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04、もうすぐ楽しい誕生日

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 るんるんるん。
 もうすぐ~↑ケットシーのクロエに会える~↑
 楽しみすぎて勉強が手につかない。そんな俺を見てテオドールが眉を顰める。

「クラウス様、最近どうなされたのですか?勉強が手につかないようですが」
「あ、ごめんごめん。もうすぐ俺、誕生日だろ。何買ってもらおうかと思ってさー」

 ま、買ってもらうものはもう決まってるんだけど。

「あ、ねえねえ。テオってケットシーって知ってる?」
「それはもちろん。猫の魔物ですよね。最近奴隷として飼う人が増えていて、乱獲されていると聞きました。……いきなりなぜケットシーの話なんですか?」
「ちょっと待て。今乱獲って言ったか?」
「はい。ケットシーの里が襲われて奴隷にされていると聞き及んでおります」

 な、なんということだ!あの可愛いもふもふ猫を乱獲するとは!あの手触り、あの大きな眼、機嫌が悪い時ゆらゆら揺れる尻尾……。どれを取っても明らかに人間より高貴で美しい至高の存在。あの神が作った芸術品を乱獲!?神に罰を受けるぞ!?

「だ、大丈夫ですか?クラウス様」
「ーー許せん」
「は?」

 俺は片手をギュッと握って声を大にして叫んだ。

「ケットシーは俺が守るっ!!」
「……よく分かりませんが今は魔法の勉強の時間です。真面目にやってください」
「あ、はい。ごめんなさい……」

 白い眼でテオドールが俺を見ていた。
 しまった。せっかく最近のクラウスの態度にテオドールも軟化してきたというのに。ここで不真面目になったらまた不信感を与えてしまう。
 ゲームキャラなんだから必ず俺はクロエと出会う。今すぐにでも街に出てクロエを探しに行きたいけれど、焦っても仕方がない。今は勉強に集中しよう。

「……このように魔法には五属性があります。火、水、土、闇、光です。クラウス様は闇ですね。魔力が高い人は闇属性が多いです。練習すれば魔法を無力化したり、相手に状態異常を起こさせたりできるようになります。それにしてももう勉強した所ですのに習い直したいとは、クラウス様は偉いですね」

 だって仕方がない。前のクラウスの記憶は全部無くなっちゃったんだから。おかげで全く魔法の知識を覚えてなくて勉強する羽目になってしまった。

 クラウスは闇属性か……。

 闇属性というと魔王とか悪魔とかが浮かぶんですけど!
 ヒロイン(男)が光属性だから、悪役王子は闇だよなーって適当に決めたんじゃないだろうな、運営!?

「火、水に関しては説明はいりませんね。土はゴーレムを作ったり、地面の陥没や隆起をさせて足場を揺らしたり、岩を落とすことなどが出来ます。光属性は回復ですね。光属性の人はだいたいが回復職ヒーラーになりますが、稀に光の魔力が高い者は聖者や聖女と周りから呼ばれ尊ばれることもあります」

 BLゲームの主役、アレン・スターリングの事だ。アレンは光属性の聖魔法が使えて、回復ヒールでも治せないようなひどい状態の怪我人を大勢治療して聖者と呼ばれるようになる。

 明らかにアレンのスペックが高いじゃん。
 ゲームの中でクラウスはそんな奴と学校で争って、そいつを無理矢理襲おうとしたの?
 残念……じゃなかった幸い俺様キャラじゃないDTどうていの俺はそんなことはできない。

「テオは?魔法が使えるの?」
「いえ。私は魔力が少なくて……。その代わりこれがあります」

 そう言って見せてくれたのは、テオドールがいつも腰に差している剣だった。

「銘はグングラムと言います。これは相手から放たれた魔法を切り裂いて相殺します。この剣には魔法は効きません。大迷宮で父が手に入れたものを譲り受けました」
「へえー、すごい」

 ってかこれってさあ、追放ルートでクラウスを追い詰める時に使った剣じゃね?あの時は魔法でテオドールの相手をしたから、この剣で追い詰められちゃったんだよ!
 じゃあテオドールには魔法も効かないし、剣の腕も向こうが上なのか。ダメだ、こいつを敵に回したら勝てる気がしない。
 ますますテオドールには手を出すまいと思う俺なのだった。

「では魔力を使ってみましょうか」
「え?」

 今から?そんなすぐに使えるもんなの?

「私は魔法が使えないので別に講師をお願いしてあります。今呼んで来ますのでお待ち頂いても良いですか?」

 テオドールがそんなことを言った。
 講師?誰だろう。ゲームにそんな場面はなかったし、クラウスはクロエルートではすでに魔法を使っていた。
 思えばここはゲームの世界を踏襲してはいるけれど、この世界に住む人たちは実在の人物だ。メイド、庭師、料理人……。みんなゲームには出てこないがこの世界で生きている。だったらゲームに出てこないクラウスの魔法の先生がいてもおかしくない。

「テオ、講師ってつまりは先生だろ?だったら呼ぶんじゃなくてこっちから伺うのが礼儀じゃない?」

 つい桐山康平の考えが出てしまった。テオドールが何を言われたのか分からないようにその場で固まっていたが、すぐに正気を取り戻すと興奮したように言った。

「まさかクラウス様からそのようなご意見が出るとは……。驚きました。ではご一緒に講師の元へ参りましょうか」
「うん!」

 部屋を出て、テオドールの後ろについて城の中を歩いて行った。
 今日はいい天気だ。回廊の下では全身に鎧を装備した騎士団が集まって行進の練習をしている。上から見ると縦横きれいに真っ直ぐ並んでいて良く訓練されているのが分かった。ガシャガシャと歩くたびに鎧の音が響く。クラウスとテオドールに一礼をして通り抜けるメイドがいる。

 自分はクラウスになってしまったけれど、ゲーム内のクラウスとは全くの別人だ。クラウスの記憶はもうない。別人だからこそクラウスがゲームと同じルートを進まないようにすることがきっとできる。バッドエンドなんて絶対嫌だ!

「こちらです」

 大きなマホガニー調の扉の前でテオドールが立ち止まった。
 扉に掛かっている木札には魔術師団長室と書いてあり、その扉をテオドールが三回ノックした。

「どうぞ」

 中から男の声がした。
 テオドールが扉を開けると、クラウスと全く同じ黒髪黒眼の背の高い男が、窓際の本棚の前で本を手にして立っていた。男は本を机の上に置くと、クラウスの前まで来て片膝を付いたかと思うと手の甲にキスしてきた。

 うげえぇぇぇぇ。
 
 猫にぺろぺろされるならまだしも、男にキスされても嬉しくもなんともない。
 テオドールといいコイツといい、手にキスするのはデフォなの!?

「魔術師団長を勤めておりますカーヴ・アリミルスと申します。今日はよろしくお願いします」

 サラサラストレートの黒髪は腰に届くほど長く、瞳の色もまるで深淵の底のように黒い。長い黒のローブを羽織っているので全身が真っ黒で、まるでカラスのようだった。しかしローブから覗く顔はシミひとつない透明感のある白い肌色だ。青白く透ける血管、整った造作……。まるで天才人形師が作ったビスクドールのようだ。顔面偏差値がものすごく高い。
 
 てかさー。この世界の男って美形しかいなくない?
 ま、クラウスもだけどさ。

「わざわざ来て頂いて申し訳ありません。呼びに来て頂けたらこちらの方からお伺い致しましたのに」
「それがですね!クラウス様が教えを乞う方が会いに行くべきだと仰られて」

 おいおい、なんかテオドールが嬉しそうだぞ。人として当たり前のことを言っただけなのにこうも喜ばれると背中がむず痒い。

「今日はよろしくお願いします、先生」

 俺は慇懃に頭を下げた。
 魔術師団長ということは、魔力量も相当多いのだろう。黒髪ということはカーヴも同じ闇属性なのか?

「こちらこそよろしくお願い致します、クラウス様。さっそくですが……。服をお脱ぎください」

 うえ?ええええええええええええええ!?

 いきなりピーーンチ!?
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