83 / 161
第三章 砂漠の魔女編
03.オアシスの農園
しおりを挟む
乾いた大地と潤った自然の境界を、シキ達は股にかける。
肌を焼くような日差しは一転。異空間に飛ばされたかのような適温が、高まった体温から熱を奪い心と身体へ安らぎを与えていた。
踏みしめる地面からは乾いた砂が無くなり、次第に湿気を持った土へと変わって行くのが鮮明に見て取れた。そして湖と白い屋根の家を隠すように茂る木々を超えると、そこには常識を疑うような光景が広がっていた。
「畑……? 農地……!? ここは砂漠のド真ん中のはずだ。なのに何故、あちこちで鮮やかな食物が実っている!?」
「湿度も温度も管理が行き届いています! それに……。それに、収穫時期も栽培環境もバラバラな野菜や果物が一度に育っているなんて……」
「…………!!」
緑や青はもちろんの事、赤に紫、黄や橙といった様々な野菜や果物が種類ごとに区分けされ、家と湖を囲むように育っていた。
直前までの飢えや渇きから、一層すくすくと育つ食物の数々が輝くようにシキ達の目へ映り込む。
これまでにないテンションの高さを見せ、どことなく足取りの早くなるネオン。そんな彼女を追いかけるように、シキとエリーゼは砂漠の楽園を進んで行く。そして。
「失礼する! 誰か! 誰かいるか!?」
扉を数回叩き、反応が無いと見るや否や勢い良くその入り口を開いた。
「誰も……いない!?」
キッチンや工房を思わせるような一角に、生活感のある部屋がもう一つ。しかし扉に鍵はかかっておらず、内側には誰の姿も見えなかった。その瞬間だった。
「……ッ!! シキさん!!」
エリーゼの叫び声が響き渡る。咄嗟に振り返ろうとしたその時、シキの目の前には大きな刃が死角から回り込むように伸びていた。
「貴方達、何者なの」
殺気を帯びた、極限まで低い音で放たれた女の声が、首へかかる刃を伝うようにシキの耳へと届く。
シキは刺激しないよう身体を動かさず、されど少し首と視線を動かし刃を辿るように目を這わす。シキの首に掛けられていたのは、瞬時に頭を跳ね落とせそうなほど巨大で禍々しい大鎌であった。
そしてその先には、先の垂れ下がった白いとんがり帽子を深く被り同色のマントで身を隠した、魔女を想起させる女が姿を現していた。
ほんの僅かでも気分を害せば命を刈り取られない状況に、シキは高鳴る鼓動を押さえつけながら思考を巡らせる。
「……私達はただの旅人だ」
堂々と。シキは危機的状況ながらも、己の目的を遂行すべく臆する事無く答える。
「ただの旅人が、この地へいったい何の用?」
白の魔女は敵意を抱いたまま、シキの首筋へと垂れ下がる大鎌を強く握り締めた。
肌を焼くような日差しは一転。異空間に飛ばされたかのような適温が、高まった体温から熱を奪い心と身体へ安らぎを与えていた。
踏みしめる地面からは乾いた砂が無くなり、次第に湿気を持った土へと変わって行くのが鮮明に見て取れた。そして湖と白い屋根の家を隠すように茂る木々を超えると、そこには常識を疑うような光景が広がっていた。
「畑……? 農地……!? ここは砂漠のド真ん中のはずだ。なのに何故、あちこちで鮮やかな食物が実っている!?」
「湿度も温度も管理が行き届いています! それに……。それに、収穫時期も栽培環境もバラバラな野菜や果物が一度に育っているなんて……」
「…………!!」
緑や青はもちろんの事、赤に紫、黄や橙といった様々な野菜や果物が種類ごとに区分けされ、家と湖を囲むように育っていた。
直前までの飢えや渇きから、一層すくすくと育つ食物の数々が輝くようにシキ達の目へ映り込む。
これまでにないテンションの高さを見せ、どことなく足取りの早くなるネオン。そんな彼女を追いかけるように、シキとエリーゼは砂漠の楽園を進んで行く。そして。
「失礼する! 誰か! 誰かいるか!?」
扉を数回叩き、反応が無いと見るや否や勢い良くその入り口を開いた。
「誰も……いない!?」
キッチンや工房を思わせるような一角に、生活感のある部屋がもう一つ。しかし扉に鍵はかかっておらず、内側には誰の姿も見えなかった。その瞬間だった。
「……ッ!! シキさん!!」
エリーゼの叫び声が響き渡る。咄嗟に振り返ろうとしたその時、シキの目の前には大きな刃が死角から回り込むように伸びていた。
「貴方達、何者なの」
殺気を帯びた、極限まで低い音で放たれた女の声が、首へかかる刃を伝うようにシキの耳へと届く。
シキは刺激しないよう身体を動かさず、されど少し首と視線を動かし刃を辿るように目を這わす。シキの首に掛けられていたのは、瞬時に頭を跳ね落とせそうなほど巨大で禍々しい大鎌であった。
そしてその先には、先の垂れ下がった白いとんがり帽子を深く被り同色のマントで身を隠した、魔女を想起させる女が姿を現していた。
ほんの僅かでも気分を害せば命を刈り取られない状況に、シキは高鳴る鼓動を押さえつけながら思考を巡らせる。
「……私達はただの旅人だ」
堂々と。シキは危機的状況ながらも、己の目的を遂行すべく臆する事無く答える。
「ただの旅人が、この地へいったい何の用?」
白の魔女は敵意を抱いたまま、シキの首筋へと垂れ下がる大鎌を強く握り締めた。
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
底辺召喚士の俺が召喚するのは何故かSSSランクばかりなんだが〜トンビが鷹を生みまくる物語〜
ああああ
ファンタジー
召喚士学校の卒業式を歴代最低点で迎えたウィルは、卒業記念召喚の際にSSSランクの魔王を召喚してしまう。
同級生との差を一気に広げたウィルは、様々なパーティーから誘われる事になった。
そこでウィルが悩みに悩んだ結果――
自分の召喚したモンスターだけでパーティーを作ることにしました。
この物語は、底辺召喚士がSSSランクの従僕と冒険したりスローライフを送ったりするものです。
【一話1000文字ほどで読めるようにしています】
召喚する話には、タイトルに☆が入っています。
公爵家次男の巻き込まれ人生
零
ファンタジー
ヴェルダン王国でも筆頭貴族家に生まれたシアリィルドは、次男で家を継がなくてよいということから、王国軍に所属して何事もない普通の毎日を過ごしていた。
そんな彼が、平穏な日々を奪われて、勇者たちの暴走や跡継ぎ争いに巻き込まれたりする(?)お話です。
※見切り発進です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる