144 / 161
第四章 風の連理編
24.茜色に舞う今日と明日
しおりを挟む
時間は刻一刻と過ぎ、ゆっくりと茜色に染まってゆく空の下。
オームギとレンリは扉があるとされる路地裏を目指し、屋根の上から上へと飛び移っていた。
商人と相棒の三毛猫から情報を聞くや否や、レンリは焦燥感を抱え魔術を放つ手に力が入る。
そんな彼を一歩後ろから追いかけるオームギは、急ぎ足の理由を改めて問いただす。
「ねぇレンリ、先にシキ達と合流した方が良かったんじゃないの? 何を血相変えている訳?」
「オームギ、シキから預かった短剣を持っているな?」
「ええ。『大食らいの少身物』……記憶を消す魔道具よね」
「そうだ。そしてそれは元々赤の国グラナートのものだと知っているな」
「私を誰だと思っている訳? グラナートの大罪武具くらい知っているわ」
「今追っているのは、その短剣の持ち主だ」
オームギがシキ達と出会った際、記憶を消す魔道具を預ける事で彼らは信用を得ていた。
オームギが回収していた橙のコアを敵に奪われ、それを取り戻すために今はシキ達とは協力状態を続けている。そしてその証の一つとして、預かった魔道具はまだオームギが所持をしたままであった。
オームギとシキ達との関係を聞いていたレンリは、彼女の所有する短剣を話の糸口とし説明を始める。
赤の国グラナートが所有する大罪武具と呼ばれる特殊な魔道具と、それを所有する者について。
これから戦う短剣の本来の所持者を、レンリは語る。
「その女は単独で行動しながら、道中見つけた人や生物を攫っていた。記憶を消すその短剣を使ってな。そしてヴァーミリオンの住処へと連れて行き、奴の洗脳魔術で手駒に変えていたんだ」
「でもそれって確かシキが倒したのよね? それで短剣もコアも回収したって……」
「ああ。だが奴はその後シキ達の前から姿を消していた。そして今聞き込みによると、女はまだこの国に潜んでいるらしい。魔道具もコアも失った奴が、わざわざこの国まで来た理由など一つ……!」
「ヴァーミリオンと接触しようとしてるって訳ね!」
敵の狙いを、敵の手駒として扱われていた男は推察する。魔道具やコアを失っても、ヴァーミリオンの手足として人攫いを行っていた者であれば、何かしら策を持っていると。扉をくぐる方法を知っているのだと。
だからこそレンリは、相手の女より先に行動をする必要があった。
「俺達は奴らの移動方法が分からない。だから女が戻る前に、あの扉の場所へ行き罠を仕掛ける必要がある」
「罠って、私達もうすぐ出発の予定でしょ? まさかこのままずっと相手を待つって訳?」
「ずっとではない。さっき会った商人に路地裏の調査を頼んだだろう。商人組合かギルド連盟から人が来れば後はそいつらに任せ、俺達は旅立てばいい。それまでの時間稼ぎだ」
「だったらそれこそシキ達と合流した方が良かったんじゃないの? コア探しが終わったんなら待ち合わせした場所に居るんじゃ……」
「案ずるな、ハロエリとハルウェルにシキ達を呼んで来るように頼んでいる。相手はシキも追っている人物だ。ならば国を出るより前にこちらの問題を……あれはっ!!」
一面を染める茜色。誰も居るはずの無い建物の上に落ちる影。視界の端から伸びるツルはレンリ達と同じ場所を目指し、まるで木から木へと飛び移る生き物のように建物の上を高速で移動していた。
伸びるツルの根元で空を舞う、明るいクリーム色に一部紫が入った髪をなびかせる少女。
かつて忘却の通り魔と呼ばれ人々を攫い続けた赤の国の手先が、ついに姿を現す。
「向かわせるものかッ! 砂乱の翼ッッッ!!」
レンリは移動用に使っていた魔術を咄嗟に前へ振りかざし、対象へと放った。
オームギとレンリは扉があるとされる路地裏を目指し、屋根の上から上へと飛び移っていた。
商人と相棒の三毛猫から情報を聞くや否や、レンリは焦燥感を抱え魔術を放つ手に力が入る。
そんな彼を一歩後ろから追いかけるオームギは、急ぎ足の理由を改めて問いただす。
「ねぇレンリ、先にシキ達と合流した方が良かったんじゃないの? 何を血相変えている訳?」
「オームギ、シキから預かった短剣を持っているな?」
「ええ。『大食らいの少身物』……記憶を消す魔道具よね」
「そうだ。そしてそれは元々赤の国グラナートのものだと知っているな」
「私を誰だと思っている訳? グラナートの大罪武具くらい知っているわ」
「今追っているのは、その短剣の持ち主だ」
オームギがシキ達と出会った際、記憶を消す魔道具を預ける事で彼らは信用を得ていた。
オームギが回収していた橙のコアを敵に奪われ、それを取り戻すために今はシキ達とは協力状態を続けている。そしてその証の一つとして、預かった魔道具はまだオームギが所持をしたままであった。
オームギとシキ達との関係を聞いていたレンリは、彼女の所有する短剣を話の糸口とし説明を始める。
赤の国グラナートが所有する大罪武具と呼ばれる特殊な魔道具と、それを所有する者について。
これから戦う短剣の本来の所持者を、レンリは語る。
「その女は単独で行動しながら、道中見つけた人や生物を攫っていた。記憶を消すその短剣を使ってな。そしてヴァーミリオンの住処へと連れて行き、奴の洗脳魔術で手駒に変えていたんだ」
「でもそれって確かシキが倒したのよね? それで短剣もコアも回収したって……」
「ああ。だが奴はその後シキ達の前から姿を消していた。そして今聞き込みによると、女はまだこの国に潜んでいるらしい。魔道具もコアも失った奴が、わざわざこの国まで来た理由など一つ……!」
「ヴァーミリオンと接触しようとしてるって訳ね!」
敵の狙いを、敵の手駒として扱われていた男は推察する。魔道具やコアを失っても、ヴァーミリオンの手足として人攫いを行っていた者であれば、何かしら策を持っていると。扉をくぐる方法を知っているのだと。
だからこそレンリは、相手の女より先に行動をする必要があった。
「俺達は奴らの移動方法が分からない。だから女が戻る前に、あの扉の場所へ行き罠を仕掛ける必要がある」
「罠って、私達もうすぐ出発の予定でしょ? まさかこのままずっと相手を待つって訳?」
「ずっとではない。さっき会った商人に路地裏の調査を頼んだだろう。商人組合かギルド連盟から人が来れば後はそいつらに任せ、俺達は旅立てばいい。それまでの時間稼ぎだ」
「だったらそれこそシキ達と合流した方が良かったんじゃないの? コア探しが終わったんなら待ち合わせした場所に居るんじゃ……」
「案ずるな、ハロエリとハルウェルにシキ達を呼んで来るように頼んでいる。相手はシキも追っている人物だ。ならば国を出るより前にこちらの問題を……あれはっ!!」
一面を染める茜色。誰も居るはずの無い建物の上に落ちる影。視界の端から伸びるツルはレンリ達と同じ場所を目指し、まるで木から木へと飛び移る生き物のように建物の上を高速で移動していた。
伸びるツルの根元で空を舞う、明るいクリーム色に一部紫が入った髪をなびかせる少女。
かつて忘却の通り魔と呼ばれ人々を攫い続けた赤の国の手先が、ついに姿を現す。
「向かわせるものかッ! 砂乱の翼ッッッ!!」
レンリは移動用に使っていた魔術を咄嗟に前へ振りかざし、対象へと放った。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
元悪役令嬢はオンボロ修道院で余生を過ごす
こうじ
ファンタジー
両親から妹に婚約者を譲れと言われたレスナー・ティアント。彼女は勝手な両親や裏切った婚約者、寝取った妹に嫌気がさし自ら修道院に入る事にした。研修期間を経て彼女は修道院に入る事になったのだが彼女が送られたのは廃墟寸前の修道院でしかも修道女はレスナー一人のみ。しかし、彼女にとっては好都合だった。『誰にも邪魔されずに好きな事が出来る!これって恵まれているんじゃ?』公爵令嬢から修道女になったレスナーののんびり修道院ライフが始まる!
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる