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第三章 砂漠の魔女編
04.賢人の家
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オアシスの中にポツンと建った家の中で。
首へかかる大鎌を目の前に、シキは旅の目的を白の魔女へと答える。
「……探し物を、していた」
「それは何。答えなさい」
言葉は通じる。しかし依然として油断は出来ない。白の魔女の問いかけに、シキはなんと答えるか少しだけ詰まった。
「私の記憶……。それが眠っているとされる、エーテルコアと呼ばれる結晶だ」
頬を伝う汗を感じながら、自分は死の淵に立っている事を再認識する。返答のミスは即死であると判断し、シキは偽る事無く正直に答えた。
張り詰めた緊張感と大鎌を持った女の殺気を前に、エリーゼは攻めにも守りにも転じれず危機的状況を見守るしか出来なかった。
「ッッ……! エーテルコアですって!?」
「彼の言っている事は本当です……!!」
エリーゼは杖を強く握り締め、一瞬でも隙があればシキを助けようと注意していた。
大鎌を持った女は白いとんがり帽子から眼光を放ちながら、鋭い視線でシキを二度三度と見つめる。
その後割って入り答えたエリーゼへ視線を移し二人を観察。そしてエリーゼの持つ杖に取り付けられたコアを確認すると、改めて返事をした。
「嘘は言っていない……ようね。でも、だったらどうしてここに。いや、そもそもどうやってここへ入って来たの」
まるで意表を突かれたように、女は戸惑いを隠し切れずにいた。そんな彼女の次の問いに、シキはそのままの経緯を口にする。
「噂を聞いたのだ。この砂漠にはお宝が眠っていると」
あえて砂漠を通った。その理由は、シキにとって無視の出来ないものであった。
「本来の目的は横断だったが、偶然このオアシスを見つけた。ふとその噂を思い出しこの地へと足を踏み入れた。そうしたらどうだ。砂漠のド真ん中なのに家が建っているではないか。私達は噂を確かめるため立ち入り、そして今に至る。勝手に入ったのは謝るが、一応確認はさせて貰ったぞ」
曇りなき眼で語り、敵意はない事を誠心誠意伝える。
彼の熱意を感じたのか、白マントの女は大鎌をシキから離すと少しだけ考え込み、返答する。
「本当に、偶然みたいだね……。まさか見つかるなんて思いもしなかった。急に扉を叩かれ、ついに心臓が止まるかと思ったわ」
訝しんだ様子のまま、女は突然刃を向けた事を詫びながら、自身の立場を話し始めた。
「ビックリさせてごめんなさい。人が訪ねて来るなんてここ数十年、いや百年は無かったものだから。つい……」
急な来訪者に驚いてしまったと、女は弁明をした。しかしその言葉が、シキ達を改めて驚かせる事になる。
「今、何と言った……?」
「だから百年ぶりの尋ね人につい驚いちゃったって……あ」
見た目で言えばニ十歳前後の若い女が、ゆうに一世紀も人に会っていないと口にしたのだ。
「百年だと……? お、お前はいったい、何者だ……!?」
「……ッ!! 私は別に!!」
明らかに狼狽える女の姿を見て、エリーゼは咄嗟に術を唱える。
「まさかあなたは!! ッ、失礼します!! 氷結精製:氷の塊!」
氷の塊が、鎌を持った手を冷気で包み込む。
白魔女は物質が精製される直前に鎌を引き全身を使ってその場で回転し、まとわりついたエリーゼのエーテルを振り払う。
再び大鎌を振り被り、シキの首を刈り取ろうとした。しかしシキは視界から消えており、大鎌は空振りに終わる。
「どこに消え……っ!?」
「下だッ!!」
身を低くし詰め寄っていたシキは、振り終えて勢いを失った大鎌を両手で掴み、二度目の攻撃を阻止する。
「なっ……、させない! 消失する白光!!」
武器を差し押さえられ分が悪いと踏んだ白マントの女は、大鎌から手を離し術を唱えた。
マントの先を掴み改めて身を包み直すと、女は全身から白い光を放つ。
帽子やマントだけでなくブーツや手袋まで白に揃えた女は光と共につま先から消え始め、次に下半身、そして肩まで消えると、鋭い眼光をシキに向けたままとんがり帽子の先まで透けていった。
このままでは見失うと危惧した刹那、ゴンッと硬い物が床を叩く音が、小さな家の中に響き渡った。
「えっ……!?」
垂れ下がったとんがり帽子の先に、エリーゼの放った氷の塊が再び精製される。氷の重さで床に脱げ落ちた白い帽子は、輝きを失いただの帽子へと戻る。
半透明となった女は驚くと同時、その姿を再び露わす。脱げ落ちた帽子から出てきたのは、肩まで伸びるピンクの髪の毛と、隙間から姿を覗かせる長く先の尖った耳の存在であった。
彼女の顔を確認したエリーゼは改めて驚きを零しながら、その正体について口にした。
「まさか本当に生き残りがいたなんて……」
「エリーゼ、知っているのか?」
「彼女はエルフ。何百年も前に滅んだとされる、賢人と呼ばれた種族の一人です。違いますか?」
正体を見破られたエルフの女は、深くため息をつく。逃げられないと観念したのか、脱げ落ちた帽子を拾い上げるとそのまま氷を壊し深く被り直す。
そして気の抜けていたシキから大鎌を取り返すと、肩へと担ぎ改めて己の存在を明かした。
「バレちゃあしょうがないか。そう、私こそがエルフ族唯一の生き残り。賢人にしてこの砂漠の魔女、オームギさんよ」
白い魔女は、不敵な笑みで大鎌を握り締めていた。
首へかかる大鎌を目の前に、シキは旅の目的を白の魔女へと答える。
「……探し物を、していた」
「それは何。答えなさい」
言葉は通じる。しかし依然として油断は出来ない。白の魔女の問いかけに、シキはなんと答えるか少しだけ詰まった。
「私の記憶……。それが眠っているとされる、エーテルコアと呼ばれる結晶だ」
頬を伝う汗を感じながら、自分は死の淵に立っている事を再認識する。返答のミスは即死であると判断し、シキは偽る事無く正直に答えた。
張り詰めた緊張感と大鎌を持った女の殺気を前に、エリーゼは攻めにも守りにも転じれず危機的状況を見守るしか出来なかった。
「ッッ……! エーテルコアですって!?」
「彼の言っている事は本当です……!!」
エリーゼは杖を強く握り締め、一瞬でも隙があればシキを助けようと注意していた。
大鎌を持った女は白いとんがり帽子から眼光を放ちながら、鋭い視線でシキを二度三度と見つめる。
その後割って入り答えたエリーゼへ視線を移し二人を観察。そしてエリーゼの持つ杖に取り付けられたコアを確認すると、改めて返事をした。
「嘘は言っていない……ようね。でも、だったらどうしてここに。いや、そもそもどうやってここへ入って来たの」
まるで意表を突かれたように、女は戸惑いを隠し切れずにいた。そんな彼女の次の問いに、シキはそのままの経緯を口にする。
「噂を聞いたのだ。この砂漠にはお宝が眠っていると」
あえて砂漠を通った。その理由は、シキにとって無視の出来ないものであった。
「本来の目的は横断だったが、偶然このオアシスを見つけた。ふとその噂を思い出しこの地へと足を踏み入れた。そうしたらどうだ。砂漠のド真ん中なのに家が建っているではないか。私達は噂を確かめるため立ち入り、そして今に至る。勝手に入ったのは謝るが、一応確認はさせて貰ったぞ」
曇りなき眼で語り、敵意はない事を誠心誠意伝える。
彼の熱意を感じたのか、白マントの女は大鎌をシキから離すと少しだけ考え込み、返答する。
「本当に、偶然みたいだね……。まさか見つかるなんて思いもしなかった。急に扉を叩かれ、ついに心臓が止まるかと思ったわ」
訝しんだ様子のまま、女は突然刃を向けた事を詫びながら、自身の立場を話し始めた。
「ビックリさせてごめんなさい。人が訪ねて来るなんてここ数十年、いや百年は無かったものだから。つい……」
急な来訪者に驚いてしまったと、女は弁明をした。しかしその言葉が、シキ達を改めて驚かせる事になる。
「今、何と言った……?」
「だから百年ぶりの尋ね人につい驚いちゃったって……あ」
見た目で言えばニ十歳前後の若い女が、ゆうに一世紀も人に会っていないと口にしたのだ。
「百年だと……? お、お前はいったい、何者だ……!?」
「……ッ!! 私は別に!!」
明らかに狼狽える女の姿を見て、エリーゼは咄嗟に術を唱える。
「まさかあなたは!! ッ、失礼します!! 氷結精製:氷の塊!」
氷の塊が、鎌を持った手を冷気で包み込む。
白魔女は物質が精製される直前に鎌を引き全身を使ってその場で回転し、まとわりついたエリーゼのエーテルを振り払う。
再び大鎌を振り被り、シキの首を刈り取ろうとした。しかしシキは視界から消えており、大鎌は空振りに終わる。
「どこに消え……っ!?」
「下だッ!!」
身を低くし詰め寄っていたシキは、振り終えて勢いを失った大鎌を両手で掴み、二度目の攻撃を阻止する。
「なっ……、させない! 消失する白光!!」
武器を差し押さえられ分が悪いと踏んだ白マントの女は、大鎌から手を離し術を唱えた。
マントの先を掴み改めて身を包み直すと、女は全身から白い光を放つ。
帽子やマントだけでなくブーツや手袋まで白に揃えた女は光と共につま先から消え始め、次に下半身、そして肩まで消えると、鋭い眼光をシキに向けたままとんがり帽子の先まで透けていった。
このままでは見失うと危惧した刹那、ゴンッと硬い物が床を叩く音が、小さな家の中に響き渡った。
「えっ……!?」
垂れ下がったとんがり帽子の先に、エリーゼの放った氷の塊が再び精製される。氷の重さで床に脱げ落ちた白い帽子は、輝きを失いただの帽子へと戻る。
半透明となった女は驚くと同時、その姿を再び露わす。脱げ落ちた帽子から出てきたのは、肩まで伸びるピンクの髪の毛と、隙間から姿を覗かせる長く先の尖った耳の存在であった。
彼女の顔を確認したエリーゼは改めて驚きを零しながら、その正体について口にした。
「まさか本当に生き残りがいたなんて……」
「エリーゼ、知っているのか?」
「彼女はエルフ。何百年も前に滅んだとされる、賢人と呼ばれた種族の一人です。違いますか?」
正体を見破られたエルフの女は、深くため息をつく。逃げられないと観念したのか、脱げ落ちた帽子を拾い上げるとそのまま氷を壊し深く被り直す。
そして気の抜けていたシキから大鎌を取り返すと、肩へと担ぎ改めて己の存在を明かした。
「バレちゃあしょうがないか。そう、私こそがエルフ族唯一の生き残り。賢人にしてこの砂漠の魔女、オームギさんよ」
白い魔女は、不敵な笑みで大鎌を握り締めていた。
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