132 / 161
第四章 風の連理編
12.商売の基本
しおりを挟む
入国から一夜明け次の日。シキ達は早速、売りに出されたとされるエーテルコアの情報を求めて、再び何でも屋シャルトルーズの元へと訪れていた。
「さて、結界は解除したよ。入っておいで」
「お邪魔しますー」
「失礼する」
「…………」
入店の前にエリーゼが一人行き、ネオンの体質とシャルトルーズの張った結界の相性が悪い事を伝えた。エリーゼは当初彼が店先へと出て来ると予想していたが、何とわざわざ結界を解除し、ネオンもろとも店内へと招き入れたのだ。
「シャルトルーズさん、ありがとうございます。わざわざ防犯用の結界を解除していただけて……」
「なぁにお安い御用さ。お客さんの要望に応えるのは商売の基本だからね。ま、君たちだからってのもあるけど。それで、今日はどういった御用で?」
「昨日話していた、コアの件です」
「エーテルコアが売りに出されているというのは、本当なのか!?」
一歩踏み出しシャルトルーズへと顔を近づけるシキ。そんな彼の勢いのある情熱に触れながらも、動じることなくシャルトルーズはいつもの椅子へと腰かけ、取引用の机に肘を乗せる。
「あくまで噂話だけどね。なんでも新事業用にすぐさま資金が必要になったらしく、国庫に眠っていたコアへ白羽の矢が立ったらしいよ? まぁこの国はエーテル事業も盛んだし、コアが無くてもエーテルには困らないんじゃない?」
「大国でさえもエーテルコアは、ただのエーテルの塊として扱われているのか」
「私だってシキさんが言ってなければ信じてませんよ」
「あ、そうだよ。君の記憶がコアの中にあるってのは本当なのかい? そりゃまあエーテルは記憶の蓄積だけどさ、なんでまた失った記憶がそんな厄介な物の中にあるんだ?」
「それが分かったら苦労などしていない。だが私の記憶は、コアへ触れる事で少しずつ取り戻している。故に私は、コアを探すしかないのだ」
「ふぅん。じゃあさ、そこの鎧に取り付けてあるエーテル結晶に触れてみてよ」
シャルトルーズは片肘を着けたまま、もう片方の手で売り物の一つである、いかにも立派そうな鎧を指差す。シキはいくつかの鎧の中からエーテルの塊が取り付けられた鎧を見つけると、店主の言う通り片腕を上げ、なぞるようにその胸元に取り付けられた結晶へと触れた。
「……? いいが……ほら、これがどうかしたか?」
「……アレ、何も起きない? こう、ぶわっと鎧の歴史とかさ、見えてこない? 恐ろしい生き物の姿とか見えてこない??」
「いや、私はエーテルコアと呼ばれる物からしか記憶を取り戻せない。この鎧の結晶は違うのだろう?」
シャルトルーズはエリーゼから聞いたシキの記憶に着いて、エーテルの中に眠る記憶が読み取れる。という部分を拡大解釈し、他の手法でも利用出来ないか考えていた。その内の一つとしていわれのある鎧からその歴史を読み取り、箔を着けようと思いついていたのだ。
「なーんだ。ソレ竜の鎧だとか呼ばれてるから、その情報が得られたらもっと付加価値が上がると思ったんだけど。流石にそこまで便利じゃないんだね」
「……シャルトルーズさん、そろそろコアのお話を伺いたいのですが」
「おっとごめんごめん。ま、大体は昨日話した通りだよ。コアの噂が流れてからこの国は大盛り上がり! お宝求めて来訪者も増えて、どこもかしこも商売繁盛さ。あ、関係は無いんだけどね……ウチもいくつかエーテル結晶扱っててさ、良かったら買っていかないかい? ひょっとしたら……かもよ?」
「無いな」
「無いですね」
「あえっっっ!? ひょっとしたらひょっとするかも知れないじゃないさー!?」
「ならば触れて確かめるか? それがコアであれば買い取ろう」
「……コア探し、頑張ってねー」
適当に手を振って、店から立ち去るシキ達をシャルトルーズは見送った。
結局店に眠る商品を売りつける事が出来なかったが、それでもシャルトルーズは一人、誰も居なくなった店内で笑みを浮かべる。
「コアの判別方法にコアに眠る記憶か。もしそんなものが存在するなら、その記憶、買い取らせてくれないかなぁ~……なんて」
誰に向けるでもない言葉をそっと呟くと、シャルトルーズは再び結界を張り、来客を待つのであった。
「さて、結界は解除したよ。入っておいで」
「お邪魔しますー」
「失礼する」
「…………」
入店の前にエリーゼが一人行き、ネオンの体質とシャルトルーズの張った結界の相性が悪い事を伝えた。エリーゼは当初彼が店先へと出て来ると予想していたが、何とわざわざ結界を解除し、ネオンもろとも店内へと招き入れたのだ。
「シャルトルーズさん、ありがとうございます。わざわざ防犯用の結界を解除していただけて……」
「なぁにお安い御用さ。お客さんの要望に応えるのは商売の基本だからね。ま、君たちだからってのもあるけど。それで、今日はどういった御用で?」
「昨日話していた、コアの件です」
「エーテルコアが売りに出されているというのは、本当なのか!?」
一歩踏み出しシャルトルーズへと顔を近づけるシキ。そんな彼の勢いのある情熱に触れながらも、動じることなくシャルトルーズはいつもの椅子へと腰かけ、取引用の机に肘を乗せる。
「あくまで噂話だけどね。なんでも新事業用にすぐさま資金が必要になったらしく、国庫に眠っていたコアへ白羽の矢が立ったらしいよ? まぁこの国はエーテル事業も盛んだし、コアが無くてもエーテルには困らないんじゃない?」
「大国でさえもエーテルコアは、ただのエーテルの塊として扱われているのか」
「私だってシキさんが言ってなければ信じてませんよ」
「あ、そうだよ。君の記憶がコアの中にあるってのは本当なのかい? そりゃまあエーテルは記憶の蓄積だけどさ、なんでまた失った記憶がそんな厄介な物の中にあるんだ?」
「それが分かったら苦労などしていない。だが私の記憶は、コアへ触れる事で少しずつ取り戻している。故に私は、コアを探すしかないのだ」
「ふぅん。じゃあさ、そこの鎧に取り付けてあるエーテル結晶に触れてみてよ」
シャルトルーズは片肘を着けたまま、もう片方の手で売り物の一つである、いかにも立派そうな鎧を指差す。シキはいくつかの鎧の中からエーテルの塊が取り付けられた鎧を見つけると、店主の言う通り片腕を上げ、なぞるようにその胸元に取り付けられた結晶へと触れた。
「……? いいが……ほら、これがどうかしたか?」
「……アレ、何も起きない? こう、ぶわっと鎧の歴史とかさ、見えてこない? 恐ろしい生き物の姿とか見えてこない??」
「いや、私はエーテルコアと呼ばれる物からしか記憶を取り戻せない。この鎧の結晶は違うのだろう?」
シャルトルーズはエリーゼから聞いたシキの記憶に着いて、エーテルの中に眠る記憶が読み取れる。という部分を拡大解釈し、他の手法でも利用出来ないか考えていた。その内の一つとしていわれのある鎧からその歴史を読み取り、箔を着けようと思いついていたのだ。
「なーんだ。ソレ竜の鎧だとか呼ばれてるから、その情報が得られたらもっと付加価値が上がると思ったんだけど。流石にそこまで便利じゃないんだね」
「……シャルトルーズさん、そろそろコアのお話を伺いたいのですが」
「おっとごめんごめん。ま、大体は昨日話した通りだよ。コアの噂が流れてからこの国は大盛り上がり! お宝求めて来訪者も増えて、どこもかしこも商売繁盛さ。あ、関係は無いんだけどね……ウチもいくつかエーテル結晶扱っててさ、良かったら買っていかないかい? ひょっとしたら……かもよ?」
「無いな」
「無いですね」
「あえっっっ!? ひょっとしたらひょっとするかも知れないじゃないさー!?」
「ならば触れて確かめるか? それがコアであれば買い取ろう」
「……コア探し、頑張ってねー」
適当に手を振って、店から立ち去るシキ達をシャルトルーズは見送った。
結局店に眠る商品を売りつける事が出来なかったが、それでもシャルトルーズは一人、誰も居なくなった店内で笑みを浮かべる。
「コアの判別方法にコアに眠る記憶か。もしそんなものが存在するなら、その記憶、買い取らせてくれないかなぁ~……なんて」
誰に向けるでもない言葉をそっと呟くと、シャルトルーズは再び結界を張り、来客を待つのであった。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる