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変態ふんどし男と俺

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春くんにプレッシャーをかけられた俺は、抵抗することもできず、メイクされてしまった。

俺のプランでは、春くんのイケメンな顔を、台無しにしてやろうと思っていたが、逆の立場になってしまった。

その証拠に、春くんは俺の顔を見て、必死に笑いを堪えていた。

「ふっ、我ながら中々の出来だな。よし、準備は出来た。あとは作戦だが──。」

その作戦というのは、もし村人に見つかり怪しまれた場合、俺が村人のふりをしたまま、春くんを連行していることにするというものだった。

俺の顔の件は、春くんの必死の抵抗ということにするらしい。

だけどどう考えても、無理がありすぎる作戦で、俺は空いた口が塞がらなかった。

「文句があるなら、今すぐ騒いで囮になれ。その間に、俺は翔馬を探す。」

まるで俺の感情を読み取ったような、春くんの非情な言葉に、必死に首を横に振った。

すると春くんは満足げに笑みを浮かべると、すぐに無愛想な顔になり、無言で歩き出した。

しかし、当てもないのに、一体どこに行くつもりなのだろうか。

そんな事を考えていた時、俺はある違和感を覚えた。

「春くん、ちょっと止まって。」

俺は春くんの手を引っ張って、小声で話しかけた。

「何だよ急に?」
「しっ、静かに。」

俺は違和感の正体を探るべく、耳に全神経を集中させた。

一件、静寂に包まれた空間には、俺たち以外に誰もいないように思える。

だが──。

試しに俺は、春くんと手を繋いでま少し歩き、すぐに立ち止まってみた。

コツッコツッ……コツッ………

するとやはり、足音が一つ多く聞こえた。

「春くん、後ろに誰かいるみたい。だから、このまま走って──。」

そう思った時だった。

突然足男が激しくなり、どんどん近づいてきた。

恐怖で体が動かなくなる中、かろうじて動く首を動かし、相手の正体を窺った。

「なっ…何だ、あの褌野郎は?」

褌野郎とは、例の肝試しの際、俺の一芝居に協力してくれた村人だ。

そういえば、春くんは面識がなかったのか。

って、そんなことを考えている余裕はなかった。

早く逃げなければ、大変な目に遭ってしまう。

そう頭ではわかっているのに、相変わらず足は棒のようになり、全く動かなかった。

それに対して春くんは、至って冷静のようだった。

「何ビビってんだよ。相手は1人だろ。大したことない。」

だが俺は、あいつの恐ろしい事実を知っていたのだ。

「そっそれが、あいつ、空手10段だって聞いたんだよー!」

話を聞いた春くんは、無表情のまま一瞬黙り込んだ。

「………なら、早く手を離せ。俺まで捕まるだろ。」

なっ、何て薄情な奴なんだ!
仲間を見捨てるなんて、最低だ。

憤りを超えた怒りに任せて、俺は春くんを押し倒した。

不意をつかれた春くんは、何が起きたか分からなかったようだ。

「おいっ、何してんだよ!」
「こうなったら、春くんも道連れにしてやる!!」

もう足音はすぐ近くまで来ていて、褌の村人の息遣いまで聞こえていた。

次の瞬間、背後に気配を感じたと思うと、褌の村人が俺の背中に飛びかかった。

「うわっ⁉︎」

そして俺は春くんから引き離されると、褌の村人に抱きつかれて身動きが取れなくなった。

クルッと体を回され、褌の村人と間近で目が合った。

その目元はニヤけていて、悪寒が止まらなかった。

「例の二人組が逃げ出したところを見て、追いかけていたら、こんなべっぴんさんに出会うとはなあ~。我ながらついてるぜ!」
「お…俺が………べっぴん?」

一瞬、何のことだか分からなかったが、すぐに今の俺の状態を思い出した。

俺の顔は、春くんにメイクされたままだったのだ。

「俺、一目惚れしちまったよ。だから、結婚してくれー!」

まさか自分までそんな目に遭うとは夢にも思わず、俺は助けを求めて、春くんに視線を送った。

しかしすでに、春くんは遥か彼方にいた。

「えっええーーーー!見捨てないでーーーーー!!」

虚しい叫び声だけが、廊下に響いていた。
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