この世界には『私』が眠っている。〜記憶喪失の男は、一言も喋らない少女と共に『魔力』を取り戻す旅に出る〜

夜葉@佳作受賞

文字の大きさ
上 下
106 / 161
第三章 砂漠の魔女編

26.残滓の輝き

しおりを挟む
 無数の魔物に襲われ、砂漠の上に倒れ込んでいたネオンへオームギは手を伸ばす。ネオンは差し出された手を受け取り、彼女に引っ張られる形で起き上がった。

 オームギは考える。とにかく、今優先する事は目の前の刺客達だ。シキ達の事は彼らを退けてから考えれば良い。そのためにはまだこの共同戦線は続けるべきだ。砂漠に眠るコアを探すためにも、彼らとは協力し続ける必要がある。
 何より、存在を知られた以上は彼らからも記憶を消さなければならないのだ。だから、比較的友好的であるシキ達はまだ味方であって欲しい。だから、彼らを助ける事に迷いなんて必要ない。

 本心ではただ嬉しかったからという思いが強かったが、だからといって今後の事の心配を捨てる訳にはいかない。オームギは咄嗟に飛び出した自分の感情に、何とか理由を付けようとする。
 もやもやとした気持ちに言い訳を付けて、再びミネルバ達へ意識を切り替えようとした。だがその瞬間、ネオンから強く手を引かれる。何を、と不思議に思うのも束の間。手を引かれたと同時に、オームギを呼ぶ悲痛な叫びが聞こえてきた。

「オームギ、後ろだぁ……ッ!!」

「えっ……?」

 暴風に囚われ続けるシキが、決死の思いでオームギに襲い掛かった危機を伝えた。オームギが振り返ると、彼女の後ろには取り払ったはずの獣の魔物が、再び群れを形成しまた彼女達へと襲い掛かっていた。

 ピンチを救い、集まっていた敵を退けたと確信していたオームギ。咄嗟に大鎌を構えるも、直前までネオンの手を取っていたのも相まって集団狩りクラン・ベリーを放つ予備動作が間に合わない。

「嘘でしょ……!?」

 逃れたはずの危機は、安息の間すら与えてはくれなかった。

 範囲攻撃を使うにはもう遅い。個別に倒そうものなら、数の暴力で後ろに立つネオンが先に襲われてしまう。せっかく助けたはずの命が奪われてしまう。これまで紡いで来た事も、こらからするはずだった同胞の魂を蘇らせる事無く眠らせる事も。

 彼らとの出会いは間違いだったのか。それともオアシスを作り砂漠に根付いた時から既に間違っていたのだろうか。怒りも後悔もさせてはくれない。瞬きをする間もなく、全ての希望は途絶えてしまう。

 オームギという存在は。この世界に一人だけ生き残り続けた意味とは。エルフだの賢人だのはもう関係ない。全てが無に帰す。自分という存在が白く消えかける。

「みんな……」

 オームギは咄嗟にネオンを後方に押し飛ばした。今この瞬間どちらかが死ぬなら、未来を閉ざしてしまった自分の方で良い。

 先に旅立った同胞達を思い出す。さぁ、今から会いに行こう。終末の日により別れた仲間達の元へ。無数の魔物により視界が塞がれ、オームギの元へ日の光すら届かなくなる。

 オームギは終わりを悟りゆっくりと目を閉じた。エルフという種族の終わり。紡いで来た記憶の終わり。開きかけた、希望の終わり。

 だが、そんな彼女の終わりは、思いもよらぬ形で砕かれる。

「…………あれ」

 おかしい。魔物の群れに飲まれたのに、痛みも衝撃も襲って来ないのだ。もはや痛覚も伴う事無く死んでしまったのか。

 オームギは動揺を零しながら、ゆっくりと目を開く。そこには。


「なんで、貴方達が……?」


 シキでもエリーゼでも、もちろんネオンでもない。オームギの前に現れたのは、足音も無く脚すらも無い透けた下半身に、右腕は肘より先が槍や剣を思わせる、鋭く長い形状をした異形。そして黒く塗りつぶされた瞳が、驚きとも哀しみともとれる空虚な表情で襲い掛かっていた獣型の魔物を見つめる。

 オームギへ牙を剥いた獣型の魔物を、尖った右腕で串刺しにする謎の群れ。その正体は、彷徨うエルフのエーテルが変異し、焼き払われた自然や敵のエーテルと交わり生まれたエルフ型の魔物であった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

八十神天従は魔法学園の異端児~神社の息子は異世界に行ったら特待生で特異だった

根上真気
ファンタジー
高校生活初日。神社の息子の八十神は異世界に転移してしまい危機的状況に陥るが、神使の白兎と凄腕美人魔術師に救われ、あれよあれよという間にリュケイオン魔法学園へ入学することに。期待に胸を膨らますも、彼を待ち受ける「特異クラス」は厄介な問題児だらけだった...!?日本の神様の力を魔法として行使する主人公、八十神。彼はその異質な能力で様々な苦難を乗り越えながら、新たに出会う仲間とともに成長していく。学園×魔法の青春バトルファンタジーここに開幕!

スキルは見るだけ簡単入手! ~ローグの冒険譚~

夜夢
ファンタジー
剣と魔法の世界に生まれた主人公は、子供の頃から何の取り柄もない平凡な村人だった。 盗賊が村を襲うまでは…。 成長したある日、狩りに出掛けた森で不思議な子供と出会った。助けてあげると、不思議な子供からこれまた不思議な力を貰った。 不思議な力を貰った主人公は、両親と親友を救う旅に出ることにした。 王道ファンタジー物語。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

死んで全ての凶運を使い果たした俺は異世界では強運しか残ってなかったみたいです。〜最強スキルと強運で異世界を無双します!〜

猫パンチ
ファンタジー
主人公、音峰 蓮(おとみね れん)はとてつもなく不幸な男だった。 ある日、とんでもない死に方をしたレンは気づくと神の世界にいた。 そこには創造神がいて、レンの余りの不運な死に方に同情し、異世界転生を提案する。 それを大いに喜び、快諾したレンは創造神にスキルをもらうことになる。 ただし、スキルは選べず運のみが頼り。 しかし、死んだ時に凶運を使い果たしたレンは強運の力で次々と最強スキルを引いてしまう。 それは創造神ですら引くほどのスキルだらけで・・・ そして、レンは最強スキルと強運で異世界を無双してゆく・・・。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

前世は最強の宝の持ち腐れ!?二度目の人生は創造神が書き換えた神級スキルで気ままに冒険者します!!

yoshikazu
ファンタジー
主人公クレイは幼い頃に両親を盗賊に殺され物心付いた時には孤児院にいた。このライリー孤児院は子供達に客の依頼仕事をさせ手間賃を稼ぐ商売を生業にしていた。しかしクレイは仕事も遅く何をやっても上手く出来なかった。そしてある日の夜、無実の罪で雪が積もる極寒の夜へと放り出されてしまう。そしてクレイは極寒の中一人寂しく路地裏で生涯を閉じた。 だがクレイの中には創造神アルフェリアが創造した神の称号とスキルが眠っていた。しかし創造神アルフェリアの手違いで神のスキルが使いたくても使えなかったのだ。  創造神アルフェリアはクレイの魂を呼び寄せお詫びに神の称号とスキルを書き換える。それは経験したスキルを自分のものに出来るものであった。  そしてクレイは元居た世界に転生しゼノアとして二度目の人生を始める。ここから前世での惨めな人生を振り払うように神級スキルを引っ提げて冒険者として突き進む少年ゼノアの物語が始まる。

スライムからパンを作ろう!〜そのパンは全てポーションだけど、絶品!!〜

櫛田こころ
ファンタジー
僕は、諏方賢斗(すわ けんと)十九歳。 パンの製造員を目指す専門学生……だったんだけど。 車に轢かれそうになった猫ちゃんを助けようとしたら、あっさり事故死。でも、その猫ちゃんが神様の御使と言うことで……復活は出来ないけど、僕を異世界に転生させることは可能だと提案されたので、もちろん承諾。 ただ、ひとつ神様にお願いされたのは……その世界の、回復アイテムを開発してほしいとのこと。パンやお菓子以外だと家庭レベルの調理技術しかない僕で、なんとか出来るのだろうか心配になったが……転生した世界で出会ったスライムのお陰で、それは実現出来ることに!! 相棒のスライムは、パン製造の出来るレアスライム! けど、出来たパンはすべて回復などを実現出来るポーションだった!! パン職人が夢だった青年の異世界のんびりスローライフが始まる!!

処理中です...