この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失の男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

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第五章 永遠の探求者編

07.因縁

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 地響きと共に鳴り出した警報と、慌ただしい足音。
 シキ達は近づいて来る足音から隠れるため、魔術によって施錠された備品室へ身を潜めた。
 危機を脱したのも束の間、無人だと思われた備品室には先客がいた。

 近づいて来た女性の職員へネオンが触れる。すると、彼女に掛かっていた魔術が消える。
 姿を現したのは、見覚えのある肌の色をした少女であった。

「ど、どうして姿が……っ!?」

「紫の肌、頭の角!! あなたこそ何者ですか!?」

 エリーゼと因縁のある相手と同じ特徴をした、謎の少女。
 彼女を旅へと駆り立てた目的が、不意に目の前に現れる。

「わ、私はここの職員です。あ、あなた方こそ、こっ、ここの職員ではないですよね……!?」

「自分こそグラナートの者ではないでしょう! だってあなたは、ダーダネラの民……!!」

「っ! ち、違います。私はただの職員で、この姿も理由があって……、とにかく違うのです!」

「違う違うって何が違うのですか!? 私はあなた達が何者なのか知っています! 私の兄が、アイン兄さんがどこにいるのか教えてください!!」

「落ち着けエリーゼ! そこのお前もだ」

 血相を変えたように感情的になるエリーゼを見て、シキは止めに入る。
 彼女の事情も知っているが、今ここで必要以上に騒ぎを起こしては、隠れた意味が無くなってしまう。
 シキはこれまで解放した職員の傾向も見て、改めて現状の説明をする。

「私達はヴァーミリオンの討伐を目的として、職員の解放をして回っていた。他の職員がそうであったようにお前にも奴の魔術が掛かっていると思い、解除をしようとしたまでだ」

「わ、私は……魔術になんて、かかってないです」

「様子が変わらない辺り本当なのであろう。だからこそ今一度聞きたい。お前はグラナートの敵と味方、どちらだ?」

「ど、どちらでもありません。私はただ、連れて来られただけです」

 シキ達を見つけて彼らの目的を聞いてもなお、大きな動揺は見られない。
 最初からヴァーミリオンを敵とみなし敵対勢力が現れる事すら予見していたような、おどおどとしながらどこか心の奥底では落ち着いた様子に、シキは違和感を覚えていた。

 だがよほど警戒心が強いのだろうか、少女は心を開こうとはしてくれない。
 シキは一度今の問題を終えて話を聞いた方が得策だと考え、伝えようとする。しかし先にしびれを切らしたのは、事の中心にいるエリーゼであった。

「煮え切らないですね。あなたのお仲間は、もっと強い意志を持っていましたよ」

「な、仲間……?」

「彼らは国のためにと、戦争を起こそうとしていました」

「っ、やめろエリーゼ」

「シキさんは黙っていてください!」

 普段冷静なエリーゼが、睨みを利かせてシキに反抗する。
 シキが失った記憶を求めているように、エリーゼも消えた家族を探している。共に旅をしていようとも、双方の目的は互いにとって一番ではない。

 エリーゼはこの機会を逃したくないと、相手を挑発して何が何でも聞き出そうとする。
 大して紫色の肌をした少女も、エリーゼの言葉に反応せざるを得ない様子であった。

「私以外のダーダネラの民と会ったのですか!? だ、誰に!?」

「アランブラとオーキッド、そう名乗っていた」

「あ、あの二人が……!」

 少女の表情が明確に変わる。
 関わらないようとしていた様子から一転して、出てきた名前に対して険しい表情になる。

「ふ、二人は私の兄の友人で、私もよく知っています。で、でも一体何があって……」

「彼らは他の国を恨み、ダーダネラによる独裁を目指していました。その口ぶりから、グラナートとは特に敵対していたように見えます」

「そ、それは……私が原因、かもしれないです」

「何? どういう意味だ?」

 少女の怯えは一層増し、頑なに目を合わせようとしない。
 話してしまえば、事が動いてしまうから。姿を変えて耐えてきたように時を待てば、いずれ。

「そ、それは……」

 今ここで部外者と出会えた奇跡は、きっと大きな賭けになってしまうだろう。
 だが動かなければ、次の脱出する機会は、まだまだ先になるかもしれない。

 突然過激な事をした仲間も気になる。それに、少女にとって一番心配な事もまだ分かっていない。
 ずっと動かないままいるだけでは、何も救えない。

 少女は瞳を揺らし、シキやエリーゼ達の方へ視線を向けた。

「……じゅ、十年ほど前、私と兄が紫のコアを回収した時の事です。私達はグラナートに襲われ、私はコアと共に捕らえられてしまいました」

 ダーダネラの民が、グラナートの研究所に潜んでいた理由。
 それはダーダネラとグラナートの対立を生む、最大のきっかけであった。
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