堕ちた双子

新たなる幕開け

事故

日もすっかり暮れた頃、俺は重い足取りで家路に着いた。

いつもならとっくに家に帰っている時間だ。
きっと心配性なアイツは、今か今かと待ちわびていることだろう。

そう思い、俺はゆっくりと玄関の扉を開けた。

「……ただいま。」

俺がそう言うと、すぐに軽快な足音が聞こえてきた。

「兄さん、おかえりー！」

エプロン姿で現れた海斗は、俺の予想に反してやけに上機嫌だった。

「今日はね、僕が料理作ったんだよ。兄さんほどじゃないけど、結構上手く出来たと思うんだ。だから、早く兄さんに見てほしいな。」

目を輝かせながら話す海斗を見ていると、自然と嫌な事を忘れられた。

そう、俺は、海斗のこの笑顔を守るために、生きているんだ。

改めてそう思うと、あの時の恐怖も、未だ残る背中の痛みも苦ではないと感じた。

「分かった。すぐご飯にしよう。」

海斗につられて自然と笑みをこぼしつつ、俺はリビングに向かった。

するとすでにテーブルには料理が並んでいて、俺の出番は全くない感じだった。

「煮込みハンバーグに肉団子のスープって、肉肉コンビじゃないか。」

俺がツッコミを入れると、海斗は舌をペロッと出して頭を掻いた。

「その、ひき肉しか買わなかったんだよ。」
「何だそりゃ。」

俺は半ば呆れてため息をつきつつも、そんなドジな海斗が少し面白おかしく思えて、それ以上は何も言わなかった。

「でもまあ、見た目は美味しそうだな。よし、一口食べてみるか。」

そう言ってまずはハンバーグを口に運ぶと、思いのほか美味しくて、俺は舌を巻いた。

「これ、本当に海斗が作ったのか？めちゃくちゃ美味いじゃないか。」

俺が料理をべた褒めすると、海斗は頬を赤く染めた。

「本当？そんなに喜んでくれるだなんて、嬉しいよ。」

まさかあの海斗が、こんなに料理が上手くなっていたとは思わず、心の片隅で子供扱いしていた自分を恥じつつ、俺は黙々と料理を食べていった。

そして何気なく、テレビを見た時だった。

『次のニュースです。一昨日未明、県道○○号線を走行していた乗用車が爆発し、運転していた藤崎克也さんの死亡が確認されました。』

そこに映し出されたのは、あの金髪の男の写真だった。

「………死んだ？」

無意識のうちに、言葉が出ていた。

あまりにも唐突な事に、理解が追いつかない。

まさかそんな理由でアイツから解放されるなんて、誰が予想出来るというのだろう。

しかもその死因があまりにも衝撃的すぎて、自然とテレビに釘付けになった。

しかし、突如としてテレビのチャンネルが切り替わり、くだらないバラエティ番組が映し出された。

「こんなの見たってつまらないよ。それより、早く食べないと冷めちゃうよ。」

何故だから分からないが、先程までの海斗とどこか様子が違う気がした。

相変わらず機嫌は良さそうなのだが、目が笑っていないように見えた。

なんとなくだが、今のニュースには触れてほしくないように思えたので、俺は黙って海斗に従うことにしたのだった。