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第三章 砂漠の魔女編
39.幻想から覚めた日
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一同と食事を終えたシキは、顔を洗うため一度白い屋根の家の外へと赴く。コア回収時に気を失ってから数日眠り続けていたシキは、久方ぶりに外の景色を見る事となる。
オアシス内の適温に調整された空間で、優雅に目覚めを日を浴びる。そんな想像をしながらゆっくりと扉を開けると、シキを待っていたのは予想だにしない状況であった。
「あ、暑い……」
砂漠でギラギラと輝く太陽は、オアシスの空気を通さず直接シキへと照り付ける。それどころか、オアシスはシキの知らぬ間に異様なほどの変化に見舞われていたのだ。
「ば、馬鹿な……。オアシスの植物が……枯れている!?」
オアシスに満ちていたはずのエーテルが消えていた。空気は乾き、植物は枯れ、湖は干からびる。瑞々しく幻想的であったはずのオアシスは、見る影も無く朽ち果てていた。
「そっか、シキは眠っていたから知らないんだったね」
「オームギ! これはなんだ? どうしてオアシスが朽ち果てている!?」
「どうもこうも無いわ。オアシスを管理していたエーテルが無くなった。だからこのオアシスは自然の摂理に抗えず朽ち果てた。それだけの事よ」
「それだけの事ではない! どうしてここからエーテルが消えているのかと聞いている!!」
「どうしてって、ここを管理していたコアが盗まれたからよ」
「なんだと!?」
オームギは怒りと諦めを含んだ複雑な表情をしていた。刺客を退き白蛇を助け出したはずの彼女は、腹の底で煮えたぎる感情を抑えられないでいた。
「シキ達にも言ってなかったけど、本当はこの砂漠には三つコアが眠っていたの。一つは白蛇が持っていたもの。一つは私が回収用に使っているもの。そしてもう一つは、このオアシスを運用するために使っていたもの」
「三つ……それは分かった。それで、どうして盗まれた? ここは誰にも見つからないように隠していたのではないのか?」
「隠していたわよ! コアの持つエーテルを使って、私自身とオアシス自体をそれぞれ。だから私もオアシスも百年以上見つかる事は無かった。貴方達が来るまでは」
「……私達。ネオンか」
「ええ、彼女の存在がこの地を露わにしてしまった。でも盗まれたのは私の落ち度よ。気にしないで」
「お前の落ち度だと? どういう事だ」
「オアシス内で魔物の足跡を見つけて、私は気が動転していた。急いで敵を見つけて、貴方達と共に戦った。そこまでは覚えているよね?」
「……ああ」
「そこから先、あの猫と給仕服の女が逃げ出してからが問題だった。私はエルフに関する記憶を持ち出されたと判断した。けれど白蛇を助けるため、刺客達の事は一旦無視しておいた。けど、それこそが彼らの目的だった」
オームギは切なそうに、しかしどこか諦めたように話を続ける。
「足跡が見つかったという事は、この地を覚えられたという事。一緒にネオンも来ていたから完全に油断してた。ネオンがオアシスを離れた事により、オアシスの身を隠す機能は確かに作用していた。けど、それは認識阻害が全て効く訳では無かったの」
「認識阻害……!」
「まず常識の阻害は元々彼らにとっては問題無かった。端からエルフの血を狙っていたのですもの。次の空間の阻害。これを魔物が立ち入った事により看破されていた。そして存在の阻害。これはそもそもエルフを人に見せかけるもの。これは空間自体には作用しなかった。つまり、オアシスの場所を知られた事により彼らが立ち入る事は可能となっていた。それはもう答えが出たも同然よ。だってオアシス一つ隠す力なんて、コア以外に考えられないもの」
ヴァーミリオンが去り際に口にした、更なる策の存在。それはオアシスそのものを作り出していたエーテルコアであった。
実際に目にしていないという懸念点はあったが、それでも白蛇からの奪取が難しいと考えたヴァーミリオンは、オアシスに眠るもう一つのコアを求め地下空間を脱出していた。
そしてシキやオームギ達が白蛇と戦っている間に、オアシスへ立ち入ったヴァーミリオンとミネルバは湖の底に沈んでいたコアを発見。ヴァーミリオンは長寿の力を手に入れ、同時に力を失ったオアシスは照り付ける日の光に晒され、瞬く間に朽ち果ててしまった。
白蛇救出後オームギ達はオアシスへと戻り、そこで初めてその惨状を目の当たりにする事となったのだ。
砂漠に眠る最後のコアを見つけ、しかし住処を失ってしまったオームギ。彼女が今後どうするのか、シキは聞かずにはいられなかった。
「……オアシスの経緯は分かった。ではオームギ、お前はこれからどうするつもりなのだ?」
「やる事は一つ。奴らを追い、奪われたコアを取り戻す。ここに残っていても探し物はもう無いし、オアシスは無くなっちゃったし、それに私達に関する記憶も持ち出されちゃったし。でもだからと言って放っておける訳ないでしょ。私達の大切な記憶が盗まれたんだから」
オームギに宿った希望の炎はまだ消えてはいない。歴史の陰に消えるという目的こそ潰えたが、しかし彼女が求める安息はまだいくらでもやりようがある。シキ達と出会った事により、オームギは新たな可能性を手に入れる事が出来たのだから。
オームギの目的を知ったシキはある提案をする。赤の国。コアの存在。それはシキ達にとっても他人事ではなかったのだ。
「オームギ、私達はコアを求めて旅をしている。そして今回遭遇した赤の国グラナート。そこには、私の探す人物がいると予想している。つまり、私達も襲い掛かって来た奴らを追おうと思っていた」
シキへ最初の赤のコアをもたらした、忘却の通り魔。彼女がグラナートの刺客であったなら、いずれにせよ国へは戻っているだろう。
どんな処遇を受けているかは分からないが、それでもシキはもう一度彼女と会わなければならない。そのためには、どんな手掛かりでも見過ごす事など出来ない。
「オームギ、提案だ」
「ん、何?」
「私達の共闘は、もう少し続けてはみないか。奇しくも私達の次の目的は同じ。それはもちろん、旅路も同じである事を意味する。であるならば、目的を果たすまでは共に行動を取っても良いと私は思った」
「……で、つまり?」
「……。要するにだ」
分かっているクセにとシキは思った。それでもオームギは、シキの言葉から察していないかのような素振りでシキを惑わす。だからシキは、はっきりとその口で想いを告げる事にした。
「オームギ、私達の力になってはくれないか?」
「……よろしい」
それ以上は答えない。いや、答える必要などもうない。オームギはお互いの目的を果たすため、シキ達と共に行動する事をここに誓った。
そんな話をしていると、会話を聞いていたのか家の中から他のメンバーも姿を現した。その中の一人、二羽の鳥を連れた褐色肌の男は、二人の決断へ付け加えるように己の案を口にする。
「俺達も連れていけ。ヴァーミリオンの住処を知っている奴がいた方が効率がいいだろう」
「レンリ……!? お前、知っているのか!?」
「ああ。俺もハロエリもハルウェルも、遠い国から連れ去られグラナートの兵として扱われていた。そしてこいつらの能力に着目したヴァーミリオンが、強引に連れ出し無茶な実験を行っていた。だから俺は奴の研究所を知っている。それに俺だってこれ以上奴に非道な研究を続けさせたくなどない。だから連れていけ」
レンリもまた、ヴァーミリオンに強い恨みを持っていた。エーテルの扱いに特別秀でたハロエリとハルウェルという相棒達。二羽を生物兵器へと作り替えたヴァーミリオンは、今もなお非道な研究を続けている。
ヴァーミリオンの犠牲となる命をこれ以上増やさないため、レンリは彼の研究を止めたいと強く胸に誓う。
「レンリ、お前も力となってくれるなら心強い。よろしく頼む」
「……ああ。それでいい」
オームギとレンリ。強力な仲間を迎え入れ、シキはこの先待つ更なる騒乱へと身を落とす。
「ネオン」
「…………」
ネオンはゆっくりと頷き、シキの考えに同意する。
「エリーゼ、これはお前にとっては寄り道になると思う。だが、それでも構わないか?」
「勿論です……!」
生物を兵器と化す非道な研究と、ついに手に入れてしまった長寿の血。二つの力が合わさる事により、ヴァーミリオンの扱う駒はより邪悪に進化を遂げるだろう。
だが、そんな事はもうさせない。これ以上赤の国の非道を許してはおけない。何より、犠牲となる命を増やしてはいけないのだ。
「次の目的地は奴らの研究所だ。必ずや、ヴァーミリオンの非道を止める。そして奪い去るのだ。奴らが持つ、エーテルコアを……!!」
仲間のコアを取り戻したいオームギ。研究を止めたいレンリ。そして赤の国を目指すシキ達。三者三様の想いを抱き、一同はヴァーミリオンが待つ研究所を目指し、砂漠のオアシスを後にした。
砂漠の魔女編 終わり。
オアシス内の適温に調整された空間で、優雅に目覚めを日を浴びる。そんな想像をしながらゆっくりと扉を開けると、シキを待っていたのは予想だにしない状況であった。
「あ、暑い……」
砂漠でギラギラと輝く太陽は、オアシスの空気を通さず直接シキへと照り付ける。それどころか、オアシスはシキの知らぬ間に異様なほどの変化に見舞われていたのだ。
「ば、馬鹿な……。オアシスの植物が……枯れている!?」
オアシスに満ちていたはずのエーテルが消えていた。空気は乾き、植物は枯れ、湖は干からびる。瑞々しく幻想的であったはずのオアシスは、見る影も無く朽ち果てていた。
「そっか、シキは眠っていたから知らないんだったね」
「オームギ! これはなんだ? どうしてオアシスが朽ち果てている!?」
「どうもこうも無いわ。オアシスを管理していたエーテルが無くなった。だからこのオアシスは自然の摂理に抗えず朽ち果てた。それだけの事よ」
「それだけの事ではない! どうしてここからエーテルが消えているのかと聞いている!!」
「どうしてって、ここを管理していたコアが盗まれたからよ」
「なんだと!?」
オームギは怒りと諦めを含んだ複雑な表情をしていた。刺客を退き白蛇を助け出したはずの彼女は、腹の底で煮えたぎる感情を抑えられないでいた。
「シキ達にも言ってなかったけど、本当はこの砂漠には三つコアが眠っていたの。一つは白蛇が持っていたもの。一つは私が回収用に使っているもの。そしてもう一つは、このオアシスを運用するために使っていたもの」
「三つ……それは分かった。それで、どうして盗まれた? ここは誰にも見つからないように隠していたのではないのか?」
「隠していたわよ! コアの持つエーテルを使って、私自身とオアシス自体をそれぞれ。だから私もオアシスも百年以上見つかる事は無かった。貴方達が来るまでは」
「……私達。ネオンか」
「ええ、彼女の存在がこの地を露わにしてしまった。でも盗まれたのは私の落ち度よ。気にしないで」
「お前の落ち度だと? どういう事だ」
「オアシス内で魔物の足跡を見つけて、私は気が動転していた。急いで敵を見つけて、貴方達と共に戦った。そこまでは覚えているよね?」
「……ああ」
「そこから先、あの猫と給仕服の女が逃げ出してからが問題だった。私はエルフに関する記憶を持ち出されたと判断した。けれど白蛇を助けるため、刺客達の事は一旦無視しておいた。けど、それこそが彼らの目的だった」
オームギは切なそうに、しかしどこか諦めたように話を続ける。
「足跡が見つかったという事は、この地を覚えられたという事。一緒にネオンも来ていたから完全に油断してた。ネオンがオアシスを離れた事により、オアシスの身を隠す機能は確かに作用していた。けど、それは認識阻害が全て効く訳では無かったの」
「認識阻害……!」
「まず常識の阻害は元々彼らにとっては問題無かった。端からエルフの血を狙っていたのですもの。次の空間の阻害。これを魔物が立ち入った事により看破されていた。そして存在の阻害。これはそもそもエルフを人に見せかけるもの。これは空間自体には作用しなかった。つまり、オアシスの場所を知られた事により彼らが立ち入る事は可能となっていた。それはもう答えが出たも同然よ。だってオアシス一つ隠す力なんて、コア以外に考えられないもの」
ヴァーミリオンが去り際に口にした、更なる策の存在。それはオアシスそのものを作り出していたエーテルコアであった。
実際に目にしていないという懸念点はあったが、それでも白蛇からの奪取が難しいと考えたヴァーミリオンは、オアシスに眠るもう一つのコアを求め地下空間を脱出していた。
そしてシキやオームギ達が白蛇と戦っている間に、オアシスへ立ち入ったヴァーミリオンとミネルバは湖の底に沈んでいたコアを発見。ヴァーミリオンは長寿の力を手に入れ、同時に力を失ったオアシスは照り付ける日の光に晒され、瞬く間に朽ち果ててしまった。
白蛇救出後オームギ達はオアシスへと戻り、そこで初めてその惨状を目の当たりにする事となったのだ。
砂漠に眠る最後のコアを見つけ、しかし住処を失ってしまったオームギ。彼女が今後どうするのか、シキは聞かずにはいられなかった。
「……オアシスの経緯は分かった。ではオームギ、お前はこれからどうするつもりなのだ?」
「やる事は一つ。奴らを追い、奪われたコアを取り戻す。ここに残っていても探し物はもう無いし、オアシスは無くなっちゃったし、それに私達に関する記憶も持ち出されちゃったし。でもだからと言って放っておける訳ないでしょ。私達の大切な記憶が盗まれたんだから」
オームギに宿った希望の炎はまだ消えてはいない。歴史の陰に消えるという目的こそ潰えたが、しかし彼女が求める安息はまだいくらでもやりようがある。シキ達と出会った事により、オームギは新たな可能性を手に入れる事が出来たのだから。
オームギの目的を知ったシキはある提案をする。赤の国。コアの存在。それはシキ達にとっても他人事ではなかったのだ。
「オームギ、私達はコアを求めて旅をしている。そして今回遭遇した赤の国グラナート。そこには、私の探す人物がいると予想している。つまり、私達も襲い掛かって来た奴らを追おうと思っていた」
シキへ最初の赤のコアをもたらした、忘却の通り魔。彼女がグラナートの刺客であったなら、いずれにせよ国へは戻っているだろう。
どんな処遇を受けているかは分からないが、それでもシキはもう一度彼女と会わなければならない。そのためには、どんな手掛かりでも見過ごす事など出来ない。
「オームギ、提案だ」
「ん、何?」
「私達の共闘は、もう少し続けてはみないか。奇しくも私達の次の目的は同じ。それはもちろん、旅路も同じである事を意味する。であるならば、目的を果たすまでは共に行動を取っても良いと私は思った」
「……で、つまり?」
「……。要するにだ」
分かっているクセにとシキは思った。それでもオームギは、シキの言葉から察していないかのような素振りでシキを惑わす。だからシキは、はっきりとその口で想いを告げる事にした。
「オームギ、私達の力になってはくれないか?」
「……よろしい」
それ以上は答えない。いや、答える必要などもうない。オームギはお互いの目的を果たすため、シキ達と共に行動する事をここに誓った。
そんな話をしていると、会話を聞いていたのか家の中から他のメンバーも姿を現した。その中の一人、二羽の鳥を連れた褐色肌の男は、二人の決断へ付け加えるように己の案を口にする。
「俺達も連れていけ。ヴァーミリオンの住処を知っている奴がいた方が効率がいいだろう」
「レンリ……!? お前、知っているのか!?」
「ああ。俺もハロエリもハルウェルも、遠い国から連れ去られグラナートの兵として扱われていた。そしてこいつらの能力に着目したヴァーミリオンが、強引に連れ出し無茶な実験を行っていた。だから俺は奴の研究所を知っている。それに俺だってこれ以上奴に非道な研究を続けさせたくなどない。だから連れていけ」
レンリもまた、ヴァーミリオンに強い恨みを持っていた。エーテルの扱いに特別秀でたハロエリとハルウェルという相棒達。二羽を生物兵器へと作り替えたヴァーミリオンは、今もなお非道な研究を続けている。
ヴァーミリオンの犠牲となる命をこれ以上増やさないため、レンリは彼の研究を止めたいと強く胸に誓う。
「レンリ、お前も力となってくれるなら心強い。よろしく頼む」
「……ああ。それでいい」
オームギとレンリ。強力な仲間を迎え入れ、シキはこの先待つ更なる騒乱へと身を落とす。
「ネオン」
「…………」
ネオンはゆっくりと頷き、シキの考えに同意する。
「エリーゼ、これはお前にとっては寄り道になると思う。だが、それでも構わないか?」
「勿論です……!」
生物を兵器と化す非道な研究と、ついに手に入れてしまった長寿の血。二つの力が合わさる事により、ヴァーミリオンの扱う駒はより邪悪に進化を遂げるだろう。
だが、そんな事はもうさせない。これ以上赤の国の非道を許してはおけない。何より、犠牲となる命を増やしてはいけないのだ。
「次の目的地は奴らの研究所だ。必ずや、ヴァーミリオンの非道を止める。そして奪い去るのだ。奴らが持つ、エーテルコアを……!!」
仲間のコアを取り戻したいオームギ。研究を止めたいレンリ。そして赤の国を目指すシキ達。三者三様の想いを抱き、一同はヴァーミリオンが待つ研究所を目指し、砂漠のオアシスを後にした。
砂漠の魔女編 終わり。
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