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世界を滅ぼす者と選ばれし者

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 12月のある晴れた日。それは突然訪れた。

 私の通う高校は最寄り駅から徒歩で15分もかかる。
 しかも途中から急な坂道を上がらなければならないから朝から心拍数が跳ね上がる。
 いつも通る道だから目新しいものなんて何もない、筈だった。

 人が道路に倒れてる。しかも体から血が流れ出て道路を赤く染めている。
「ひゅっ」
 思わずのどから声にならない声が出てしまった。
 周りを見渡しても他に人が見当たらない。

 突然倒れていた人が体を動かして仰向けになった。
 男の人だ。年は私と同じくらい。

「はーっ……はーっ……」
 息が荒い。
「大丈夫ですか?」
「君、なのか」
「え?」
 私この人のこと知らない。
「いいん……だ。あいつ……から聞いてくれ……れば」
「あいつ?」

「こんにちは」
「ひゅっ」
 急に後ろから声をかけられ、また喉からおかしな声を出してしまった。

「だ、誰?」
 振り返ると黒いウサギがいた。
「う、うさぎ?」
「僕はロノウェ。この星を守るものの使いだよ」
「うさぎがしゃべってる……」
「今は挨拶だけ。またね」
「え?」
 黒いウサギはさっと物陰に消えた。

 あ、あの人は。
 振り返るとさっきの男の子も、道路を染めていた赤い血も消えていた。
 なんなのよー。これは。夢か。心霊現象か。

 あ、学校!学校行かなきゃ!
 すでに今月は2回遅刻している、これ以上遅刻するわけにはいかない。私は走って学校へと向かった。

 朝から変な体験をしたせいか気が高ぶってしまい最後の授業まで集中できずに1日を終えてしまった。
 今日は気分がすぐれないから友達との約束も断って帰ることにした。
 駅までの帰り道も、家に帰りつくまでも何も起こらなかった。

 部屋に入った途端。あいつはいた。
 ベットの上にちょこんといる黒いウサギ、いやロノウェと言ってたっけ。
「待ってたよ」
「待ってたって!どうしてここがわかったの?」
「君は選ばれし者だからね」
「選ばれし者って?」
「朝あの子をみただろ」
「彼はどうなったの」
「死んだよ」
「え?」
「死んだ。世界を滅ぼす者に敗れてね。だから次は君なんだ」
「どういうこと?」
「だから君が、世界を滅ぼす者を倒す者に選ばれたんだよ」
「そんな。急に言われたって。私体育も得意じゃないし、勉強も中の中だし」
「そんなのは関係ないんだ。世界を滅ぼす者は君より絶対に弱いから倒せるんだよ」
「私より弱いやつなんて誰でも倒せるでしょ。私がやらなくたっていいじゃない!」
「君しか倒せないんだよ。あとね。世界を滅ぼす者は選ばれた者にしか見えない」
「ちょっちょっと。意味がぜん、ぜんわかないんだけど」
「だからね。君は選ばれし者として選ばれた。そして世界を滅ぼす者は君にしか倒せない」
 オウム返しになってるような気がする。本当に意味がわからない。
「さ、さっきの男の子はなんでやられちゃったの。私より弱そうには見えなかったけど」
「彼も選ばれし者だったけれど、今の世界を滅ぼす者は倒せなかったんだな」
 本当に意味が分からない。ロノウェは話を続ける。
「まぁいいや。早い話がね。君が世界を滅ぼす者を倒したら終わり。世界の平和が保たれる。さっきも話したように君より弱 いから悩むよりも倒した方が早いよ」
「本当に?本当にすぐ終わるの?」
「本当だよ。何なら今からちょっちょっと終わらしちゃう?」
「え?今すぐ?」
「それじゃあ行こう」
 ロノウェはぴょんぴょん跳ねて部屋を出てしまった。
「ちょっとまってよ」

 起用にジャンプしてドアノブをひねって外に出たうさぎ、いやロノウェを追って外に出た。

 ロノウェはぴょんぴょん進んでいく。
 何人もの人とすれ違ったけれど誰もノロウェに気づいていない。ノロウェも選ばれし者しか見えないってことか。
 ここは家から遠くないけど普段歩かない場所だな。
「ロノウェだっけ。あのね私運動神経良くないし武器みたいなの持ってないんだよ。どうやってその、世界を……」
「滅ぼす者」
「そう、それと戦えっていうの」
「そんなのはさ。その時になったらなんとかなるよ」
「その時って?」
「着いたよ」

 ロノウェに連れて来られたのは何の変哲もない平屋だった。
「こんなところに世界を滅ぼす者?がいるの」
「もう目の前にいるよ」
「は?」
 すると平屋の隅の方から黒い綿あめみたいな丸い物体がフワフワ近づいてきた。
「ちょっと。これどうすればいいのよ」
 急に右手が光ったかと思うと私は銀色のステッキを握っていた。
 とっさにそのステッキで黒い綿あめを殴るとあっさりと粉々になって無くなってしまった。
 そして銀のステッキも右手から消えていた。

「え、終わり?」
「うん終わりだね」
「これで世界を救ったの!?」
「君は世界を救ったよ」
「よかったー。もっと大変な目に合うかと思ってた」
「まだやることがあるから着いて来て」
 これで終わったんじゃないの?でもロノウェはまたぴょんぴょん跳ねて行ってしまう。

 着いたのは家からだいぶ離れた土手だった。
「なんでこんな遠くまで来たの。もう終わったんじゃないの」
「これで君の役目は終わりさ」
「これで?」
 すると空から鳥のようなものが飛んできた。
「何?あれ?」
「あれが次の世界を滅ぼすものさ」
「次の?」
 一瞬だった。
 鳥のようなものの口ばしが私の左胸を貫いた。
 膝から崩れ落ちる私。世界を滅ぼす者はそのまま飛び去り見えなくなった。

「あぐぁ……、どう、して」


「君は君が倒すべき相手を倒した。でもね。次に現れた世界をほろぼすものは君には倒せないんだ」
 私には倒せない?
「次に選ばれるものが現れるのは、
 先に選ばれたものが新しい世界をほろぼすものに倒された時なんだ」

「あの、大丈夫ですか」
 スーツを着たサラリーマン風の男性が声をかけてきた。

「あなた……なのね。あいつ……に聞いてくだ……さい」
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