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第三章 砂漠の魔女編

03.オアシスの農園

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 乾いた大地と潤った自然の境界を、シキ達は股にかける。

 肌を焼くような日差しは一転。異空間に飛ばされたかのような適温が、高まった体温から熱を奪い心と身体へ安らぎを与えていた。

 踏みしめる地面からは乾いた砂が無くなり、次第に湿気を持った土へと変わって行くのが鮮明に見て取れた。そして湖と白い屋根の家を隠すように茂る木々を超えると、そこには常識を疑うような光景が広がっていた。

「畑……? 農地……!? ここは砂漠のド真ん中のはずだ。なのに何故、あちこちで鮮やかな食物が実っている!?」

「湿度も温度も管理が行き届いています! それに……。それに、収穫時期も栽培環境もバラバラな野菜や果物が一度に育っているなんて……」

「…………!!」

 緑や青はもちろんの事、赤に紫、黄や橙といった様々な野菜や果物が種類ごとに区分けされ、家と湖を囲むように育っていた。

 直前までの飢えや渇きから、一層すくすくと育つ食物の数々が輝くようにシキ達の目へ映り込む。

 これまでにないテンションの高さを見せ、どことなく足取りの早くなるネオン。そんな彼女を追いかけるように、シキとエリーゼは砂漠の楽園を進んで行く。そして。

「失礼する! 誰か! 誰かいるか!?」

 扉を数回叩き、反応が無いと見るや否や勢い良くその入り口を開いた。

「誰も……いない!?」

 キッチンや工房を思わせるような一角に、生活感のある部屋がもう一つ。しかし扉に鍵はかかっておらず、内側には誰の姿も見えなかった。その瞬間だった。

「……ッ!! シキさん!!」

 エリーゼの叫び声が響き渡る。咄嗟に振り返ろうとしたその時、シキの目の前には大きな刃が死角から回り込むように伸びていた。


「貴方達、何者なの」


 殺気を帯びた、極限まで低い音で放たれた女の声が、首へかかる刃を伝うようにシキの耳へと届く。

 シキは刺激しないよう身体を動かさず、されど少し首と視線を動かし刃を辿るように目を這わす。シキの首に掛けられていたのは、瞬時に頭を跳ね落とせそうなほど巨大で禍々しい大鎌であった。

 そしてその先には、先の垂れ下がった白いとんがり帽子を深く被り同色のマントで身を隠した、魔女を想起させる女が姿を現していた。

 ほんの僅かでも気分を害せば命を刈り取られない状況に、シキは高鳴る鼓動を押さえつけながら思考を巡らせる。

「……私達はただの旅人だ」

 堂々と。シキは危機的状況ながらも、己の目的を遂行すべく臆する事無く答える。

「ただの旅人が、この地へいったい何の用?」

 白の魔女は敵意を抱いたまま、シキの首筋へと垂れ下がる大鎌を強く握り締めた。
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