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第五章 永遠の探求者編
02.覚悟の変化
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ヴァーミリオン研究所の職員達は、シキとアイヴィを囲み攻撃の構えを取っていた。
降伏を促され、短剣を投げ捨てるアイヴィ。しかし表情はニヤリと笑みを作っており、刃先が固い地面に触れると同時、不意を突くように腰を落とす。
「愛重! ちょっとだけ何も見なかった事にして。ねっ☆」
足元から伸びたツルが、地面を伝って敵の身体へと這っていく。
身動きを封じられた敵の職員は魔術を発動出来ず、なす術もなく地面へと組み伏せられる。
だが相手はアイヴィの仲間であった者達。当然彼女の使う術を知っている者も多ければ、彼女が今まで何をして来たかも把握している。
ツルを避けた者、そして動きを封じられてなお集中を切らさなかった者が発動した炎の魔術が、攻撃直後のアイヴィへと襲い掛かる。
「アイヴィ!」
「知ってる!」
グラナートに属する職員達が主に使うのは、赤のエーテルを使った炎の魔術だ。
つまりアイヴィの使う植物の魔術と相性が悪いのは、彼女も把握済みである。
故に、お得意の不意打ちが襲い掛かるのはこれからだ。
「んふっ、これならどう? 愛災ッ!!」
アイヴィの手から黄色い光が溢れ出す。光はアイヴィのエーテルと混ざり、黒いツルへと変化する。
そして放たれた炎の魔術と相殺されると、アイヴィは迷わず燃ゆるツルの下を滑り抜けた。
地面を跳ねた短剣をすぐさま回収し、一瞬にして近づいた敵に対し大きく振り被る。
まだ終わりはしない。一撃目が目前の敵を突き飛ばすと、アイヴィそのまま勢いを殺さずくるりと回る。
そして自身の腕へとツルをまとわせると、さらに勢いと範囲をました斬撃が、左右から襲い掛かった残りの敵を薙ぎ払った。
驚くシキを前に、得意気な表情を返すアイヴィ。
彼女が以前よりもずっと強くなっているのを、シキも強く感じ取っていた。
遅れを取らぬよう気を引き締めねば。と思っていた矢先、その機会はすぐに訪れる。
「させるか、はあ……ッ!!」
シキはアイヴィの背後に回り込むと、焼き焦げたツルから逃れ放たれた敵の、更なる魔術を軽々とかき消した。
アイヴィもすっかりと魔術の扱いに慣れたシキを見て、彼の成長と可能性を感じるのであった。
「全く、油断も隙もあったものではないな。アイヴィ、こいつらはどうする?」
「ん~綺麗さっぱり忘れて貰えると助かるんだけど、とりあえずグルグル巻きにして、どこかに閉じ込めちゃおっか」
ひょうひょうとした口調で喋るが、発している内容には一切の容赦がない。
グラナートの一員としての責務が、彼女をそうさせたのではない。元々の戦いの実力に加えて、普段から割り切れる一面も併せ持っていたからこそ、彼女は赤のエーテルコアを与えられていたのである。
シキという特異点に触れるまでのアイヴィは、優秀な兵の一人であったのだ。
頼れる仲間であると同時に敵に回したくないのは、シキも彼らも同じであった。そんな彼女が今は国を裏切り、目の前の脅威へと成り果てている。
だから彼らは、例え本気の敵意を向けられると分かっていても、奥の手を使わざるを得なかった。
ボソボソと、動きを封じられた職員が、何かを口にしたのが耳に入った。
二人はまた往生際の悪い足掻きを見せるのかと警戒したが、彼らが見せたのはそれ以上の覚悟であった。
「な、に……!?」
彼らから赤いエーテルが溢れ出したと思った瞬間、エーテルは陽炎のように揺らぎその身を包み込む。
そして再び姿を現した時、目の前で倒れていた職員達は、魔物へと成れ果てていた。
「ヴァーミリオン……! 自分の部下にまで……っ!!」
ギロリと睨みを効かすアイヴィを、気にする者はもういない。
職員であった魔物達は、一切の容赦なく二人へと襲い掛かる。
降伏を促され、短剣を投げ捨てるアイヴィ。しかし表情はニヤリと笑みを作っており、刃先が固い地面に触れると同時、不意を突くように腰を落とす。
「愛重! ちょっとだけ何も見なかった事にして。ねっ☆」
足元から伸びたツルが、地面を伝って敵の身体へと這っていく。
身動きを封じられた敵の職員は魔術を発動出来ず、なす術もなく地面へと組み伏せられる。
だが相手はアイヴィの仲間であった者達。当然彼女の使う術を知っている者も多ければ、彼女が今まで何をして来たかも把握している。
ツルを避けた者、そして動きを封じられてなお集中を切らさなかった者が発動した炎の魔術が、攻撃直後のアイヴィへと襲い掛かる。
「アイヴィ!」
「知ってる!」
グラナートに属する職員達が主に使うのは、赤のエーテルを使った炎の魔術だ。
つまりアイヴィの使う植物の魔術と相性が悪いのは、彼女も把握済みである。
故に、お得意の不意打ちが襲い掛かるのはこれからだ。
「んふっ、これならどう? 愛災ッ!!」
アイヴィの手から黄色い光が溢れ出す。光はアイヴィのエーテルと混ざり、黒いツルへと変化する。
そして放たれた炎の魔術と相殺されると、アイヴィは迷わず燃ゆるツルの下を滑り抜けた。
地面を跳ねた短剣をすぐさま回収し、一瞬にして近づいた敵に対し大きく振り被る。
まだ終わりはしない。一撃目が目前の敵を突き飛ばすと、アイヴィそのまま勢いを殺さずくるりと回る。
そして自身の腕へとツルをまとわせると、さらに勢いと範囲をました斬撃が、左右から襲い掛かった残りの敵を薙ぎ払った。
驚くシキを前に、得意気な表情を返すアイヴィ。
彼女が以前よりもずっと強くなっているのを、シキも強く感じ取っていた。
遅れを取らぬよう気を引き締めねば。と思っていた矢先、その機会はすぐに訪れる。
「させるか、はあ……ッ!!」
シキはアイヴィの背後に回り込むと、焼き焦げたツルから逃れ放たれた敵の、更なる魔術を軽々とかき消した。
アイヴィもすっかりと魔術の扱いに慣れたシキを見て、彼の成長と可能性を感じるのであった。
「全く、油断も隙もあったものではないな。アイヴィ、こいつらはどうする?」
「ん~綺麗さっぱり忘れて貰えると助かるんだけど、とりあえずグルグル巻きにして、どこかに閉じ込めちゃおっか」
ひょうひょうとした口調で喋るが、発している内容には一切の容赦がない。
グラナートの一員としての責務が、彼女をそうさせたのではない。元々の戦いの実力に加えて、普段から割り切れる一面も併せ持っていたからこそ、彼女は赤のエーテルコアを与えられていたのである。
シキという特異点に触れるまでのアイヴィは、優秀な兵の一人であったのだ。
頼れる仲間であると同時に敵に回したくないのは、シキも彼らも同じであった。そんな彼女が今は国を裏切り、目の前の脅威へと成り果てている。
だから彼らは、例え本気の敵意を向けられると分かっていても、奥の手を使わざるを得なかった。
ボソボソと、動きを封じられた職員が、何かを口にしたのが耳に入った。
二人はまた往生際の悪い足掻きを見せるのかと警戒したが、彼らが見せたのはそれ以上の覚悟であった。
「な、に……!?」
彼らから赤いエーテルが溢れ出したと思った瞬間、エーテルは陽炎のように揺らぎその身を包み込む。
そして再び姿を現した時、目の前で倒れていた職員達は、魔物へと成れ果てていた。
「ヴァーミリオン……! 自分の部下にまで……っ!!」
ギロリと睨みを効かすアイヴィを、気にする者はもういない。
職員であった魔物達は、一切の容赦なく二人へと襲い掛かる。
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