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第二章 鏡映しの兄弟編
29.焦がすは幻想、灯すは理想
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エリーゼの大技が放たれ、屋敷の魔物達は戦力を大幅に削られていた。
ただ屋上に留まる事しか出来なかったシキ達に、移動の隙が生まれていたのだ。
巨大なトカゲの魔物を蹴り落したシキの元へ、とある少女が近づいてくる。
「っ、危ないから離れていろ、ネオン」
「…………」
だが彼女はシキの警告を無視し、彼の腕を引っ張った。そしてその腕は一定の角度で止まり、何かを指差していた。
「……なん、だ?」
細い指の差し示した先は、屋敷の最上階中心に位置する大部屋。
屋外からのため正確にはその前にある通路と扉だが、これといって魔物がいる訳でも無い。
「おいネオン、何もいないではないか。まだ戦闘は継続中だ。攻撃が当たらないよう身を隠していろ」
要するに今は邪魔だからどっか行ってろと言ったシキだが、その言葉を口にした直後の出来事だった。
ドォン!! と、ネオンが指を差した先で大きな物音が響く。
思わず振り返ってみると、扉は力強く開かれ何かが飛び出していた。いや、飛び出していたというよりは突き飛ばされた後だった。それは。
「アネッサ……ッ!?」
巨大な風馬から落馬し、何者かに追いつめられている彼女の姿がそこにあったのだ。
「今アネさんて言ったッスかシキさん!!」
この場で誰よりも彼女の事に敏感な少女が、戦いの騒音をすり抜けて彼の声を耳に入れていた。
「向こうだ!! 最上階の部屋の前にアネッサがいる!! 誰かと戦っているようだ!!」
「なっ!! 本当ッス!! アネさんになにしやがるッスか!!」
「フン、ニャアアアアア!!」
ミルカは怒りのままに、アネッサのいる場所へチャタローごと突っ込もうとする。ミルカがチャタローの背に乗るのを見て、シキは咄嗟に他の仲間に声をかけた。
「エリーゼ、ネオン!! チャタローに捕まれ!! 私達も行くぞ!!」
コクリ、と二人は頷きシキと共にチャタローの背中へと捕まった。
「フシャアアアアアア!!」
チャタローはミルカの指示のままに飛び出す。そして突っ込んだ先。そこは最上階の屋根の上。ではなく直接見えた大窓であった。
「ばっ、お前達! 身を丸めて破片に備えろ!!」
大窓は轟音と共に粉々の破片に姿を変えると、戦いの最中であったアネッサとその相手の周りへと散らばる。
「チャタロー!? ミルカ!? それに……シキ、ネオン? アンタ達、こんなところで何を」
「それはこっちの台詞ッス!! アネさん、ウチらに隠れて何をやってたんスか!」
「そ、それはだな……」
「俺らの手伝いをして貰っていたのさ。侵入者のネズミ諸君」
嫌味ったらしい男の声が聞こえた。
シキ達は思わず振り向く。そこには、右手に紫の炎を灯し、右の額から片角を生やした男が立っていた。
そしてもう一つ、他の人種とは違う特徴があった。
「紫の肌……魔物、いや人……なのか?」
シキはポツリと、素朴な疑問を零した。それが彼の逆鱗だとも知らずに。
「き、貴様……!! 人なのか……だと? 俺は、俺達は人間だ!! 肌の色がなんだ。角がなんだ。そんなものがあっても無くても、俺達はお前らと話しているだろうが!! 俺らは魔物なんかじゃねぇ。俺らは正真正銘人間だ。ダーダネラ王国の純潔なる人間だ!!」
激昂する彼を前に、シキは言葉を失う。すまない。と謝るには、彼の行いが邪魔をしていた。
彼を前に何をすべきか。騒ぎ立てる男を警戒していると、彼の右手中指に指輪がはめられているのがシキの目に入った。
つまり、アネッサを打ったのは彼だ。彼はまごう事なき、敵なのだ。
ただ睨み合うシキと敵の元へ、さらに屋敷の奥から何者かが現れる。
「オーキッド……。少し静かにしてくれないか。俺は今、目の前の奴らに計画を邪魔され、無性に腹を立てている。お前まで俺を怒らせないでくれ」
その声は落ち着いていて、それでいて抑えきれないほどの怒りに満ち溢れていた。
左の額から角を生やした男が、ギラギラとした目付きで扉に手を掛ける。左手に紫の炎を灯すその男は、同じく紫の肌をしていた。
まるで左右対称になるように作られた二人の男が、シキ達の前へと立ちはだかっていた。
「あ、兄上……悪かった。俺もちょっとイラッと来ていただけなんだ、もう騒がないさ。それよりこいつら、どうする? 何かこの盗っ人女を取り戻しに来たようだけど」
「アネッサ、お前が彼らを呼んだのか?」
ギラついた視線は、彼の弟からアネッサへと移る。
「ち、違う。お前達の事は約束通り誰にも喋っていない、本当だ」
「だったらどうして、この屋敷にいる」
「それに、あの連絡用の洞窟にも入って来てたよな、あぁ!?」
敵の兄弟がアネッサへと詰め寄っていた。アネッサは視線を泳がし、思考を巡らせどちらを見ればいいかと視点が定まらない。
そこへ、二人の少女が目の前に割って入った。
「ウチらのアネさんに、なにガン飛ばしてやがるんスか」
「あなた達のエーテルについて、詳しくお聞かせ願えますでしょうか」
巨大化した猫と宝石の取り付けられた木の杖が、少女達を、そしてその後ろにいる者達を守るようにエーテルを帯び威圧する。
そして座り込んでいるアネッサへ、二人の旅人は手を差し出した。
「それとこの腕輪についても、説明してもらおうか。紫の炎使い共よ」
大きく割れた窓からは、差し込んだ月明りが互いの影を作り出す。
散らばった窓の破片が夜空に色めき、さながらシキ達のエーテルを示すかのように、煌く光が彼らを包み込む。
戦いが始まる。
三者三様の思いを胸に、怒れる兄弟を相手に。
「聞きたい事があるのはこっちだって同じだ。……なぁ、どうやってここに入って来た?」
「それに何故、このアランブラの前に他種族が許可もなく立っている」
アランブラと名乗る兄は左手に、オーキッドと呼ばれた弟は右手に紫の炎を灯す。
それぞれの取り戻すための戦いが今、ここに開戦する。
ただ屋上に留まる事しか出来なかったシキ達に、移動の隙が生まれていたのだ。
巨大なトカゲの魔物を蹴り落したシキの元へ、とある少女が近づいてくる。
「っ、危ないから離れていろ、ネオン」
「…………」
だが彼女はシキの警告を無視し、彼の腕を引っ張った。そしてその腕は一定の角度で止まり、何かを指差していた。
「……なん、だ?」
細い指の差し示した先は、屋敷の最上階中心に位置する大部屋。
屋外からのため正確にはその前にある通路と扉だが、これといって魔物がいる訳でも無い。
「おいネオン、何もいないではないか。まだ戦闘は継続中だ。攻撃が当たらないよう身を隠していろ」
要するに今は邪魔だからどっか行ってろと言ったシキだが、その言葉を口にした直後の出来事だった。
ドォン!! と、ネオンが指を差した先で大きな物音が響く。
思わず振り返ってみると、扉は力強く開かれ何かが飛び出していた。いや、飛び出していたというよりは突き飛ばされた後だった。それは。
「アネッサ……ッ!?」
巨大な風馬から落馬し、何者かに追いつめられている彼女の姿がそこにあったのだ。
「今アネさんて言ったッスかシキさん!!」
この場で誰よりも彼女の事に敏感な少女が、戦いの騒音をすり抜けて彼の声を耳に入れていた。
「向こうだ!! 最上階の部屋の前にアネッサがいる!! 誰かと戦っているようだ!!」
「なっ!! 本当ッス!! アネさんになにしやがるッスか!!」
「フン、ニャアアアアア!!」
ミルカは怒りのままに、アネッサのいる場所へチャタローごと突っ込もうとする。ミルカがチャタローの背に乗るのを見て、シキは咄嗟に他の仲間に声をかけた。
「エリーゼ、ネオン!! チャタローに捕まれ!! 私達も行くぞ!!」
コクリ、と二人は頷きシキと共にチャタローの背中へと捕まった。
「フシャアアアアアア!!」
チャタローはミルカの指示のままに飛び出す。そして突っ込んだ先。そこは最上階の屋根の上。ではなく直接見えた大窓であった。
「ばっ、お前達! 身を丸めて破片に備えろ!!」
大窓は轟音と共に粉々の破片に姿を変えると、戦いの最中であったアネッサとその相手の周りへと散らばる。
「チャタロー!? ミルカ!? それに……シキ、ネオン? アンタ達、こんなところで何を」
「それはこっちの台詞ッス!! アネさん、ウチらに隠れて何をやってたんスか!」
「そ、それはだな……」
「俺らの手伝いをして貰っていたのさ。侵入者のネズミ諸君」
嫌味ったらしい男の声が聞こえた。
シキ達は思わず振り向く。そこには、右手に紫の炎を灯し、右の額から片角を生やした男が立っていた。
そしてもう一つ、他の人種とは違う特徴があった。
「紫の肌……魔物、いや人……なのか?」
シキはポツリと、素朴な疑問を零した。それが彼の逆鱗だとも知らずに。
「き、貴様……!! 人なのか……だと? 俺は、俺達は人間だ!! 肌の色がなんだ。角がなんだ。そんなものがあっても無くても、俺達はお前らと話しているだろうが!! 俺らは魔物なんかじゃねぇ。俺らは正真正銘人間だ。ダーダネラ王国の純潔なる人間だ!!」
激昂する彼を前に、シキは言葉を失う。すまない。と謝るには、彼の行いが邪魔をしていた。
彼を前に何をすべきか。騒ぎ立てる男を警戒していると、彼の右手中指に指輪がはめられているのがシキの目に入った。
つまり、アネッサを打ったのは彼だ。彼はまごう事なき、敵なのだ。
ただ睨み合うシキと敵の元へ、さらに屋敷の奥から何者かが現れる。
「オーキッド……。少し静かにしてくれないか。俺は今、目の前の奴らに計画を邪魔され、無性に腹を立てている。お前まで俺を怒らせないでくれ」
その声は落ち着いていて、それでいて抑えきれないほどの怒りに満ち溢れていた。
左の額から角を生やした男が、ギラギラとした目付きで扉に手を掛ける。左手に紫の炎を灯すその男は、同じく紫の肌をしていた。
まるで左右対称になるように作られた二人の男が、シキ達の前へと立ちはだかっていた。
「あ、兄上……悪かった。俺もちょっとイラッと来ていただけなんだ、もう騒がないさ。それよりこいつら、どうする? 何かこの盗っ人女を取り戻しに来たようだけど」
「アネッサ、お前が彼らを呼んだのか?」
ギラついた視線は、彼の弟からアネッサへと移る。
「ち、違う。お前達の事は約束通り誰にも喋っていない、本当だ」
「だったらどうして、この屋敷にいる」
「それに、あの連絡用の洞窟にも入って来てたよな、あぁ!?」
敵の兄弟がアネッサへと詰め寄っていた。アネッサは視線を泳がし、思考を巡らせどちらを見ればいいかと視点が定まらない。
そこへ、二人の少女が目の前に割って入った。
「ウチらのアネさんに、なにガン飛ばしてやがるんスか」
「あなた達のエーテルについて、詳しくお聞かせ願えますでしょうか」
巨大化した猫と宝石の取り付けられた木の杖が、少女達を、そしてその後ろにいる者達を守るようにエーテルを帯び威圧する。
そして座り込んでいるアネッサへ、二人の旅人は手を差し出した。
「それとこの腕輪についても、説明してもらおうか。紫の炎使い共よ」
大きく割れた窓からは、差し込んだ月明りが互いの影を作り出す。
散らばった窓の破片が夜空に色めき、さながらシキ達のエーテルを示すかのように、煌く光が彼らを包み込む。
戦いが始まる。
三者三様の思いを胸に、怒れる兄弟を相手に。
「聞きたい事があるのはこっちだって同じだ。……なぁ、どうやってここに入って来た?」
「それに何故、このアランブラの前に他種族が許可もなく立っている」
アランブラと名乗る兄は左手に、オーキッドと呼ばれた弟は右手に紫の炎を灯す。
それぞれの取り戻すための戦いが今、ここに開戦する。
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