペニスから勢いよく真っ白い液体が吐き出された。シャワーで流れて行くそれを呆然と見つめる。
最速……かよ……。
つがいって凄え。
【補遺】
平民は十五歳から働き始め、貴族は貴族学園に入学し、三年で卒業、卒業と同時に結婚するパターンが多いです。二十歳の誕生日を迎えた闇の月の末日(ニホンだと三月三十一日に教会で成人の儀を行い、成人となります。
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元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
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