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【クリスマスSS】魔術師団長と僕 ※
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ガシャン!
扉の向こうから何かが割れる音と「あわわわ」という声を聞いて、僕の上司でこの国の魔術師団長カーヴ・アリミルスがまた何かやらかしたんだと思った。
カーヴ様は黒髪、黒眼だ。得てしてその色合いの者は魔力量が多い。彼も御多分に洩れず、その魔力量の多さゆえに魔術師団長などと言う立派な職に就いているが、凄いのは魔法とそれに関する書類仕事だけで、それ以外の実生活はへっぽこである。歩けば躓いて転び、物を持てば落とす。忘れ物や失くし物も多い。魔術師団長室のコーヒーカップやソーサーが何枚ダメになったことやら……。もう考えたくもない。
そんな魔術師団長の助手をしているのが一番下っ端の僕、ユン・サンウだ。というか先輩たちに団長の世話を押し付けられた。今では喜んでやっているが。まあ僕は三男五女の長男として生を受け、農作業で忙しい両親に代わって幼い弟妹たちの相手をしていたため、カーヴ様の助手も苦もなく勤めている。だってカーヴ様、小さい子供みたいなんだもんな。
さてと、今日は何をやらかしたんだか。さっきの音から想像するに、皿でも落としたか?
魔術師団長室と書かれた木札が掛かった大きなマホガニー調の扉を三度ノックする。この部屋は団長の執務室になっていて、お茶を淹れるための小さなキッチンも備え付けられている。
「カーヴ様? 入りますよ」
了承の返事を待たずに部屋に入る。
だって返事を待っていると、その間に被害が広がってしまうからね。いつもの事だ。
室内に入るとカーヴ様はやはりキッチンに立っていた。足元には割れた皿と潰れた小さなホールケーキが落ちている。
「ユン~~~~」
カーヴ様に獣耳があったらさぞかしへにゃりと垂れ下がっているだろうと思うような情けない顔で僕を見るカーヴ様。
う、可愛い……。いやいや。
「だから何で自分でやろうとするんですか? 何か食べたい時は僕を呼ぶように言ってますよね?」
毎回皿を割られるのも面倒なので、飲んだり食べたりしたい時は僕を呼ぶようにお願いしてある。そのための転移魔法陣のスクロールをたくさん作ってカーヴ様に渡してあるのに今日は呼ばれなかった。
「あああ! 指を切るから触らないで下さい!!」
割れた皿を素手で拾おうとするカーヴ様を慌てて止める。この人の綺麗な手を血で汚したくない。僕は指を鳴らして魔法で箒と塵取りを出して、手早く割れた皿を片付けた。潰れてしまったケーキはもう食べられないからこれも捨てようとしたけれど、ケーキの飾りを見て手を止めた。
「クリスマス……」
マジパンで作られたサンタの人形と、板チョコに書かれたmerry Xmasの文字。
ーーーー懐かしい。
僕は故郷を思い出した。
クリスマスを祝うのは、ここトリエステ王国の東に位置する小さな国、シャハーリン王国だけだ。その昔、王国の大魔術師が召喚した聖女が伝えた行事だと言われている。
そのシャハーリン王国の農民だった僕は、魔獣のスタンピードで領地が襲われた時、討伐任務で国を訪れたカーヴ様率いるトリエステ王国第一魔術師団に助けられた。そこで魔力量が多いのを買われ、魔術師団にスカウトされたのである。
そしてカーヴ様の手で精通させられ魔法が使えるようになった。あれは死ぬほど恥ずかしかった。この魔術師団ではカーヴ様の手で大人にさせられた仲間が少なからずいる。みな兄弟。うん。
閑話休題。
そういえば今日はクリスマスだった。この国ではクリスマスのお祝いなんかしないため、ケーキを見るまですっかり忘れていた。
え、じゃあ何でクリスマスケーキがここに?
カーヴ様の顔をぱっと見る。顔を両手で覆っているので顔は見えないが、耳が真っ赤だった。カーヴ様は色が白いから赤くなるとすぐ分かる。
僕はカーヴ様の顔に手を伸ばして腕をつかんだ。
「カーヴ様。顔を……、見せて下さい」
ゆっくりと外された手の下の顔は、思った通り真っ赤だった。
クリスマスを祝う風習などないこの国でわざわざ用意されたクリスマスケーキ。
「僕のために用意をしてくれたんですか?」
カーヴ様の頬に手を触れて聞く。
僕の心臓が早鐘のように鳴っている。
カーヴ様の黒い瞳に僕の顔が映っている。黒は不吉だと忌避する人もいるけれど、僕はその黒檀のような瞳はとても美しいと思う。
「家にケーキを置いておくとユンにすぐ見つかるだろ? だからこっちに隠しておいたんだけど、落としちゃった。ごめんね」
やはり自分のためにクリスマスケーキを用意してくれたんだと思うと、恥ずかしいような嬉しいような温かい気持ちになる。僕は目いっぱい背伸びをしてカーヴ様の首に手を回し、軽くキスをした。
ここは職場ですからね。後は家に帰ってから、と言ったらカーヴ様が僕にしか見せないような甘ったるい顔で微笑んだ。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
「あぁああん! そこ、ダメぇ」
何度目かの絶頂を迎えて僕はベッドの上で仰け反った。
ここは僕たちの家だ。
アリミルス家は伯爵家だ。魔術の才能があったカーヴ様が請われて魔術師団に入った時に後継者にはならないとはっきり言って家を出て、別宅で執事や召使いたちと過ごしていたが、僕とそういう関係になってから、カーヴ様はアリミルス家の別宅を離れて僕と住む小さな家を借りた。小さいとは言っても僕が住んでいた農家の何倍もある大きさだ。家事のほとんどは僕ができるので、通いの家政婦が来る以外はここで二人で生活している。
「ああああ! 今イッてるからぁ。ヤだぁ!!」
実生活はポンコツでもカーヴ様は魔法に関しては凄い。そしてもう一つ凄いものがある。それは僕しか知らなくてもいいこと。
さっきから目の前に幾度もハレーションが起きている。身体が熱い。身体の中を熱い鉄の棒が貫いている感覚。苦しくて目の前の男の首に縋り付く。
今僕は胡座をかいたカーヴ様の対面に脚を開いて座っている。僕の顔が良く見られるからと、この体位がカーヴ様のお気に入りだ。自重で身体の奥深くまで貫かれてカーヴ様のものを全て飲み込んだ。それから何度も下から突き上げられ、高い嬌声が自分の口から漏れた。
そんな僕に気を良くしたのか、手が僕の腰から胸に這わされ突起をきゅっとつままれクリクリと動かされる。
「あ、あ、あ、カーヴ…さまぁ……!」
眦から涙が勝手に流れる。気持ち良すぎて顔はもうぐちゃぐちゃになっているだろう。それなのに僕の顔を見て可愛い、と何度も言ってくれる。あなたの方が綺麗ですと毎回思うんだけど、その時は押し寄せる快楽に頭が回らずに言えた試しがない。
魔術師同士のセックスは魔法の相性が悪いと上手くいかない。相性が合わない同士だと、どれだけ相手のことが好きでも身体を合わせると吐き気や頭痛が起きたり勃起しなくなる。特に魔力量の多い魔術師はそれが顕著で、ほんの少しでも相性が悪いと、軽いキスでもお互い気持ち悪くなってしまうらしい。その点僕とカーヴ様の相性はピッタリだった。初めて僕に会った時、すでに僕と魔法の相性が合うということがカーヴ様には分かったらしい。だから僕を魔術師団に誘った。
そして実際に身体を合わせるとやはり僕は相性ピッタリで、つい無理をさせてしまったと、抱き潰されて次の日まったく立てなくなった僕に笑いながら言ったカーヴ様をジト目で見たのはいい思い出だ。あれはどれくらい前の話だったか。
ガンガンと突き上げられる衝撃に耐えながらも、気持ち良いところに当たるように自分で腰を振る。自分の短い髪がバサバサと揺れる。
僕の痴態をカーヴ様がじっと見つめている。その眼が細められてまるで女神のような笑顔になった。
「可愛い、私のユン。もっと乱れて」
「ああっ、あっ、あっ、あっ、あっ!! あン、やっ……もう……またイちゃうぅ!」
身体をぐっと抱きしめられる。僕も衝撃に耐えるようにカーヴ様の身体にしがみついた。さっきよりも激しく何度も何度も下から突き上げられて、また目の前が真っ白になりそうになった。
「ぅんっ、ん、んんん! うん、ん、んーー!!」
深く口づけられて鼻にかかった息が漏れる。舌が腔内を動き回って、身体の奥からジンっとした熱が出た。すでに何度も射精してもう身体から出るものはなく、僕は今日何度目かの空イキをした。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
起きたらベッドも身体も綺麗にされていて、ベッドのすぐ傍に置かれた椅子に座ったビスクドールめいた美形が魔術書を読んでいた。気付かれないようにそっと見つめる。
サラサラの黒く長い髪には天使の輪が光っている。髪にも魔力が含まれるため、髪を伸ばす魔術師は多いがカーヴ様の髪はその中でも本当に綺麗だ。手触りが絹のようなのを僕だけが知っている。長いまつ毛が本の上に影を落としている。唇には血が通い、ほんの少し紅くて柔らかくて温かい。
視線を感じたのか、カーヴ様が本から顔を上げて僕の顔を見てにっこりと微笑んだ。その顔はビスクドールには絶対に真似できないほど人間味が溢れて温かかった。
「おはよう。もうすぐお昼だよ、ユン。そろそろ昼食が欲しいかな」
「あ、はい。おはようございます、簡単なもので良かったらすぐ準備しますね」
置いてあったバスローブを羽織ってキッチンへ行こうとしたが、昨日のお礼を言ってなかったことに気が付き足を止めた。
「カーヴ様。昨日はクリスマスケーキをありがとうございました。嬉しかったです。何なら今日の夜、ケーキをご用意しましょうか? 僕、作りますよ」
「! 作れるの?」
「任せといて下さい。家では僕が毎年ケーキを手作りしていましたからね!」
カーヴ様は甘いものが好きだ。もちろんケーキも大好物だ。生クリームとチョコレートを買ってこれば直ぐにブッシュ・ド・ノエルは作れるかな。
嬉しそうなカーヴ様の顔を見ながらリビングを出て自分の部屋へ向かう。ひとまずケーキの前に昼食だな。まだ白パンが少し残っていたからハムとチーズを挟んでサンドイッチにしよう。昼食のメニューを考えながら部屋で服に着替えて髪を整え、歯磨きをするために洗面所へ行く。
そこには自分とカーヴ様の服、タオルやシーツなどがぐちゃぐちゃになって置かれていた……。
あー、うん。僕の身体を綺麗にしてくれただけマシか。
「もうっ! 洗濯しないといけないからケーキを作る時間がない。今日ケーキはお預けっ!!」
「ええーーーー!!」
カーヴ様は捨てられた犬のように悲しそうな眼を僕に向けた。
扉の向こうから何かが割れる音と「あわわわ」という声を聞いて、僕の上司でこの国の魔術師団長カーヴ・アリミルスがまた何かやらかしたんだと思った。
カーヴ様は黒髪、黒眼だ。得てしてその色合いの者は魔力量が多い。彼も御多分に洩れず、その魔力量の多さゆえに魔術師団長などと言う立派な職に就いているが、凄いのは魔法とそれに関する書類仕事だけで、それ以外の実生活はへっぽこである。歩けば躓いて転び、物を持てば落とす。忘れ物や失くし物も多い。魔術師団長室のコーヒーカップやソーサーが何枚ダメになったことやら……。もう考えたくもない。
そんな魔術師団長の助手をしているのが一番下っ端の僕、ユン・サンウだ。というか先輩たちに団長の世話を押し付けられた。今では喜んでやっているが。まあ僕は三男五女の長男として生を受け、農作業で忙しい両親に代わって幼い弟妹たちの相手をしていたため、カーヴ様の助手も苦もなく勤めている。だってカーヴ様、小さい子供みたいなんだもんな。
さてと、今日は何をやらかしたんだか。さっきの音から想像するに、皿でも落としたか?
魔術師団長室と書かれた木札が掛かった大きなマホガニー調の扉を三度ノックする。この部屋は団長の執務室になっていて、お茶を淹れるための小さなキッチンも備え付けられている。
「カーヴ様? 入りますよ」
了承の返事を待たずに部屋に入る。
だって返事を待っていると、その間に被害が広がってしまうからね。いつもの事だ。
室内に入るとカーヴ様はやはりキッチンに立っていた。足元には割れた皿と潰れた小さなホールケーキが落ちている。
「ユン~~~~」
カーヴ様に獣耳があったらさぞかしへにゃりと垂れ下がっているだろうと思うような情けない顔で僕を見るカーヴ様。
う、可愛い……。いやいや。
「だから何で自分でやろうとするんですか? 何か食べたい時は僕を呼ぶように言ってますよね?」
毎回皿を割られるのも面倒なので、飲んだり食べたりしたい時は僕を呼ぶようにお願いしてある。そのための転移魔法陣のスクロールをたくさん作ってカーヴ様に渡してあるのに今日は呼ばれなかった。
「あああ! 指を切るから触らないで下さい!!」
割れた皿を素手で拾おうとするカーヴ様を慌てて止める。この人の綺麗な手を血で汚したくない。僕は指を鳴らして魔法で箒と塵取りを出して、手早く割れた皿を片付けた。潰れてしまったケーキはもう食べられないからこれも捨てようとしたけれど、ケーキの飾りを見て手を止めた。
「クリスマス……」
マジパンで作られたサンタの人形と、板チョコに書かれたmerry Xmasの文字。
ーーーー懐かしい。
僕は故郷を思い出した。
クリスマスを祝うのは、ここトリエステ王国の東に位置する小さな国、シャハーリン王国だけだ。その昔、王国の大魔術師が召喚した聖女が伝えた行事だと言われている。
そのシャハーリン王国の農民だった僕は、魔獣のスタンピードで領地が襲われた時、討伐任務で国を訪れたカーヴ様率いるトリエステ王国第一魔術師団に助けられた。そこで魔力量が多いのを買われ、魔術師団にスカウトされたのである。
そしてカーヴ様の手で精通させられ魔法が使えるようになった。あれは死ぬほど恥ずかしかった。この魔術師団ではカーヴ様の手で大人にさせられた仲間が少なからずいる。みな兄弟。うん。
閑話休題。
そういえば今日はクリスマスだった。この国ではクリスマスのお祝いなんかしないため、ケーキを見るまですっかり忘れていた。
え、じゃあ何でクリスマスケーキがここに?
カーヴ様の顔をぱっと見る。顔を両手で覆っているので顔は見えないが、耳が真っ赤だった。カーヴ様は色が白いから赤くなるとすぐ分かる。
僕はカーヴ様の顔に手を伸ばして腕をつかんだ。
「カーヴ様。顔を……、見せて下さい」
ゆっくりと外された手の下の顔は、思った通り真っ赤だった。
クリスマスを祝う風習などないこの国でわざわざ用意されたクリスマスケーキ。
「僕のために用意をしてくれたんですか?」
カーヴ様の頬に手を触れて聞く。
僕の心臓が早鐘のように鳴っている。
カーヴ様の黒い瞳に僕の顔が映っている。黒は不吉だと忌避する人もいるけれど、僕はその黒檀のような瞳はとても美しいと思う。
「家にケーキを置いておくとユンにすぐ見つかるだろ? だからこっちに隠しておいたんだけど、落としちゃった。ごめんね」
やはり自分のためにクリスマスケーキを用意してくれたんだと思うと、恥ずかしいような嬉しいような温かい気持ちになる。僕は目いっぱい背伸びをしてカーヴ様の首に手を回し、軽くキスをした。
ここは職場ですからね。後は家に帰ってから、と言ったらカーヴ様が僕にしか見せないような甘ったるい顔で微笑んだ。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
「あぁああん! そこ、ダメぇ」
何度目かの絶頂を迎えて僕はベッドの上で仰け反った。
ここは僕たちの家だ。
アリミルス家は伯爵家だ。魔術の才能があったカーヴ様が請われて魔術師団に入った時に後継者にはならないとはっきり言って家を出て、別宅で執事や召使いたちと過ごしていたが、僕とそういう関係になってから、カーヴ様はアリミルス家の別宅を離れて僕と住む小さな家を借りた。小さいとは言っても僕が住んでいた農家の何倍もある大きさだ。家事のほとんどは僕ができるので、通いの家政婦が来る以外はここで二人で生活している。
「ああああ! 今イッてるからぁ。ヤだぁ!!」
実生活はポンコツでもカーヴ様は魔法に関しては凄い。そしてもう一つ凄いものがある。それは僕しか知らなくてもいいこと。
さっきから目の前に幾度もハレーションが起きている。身体が熱い。身体の中を熱い鉄の棒が貫いている感覚。苦しくて目の前の男の首に縋り付く。
今僕は胡座をかいたカーヴ様の対面に脚を開いて座っている。僕の顔が良く見られるからと、この体位がカーヴ様のお気に入りだ。自重で身体の奥深くまで貫かれてカーヴ様のものを全て飲み込んだ。それから何度も下から突き上げられ、高い嬌声が自分の口から漏れた。
そんな僕に気を良くしたのか、手が僕の腰から胸に這わされ突起をきゅっとつままれクリクリと動かされる。
「あ、あ、あ、カーヴ…さまぁ……!」
眦から涙が勝手に流れる。気持ち良すぎて顔はもうぐちゃぐちゃになっているだろう。それなのに僕の顔を見て可愛い、と何度も言ってくれる。あなたの方が綺麗ですと毎回思うんだけど、その時は押し寄せる快楽に頭が回らずに言えた試しがない。
魔術師同士のセックスは魔法の相性が悪いと上手くいかない。相性が合わない同士だと、どれだけ相手のことが好きでも身体を合わせると吐き気や頭痛が起きたり勃起しなくなる。特に魔力量の多い魔術師はそれが顕著で、ほんの少しでも相性が悪いと、軽いキスでもお互い気持ち悪くなってしまうらしい。その点僕とカーヴ様の相性はピッタリだった。初めて僕に会った時、すでに僕と魔法の相性が合うということがカーヴ様には分かったらしい。だから僕を魔術師団に誘った。
そして実際に身体を合わせるとやはり僕は相性ピッタリで、つい無理をさせてしまったと、抱き潰されて次の日まったく立てなくなった僕に笑いながら言ったカーヴ様をジト目で見たのはいい思い出だ。あれはどれくらい前の話だったか。
ガンガンと突き上げられる衝撃に耐えながらも、気持ち良いところに当たるように自分で腰を振る。自分の短い髪がバサバサと揺れる。
僕の痴態をカーヴ様がじっと見つめている。その眼が細められてまるで女神のような笑顔になった。
「可愛い、私のユン。もっと乱れて」
「ああっ、あっ、あっ、あっ、あっ!! あン、やっ……もう……またイちゃうぅ!」
身体をぐっと抱きしめられる。僕も衝撃に耐えるようにカーヴ様の身体にしがみついた。さっきよりも激しく何度も何度も下から突き上げられて、また目の前が真っ白になりそうになった。
「ぅんっ、ん、んんん! うん、ん、んーー!!」
深く口づけられて鼻にかかった息が漏れる。舌が腔内を動き回って、身体の奥からジンっとした熱が出た。すでに何度も射精してもう身体から出るものはなく、僕は今日何度目かの空イキをした。
⭐︎★⭐︎★⭐︎
起きたらベッドも身体も綺麗にされていて、ベッドのすぐ傍に置かれた椅子に座ったビスクドールめいた美形が魔術書を読んでいた。気付かれないようにそっと見つめる。
サラサラの黒く長い髪には天使の輪が光っている。髪にも魔力が含まれるため、髪を伸ばす魔術師は多いがカーヴ様の髪はその中でも本当に綺麗だ。手触りが絹のようなのを僕だけが知っている。長いまつ毛が本の上に影を落としている。唇には血が通い、ほんの少し紅くて柔らかくて温かい。
視線を感じたのか、カーヴ様が本から顔を上げて僕の顔を見てにっこりと微笑んだ。その顔はビスクドールには絶対に真似できないほど人間味が溢れて温かかった。
「おはよう。もうすぐお昼だよ、ユン。そろそろ昼食が欲しいかな」
「あ、はい。おはようございます、簡単なもので良かったらすぐ準備しますね」
置いてあったバスローブを羽織ってキッチンへ行こうとしたが、昨日のお礼を言ってなかったことに気が付き足を止めた。
「カーヴ様。昨日はクリスマスケーキをありがとうございました。嬉しかったです。何なら今日の夜、ケーキをご用意しましょうか? 僕、作りますよ」
「! 作れるの?」
「任せといて下さい。家では僕が毎年ケーキを手作りしていましたからね!」
カーヴ様は甘いものが好きだ。もちろんケーキも大好物だ。生クリームとチョコレートを買ってこれば直ぐにブッシュ・ド・ノエルは作れるかな。
嬉しそうなカーヴ様の顔を見ながらリビングを出て自分の部屋へ向かう。ひとまずケーキの前に昼食だな。まだ白パンが少し残っていたからハムとチーズを挟んでサンドイッチにしよう。昼食のメニューを考えながら部屋で服に着替えて髪を整え、歯磨きをするために洗面所へ行く。
そこには自分とカーヴ様の服、タオルやシーツなどがぐちゃぐちゃになって置かれていた……。
あー、うん。僕の身体を綺麗にしてくれただけマシか。
「もうっ! 洗濯しないといけないからケーキを作る時間がない。今日ケーキはお預けっ!!」
「ええーーーー!!」
カーヴ様は捨てられた犬のように悲しそうな眼を僕に向けた。
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