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06、神様、私は罪深いです(テオドール視点)

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 オレがクラウス様を階段から突き落とすなんて馬鹿な真似をしてからもう一年が経った。
 あの日クラウス様はオレに、これからは心を入れ替えて精一杯生きていくと約束してくれた。王族なのにこんな下っ端のオレと父に頭を下げたのだ!その言葉通り、それからのクラウス様は勉強にも剣の稽古にも熱心で、オレも父も安心した。

 この国は王位継承者が産まれると、母親ではなく乳母に育てられる。母親は大概が王妃であるため、仕事が多く子供の世話にまで手が回らないのがその理由なのだそう。
 後で父に聞いたところ、その習慣を悪用してロイド・ガルシア公爵が密かに手を回し、自分の手駒のリリーを乳母に据えてクラウス様を操り、クラウス様がリリーの思い通り動くようにワザとオレ達の悪口を吹き込んでいたらしい。オレ達の命に関わるような毒を混ぜるといった悪質な行為はクラウス様ではなくリリーがやっていたこと、他の悪事もリリーに言われるがままにクラウス様がやっていたことを教えられた。

 つまり、クラウス様はリリーたちに騙されて悪いことをしていたのだ。

 そうだと思った。あの可憐で天使のような顔をしたクラウス様がそんなことを自ら進んでやる訳がない。現にリリーがいなくなってからのクラウス様は真面目でとても一生懸命だ。オレみたいな護衛にも優しく接してくれるし。

 そして事件から一ヶ月くらい経ったある日。オレは剣の稽古中にクラウス様の手に剣をぶつけてしまった。また彼を傷つけてしまったかもしれないという焦りでつい傷を舐めてしまったけれど、まだ小さな柔らかい手、触れた暖かさ、舌に少しだけ残る塩味に少しだけ興奮してしまった。
 稽古の時、クラウス様はまだ九歳になったばかりだった。いつもならそんな年齢の少年に対して思慕の情を感じたりしないが、なぜかクラウス様を見ていると気持ちがザワザワした。自分だけがクラウス様の味方なんだ、自分が守らないと、一生傍に居たいと感じてしまう。何だろう、この気持ちは。

 分かったぞ!この感情は思慕の情ではなくて保護欲だ。だってオレはクラウス様の護衛だから。うん、きっとそうだ。
 
 あの美しいクラウス様のこめかみに傷をつけてしまったのもオレだった。ずいぶんと薄くなってはきたものの、傷痕は一生残ってしまうらしい。こうなったらもう、責任を取ってクラウス様に一生お仕えするしかない。これからはオレがクラウス様をずっと護る。
 
 明日はクラウス様に魔術師団長が初めて魔法を教えてくれることになっていた。クラウス様は黒髪で魔力量が多いそうだから、きっと良い魔術師になれる。オレは魔法が使えないので自ら教えられないのが残念だった。


  ◇◇


 城の奥にある礼拝堂。真剣に神に祈りを捧げる人の中、テオドールがちょうどまんなかの席に座って祈っていた。

 今日クラウスは魔法の練習のためカーヴの所へ行っている。昨日の今日でクラウスはテオドールの顔を見たくなさそうだったので、カーヴの所への送迎だけをすることにしたのだ。それで、空いた時間にこうして礼拝堂へ祈りを捧げに来た。

 神様、私は罪深いです。
 昨日の夜、クラウス様の精通を思い浮かべながら、オレは部屋で一人、ヌいてしまいました…………。

 だって、あれは反則だよ。変声期前の少し高い喘ぎ声。オレを涙目で睨むあの表情。どれを取っても嗜虐感を煽ってきてどうしようもなかった。身体がシーツで隠されているせいで逆にクラウス様の表情だけがクローズアップされて、息も絶え絶えに喘ぐのがものすごくエロかった。カーヴがいなかったら自制が効かなくて襲っていたかもしれない。今でもあの時のクラウス様を思い出すだけで顔と股間が熱くなる。

 シーツの一部が膨れ上がっているのを見た時は、見てはいけないのにどうしてもそこに眼が向いてしまうのを止められなかった。
 どうして魔術師団長はあんな平気な顔をしているんだよ!いや、まあ魔術師団長なんだから、同じことを他の子供にしていてもおかしくはない。手慣れてたからな。あれだ、内科の先生が患者の胸を見るのと同じだ。いやらしい気持ちは一切ないに違いない。
 でもオレは先生じゃないし聖人でもない。シーツの膨らみを見たときはもう心臓ドキドキで、自分も勃起しているのを感じた。

 顔には出さなかったが。
 ーー出てなかったよな?

 そして最後。首だけを振っていやいやしているクラウス様。アレもまた堪らなかった。あの表情を今度はオレがさせてみたい。無理矢理犯したらあんな顔をオレだけに向けてくれるだろうか……?

 あれ?もしかしてオレ。
 クラウス様が好きなのか?
 同じくらいの年齢の子を見ても、まったくそんな気持ちは起こらない。オレは少年愛者ではない、絶対にだ!でもクラウス様は違う。あの身体を犯したい、穢したい、泣かせたい、ぐちゃぐちゃにしたい。

 カーヴは精液でシーツが汚れないようにと思ったのだろう。彼がめくったシーツの下をバッチリ見てしまった…………!
 
 魔術師団長様、ありがとう。

 あの時のクラウス様は本当にキレイだった。大きな喘ぎ声とともに後ろに反った細い身体。眼のふちが紅く染まった黒い瞳。光る汗。体臭。

 そしてクラウス様の、、、

 ガンガンガンガン!!

 いきなりテオドールが前の椅子の背もたれに頭をぶつけるのを見てしまった神に祈りを捧げていた人々は、蒼い顔をしてそそくさと礼拝堂から去っていった。残ったのはテオドール一人。

 オレはいったい神様の前で何を口にしようとした!?
 キレイだったのは、クラウス様のチン…………、

 ガンガンガンガンガンガンガンガンガンガン!!

 はあ、はあ、はあ、はあ、はあ。

 い、いかん。オレとしたことが取り乱してしまった。執事兼護衛はいつも冷静でいること。そう教えられているのに。こんなんじゃクラウス様の護衛失格だ。
 こんな時は剣を振って、汗をかいてさっぱりした気分になるのが一番だ。

 テオドールは額から血を流しながら立ち上がった。


  ◇◇


 額の傷を手当てしてから木剣を手に持ち剣を振るう。
 前に一歩踏み込んで脇が甘くならないように横一閃。
 そして上から下へ振り下ろす。
 くるっと半回転してからまた剣を薙ぐ。
 
 ふう、やっぱり剣はいい。
 剣を振っていると無になれる。

 ここは騎士団の演習場だ。向こうでは若い騎士たちが二人一組になって剣を打ち合っていた。
 カンカンと木剣の当たる音が心地良い。
 
 もっと集中だ。
 変な事を考えないように剣に集中しなければ。

 よし、相手がいることを想定してみよう。
 今オレが持っている剣も木剣ではなく、戦闘で騎士団が使っているロングソードだとして。ロングソードは両刃で斬るというよりは突いて相手を倒す。オレが持っているグングラムもロングソードだ。

 オレは暗殺者でもある父に手ほどきを受けたので、ロングソードより短剣タガーが得意なのだが、今日は持っているのが長い木剣だしロングソードの想定でいこう。

 両手で剣を持つ。
 相手が上から剣を振り下ろしてくるので、剣を横向きにして頭の上でそれを止める。
 足に力を入れて相手の剣をぐっと持ち上げて、思い切り押す。そうすると敵が剣を落とすので、そこで相手に向けて剣で刺し貫く。剣を抜いて血振り。

 それを何度も繰り返す。
 止めて、押して、刺して、貫いて、抜く。
 刺して貫いて抜く。

(クラウス様に)剣を刺して、(クラウス様の××を)剣で貫いて、(クラウス様の身体からから)剣を抜く。
 クラウス様にオレのチンポを刺してクラウス様の身体を貫いて、クラウス様から引き抜く。

 あああああああああああああああああああああああああ!!!!

 ちっがーーーーうっ!!!!

 今やってるのは剣の稽古だ。クラウス様は関係ない。
 無だ、無。
 
 テオドールはもう敵を想定なんてしないで無茶苦茶に剣を振り回した。

「うぉおおおおおおおおおおおっ!!」

「すげえ気迫」
「ああ、俺たちも頑張ろう」

 あまりのテオドールの迫力に驚いた周りにいた若い騎士たちは、自分たちも努力をしようと木剣を打つ手に力を込めた。
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