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1章 暗殺者から冒険者へジョブチェンジ!
4、在野の竜研究家は憧れの竜人に話を聞く
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「私は竜の生態についての本を出版するのが夢なのです」
エリオットさんが竜の研究をしていると言うからてっきり研究者の仕事をしているんだと思ったけれど、どこかの組織に所属して研究に従事しているわけではないそうだ。
「純然たる趣味で竜のことを調べているだけですから、単なる愛好家ですね」
エリオットさんは頭を掻き、眉を下げてへにゃんと笑った。
エマーシャル王国で、動物や魔獣の毛皮を使った服飾小物を扱う商家の三男として産まれたエリオットさんは、商用で色々な土地を巡る傍ら、その土地に伝わる竜の伝承や噂話を聞いて回っているとのこと。エマーシャル王国はエクラン王国の隣国で、トライオン王国とは反対側に位置する緑豊かな大国だ。
「私の祖父の形見に、アルシュ・コルディの本がありまして、それを読んで竜に興味を持ったのです」
アルシュ・コルディは高名な竜研究者で、現在知られている竜と竜人の生態は、ほとんどこの人が調べたものだと言っても過言ではないほどの有名人だ。しかしアルシュ・コルディにも詳しく調べられなかった事柄が幾つかある。そのうちの一つが竜のつがいについてだった。
「なぜつがいを人間から選ぶ竜がいるのか。どれくらいの確率で? 選ぶ基準は? つがいになった人間はどうなるんでしょうか? 巣での生活は? 同性同士でなぜ子ができるのか、子は何人? などなど聞きたいことがいっぱいあるのです……!」
エリオットさんは若干前のめりになりながらレオンハルトに詰め寄っている。声をかけてきた時のおどおどした態度が嘘のよう。好きなものに対しては口数が多くなるタイプだ。レオンハルトもその勢いに若干押され気味だ。
「まあまあ、落ち着けって。もう酒もねぇし、腹も減ったしメシ食ってからにしようぜ」
ちょうどそこに給仕が山盛りの肉を載せた皿を運んできた。給仕の頭にはおかみさんと同じ狼の耳が生えている。うしろからジョッキに入ったエールを三つ、盆の上に載せたおかみさんもやってきた。
肉を運んできたのはおかみさんの息子さんでパルムさんだと紹介された。パルムさんは狩りがとても上手で、獲ってきた獲物を解体して店に運ぶ。それを料理人であるおかみさんの旦那さんが調理して店で出している。
エールが三つあるのは僕たちの分ではなくて、あっという間に酒を飲み干してしまうレオンハルト用だった。一杯なくなるたびに往復して酒を運ぶのも面倒なので、レオンハルトには丸っと酒樽ごと持ってきて置いておけばいいんじゃないかと思う。
「待たせたね! レオンさんが獲ってきて低温熟成させてあった黒毛魔牛の仔牛肉よ。たくさんあるからいっぱい食べてね」
その言葉を聞いたエリオットさんが目を剥いた。
「黒毛魔牛の仔牛肉……だと……」
エリオットさんが驚くのも当然だ。子育てをしている雌の黒毛魔牛は凶暴で、テリトリーにほんの少しでも入ろうものなら子を守るために相手が誰であっても死に物狂いで襲いかかってくる。子供を狩るためにはまずその親から倒さないといけない。だから子供の魔牛肉はものすごく希少な上に値段が高い。
肉はほとんど王族か上位貴族家に回り、庶民の口に入ることはない。冒険者ランクSSSのレオンハルトなら狩るのも難しくないとはいえ、宿屋で食べられるものじゃない。
「こんなこともあろうかと狩っといて良かった。つがいへの貢物だ。たくさん食べろ! ほら、エリオットにも食わせてやるよ」
「ヒィッ……! こんな珍しくてお高い肉……。いいんですか!?」
「いいも何も、オレが獲ってきたんだから元手はタダだぜ。遠慮すんな」
「あ……、ありがとうございますっ!」
さっそくナイフとフォークを手に取り、肉を切って口に入れたエリオットさん。一瞬、電撃を浴びたように固まったあと、頬をピンク色に染めながら肉を堪能するようにゆっくりと咀嚼して口の中を空にし、滂沱の涙を流した。え。そ、そんなに美味しいの……?
「ほら、お前も食え! 腹いっぱい食って太れ!」
レオンハルトが一口大に切った肉をずいっと僕の口の前に差し出した。肉汁が滴って机の上に落ちそうになったので、慌てて口に入れた。
「うまっ!」
口に入れた瞬間、旨味とジューシーな肉汁が口の中に溢れてきた。肉質は柔らかく、臭みやクセが全くない。じゅわっと舌の上で解けて溶けるように無くなった。
「いやぁ、仲が良いねぇ」
「本当に」
周りの声ではっと気付いた。全くの無意識だったけれど、これって『あ~~ん』ってやつじゃないか!
レオンハルトと目が合うとニヤリと笑われた。コイツ、態とやったな! 僕はレオンハルトの手からフォークを奪い、レオンハルトの代わりに肉にグサッと突き刺した。
「おい、おかみさん。親の黒毛魔牛の肉も焼いてくれ。余りはここにいる全員に食わせてやってくれ!」
レオンハルトが声をかけると、夕食を食べていた泊り客が一斉に歓声を上げた。
「マジっすか!」
「ありがとうございます、レオンさん!」
「いよっ! さすがレオンさん、太っ腹!」
「今日泊まって良かったぜ」
店内に笑顔の花が咲いた。『夜見月亭』に泊まるたび、レオンハルトは魔獣を狩ってきて泊り客に肉をふるまっていて、レオンハルトが狩る魔獣は希少なものが多く、みんなに喜ばれているとおかみさんが嬉しそうに僕に話した。
エリオットさんはエールがなくなってから蜂蜜酒を頼み、僕もジュースのお代わりをもらい、あらかた仔牛肉を食べ終わった所で話が始まった。
「まずは前提条件として確認しますが、アルシュの本に書いてあったことは間違いはないのでしょうか」
「ああ、そうだな。ありゃ俺が生まれる前に書かれたもんだが、よく調べてある」
親が作った巣で生活。つがいは同種の竜同士で、稀に人間を選ぶ場合も。同種の竜との間につがいが見つからない場合のみ人里に下りる。つがいはフェロモンと本能で分かる。魔法属性で竜の身体の色が変わる。アルシュ・コルディが調べたのはここまでだ。
「そうそう。ケイのフェロモンの匂いで俺のつがいってことはすぐ分かったぜ。ブリーシアの花のような甘くていい匂いがする」
「やめーーい!」
うなじに顔を近づけて匂いを嗅いできたので、額をペチリと叩いてやめさせた。
「補足だが俺たちの種族が住んでるのは、ライムライトにある『惑わしの森』のずっと奥、トライオン王国との国境にデカい山脈があるだろ? そこだよ。つがいになると急峻な山の斜面に穴を開けて『巣』を作って子を産み育てる」
レオンハルトがデカい山脈と言うその場所は、エクラン王国では「ゴルイニチ山脈」と呼ばれているところだ。標高が高い山が連なり、山中には多数の魔獣の群れが住んでいるため、到底人の足では入る事は難しい。ゴルイニチ山脈は人の手が入らない、竜が住むには良い所なんだろう。
「稀に人間をつがいにする竜がいるとのことですが、それはなぜなのかレオンハルトさんはご存知ですか?」
「んーー、じゃあ竜人の起源について話すかぁ」
レオンハルトはエールで口を湿らせてからテーブルの上で手を組んだ。
「知っての通り俺は竜と人間との間に産まれた。その昔、まだ人間は魔法が使えず、言葉も文明も何もかもが未発達な古い古い時代、魔法を使って雨を降らせたり、天候を操ったりできる竜は人間にとって神と同等の畏怖の存在だった。そのため人間は日照りや天候不順になると、竜に生贄を捧げるようになった」
当時の人たちにとってしてみれば、魔法という圧倒的な力を持っている竜は神様そのもので、畏怖や崇拝の念を抱き、神聖視されるのも分かる。
「んで、生贄を捧げられた竜の中の一頭が、自分の世話を甲斐甲斐しくしてくれる生贄の女に絆されて、魔法で人間の姿となりその女と契ったんだ。そしたらなんとその女は竜の子を腹に宿し、月が満ちて卵を産んだ。しばらくののち卵が孵り、外見こそ人間の赤ん坊だが、鱗が全身に生え、眼には瞬膜があり、竜の尻尾が生えているといった両方の特徴を併せ持った子が生まれた。そいつがはじめての竜人、始祖竜人レヴィアタンだ」
はじめて聞く話でエリオットさんは鼻息も荒く興奮している。さっそくポケットから小さなメモ帳を取り出してペンでガリガリと書きつけ始めた。
「竜の姿にもなれた始祖竜人レヴィアタンは成人ののち、つがいの竜を見つけ子が生まれた。その血を受け継いでいる竜が偶ぁに人間をつがいに選ぶ。俺の親竜もその一頭だ」
「竜人って相手が竜と人間、どちらともつがう事が出来るんですね……」
エリオットさんは、僕がレオンハルトのつがいだと聞いて、竜人のつがいは人間だけだと思っていたようだ。実際、僕もそう思っていたけれど違ったようだ。
次にレオンハルトが話したのは竜同士のつがいの話だった。
「竜は基本、雌雄胴体だ。つがいを見つけるとお互いが戦って、負けた方がメスになって子を産む。魔力が多い竜は単為生殖も可能で、つがいを作らずに産むやつもいる」
「ええええ!」
魔力が多い竜ーー古代龍なんかは単為生殖できるらしい。古代龍なんて誰も見たことがないほとんど伝説みたいなレアな竜だ。
古代龍、本当に実在するんだ!
それにしてもエリオットさん、すごい驚いているな。興奮しすぎて倒れなきゃいいけど。
………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(sideエリオット 憧れの人が後ろの席に座った!)
私は高鳴る胸の鼓動を抑えきれない!
だって後ろの席に竜人が座ったんだよ! それも魔王討伐の立役者、紅竜のレオンハルトさん!
うわー、うわー。本当に本物?
まさか宿屋で会えるとは、なんて私は運がいいんだ!
この宿屋に泊まれて良かったーー!! いやぁ、レオンさんが毎回泊まっているというこの宿屋『夜見月亭』の空気を吸いたいがために、一年以上前から予約待ちをして、ようやくここに泊まれたけど、まさかタイミングよく会えるとは思わないじゃん!
当初の予定ではまずはレオンさんの定宿であるこの『夜見月亭』を訪ねて、お客さんや宿屋の人にレオンさんについての話を聞く。それから辺境のライムライトまで足を伸ばして、もしギルドにレオンさんがいるのなら、大事な時間を頂いてほんの少しでもいいから話を聞かせていただこう、もしダメと言われてもレオンさんが近くにいると思えばそれだけで幸せだと思っていたけど、私は本当に運が良かった!
同じ日に宿に泊まってるなんてなんて幸せな偶然なんだ! それにまさかレオンさんのつがい公言まで聞けるなんて! え、私、明日死ぬ? 死ぬの?
あの男の子がレオンさんのつがいかぁ……。つがいって同性でもいけるんだ。それにまだ子供じゃないか。見た感じ十三歳……って感じかな?(エリオットの主観です)
ああ……、レオンさん本人に話を色々と聞きたい……。声をかけてもいいかなぁ。でもでもつがいさんと仲良くしている時に声かけるのもなあ。まだ私はケンタウロスに蹴られて死にたくない。(※「馬に蹴られる」と同意)
うわっレオンさん酒すごいいい飲みっぷり! あ、もうお酒なくなった。はっ! これ、チャンスではないのか? ここでレオンさんに酒を奢るんだ。そうすれば少しはお話ししてくれるかもしれないぞ!
がんばれ、エリオット。頑張るんだ! お前なら出来る!
博識そうな男の顔で声をかけてレオンさんに話を聞くんだ!!
「あ、あのっ」
し、しまったーー! 吃ってしまったっ。ヒーー恥ずかしい!
い、いかん。レオンさんが不審そうな顔をしている。出来る男はしっかりと自己紹介をしなくては。
「わっわたくし、在野で竜の生態や文化などを研究しておりますエリオット・バークレーと申します。先ほどつがいについてのお話が出ておりましたが、詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか!?」
つっかえずに言えたーーーー!
………………………………………………………………
エリオットさんが竜の研究をしていると言うからてっきり研究者の仕事をしているんだと思ったけれど、どこかの組織に所属して研究に従事しているわけではないそうだ。
「純然たる趣味で竜のことを調べているだけですから、単なる愛好家ですね」
エリオットさんは頭を掻き、眉を下げてへにゃんと笑った。
エマーシャル王国で、動物や魔獣の毛皮を使った服飾小物を扱う商家の三男として産まれたエリオットさんは、商用で色々な土地を巡る傍ら、その土地に伝わる竜の伝承や噂話を聞いて回っているとのこと。エマーシャル王国はエクラン王国の隣国で、トライオン王国とは反対側に位置する緑豊かな大国だ。
「私の祖父の形見に、アルシュ・コルディの本がありまして、それを読んで竜に興味を持ったのです」
アルシュ・コルディは高名な竜研究者で、現在知られている竜と竜人の生態は、ほとんどこの人が調べたものだと言っても過言ではないほどの有名人だ。しかしアルシュ・コルディにも詳しく調べられなかった事柄が幾つかある。そのうちの一つが竜のつがいについてだった。
「なぜつがいを人間から選ぶ竜がいるのか。どれくらいの確率で? 選ぶ基準は? つがいになった人間はどうなるんでしょうか? 巣での生活は? 同性同士でなぜ子ができるのか、子は何人? などなど聞きたいことがいっぱいあるのです……!」
エリオットさんは若干前のめりになりながらレオンハルトに詰め寄っている。声をかけてきた時のおどおどした態度が嘘のよう。好きなものに対しては口数が多くなるタイプだ。レオンハルトもその勢いに若干押され気味だ。
「まあまあ、落ち着けって。もう酒もねぇし、腹も減ったしメシ食ってからにしようぜ」
ちょうどそこに給仕が山盛りの肉を載せた皿を運んできた。給仕の頭にはおかみさんと同じ狼の耳が生えている。うしろからジョッキに入ったエールを三つ、盆の上に載せたおかみさんもやってきた。
肉を運んできたのはおかみさんの息子さんでパルムさんだと紹介された。パルムさんは狩りがとても上手で、獲ってきた獲物を解体して店に運ぶ。それを料理人であるおかみさんの旦那さんが調理して店で出している。
エールが三つあるのは僕たちの分ではなくて、あっという間に酒を飲み干してしまうレオンハルト用だった。一杯なくなるたびに往復して酒を運ぶのも面倒なので、レオンハルトには丸っと酒樽ごと持ってきて置いておけばいいんじゃないかと思う。
「待たせたね! レオンさんが獲ってきて低温熟成させてあった黒毛魔牛の仔牛肉よ。たくさんあるからいっぱい食べてね」
その言葉を聞いたエリオットさんが目を剥いた。
「黒毛魔牛の仔牛肉……だと……」
エリオットさんが驚くのも当然だ。子育てをしている雌の黒毛魔牛は凶暴で、テリトリーにほんの少しでも入ろうものなら子を守るために相手が誰であっても死に物狂いで襲いかかってくる。子供を狩るためにはまずその親から倒さないといけない。だから子供の魔牛肉はものすごく希少な上に値段が高い。
肉はほとんど王族か上位貴族家に回り、庶民の口に入ることはない。冒険者ランクSSSのレオンハルトなら狩るのも難しくないとはいえ、宿屋で食べられるものじゃない。
「こんなこともあろうかと狩っといて良かった。つがいへの貢物だ。たくさん食べろ! ほら、エリオットにも食わせてやるよ」
「ヒィッ……! こんな珍しくてお高い肉……。いいんですか!?」
「いいも何も、オレが獲ってきたんだから元手はタダだぜ。遠慮すんな」
「あ……、ありがとうございますっ!」
さっそくナイフとフォークを手に取り、肉を切って口に入れたエリオットさん。一瞬、電撃を浴びたように固まったあと、頬をピンク色に染めながら肉を堪能するようにゆっくりと咀嚼して口の中を空にし、滂沱の涙を流した。え。そ、そんなに美味しいの……?
「ほら、お前も食え! 腹いっぱい食って太れ!」
レオンハルトが一口大に切った肉をずいっと僕の口の前に差し出した。肉汁が滴って机の上に落ちそうになったので、慌てて口に入れた。
「うまっ!」
口に入れた瞬間、旨味とジューシーな肉汁が口の中に溢れてきた。肉質は柔らかく、臭みやクセが全くない。じゅわっと舌の上で解けて溶けるように無くなった。
「いやぁ、仲が良いねぇ」
「本当に」
周りの声ではっと気付いた。全くの無意識だったけれど、これって『あ~~ん』ってやつじゃないか!
レオンハルトと目が合うとニヤリと笑われた。コイツ、態とやったな! 僕はレオンハルトの手からフォークを奪い、レオンハルトの代わりに肉にグサッと突き刺した。
「おい、おかみさん。親の黒毛魔牛の肉も焼いてくれ。余りはここにいる全員に食わせてやってくれ!」
レオンハルトが声をかけると、夕食を食べていた泊り客が一斉に歓声を上げた。
「マジっすか!」
「ありがとうございます、レオンさん!」
「いよっ! さすがレオンさん、太っ腹!」
「今日泊まって良かったぜ」
店内に笑顔の花が咲いた。『夜見月亭』に泊まるたび、レオンハルトは魔獣を狩ってきて泊り客に肉をふるまっていて、レオンハルトが狩る魔獣は希少なものが多く、みんなに喜ばれているとおかみさんが嬉しそうに僕に話した。
エリオットさんはエールがなくなってから蜂蜜酒を頼み、僕もジュースのお代わりをもらい、あらかた仔牛肉を食べ終わった所で話が始まった。
「まずは前提条件として確認しますが、アルシュの本に書いてあったことは間違いはないのでしょうか」
「ああ、そうだな。ありゃ俺が生まれる前に書かれたもんだが、よく調べてある」
親が作った巣で生活。つがいは同種の竜同士で、稀に人間を選ぶ場合も。同種の竜との間につがいが見つからない場合のみ人里に下りる。つがいはフェロモンと本能で分かる。魔法属性で竜の身体の色が変わる。アルシュ・コルディが調べたのはここまでだ。
「そうそう。ケイのフェロモンの匂いで俺のつがいってことはすぐ分かったぜ。ブリーシアの花のような甘くていい匂いがする」
「やめーーい!」
うなじに顔を近づけて匂いを嗅いできたので、額をペチリと叩いてやめさせた。
「補足だが俺たちの種族が住んでるのは、ライムライトにある『惑わしの森』のずっと奥、トライオン王国との国境にデカい山脈があるだろ? そこだよ。つがいになると急峻な山の斜面に穴を開けて『巣』を作って子を産み育てる」
レオンハルトがデカい山脈と言うその場所は、エクラン王国では「ゴルイニチ山脈」と呼ばれているところだ。標高が高い山が連なり、山中には多数の魔獣の群れが住んでいるため、到底人の足では入る事は難しい。ゴルイニチ山脈は人の手が入らない、竜が住むには良い所なんだろう。
「稀に人間をつがいにする竜がいるとのことですが、それはなぜなのかレオンハルトさんはご存知ですか?」
「んーー、じゃあ竜人の起源について話すかぁ」
レオンハルトはエールで口を湿らせてからテーブルの上で手を組んだ。
「知っての通り俺は竜と人間との間に産まれた。その昔、まだ人間は魔法が使えず、言葉も文明も何もかもが未発達な古い古い時代、魔法を使って雨を降らせたり、天候を操ったりできる竜は人間にとって神と同等の畏怖の存在だった。そのため人間は日照りや天候不順になると、竜に生贄を捧げるようになった」
当時の人たちにとってしてみれば、魔法という圧倒的な力を持っている竜は神様そのもので、畏怖や崇拝の念を抱き、神聖視されるのも分かる。
「んで、生贄を捧げられた竜の中の一頭が、自分の世話を甲斐甲斐しくしてくれる生贄の女に絆されて、魔法で人間の姿となりその女と契ったんだ。そしたらなんとその女は竜の子を腹に宿し、月が満ちて卵を産んだ。しばらくののち卵が孵り、外見こそ人間の赤ん坊だが、鱗が全身に生え、眼には瞬膜があり、竜の尻尾が生えているといった両方の特徴を併せ持った子が生まれた。そいつがはじめての竜人、始祖竜人レヴィアタンだ」
はじめて聞く話でエリオットさんは鼻息も荒く興奮している。さっそくポケットから小さなメモ帳を取り出してペンでガリガリと書きつけ始めた。
「竜の姿にもなれた始祖竜人レヴィアタンは成人ののち、つがいの竜を見つけ子が生まれた。その血を受け継いでいる竜が偶ぁに人間をつがいに選ぶ。俺の親竜もその一頭だ」
「竜人って相手が竜と人間、どちらともつがう事が出来るんですね……」
エリオットさんは、僕がレオンハルトのつがいだと聞いて、竜人のつがいは人間だけだと思っていたようだ。実際、僕もそう思っていたけれど違ったようだ。
次にレオンハルトが話したのは竜同士のつがいの話だった。
「竜は基本、雌雄胴体だ。つがいを見つけるとお互いが戦って、負けた方がメスになって子を産む。魔力が多い竜は単為生殖も可能で、つがいを作らずに産むやつもいる」
「ええええ!」
魔力が多い竜ーー古代龍なんかは単為生殖できるらしい。古代龍なんて誰も見たことがないほとんど伝説みたいなレアな竜だ。
古代龍、本当に実在するんだ!
それにしてもエリオットさん、すごい驚いているな。興奮しすぎて倒れなきゃいいけど。
………………………………………………………………
【おまけの補遺】
(sideエリオット 憧れの人が後ろの席に座った!)
私は高鳴る胸の鼓動を抑えきれない!
だって後ろの席に竜人が座ったんだよ! それも魔王討伐の立役者、紅竜のレオンハルトさん!
うわー、うわー。本当に本物?
まさか宿屋で会えるとは、なんて私は運がいいんだ!
この宿屋に泊まれて良かったーー!! いやぁ、レオンさんが毎回泊まっているというこの宿屋『夜見月亭』の空気を吸いたいがために、一年以上前から予約待ちをして、ようやくここに泊まれたけど、まさかタイミングよく会えるとは思わないじゃん!
当初の予定ではまずはレオンさんの定宿であるこの『夜見月亭』を訪ねて、お客さんや宿屋の人にレオンさんについての話を聞く。それから辺境のライムライトまで足を伸ばして、もしギルドにレオンさんがいるのなら、大事な時間を頂いてほんの少しでもいいから話を聞かせていただこう、もしダメと言われてもレオンさんが近くにいると思えばそれだけで幸せだと思っていたけど、私は本当に運が良かった!
同じ日に宿に泊まってるなんてなんて幸せな偶然なんだ! それにまさかレオンさんのつがい公言まで聞けるなんて! え、私、明日死ぬ? 死ぬの?
あの男の子がレオンさんのつがいかぁ……。つがいって同性でもいけるんだ。それにまだ子供じゃないか。見た感じ十三歳……って感じかな?(エリオットの主観です)
ああ……、レオンさん本人に話を色々と聞きたい……。声をかけてもいいかなぁ。でもでもつがいさんと仲良くしている時に声かけるのもなあ。まだ私はケンタウロスに蹴られて死にたくない。(※「馬に蹴られる」と同意)
うわっレオンさん酒すごいいい飲みっぷり! あ、もうお酒なくなった。はっ! これ、チャンスではないのか? ここでレオンさんに酒を奢るんだ。そうすれば少しはお話ししてくれるかもしれないぞ!
がんばれ、エリオット。頑張るんだ! お前なら出来る!
博識そうな男の顔で声をかけてレオンさんに話を聞くんだ!!
「あ、あのっ」
し、しまったーー! 吃ってしまったっ。ヒーー恥ずかしい!
い、いかん。レオンさんが不審そうな顔をしている。出来る男はしっかりと自己紹介をしなくては。
「わっわたくし、在野で竜の生態や文化などを研究しておりますエリオット・バークレーと申します。先ほどつがいについてのお話が出ておりましたが、詳しくお聞きしてもよろしいでしょうか!?」
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