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第三章 砂漠の魔女編
24.大罪武具
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始まる一方的な攻撃。一点に集まったシキ達であったが、入り乱れる敵の攻撃によってそれはすぐさま崩される。
シキ、エリーゼ、オームギはそれぞれ、風を操る褐色肌の男、岩石のように巨大な拳を持つ大男、そして赤黒い給仕服をまとった斧槍を振り回す女と対峙していた。
「ハロエリ、ハルウェルッ!」
「くっ……ッ! 炎が、届かない……!!」
褐色肌の男は二羽の鳥と連携を取りながら、四方八方から三つの風を起こしシキを一切近づけない。
シキの身体に眠るエーテルコアはシキ自身の消耗と共に出力を増し、無尽蔵にエーテルを供給する事によって彼に倒れぬ力を与えている。
しかし、だからこそ風という身動きを封じる事に特化した力においては、物理的なダメージが通常より少なくシキに眠る力が十分に発揮されないのだ。
レンリと二羽の相棒が起こす風によって行動を制限されたシキは、時折襲い掛かる無数の魔物の爪や牙をかわす事が今出来る精一杯であった。
時を同じくして、エリーゼもまた大男の荒れ狂う一撃に翻弄されていた。
「スワンプ・スタンプゥゥゥ!!」
「きゃっ……!?」
うだるような暑さに加え、ここは潤いなど一切ない乾いた大地。杖の先に取り付けられた青のコアによって氷の精製こそ出来るが、生み出された物体には強度も持久力も無くすぐさま形を崩してしまう。
それに加え、大男は自身の拳をエーテルによって強化し暴力的な威力を発揮していた。槍も槌も、氷河のように厚い壁でさえも大男の一撃は見るも無残に破壊する。
大振りな戦い方により隙の多い相手であったが、それをカバーするように獣型の魔物がエリーゼへと襲い掛かる。氷の使い手が持つ攻撃が一切通じない最悪の相手に、エリーゼはただ致命傷を受けないように立ち回るしか出来なかった。
そして、そんな一方的な戦いを見せられても援護に回れない白の魔女。目を離すだけで何層にも襲い掛かる敵の一閃を前に、オームギもまた後手に回っていた。
「なんっ、なのよそれ……!! 刺突なのになんで……横殴りの衝撃が来るの!!」
「あらあら、賢人ともあろうものが存じ上げていないとは」
オームギは大鎌を振り回し、給仕服の女が放つ刺突を受け流し、斬撃の軌道は逸らして防いでいた。
しかし敵の操る斧槍の一撃は、オームギの意に反し不気味な衝撃を放つ。
槍部分で襲い掛かった刺突には時折斧で叩かれたような横殴りの斬撃が混じり、逆に斧部分で襲い掛かる斬撃には槍で突かれたような一点に負荷を与える衝撃が混ざっていたのだ。
刺突を受け流したつもりが斬撃に打たれ、斬撃の軌道を変えようとして刺突による突き飛ばしを受けてしまう。本来なら勝てるはずの相手に、オームギは思考をかき乱され劣勢を強いられていた。
「そんな気持ちの悪い魔道具なんて知らないわよ! 貴方達、いったいどこの回し者なの!?」
「まぁ酷い。これほど美しいワタクシの欲深き双武器を気持ち悪いだなんて……!」
斧と槍の付け根が十字に交わる箇所へ、ギラギラと輝く赤い宝石の取り付けられた魔道具。遠くからでも分かるほど忌々しく漏れ出す真っ赤なエーテルを肌に感じて、オームギは何かが引っ掛かった。
身の覚えのある違和感と既視感。見覚えの無いはずの魔道具を見て、どことなく懐かしい気もする形容し難い感覚。
その正体は、シキから受け取った魔道具であった。
彼らと初めて会った時、オームギの持つ集断刀の刃を消し去った短剣。エーテルを断ち記憶を消すとされるその魔道具には、何か装飾の欠けたような穴が空いていた。
オームギの知る限り、その穴には本来真っ赤なエーテルコアが埋まっていたはず。何故なら、その魔道具『大食らいの少身物』はとある国で作られた、大罪武具と呼ばれる物の一つなのだから……。
「貴方達、まさか……」
そんな大それた武具を操る者など、本来なら一国しかいない。国のためなら平気で人を攫い、人を道具として扱い、何食わぬ顔で人や獣のエーテルを弄繰り回す異常者の集まり。
かつてエルフを虐殺し、その血の力をもって多くの民を奴隷へと仕立て上げた、非人道国家。
「赤の国、グラナート……!!」
一族の敵が今再びエルフの血を奪うべく、百年以上の時を経て襲い掛かっていた。
シキ、エリーゼ、オームギはそれぞれ、風を操る褐色肌の男、岩石のように巨大な拳を持つ大男、そして赤黒い給仕服をまとった斧槍を振り回す女と対峙していた。
「ハロエリ、ハルウェルッ!」
「くっ……ッ! 炎が、届かない……!!」
褐色肌の男は二羽の鳥と連携を取りながら、四方八方から三つの風を起こしシキを一切近づけない。
シキの身体に眠るエーテルコアはシキ自身の消耗と共に出力を増し、無尽蔵にエーテルを供給する事によって彼に倒れぬ力を与えている。
しかし、だからこそ風という身動きを封じる事に特化した力においては、物理的なダメージが通常より少なくシキに眠る力が十分に発揮されないのだ。
レンリと二羽の相棒が起こす風によって行動を制限されたシキは、時折襲い掛かる無数の魔物の爪や牙をかわす事が今出来る精一杯であった。
時を同じくして、エリーゼもまた大男の荒れ狂う一撃に翻弄されていた。
「スワンプ・スタンプゥゥゥ!!」
「きゃっ……!?」
うだるような暑さに加え、ここは潤いなど一切ない乾いた大地。杖の先に取り付けられた青のコアによって氷の精製こそ出来るが、生み出された物体には強度も持久力も無くすぐさま形を崩してしまう。
それに加え、大男は自身の拳をエーテルによって強化し暴力的な威力を発揮していた。槍も槌も、氷河のように厚い壁でさえも大男の一撃は見るも無残に破壊する。
大振りな戦い方により隙の多い相手であったが、それをカバーするように獣型の魔物がエリーゼへと襲い掛かる。氷の使い手が持つ攻撃が一切通じない最悪の相手に、エリーゼはただ致命傷を受けないように立ち回るしか出来なかった。
そして、そんな一方的な戦いを見せられても援護に回れない白の魔女。目を離すだけで何層にも襲い掛かる敵の一閃を前に、オームギもまた後手に回っていた。
「なんっ、なのよそれ……!! 刺突なのになんで……横殴りの衝撃が来るの!!」
「あらあら、賢人ともあろうものが存じ上げていないとは」
オームギは大鎌を振り回し、給仕服の女が放つ刺突を受け流し、斬撃の軌道は逸らして防いでいた。
しかし敵の操る斧槍の一撃は、オームギの意に反し不気味な衝撃を放つ。
槍部分で襲い掛かった刺突には時折斧で叩かれたような横殴りの斬撃が混じり、逆に斧部分で襲い掛かる斬撃には槍で突かれたような一点に負荷を与える衝撃が混ざっていたのだ。
刺突を受け流したつもりが斬撃に打たれ、斬撃の軌道を変えようとして刺突による突き飛ばしを受けてしまう。本来なら勝てるはずの相手に、オームギは思考をかき乱され劣勢を強いられていた。
「そんな気持ちの悪い魔道具なんて知らないわよ! 貴方達、いったいどこの回し者なの!?」
「まぁ酷い。これほど美しいワタクシの欲深き双武器を気持ち悪いだなんて……!」
斧と槍の付け根が十字に交わる箇所へ、ギラギラと輝く赤い宝石の取り付けられた魔道具。遠くからでも分かるほど忌々しく漏れ出す真っ赤なエーテルを肌に感じて、オームギは何かが引っ掛かった。
身の覚えのある違和感と既視感。見覚えの無いはずの魔道具を見て、どことなく懐かしい気もする形容し難い感覚。
その正体は、シキから受け取った魔道具であった。
彼らと初めて会った時、オームギの持つ集断刀の刃を消し去った短剣。エーテルを断ち記憶を消すとされるその魔道具には、何か装飾の欠けたような穴が空いていた。
オームギの知る限り、その穴には本来真っ赤なエーテルコアが埋まっていたはず。何故なら、その魔道具『大食らいの少身物』はとある国で作られた、大罪武具と呼ばれる物の一つなのだから……。
「貴方達、まさか……」
そんな大それた武具を操る者など、本来なら一国しかいない。国のためなら平気で人を攫い、人を道具として扱い、何食わぬ顔で人や獣のエーテルを弄繰り回す異常者の集まり。
かつてエルフを虐殺し、その血の力をもって多くの民を奴隷へと仕立て上げた、非人道国家。
「赤の国、グラナート……!!」
一族の敵が今再びエルフの血を奪うべく、百年以上の時を経て襲い掛かっていた。
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