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弟
七瀬遥華
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目はすっかり慣れているとはいえ、ペンションの中は真っ暗だ。
僕は足を踏み外さないよう、慎重に階段を降りた。
そろそろ来る頃だろう。
階段を下り切った僕が、そう思い玄関を向かおうとした時だった。
ガチャっと、玄関の扉が開く音が聞こえた。
僕は咄嗟に身を隠し、目を凝らした。
暗くてはっきりは分からないが、誰かがこちらに向かって来ているのは明白だった。
僕は包丁を握りしめながら、相手が近づいてくるのを、息を殺して待った。
その時だった。
突然目の前が明るくなり、僕はその眩しさに、思わず目を瞑ってしまった。
シューーーー。
「ッ⁉︎んんんんんんんっ!!」
突然、何かのスプレーが吹き付けられ、勢いよく吸い込んだ喉や鼻から、激痛が走った。
苦しくてまともに息ができず、僕は咳き込みながら、その場でもがいた。
その拍子で、思わず包丁を手放してしまう。
油断した!
遥華が僕を殺そうとする可能性は思い浮かんでいたが、まさかこんな不意打ちをしてくるとは思わなかった。
このままではまずいと分かっていても、体はいう事を聞かない。
すると今度は、肩を思い切り押されて、体を仰向けに倒され、僕に乗りかかろうとしてきた。
僕は必死に体を捩り逃れようとしたが、抵抗虚しく、とうとう馬乗りされてしまった。
「くっ……ううっ………。」
ようやく目が開くようになり、視界を確認すると、僕が落とした包丁を手に持ち、振り翳そうとしている、遥華の姿があった。
「お前なんか、いなくなればいい。これが、リッくんのため。だから………死んでええええ!!」
このままじゃ、殺される……!!
刃物が振り下ろされる瞬間、僕は咄嗟に遥華の手首を掴み、必死に押し返そうともがいた。
「やめ…ろ………遥華っ!!」
僕が呼びかけようとも、その手の力は緩むことはない。
「うるさい!!リッくんの真似をするな!さっさと死ねえええ!!」
尋常でない遥華の力に、押し返されそうになったその時だった。
「海斗っ!!」
「………っ⁉︎」
すぐそばで、兄さんの叫び声が聞こえ、それに反応した遥華は、動揺したのか途端に力を抜いた。
その一瞬の隙をついて、僕は一気に押し返すと、包丁を奪い取った。
そして思い切り、遥華の胸に突き刺した。
「……っぎゃあああ!!」
叫び声とともに血飛沫が上がる。
痛みで体勢を崩す遥華を容赦なく払いのけ、今度は僕が馬乗りになった。
そして、何度も、何度も包丁を振り下ろした。
「あ…っ……ぐっ………うう…っ…う………。」
遥華は最初こそ大声で叫んだが、次第に小さな呻き声へと変わっていった。
「やめろ………もう、やめてくれえええええーーーーっ!!」
兄さんの叫び声に気付き、手を止めた時には、すでに遥華は目を見開いたまま動かなくなっていた。
とうとう、遥華を殺した……。
これほど待ち望んだ事はなかったはずなのに、兄さんが泣き叫ぶ姿を見て、僕は虚無感に襲われた。
まさか、手を縛られた兄さんが、ここまで来るとは思わなかった。
そのおかげで命拾いしたのだが、結果として、兄さんに、遥華を殺害するところを見られてしまう事態に陥ってしまい、僕は言葉を失った。
「遥華ぁぁ……!ううっ……、俺の…せいで………!」
どうして、この期に及んで、自分を責めるのだろう。
悪いのは全て、僕だと言うのに……。
どこか、心にぽっかり穴が空いたまま、僕は泣き崩れる兄さんを見つめ続けた。
僕は足を踏み外さないよう、慎重に階段を降りた。
そろそろ来る頃だろう。
階段を下り切った僕が、そう思い玄関を向かおうとした時だった。
ガチャっと、玄関の扉が開く音が聞こえた。
僕は咄嗟に身を隠し、目を凝らした。
暗くてはっきりは分からないが、誰かがこちらに向かって来ているのは明白だった。
僕は包丁を握りしめながら、相手が近づいてくるのを、息を殺して待った。
その時だった。
突然目の前が明るくなり、僕はその眩しさに、思わず目を瞑ってしまった。
シューーーー。
「ッ⁉︎んんんんんんんっ!!」
突然、何かのスプレーが吹き付けられ、勢いよく吸い込んだ喉や鼻から、激痛が走った。
苦しくてまともに息ができず、僕は咳き込みながら、その場でもがいた。
その拍子で、思わず包丁を手放してしまう。
油断した!
遥華が僕を殺そうとする可能性は思い浮かんでいたが、まさかこんな不意打ちをしてくるとは思わなかった。
このままではまずいと分かっていても、体はいう事を聞かない。
すると今度は、肩を思い切り押されて、体を仰向けに倒され、僕に乗りかかろうとしてきた。
僕は必死に体を捩り逃れようとしたが、抵抗虚しく、とうとう馬乗りされてしまった。
「くっ……ううっ………。」
ようやく目が開くようになり、視界を確認すると、僕が落とした包丁を手に持ち、振り翳そうとしている、遥華の姿があった。
「お前なんか、いなくなればいい。これが、リッくんのため。だから………死んでええええ!!」
このままじゃ、殺される……!!
刃物が振り下ろされる瞬間、僕は咄嗟に遥華の手首を掴み、必死に押し返そうともがいた。
「やめ…ろ………遥華っ!!」
僕が呼びかけようとも、その手の力は緩むことはない。
「うるさい!!リッくんの真似をするな!さっさと死ねえええ!!」
尋常でない遥華の力に、押し返されそうになったその時だった。
「海斗っ!!」
「………っ⁉︎」
すぐそばで、兄さんの叫び声が聞こえ、それに反応した遥華は、動揺したのか途端に力を抜いた。
その一瞬の隙をついて、僕は一気に押し返すと、包丁を奪い取った。
そして思い切り、遥華の胸に突き刺した。
「……っぎゃあああ!!」
叫び声とともに血飛沫が上がる。
痛みで体勢を崩す遥華を容赦なく払いのけ、今度は僕が馬乗りになった。
そして、何度も、何度も包丁を振り下ろした。
「あ…っ……ぐっ………うう…っ…う………。」
遥華は最初こそ大声で叫んだが、次第に小さな呻き声へと変わっていった。
「やめろ………もう、やめてくれえええええーーーーっ!!」
兄さんの叫び声に気付き、手を止めた時には、すでに遥華は目を見開いたまま動かなくなっていた。
とうとう、遥華を殺した……。
これほど待ち望んだ事はなかったはずなのに、兄さんが泣き叫ぶ姿を見て、僕は虚無感に襲われた。
まさか、手を縛られた兄さんが、ここまで来るとは思わなかった。
そのおかげで命拾いしたのだが、結果として、兄さんに、遥華を殺害するところを見られてしまう事態に陥ってしまい、僕は言葉を失った。
「遥華ぁぁ……!ううっ……、俺の…せいで………!」
どうして、この期に及んで、自分を責めるのだろう。
悪いのは全て、僕だと言うのに……。
どこか、心にぽっかり穴が空いたまま、僕は泣き崩れる兄さんを見つめ続けた。
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