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第三章 砂漠の魔女編
20.誰の跡
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オームギとエリーゼが家に戻ってから数時間後。朝食を終えた一同は小休憩を取った後、再びコアを探すためオアシスの外を目指し湖畔を歩いていた。
「いやー満腹満腹。昨晩に引き続きここまで振舞われては申し訳ないな」
「全くよ、もう。昨日あれだけ食べたのにまだ食べるなんて」
「いやいや、昨晩はほとんどネオンに食べられたのだ、私もエリーゼも人並みしか食べていないぞ」
「朝食を一番食べていたのもこの子よね……。お腹の中で物質転移の術でも使っているのかしら」
「…………」
「そ、それよりオームギさん。私の作った特製野菜のホットサンドはいかがでしたでしょうか……?」
「言うだけあって美味しいじゃないの。見直したわ」
「っ!! ありがとうございます!」
「ま、食材が良んだもの。美味しくないと困るけどね」
「何やら仲睦まじいようだが、私達の寝ている間に何かあったのか? 二人して収穫に向かっていたようだが……」
「別に? 外の料理について色々と聞いていただけよ」
妙な疎外感から、シキは不思議に思いながら二人の様子を伺っていた。共に料理が好きであったり、知識欲が豊富であったりと息でも合ったのだろうと、適当に見当をつける。
そろそろオアシスと砂漠の境界を跨ごうとした、その時だった。
「あれ……。ここって動物などは住んでいないのですよね?」
「えぇ。外に逃げられると困るから、一切飼っていないわ」
「どうしたエリーゼ、まだ食べ足りないとでも言うのか?」
「ち、違います。あの辺り……。オームギさん、今朝話をしていた畑付近を見て下さい。何か、動物の足跡のようなものがありませんか……?」
「なんですって!?」
砂漠の大地を目前にして、一同は横を向きエリーゼの指差した畑へと移動する。そこには、動物の足先のような跡が辺りをうろついたように残っていた。
まだ目新しいその足跡を見たオームギは取り乱したように絶句する。
「これ……ディビアードの足跡じゃない。どうしてこんなところに……」
「ディビアードとは、昨日倒し食したあの獣型の魔物か? 辺りに湧いていたのだから、たまたま迷い込んだのでないか?」
「そんな訳ないでしょう! ネオンが居る今なら、確かに貴方達のようにオアシスへ迷い込む生き物は居ても不思議じゃない。でもディビアードは、昨日魔物避けを作って対策を取っていた。なのに、侵入なんて出来るはずが……」
そんなはずはない。立ち入る事なんてある訳がない。わざわざ討伐した魔物を持ち帰り、賢人の知識を用いて対策をしていたのだ。
そんな魔物の侵入なんて、あっていいはずがなかった。
「落ち着いて下さいオームギさん! 作成した魔物避けに効果が無かったなどはあり得ないのでしょうか? 例えばネオンさんの存在が同じように打ち消していたとか、湖の水が浄化したとか、そのような事は……」
「あり得ない……。魔物避けはディビアードの骨や皮を使って臭いで警戒するようにしてあるから、エーテルは関係ないの。その臭いにしたって、わざわざ湖の水が届かないように砂漠との境界へ設置した。だから効果は確実に発揮されていた……なのに」
それでも、侵入者は立ち入った。
「そもそも、この足跡は本当にその魔物のものなのか!? そいつより強い魔物が近づいたなら、魔物避けは意味がないのではないか?」
「確かに格上が現れたなら、この魔物避けに意味なんて無くなる。でも、この足形でそんな魔物なんて、ここらでは見た事無いの! 今になって本当にそんな魔物が現れたのか、それとも魔物避けの効かない個体がいたのか……」
異常な事が起こっている。
賢人の知恵である多重の認識阻害をすり抜ける少女と、その一行の来訪。さらに普段砂漠へ立ち入らないはずの魔物の出現と接触。
そして、その魔物すら超える正体不明の何か。
平穏を求め平穏を望んだ賢人の前には、百年の時を経て様々な出来事が降り注いでいた。
「結局、私のしようとする事なんて何にも上手く行かないのね」
「オームギ……さん?」
「…………何でもないわ。ともかく、まだ足跡は新しい。……追うわよ」
異常の示す道筋は幸か不幸か。
ただ目を閉じ耳を塞ぐだけでは、望んだ世界などやってこない。オームギは平穏を求め続けるため、平穏を脅かす存在を追い砂漠の大地を踏み締める。
「いやー満腹満腹。昨晩に引き続きここまで振舞われては申し訳ないな」
「全くよ、もう。昨日あれだけ食べたのにまだ食べるなんて」
「いやいや、昨晩はほとんどネオンに食べられたのだ、私もエリーゼも人並みしか食べていないぞ」
「朝食を一番食べていたのもこの子よね……。お腹の中で物質転移の術でも使っているのかしら」
「…………」
「そ、それよりオームギさん。私の作った特製野菜のホットサンドはいかがでしたでしょうか……?」
「言うだけあって美味しいじゃないの。見直したわ」
「っ!! ありがとうございます!」
「ま、食材が良んだもの。美味しくないと困るけどね」
「何やら仲睦まじいようだが、私達の寝ている間に何かあったのか? 二人して収穫に向かっていたようだが……」
「別に? 外の料理について色々と聞いていただけよ」
妙な疎外感から、シキは不思議に思いながら二人の様子を伺っていた。共に料理が好きであったり、知識欲が豊富であったりと息でも合ったのだろうと、適当に見当をつける。
そろそろオアシスと砂漠の境界を跨ごうとした、その時だった。
「あれ……。ここって動物などは住んでいないのですよね?」
「えぇ。外に逃げられると困るから、一切飼っていないわ」
「どうしたエリーゼ、まだ食べ足りないとでも言うのか?」
「ち、違います。あの辺り……。オームギさん、今朝話をしていた畑付近を見て下さい。何か、動物の足跡のようなものがありませんか……?」
「なんですって!?」
砂漠の大地を目前にして、一同は横を向きエリーゼの指差した畑へと移動する。そこには、動物の足先のような跡が辺りをうろついたように残っていた。
まだ目新しいその足跡を見たオームギは取り乱したように絶句する。
「これ……ディビアードの足跡じゃない。どうしてこんなところに……」
「ディビアードとは、昨日倒し食したあの獣型の魔物か? 辺りに湧いていたのだから、たまたま迷い込んだのでないか?」
「そんな訳ないでしょう! ネオンが居る今なら、確かに貴方達のようにオアシスへ迷い込む生き物は居ても不思議じゃない。でもディビアードは、昨日魔物避けを作って対策を取っていた。なのに、侵入なんて出来るはずが……」
そんなはずはない。立ち入る事なんてある訳がない。わざわざ討伐した魔物を持ち帰り、賢人の知識を用いて対策をしていたのだ。
そんな魔物の侵入なんて、あっていいはずがなかった。
「落ち着いて下さいオームギさん! 作成した魔物避けに効果が無かったなどはあり得ないのでしょうか? 例えばネオンさんの存在が同じように打ち消していたとか、湖の水が浄化したとか、そのような事は……」
「あり得ない……。魔物避けはディビアードの骨や皮を使って臭いで警戒するようにしてあるから、エーテルは関係ないの。その臭いにしたって、わざわざ湖の水が届かないように砂漠との境界へ設置した。だから効果は確実に発揮されていた……なのに」
それでも、侵入者は立ち入った。
「そもそも、この足跡は本当にその魔物のものなのか!? そいつより強い魔物が近づいたなら、魔物避けは意味がないのではないか?」
「確かに格上が現れたなら、この魔物避けに意味なんて無くなる。でも、この足形でそんな魔物なんて、ここらでは見た事無いの! 今になって本当にそんな魔物が現れたのか、それとも魔物避けの効かない個体がいたのか……」
異常な事が起こっている。
賢人の知恵である多重の認識阻害をすり抜ける少女と、その一行の来訪。さらに普段砂漠へ立ち入らないはずの魔物の出現と接触。
そして、その魔物すら超える正体不明の何か。
平穏を求め平穏を望んだ賢人の前には、百年の時を経て様々な出来事が降り注いでいた。
「結局、私のしようとする事なんて何にも上手く行かないのね」
「オームギ……さん?」
「…………何でもないわ。ともかく、まだ足跡は新しい。……追うわよ」
異常の示す道筋は幸か不幸か。
ただ目を閉じ耳を塞ぐだけでは、望んだ世界などやってこない。オームギは平穏を求め続けるため、平穏を脅かす存在を追い砂漠の大地を踏み締める。
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