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四つ目の選択肢
しおりを挟む「あっ、あン、あ、きもちイイ」
「うん、健人愛してる、健人」
恋人と同棲しているアパートの部屋の扉を開けると、親友だと思っていた浩一と、自分の恋人であるはずの健人がベッドで睦み合っていた。二人は行為に夢中で宗一郎に気付いていない。
ここ最近続いていた仕事にようやく終わりが見え、久しぶりに早く帰ることが出来た。いつもは午前様で恋人に寂しい思いをさせているので、デパートで健人の好きな有名店のケーキを買ってきた。一緒に食べようと思っていたのに……。
俺はケーキを玄関にそっと置き、回れ右をした。
アパートの外階段を下り、街灯がぼんやりと照らす道を歩く。宗一郎は自分が泣いているのに気が付いた。
仕事にかまけて健人の相手が出来なかった自分も悪かった。最近は疲れていてセックスもご無沙汰だった。家に帰ると健人はもう寝ていて、朝は時間ギリギリまで寝て、起きてすぐバタバタと準備をして仕事に出ていた。同棲していたのに健人とは言葉を交わすことも少なく、最近はずっとすれ違い生活だった。同棲しているという事実に甘えて健人のことを放っておいた。健人はさぞかし寂しかっただろう。自分が見限られても仕方ないのかもしれない。
それでも相手が浩一ということにショックが隠せなかった。
宗一郎と浩一は高校からの親友だった。二人とも背が高くて顔が良く、人当たりもいいので女の子によくモテた。自分は男が好きだったので相手にしなかったが、浩一には女の子の恋人が途切れたことがなかったので、女の子にしか興味がないのかと思っていた。宗一郎と健人が付き合い出した時も祝福してくれて、三人で朝まで呑み明かした。
それなのに。
「あーー! ちくしょう!! なんで浩一なんだよ!」
下を向くと涙が溢れるので、空を見上げる。今日は曇り空で月も星も見えなかった。自分の心の中みたいだ。もう今日はアパートに帰れない。明日の朝までには玄関に置かれたケーキに気が付いて俺に見られたことに気がつくだろう。別れ話はその時にすればいい。
ネカフェか呑み屋かファミレスで朝まで時間を潰そう思い、俺は店がある駅に向かってトボトボと歩いた。目の前の歩行者信号が青になったので横断歩道に歩みを進めると目の端に猛スピードで走ってくるスポーツカーが見えた。車の方の信号は赤なのに、ブレーキを踏む気配がない。逃げなければと思うのに恐怖で足が蔦に絡まれたように動かなかった。
激しい衝撃の後、一瞬で意識が暗転する。
俺はこうして車に轢かれて死んだ。
好きな人に裏切られて。
親友に恋人を寝取られて。
車に轢かれて。
ーー痛い。
……ぶですよ。
ーー苦しい。
もう……じょ……すよ。
ーー悲しい。
辛かったですね。
でも、もう大丈夫ですよ。
さすさすと頭を撫でられている感触。
ああ、気持ちいい~~。
「よしよし、もう泣かないで下さい」
「!?」
不意に意識が浮上する。何か温かいものに優しく包まれている。
目を開けると、何もない真っ白な空間が広がっていた。
温かいと思ったものは誰かの腕だった。俺は子供のように誰かに抱きしめられていたのだ。そしてその誰かが俺をあやすように頭を撫でてくれていた。
「……ケン…ト?」
俺が起きたのに気が付いたのだろう。そっと腕が俺の身体を押した。
世にも美しい青年の顔が俺の眼の前にあった。こんな綺麗な人は今まで見たことがない。
「もう大丈夫ですか?」
耳触りの良い声が俺の耳朶を打った。
「ひ、ひゃいっ! 大丈夫ですっ! あ、あ、ありがとうございます!」
俺は慌てて立ち上がり、青年から距離を取った。しまった、思いっきり噛んでしまった恥ずかしいっ。何だよひゃいって。でも動揺するのは仕方がない。だって青年の顔はモロ俺の好みのタイプだったから。自分の理想が眼の前にいて、なおかつさっきまで自分を抱きしめてくれていたなんて誰だって動揺するだろ?
うん、絶対ここは天国だーー。
ギリシア神話に出てくる神さまのようなゆったりとした白い衣を身に纏い、凛とした佇まいを持って立つ青年の身長は俺より頭一つ分小さい。月のような見事な銀髪が光を透かして背中まで真っ直ぐに伸びている。煙るような長い睫毛の下の瞳の色は淡い紫水晶で、心配そうな光を孕みながら俺を見つめていた。人間離れした容貌に均整の取れた肢体。俺は口をあんぐりと開けて陶然と彼を見つめた。
紅を差したような赤い唇から玉を転がすような美しい声が漏れる。
「いきなりですが本間宗一郎さま、あなたはお亡くなりになりました」
「あ、はい。そうですか……」
思ったよりショックが少なかった。多分そうだと思っていたし、目の前の青年は神さまっぽいし、何よりさっきまで「大丈夫」と彼が頭を撫でていてくれたおかげで恐怖もなく落ち着いていた。
そんな俺の様子を見て青年は優しげな微笑みを見せた。俺の心臓がドクンと跳ねた。
「ここは天国ですか……? あなたは神さまですか?」
俺が聞くと目の前の美青年はやんわりと首を振ってから、片手を胸に当てて自己紹介した。
「わたくしの名はカロンと申します。わたくしはお忙しい神さまの代わりに、本間さまのこれからの行き先を導く水先案内人の役をいただいております。そうですね、……あなた方の世界で言う天使のようなものだと思って下さればけっこうです。ここ以外にも同じような白い空間がたくさんあって、各部屋にわたくしのような案内人がおり死んだ方を導いております。短い間ですがどうぞよろしくお願いします」
ペコリと頭を下げられて、俺もつられたように慌てて頭を下げた。
下を向くと俺のムスコがぶら下がっているのが見えた。ちょっと待て。俺、全裸じゃねぇかっ!
急に恥ずかしくなりワタワタしてしまった。恥ずかしがった結果、カロンも意識してしまったらしく心なしか俺の下半身を見ないようにしている……気がする。頬が赤いし目が泳いでるし。
純情かっ! これが可愛いかっ!
「で、ではこれから先、本間さまには三つの選択肢があります。そのどれかを選んで頂くことになります」
目線を心持ち上にあげながら綺麗に整えられた爪の付いた指を一本立てて、カロンが優しい口調で説明を始めた。声がとても心地良い。流れるような旋律。まるで音楽のようだ。
美形は声まで美声なんだな、などとどうでもいいことを思った。
「まずは一つ目。輪廻転生の輪に入らず魂が浄化されるまで眠りにつく。これは本間さまのように心に傷を負った方におすすめしております。二つ目は同じ世界に転生をして別のものに生まれ変わる」
彼の説明によると別のものに生まれ変わる場合、次になるものは自分では決められず、それも人間になれるとは限らないそうだ。木や虫や微生物になる場合もあるらしい。
……ということは運が悪ければ黒光りするGというものになる可能性もあるのか……。ちょっとどころかだいぶヤダ。
「最後の三つ目の選択肢。これはなぜか日本人の男性がよく選ぶのですが……」
カロンがどこか困った顔をして前置きをした。
あ。何となく察してしまった。これはもしかしてアレか? アレなのか? テンプレ来るか?
「三つ目は、異世界に転生する場合です。ただし、この場合はどこの世界に行くのかはランダムになります。平和な世界ももちろんありますが、中には明確な敵ーー例えば魔王などーーのいる世界だったり、同族同士が紛争している危険な世界の場合もあります」
異世界転生キターー!! 俺TUEEE! ってヤツだ。
日本男児はな、小説や漫画の影響で異世界に憧れているもんなんだよ。えっ? 俺? 俺は別に異世界に憧れてなんていないもんねっ!
ごめんなさい、嘘です。ちょっと憧れてます。
しかしカロンさん、小首を傾げて困った顔をするのは反則だ。むっちゃ可愛い。
俺はさっきからカロンの一挙手一投足ばかりが気になって、すっかり健人のことを忘れてしまっていたことに気が付いた。浮気されて相当傷ついていたはずなのに、俺の傷は全てカロンのよしよしで消えてしまったようだ。
「我々は異世界の人間同士をシャッフルして別の世界へ行ってもらい、元いた世界の技術を伝えてもらって文明を向上させています。例えばある世界では元日本人が持ち込んだリバーシや将棋というボードゲームが作られて大人気となったり、ある世界では水車や風車が作られて発電をしたり、馬車のスプリングを改良された方もいらっしゃいましたね」
カロンさん、カロンさん。それ、異世界テンプレですから!
どうやらこの案内人さん、日本のサブカルをご存じないらしい。
それにしても三つの選択肢か……。いったいどれを選ぶべきか……。
浄化されるまで眠る。
地球にまた生まれ変わる。
異世界に転生。
仕事と恋愛に疲れていた俺からすれば寝られるのは嬉しいけれど、ずっとって言われると考えてしまう。
前と同じ世界に生まれ変わるのはいいけれど、何になるか分からないのはイヤだ。
異世界には憧れるけど、自分は生粋の日本人だ。戦争も知らなければ殴り合いの喧嘩すらした事がない。安全じゃない世界でやっていけるかどうか。
うーん。
俺はその場に胡座をかいて座り込んで腕を組み、考え込んでしまった。
「すぐに決めなくても大丈夫ですよ。本間さまのこれから先のことですからね、後悔のないようにして下さい。わたくしはいつまでもお待ちしていますからゆっくりお考え下さい」
俺の肩をポンと叩いてカロンはふわりと花がほころぶように笑った。
うわ、これはやばい。
俺はその顔を見て。
ーー確かに股間が疼くのを感じた。
心臓は跳ねるし股間が疼くし。
死んでるんだったら心臓は動いていないだろうし血流も止まってるはずだろ? どうなってるんだ俺の今の身体は!
「あ、あの……、本間さま」
どこから出したのかカロンが大きな布を手に持っていた。俺の方を見ないように顔を背けながら布を手渡そうとする。
「すみません、気が利かなくて……。それ、身体に巻いて下さい。その……、下半身が……」
「あ」
そう、俺のムスコは今、ちょっとだけ勃っていたのだ! 胡座を組むという体勢も悪かった。これじゃあカロンに丸見えじゃねぇか!
見られてる、と思った瞬間、カッとして血が溜まり、ますます俺のムスコは硬く元気になってしまった!!
「え、えーっとカロンさん」
「は、は、は、はいっ」
「俺の身体って今どうなっているんですか? 死んでるのに何故血が溜まるんでしょう?」
「え、血が溜まるって……?」
質問されて思わず俺の方(主に下半身)をバッチリ見てしまったのか、ぼっ!! とカロンの顔が茹で蛸のように赤く染まった。俺のムスコの危険な状態に気がついたようだ。
「え、えっと、ここは生と死の狭間。停滞した世界。あなたの身体は生きながら死んでいる状態で停滞しています。三つの選択肢から一つを選んだ時点で魂だけの状態になり、それぞれの世界に送られます」
「つまり……、選択していない今なら俺は生きているって事でいいですか? 生きてるってことはセックスもできますよね?」
「えっ? え、ええええええええええ!?」
俺はグイッとカロンを引っ張った。ぽすんと気持ちいくらいに俺の胸の中にカロンが収まる。カロンに触ることができるということは最初の頭よしよしの時点で分かっていた。動揺している隙を付き、カロンを床に押し倒し、両手をひとまとめにして床に縫い付けた。
「え、本間さま? ち、ちょっとお待ちください」
「待たない」
動揺している顔も可愛い。顔を逸らすカロンの顎をそっとつかんで正面に向けさせて口付けた。顎クイからのキスだ。
「あ、」
カロンが声を出した合間に唇の中に舌を差し込み、歯列や腔内をゆっくりとなぞる。舌を絡め取ってジュルジュルと唾液を吸い上げるとカロンが逃げようと身動ぎした。
「ふぁ、ん、ぁあ……」
口唇を甘噛みしながら腰に巻き付けられた紐を外し、襟の部分から衣の中に手を入れる。鎖骨を撫でて胸へと手を動かすと、ガチガチだったカロンの身体がピクリと少しだけ震えた。
指で乳輪の周りを弄び、たまにほんの少しだけ尖りに軽く触れるようにする。その都度、幽かに鼻に抜ける吐息が可愛らしくてもっと鳴かせたくなる。
肌を何度も撫でさすりながらキスを深くすると諦めたかのように身体の力がすっと抜けたので、唇と拘束していた手を離し、チュニックのような服を下から捲り上げて脱がせると、カロンが恥ずかしそうに顔を背けた。直接的な接触はしてなかったのに、下着の下で緩やかに股間が勃ち上がっているのが見える。
「初めて?」
「だだだだって、ここに来る人誰もこんなことしないからっ」
さっきまでの丁寧な言葉遣いが崩れている。片手で真っ赤な顔を隠すカロンが可愛すぎる。俺はカロンの太腿に膝を割り入れて顔を覆っている手を退かし、胸の尖りを口に含んだ。
「ン、や、ああ……」
口の中で乳首を甘噛みをしたり舌でコロコロ転がすと面白いくらいに身体がビクビクと反応した。どうやら気持ちが良いようだ。もう片方の尖りは指でつまんだり押したりクリクリと動かす。両方の刺激に我慢できずにカロンの甘い声が響いた。
「ああ、すげぇ乳首が固くなってるよ。可愛い」
グイッと強く乳首をつまむと、一際大きな嬌声が上がる。
足の間に割り入れた膝にカロンのモノが当たる。うん、ちゃんと硬く勃っている。両脚を持ち上げて左右に開き、俺の肩の上に乗せた。すでに抵抗する気配はない。
さてこの辺でそろそろ後ろの孔に指を入れようかと思った段になってローションがないことに気がついた。しまった。どうするべきか。そこまで考えて、そういえば何もない空間だったはずなのに、さっきカロンはどこかから出した大きな布を俺に渡したことに気が付いた。あれはいったいどこから出した?
「あ、や、や、ぁっあんッ」
先走りでぬるぬるとぬめる陰茎を輪の形にしてつかみ、緩く上下に扱きながらカロンに聞く。
「ね、カロン。さっきの大きな布ってどこから出したの? 他の物も出せる? 言わないとココが固いまま挿れちゃうけど。痛いのがイヤなら教えて?」
「あああ、いたいのやだぁ」
後孔を指でツンと押すとカロンの身体が一瞬、大きく震えた。
「うんうん、イヤだね。だったらローションって出せないかなぁ」
「ろーしょん……?」
とろんとした眼をしながら不思議そうにカロンが答えた。あ、もしかしてローションの存在を知らない? 確かに案内人はセックスなんてしたことがないだろうしな。
「そう。ローション、潤滑油、ベビーオイル、とにかくつるつると滑りが良くなるものならなんでもいいよ」
カロンは少し考えた後、何もない空間に手を伸ばした。すると伸ばした先の空間がぐにゃりと歪んだ。俺が驚いているとカロンはその中に手を突っ込んで小さい瓶を取り出した。
「こんなのしかないけど……」
瓶から中身を少し出して確認する。色と匂いからおそらくこれはオリーブオイルだ。
「うん、大丈夫だよ。これがあれば痛くない」
「ほんと……?」
ほっとしたようにカロンが微笑んだ。自分がこれからこのオイルで何をされるか分かっていないんだろうな。何も知らない無垢な青年を自分が穢すーー、そう思うと嗜虐性が刺激されて背中がゾクゾクして、ますます俺のムスコは元気になった。
オイルを後孔にたっぷりと垂らして指で広げ、孔の襞を伸ばす。逃げようとするカロンの尻たぶをつかんでやわやわと揉みしだきながら舌を孔に差し込むと、イヤイヤと首を振りながら声を上げた。
「だ、ダメっ。そんなところ……。あぁん、やだぁ」
目に見えて動揺するカロンが可愛い。天使のようなものと言っても身体の造りは人間と変わらないようだ。性感帯も同じようで良かった。舌を差し入れるたび、びくびくと身体が揺れて頭を振る。長い髪が床を優しく叩いた。
柔らかくなった所で舌を抜き、今度は指を一本入れた。つぷりと一本目を簡単に飲み込んだので、すぐに二本目を入れて指を広げ、中でぐるりとかき混ぜた。
「あ、ンあっ!!」
ある一点に触れると、打ち上げられた魚のようにカロンの身体が大きく跳ねた。ポタポタと先走りが床に落ちて染みを作る。
「ここがいいの? 感じる場所は俺たちと同じなんだな」
「あ、あ、あ、もう……。も……やだァ……」
同じ所を集中して責めると、カロンは眦から涙を流して俺に縋り付く。流れた涙を舐めてから口腔の奥まで舌を差し込み、激しく絡み合わせて唾液を啜る。飲みきれない唾液が口の端から流れていった。キスに気を取られているうちに指をもう一本増やしたが、カロンが気付く様子はなかった。
この調子なら俺の砲身を挿れても大丈夫そうだ。むしろさっきから挿れてくれと言わんばかりに後孔がヒクヒクと痙攣している。俺のムスコと理性はもう限界だった。肩にカロンの脚を乗せたまま自分の身体を起こすとカロンの尻が上がる。残ったオイルを再び尻の割れ目に垂らし、自分のムスコにも塗り付けると、カロンの中にぐっと砲身を押し込んだ。
「あぅ、んンーーーー!!」
挿れた瞬間イったのか、カロンが白濁液を撒き散らした。
自分に何が起こったのか分からずにカロンは呆然としている。
それを無視してうねるカロンの中にゆっくりと俺のものを挿入していく。浅い所で前立腺に当たるように何度も抽挿を繰り返すと、イったあとの刺激も相まったのか腰が揺れてひっきりなしに嬌声が上がる。
「や、いやッ! こわい、こわい! ああ。なに、これなにぃ?」
浅いところから一息に奥まで突き刺すと、再びカロンが絶頂を迎えた。今度はそこまで白くない液体が身体からドクドクと溢れ出す。なんて感度のいい身体だ。
「今のはイクって言うんだよ。怖くない。気持ち良かっただろ?」
「イク……?」
「そう。今からもっとイかせてあげるからね」
噛み付くように唇を貪り、俺はカロンの中で再び抽挿を開始した。
「もうっ! 信じられないっ!! 何してくれるんですか!」
俺は目を覚ましたカロンに散々叱られた。
あの後、気を失うように眠ってしまったカロンの後始末をし(と言っても中を掻き出して布で拭っただけだが)、これからどうするかを考えた。まだ結論は出ていない。
というか三つの選択肢から必ず選ばないといけないのか?
そういえばさっきーー
「カロン。さっきおまえ、俺が選択肢から一つを選ぶまでずっと待つって言ったよな?」
「ええ……。はい」
不審そうに俺の顔を見るカロン。俺が何を言いたいか分かっていない顔だ。
「じゃあ俺はどれも選ばない! 三つのうちどれかを選んでしまったらここから出て行かなくちゃいけないんだろ? それは嫌だ。俺はここでカロンとずっと一緒にいる」
カロンは俺の言葉に一瞬喜色を見せたが、すぐに真顔になって俺を諭した。
「そんなのダメです! 前例もないですし、あなたは生まれ変わって幸せにならないといけません。ここは停滞した世界だと言ったでしょう? ここにいるということは、魂の輪廻が出来ないということです。年も取らず死ぬこともできずここにずっと縛られる、そんな思いをあなたにさせられません」
俺のことを思って言ってくれていることに心が震えた。カロンはとても心根の優しい人だ。
「いや、俺はもう決めた。俺はカロンとずっと一緒にいたい。離れたくない。案内人の仕事でも何でも手伝う。お願いだからずっと傍にいてくれ」
「でも……」
その時。
白い空間にぱあっと光が差し込んだ。
『まあ、良いんじゃない?』
「!? 神さま!?」
どこからともなく綺麗な女の人の声が響いた。
『アタシは別に案内人が二人になっても構わないわよ~。カロンはアタシ息子のようなもの。幸せにしてくれるんなら何でも良いわ~~』
軽い。軽すぎるぞ女神さま。いいのかそんなゆるゆるで。
俺は真っ赤になって呆然と立ち尽くすカロンの手を取って手の甲にキスを落とした。
そして覚悟を決めて叫んだ。
「カロンのことずっと大事にするし、案内人の仕事も手伝うから末永くよろしくお願いします!」
その後、その白い部屋は案内人が二人になった。部屋を訪れるものは案内人たちのあまり仲の良さに鼻白むことになったくらいで仕事には何の問題もなかった。
他の部屋でも案内人が二人になったところがあるという。
第四の選択肢に、『案内人の手伝いをする』が増えるのはこれから先の話である。
ーENDー
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