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第二章 鏡映しの兄弟編
17.盗っ人稼業は楽じゃない
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洞窟での一件を終えたシキ達は盗賊団のアジトへと戻っていた。
流石の不気味な炎も、どうやら洞窟の外までは追っては来なかったらしい。
途中エリーゼと別れ急いで帰ると、戻った数分後に盗賊の一味は作戦を終え帰って来た。
「よぉシキ、もう酔いは抜けたか? こっちはタンマリだったぜ。がっはっは」
上がり始めた朝日を後ろ背に、ストウムは大金の入った袋をシキへと見せてきた。
「例の関所を構えていた屋敷か! それで、関所の方はどうなった?」
「もちろん、建物ごと根こそぎ奪ってやったぜ。あんな傭兵崩れのゴロツキどもなんざ、俺らの敵じゃあねぇよ」
「そうか、それは良かった! これであのルートも正しく機能し始める……!」
「当然、軍や貴族からはごっそり頂くがな。はっはっは。それにしてもシキ、お前の持ってきた首飾りはすげぇぜ。おかげでアネさん頼りだったうちも皆一級の戦士へと早変わりってもんさ。お前も使えないのはもったいないぜ、全くよぉ」
「はは、なに気にするな。私達を仲間として引き入れてくれたのだ。それだけで感謝しているさ」
勝利で気分の良いストウムに、話を合わせるシキ。たまった疲れを我慢しながら彼の自慢話を聞いていると、ミルカがシキを呼ぶために横から割って入った。
「ストウムのアニキ、盛り上がってるところ悪いッスけど、アネさんがシキさん連れて来いってんでちょっと借りて行くッスよ」
「お、おう。なんだぁ? アネさんもシキの奴と話したくなったってか?」
ミルカに連れられるがままに、シキはアネッサの元へと誘導された。
「よぉ来たなシキ。ミルカ、お前は宴に戻っていいぞ」
「う、ウッス!」
やたらと覇気のあるアネッサの様子を見て、ミルカは逃げ出すようにその場を立ち去った。そんな彼女を前に、シキは改まって話を聞く体制に入る。
「それでシキ、調子はどうだ? 酔いはもう抜けたか?」
「あ、ああ。おかげさまでな。迷惑をかけた」
「なぁに、気にする事は無いさ。それより聞きたい事があるんだ」
「……?」
「アンタがくれたこの『蜃気楼の首飾り』。大いに役に立った。感謝するぞ」
アネッサは胸元へ手を当て、首飾りへと意識を集める。
「なに、礼には及ばないさ。私達を仲間に入れてくれたのだから、それぐらい当然だ」
「ああそうかい。ちなみにだが、その時アンタが言った事覚えているか?」
「言った事……?」
「この首飾りこそが、アタイらがあの雑貨屋で一番求めている物だったと。アンタは言ったね」
「……確かにそう言った。店主にも確認した。実践もしてもらい、効果も実際この目に焼き付けた。だから間違いはないはずだ」
「本当に、お前はこれがアタイらの求めているものだと思っていたんだな?」
アネッサの眼光が鋭く刺さる。
『蜃気楼の首飾り』は、首元を離れ緑色の宝石が取り付けられた腕輪と共に右手で掲げられていた。
怪しく輝く緑の光に、アネッサの右頬にあるアザが照らされる。
「ああ。私は本当に、それは目的のものだと確信していた。何か問題があったか?」
きっとこの首飾りは間違っていたのだろう。彼女の右頬のアザが、痛々しく答えを物語っているようであった。
だがシキはその事実に、実際に気づいてはいなかった。だから堂々と答えるしかなかったのだ。
シキの言葉を聞いたアネッサは、深く目を閉じると首飾りを改めて首へとかけ直した。そして深く頷くと、何かを受け入れたのか、先ほどのような覇気は消え、普段の穏やかなアネッサへと戻っていた。
「そうか。ならいい。変な事を聞いたな。さぁアンタも戻って飲み直しだ。今夜は酔いつぶれるんじゃねぇぞ?」
「もう酒は十分だ……!」
こうして、勝利の美酒は夜明けのアジトへと注がれたのであった。
――――――――――
盗賊団『ノース・ウィンド』は勝利の宴を開いた後、疲れ果て皆眠りについていた。
夜中に作戦を行いそのまま宴を行ったため、真昼間から彼らは大きないびきを上げ床に伏せていた。
そんな疲れで潰れている連中の中から、むくりと起き上がった男が一人、ひっそりと行動を開始していた。
(ネオン、起きろ。そろそろおさらばとするぞ)
瞳を閉じている以外は普段と変わらない、落ち着きという言葉を擬人化したような少女は、赤髪の男に肩を揺らされパチリと目を覚ます。
(これ以上盗賊団に所属する必要はない。今からこいつらが奪った関所へ行き次の旅路へと向かう事にする。いいな?)
小声でひそひそと話すシキに対し、ネオンは人形のように座ったままこくりと頷いた。
シキに手を引かれ立ち上がったネオンと共に、シキは辺りを注意深く見渡す。シキの目には、仲間や兄弟だと語り合った盗賊達が寝息を上げて横になっていた。
酔い潰れて眠っている連中だが、今思えばそれほど悪い奴らでも無かったと思う。もちろん盗みなどという行為は許されたものではないが、その理由は義賊のようなものであったし、なにより仲間だ兄弟だと受け入れてくれた事は素直に嬉しく感じていた。
シキとネオンは足音も立てずゆっくりと歩き出す。
盗賊団を去る間にやる事を。旅の目的を果たすために、二人は眠っているアネッサへと近づいた。
「緑の宝石……エーテルコアを」
彼女が眠ったまま付けている腕輪には、強力なエーテルが込められた宝石がはめられていた。
それはシキの求める記憶の断片。エーテルコアである可能性を確かめるために、シキはアネッサの腕輪に触れようとした。その時だった。
「シキ、こんな時間に何の用だ?」
眠っていたはずのアネッサの声が聞こえた。ギロリと視線を動かすと、パチリと開いた彼女の目と視線が合った。
宝石へ触れようとしていた手へは、刃が突きつけられていた。
「アネッサ……! まて、これには訳があるのだ!」
「へぇ、どんな訳かお聞かせ願おうかい?」
「その宝石には私の記憶が眠っているかもしれないのだ! だから、その刃物を収めてはくれないか!?」
シキは包み隠さず真実を告げた。だが、その夢のような理由に、盗賊団の頭首は笑い声を上げずにはいられなかった。
「はっはっは!! 記憶と来たか! 付くにしてももう少しマシな嘘を付きな! 出ないと盗賊稼業なんざやってけないよ!!」
アネッサが起き上がる。シキは咄嗟に一歩引き、彼女の刃物から手元を遠ざけた。
あえてそうさせたと言わんばかりにニヤリと笑うと、アネッサは咄嗟に指笛を吹いた。
「アンタ達!!」
アネッサの掛け声と同時に、酔い潰れていた盗賊団の一味は飛び上がって武器を構える。
「裏切り者を、シキとネオンを捕らえろ!!」
剣が、刀が、槍が、鉈がシキを目掛けて刃を光らせる。そして盗賊の一味は皆、荒れ狂う風で出来た馬に騎乗した。
アネッサは瞬く間に身支度を済ませ、シキへと最後の言葉を残してやった。
「杯を交わした仲だ。命だけは取らないでやる。だが盗賊から盗みを働こうとしたんだ。タダでは済むと思うなよ」
獣のようにギラついた目元をさらに細め、アネッサはシキに宣戦布告をした。
「行くぞアンタ達。風馬一閃、疾走迅雷!!」
風逆巻く馬の大群が、シキとネオンを目掛けて蹄を鳴らす。
流石の不気味な炎も、どうやら洞窟の外までは追っては来なかったらしい。
途中エリーゼと別れ急いで帰ると、戻った数分後に盗賊の一味は作戦を終え帰って来た。
「よぉシキ、もう酔いは抜けたか? こっちはタンマリだったぜ。がっはっは」
上がり始めた朝日を後ろ背に、ストウムは大金の入った袋をシキへと見せてきた。
「例の関所を構えていた屋敷か! それで、関所の方はどうなった?」
「もちろん、建物ごと根こそぎ奪ってやったぜ。あんな傭兵崩れのゴロツキどもなんざ、俺らの敵じゃあねぇよ」
「そうか、それは良かった! これであのルートも正しく機能し始める……!」
「当然、軍や貴族からはごっそり頂くがな。はっはっは。それにしてもシキ、お前の持ってきた首飾りはすげぇぜ。おかげでアネさん頼りだったうちも皆一級の戦士へと早変わりってもんさ。お前も使えないのはもったいないぜ、全くよぉ」
「はは、なに気にするな。私達を仲間として引き入れてくれたのだ。それだけで感謝しているさ」
勝利で気分の良いストウムに、話を合わせるシキ。たまった疲れを我慢しながら彼の自慢話を聞いていると、ミルカがシキを呼ぶために横から割って入った。
「ストウムのアニキ、盛り上がってるところ悪いッスけど、アネさんがシキさん連れて来いってんでちょっと借りて行くッスよ」
「お、おう。なんだぁ? アネさんもシキの奴と話したくなったってか?」
ミルカに連れられるがままに、シキはアネッサの元へと誘導された。
「よぉ来たなシキ。ミルカ、お前は宴に戻っていいぞ」
「う、ウッス!」
やたらと覇気のあるアネッサの様子を見て、ミルカは逃げ出すようにその場を立ち去った。そんな彼女を前に、シキは改まって話を聞く体制に入る。
「それでシキ、調子はどうだ? 酔いはもう抜けたか?」
「あ、ああ。おかげさまでな。迷惑をかけた」
「なぁに、気にする事は無いさ。それより聞きたい事があるんだ」
「……?」
「アンタがくれたこの『蜃気楼の首飾り』。大いに役に立った。感謝するぞ」
アネッサは胸元へ手を当て、首飾りへと意識を集める。
「なに、礼には及ばないさ。私達を仲間に入れてくれたのだから、それぐらい当然だ」
「ああそうかい。ちなみにだが、その時アンタが言った事覚えているか?」
「言った事……?」
「この首飾りこそが、アタイらがあの雑貨屋で一番求めている物だったと。アンタは言ったね」
「……確かにそう言った。店主にも確認した。実践もしてもらい、効果も実際この目に焼き付けた。だから間違いはないはずだ」
「本当に、お前はこれがアタイらの求めているものだと思っていたんだな?」
アネッサの眼光が鋭く刺さる。
『蜃気楼の首飾り』は、首元を離れ緑色の宝石が取り付けられた腕輪と共に右手で掲げられていた。
怪しく輝く緑の光に、アネッサの右頬にあるアザが照らされる。
「ああ。私は本当に、それは目的のものだと確信していた。何か問題があったか?」
きっとこの首飾りは間違っていたのだろう。彼女の右頬のアザが、痛々しく答えを物語っているようであった。
だがシキはその事実に、実際に気づいてはいなかった。だから堂々と答えるしかなかったのだ。
シキの言葉を聞いたアネッサは、深く目を閉じると首飾りを改めて首へとかけ直した。そして深く頷くと、何かを受け入れたのか、先ほどのような覇気は消え、普段の穏やかなアネッサへと戻っていた。
「そうか。ならいい。変な事を聞いたな。さぁアンタも戻って飲み直しだ。今夜は酔いつぶれるんじゃねぇぞ?」
「もう酒は十分だ……!」
こうして、勝利の美酒は夜明けのアジトへと注がれたのであった。
――――――――――
盗賊団『ノース・ウィンド』は勝利の宴を開いた後、疲れ果て皆眠りについていた。
夜中に作戦を行いそのまま宴を行ったため、真昼間から彼らは大きないびきを上げ床に伏せていた。
そんな疲れで潰れている連中の中から、むくりと起き上がった男が一人、ひっそりと行動を開始していた。
(ネオン、起きろ。そろそろおさらばとするぞ)
瞳を閉じている以外は普段と変わらない、落ち着きという言葉を擬人化したような少女は、赤髪の男に肩を揺らされパチリと目を覚ます。
(これ以上盗賊団に所属する必要はない。今からこいつらが奪った関所へ行き次の旅路へと向かう事にする。いいな?)
小声でひそひそと話すシキに対し、ネオンは人形のように座ったままこくりと頷いた。
シキに手を引かれ立ち上がったネオンと共に、シキは辺りを注意深く見渡す。シキの目には、仲間や兄弟だと語り合った盗賊達が寝息を上げて横になっていた。
酔い潰れて眠っている連中だが、今思えばそれほど悪い奴らでも無かったと思う。もちろん盗みなどという行為は許されたものではないが、その理由は義賊のようなものであったし、なにより仲間だ兄弟だと受け入れてくれた事は素直に嬉しく感じていた。
シキとネオンは足音も立てずゆっくりと歩き出す。
盗賊団を去る間にやる事を。旅の目的を果たすために、二人は眠っているアネッサへと近づいた。
「緑の宝石……エーテルコアを」
彼女が眠ったまま付けている腕輪には、強力なエーテルが込められた宝石がはめられていた。
それはシキの求める記憶の断片。エーテルコアである可能性を確かめるために、シキはアネッサの腕輪に触れようとした。その時だった。
「シキ、こんな時間に何の用だ?」
眠っていたはずのアネッサの声が聞こえた。ギロリと視線を動かすと、パチリと開いた彼女の目と視線が合った。
宝石へ触れようとしていた手へは、刃が突きつけられていた。
「アネッサ……! まて、これには訳があるのだ!」
「へぇ、どんな訳かお聞かせ願おうかい?」
「その宝石には私の記憶が眠っているかもしれないのだ! だから、その刃物を収めてはくれないか!?」
シキは包み隠さず真実を告げた。だが、その夢のような理由に、盗賊団の頭首は笑い声を上げずにはいられなかった。
「はっはっは!! 記憶と来たか! 付くにしてももう少しマシな嘘を付きな! 出ないと盗賊稼業なんざやってけないよ!!」
アネッサが起き上がる。シキは咄嗟に一歩引き、彼女の刃物から手元を遠ざけた。
あえてそうさせたと言わんばかりにニヤリと笑うと、アネッサは咄嗟に指笛を吹いた。
「アンタ達!!」
アネッサの掛け声と同時に、酔い潰れていた盗賊団の一味は飛び上がって武器を構える。
「裏切り者を、シキとネオンを捕らえろ!!」
剣が、刀が、槍が、鉈がシキを目掛けて刃を光らせる。そして盗賊の一味は皆、荒れ狂う風で出来た馬に騎乗した。
アネッサは瞬く間に身支度を済ませ、シキへと最後の言葉を残してやった。
「杯を交わした仲だ。命だけは取らないでやる。だが盗賊から盗みを働こうとしたんだ。タダでは済むと思うなよ」
獣のようにギラついた目元をさらに細め、アネッサはシキに宣戦布告をした。
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