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第一章 忘却の通り魔編
22.交差する力
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夜。
「薬は、効くようだね」
商店街から離れた森の小道にて。
気絶させたネオンを前に、サラは歪んだ笑みを浮かべていた。
「これを渡すのは……、君じゃあダメなんだよ」
月夜に当てられたサラは、片手に残った羽ペン入りの小箱を見つめぽつりとつぶやく。
手の震えを鎮めるように小箱を荷物の中へと入れる。
入れ替わるように荷物の瓶から水が飛び出すと、サラの左右で球体へと変化した。
サラは目線を気絶しているネオンへ移す。それと同時に、水の球体はネオンへと触手のように伸び始めた。
「教えてもらうよ、ネオン。君は何を知っているのか。師匠はどこに行ったのか、洗いざらい全て……!!」
「待てッ!!」
男の声が、森の小道へ轟いた。
ビリビリと震える空気に、サラは咄嗟に振り返る。
「……ッ!? シキ……!! どうして君がここに……!?」
黒と金の宗教色の強い衣服を纏った、己の目的を果たそうとする男が、サラの前に立ちはだかる。
「この街に現れる通り魔とは、お前の事だったのだな。サラ」
「…………。言っただろうシキ、私は全てを捨てられるって。あの子のためなら、何でもやるってさ」
水の塊は再びサラの左右で球に変化する。
強く渦巻く二つ球体が、サラの溢れ出す敵意を物語っていた。
「ネオンに何をした。いや、何をするつもりだ……!!」
「調べるんだよ。頭の中を。そして、彼女の持っている情報を頂く。私は絶対に師匠を探し出すんだ。そのためには邪魔なんてさせないよ、シキッ!!」
サラは腕を振りかぶり叫んだ。
「脈打つ水流ッ!!」
サラの左右にある水の球体が柱のように伸び、シキの両側を通り抜ける。
「……ッ!! させるかぁ!!」
サラの警告には屈せず、シキは短剣を引き抜く。
そして、ネオンを助けるためにその切っ先をサラへと向けた。
────────────────────
シキがサラ達のもとへ辿り着く少し前。
「……もう! どうなってるの!?」
遅れる形でシキを追っていたアイヴィは、商店街の途中で立ち往生していた。
「もうとっくに夜なのに、何でこんなにいっぱい人がいるの~!? シキくんも見失っちゃったし……」
通路を塞ぐ勢いで人混みが出来ており、一度飲み込まれたら再び出るのは大変だと本能で感じ取っていた。
しかしその先に行った彼を追うには、大きく迂回するかこの人込みを無理やりにでも突破する必要がある。
「……んふっ。普通の人なら、だけどね」
そういうとアイヴィは腰を低くし、力強く立ち上がった。
勢いのまま建物の屋根へ飛び乗り、人混みを上から見下ろす。
「いったい何がどうなってこうなってるわけ……? ってうっそ……」
先ほどまで自分が立っていた通路から、人混みの中心へと視線を向けていく。
その先にはなんと、よく利用しているあのサンドイッチ店があった。
「雑誌に紹介でもされて急遽大人気店になった……なんて訳ないよね」
屋根から屋根へ飛び移りながら、人混みを無視して進んで行く。
それと同時に、どうしてこんな事になっているのか観察していた。
「でも本当にみんな食べてるし……。まさか冒険者協会の言ってた騒ぎってこれの事なのかな? 確かに大規模な術をかけられたように見えなくもないけど……」
平和で異様な光景を見つつ、アイヴィはその上を通り抜ける。
「みんな美味しそうに食べるねぇ……って今は無視無視。全部終わったらその時また来ようっと」
湧き上がる食欲を抑え、アイヴィはシキを追う。
結局何が原因か分からないまま人混みを終えようとした時、見た事のある顔を見かけた。
「……あれって確か、最初に襲われた冒険者の一味じゃない。まだこの街にいたんだ……。ま、そんな事今はどうだっていいか」
どうでもいい存在と切り捨てようとしたその時、一人の背中にある壁のように大きな剣が目に入った。
「……ッ!! あれってシキくんの……!! なんであいつらが……!?」
アイヴィは歩みを止める。
「それは、わたしがシキくんにプレゼントしたものなんだけど」
目を細め、屋根の上から被害者の三人組を睨み付ける。
その足は、持ち主を違えた大剣へと向かい進み始めた。
────────────────────
「攻撃を止めネオンから離れろ、サラ!!」
シキは叫ぶ。
サラという通り魔を止めるため、その切っ先を、その眼光を向ける。
答えるように二つの水柱が鞭のようにしなり、シキへと襲い掛かっていた。
「君がその刃を納めろ、それだけでいいんだよ……ッ!!」
だがそんな事でシキも引くわけにはいかない。四方から攻め入る触手のような水を避け、一歩ずつサラへ、そしてその先にいるネオンへ近づこうとする。
「何故ネオンを襲った!? そいつはずっと私と共にいた。ミコも私達と会うのも初めてと言っていた。お前の師匠とは何の関わりもないではないか!」
「本当に、そう言い切れるのか?」
「なに……?」
サラの問いがシキの動きを鈍らせる。
「グハァッッッ!?」
一瞬の隙を狙い、サラの水流が死角から蛇のように襲い掛かる。
水にあおられたシキは、勢い良く森の大木へと打ち付けられた。
「シキ、君は記憶が無い。記憶が宿っているはずのエーテルが無いんだぞ。そんな君が、どうして関わりが無いと言い切れる?」
倒れたシキのもとへサラは近づく。
月明かりに隠れ姿はよく見えなかったが、サラの左右にある水の反射で時折表情が見え隠れした。
その顔は、昨日までのひょうひょうとした彼女とはまるで違っていた。
敵意。
信念を背負い、信念に囚われ、信念を貫こうとする。
怒りと悲しみに希望を少し混ぜ込んだような、妙に清々しい顔でサラはシキを追い詰める。
「はっきり言うよ、シキ。君の記憶を奪い去ったのは今そこで倒れているネオン、彼女で間違いない」
「何故……言い切れる……?」
知る由の無い彼女が、ネオンを、彼女の存在を断定する。
守ろうとしている相手を、敵であると断定しようとする。
「エーテルの反発破壊。通常エーテルを使用する魔道具に触れた場合、身体のエーテルがその物へ流れ作用するんだ。でも、流れる力に全く同じ力で反発した場合、質量の小さい方が力負けして破壊される。羽ペンも、宝石も、それが原因で破壊されたに違いない」
「反発破壊だと……!?」
「狙って出来る芸当じゃないよ。そもそも、本来エーテルを放出する側の人間が起こせる事自体が稀だ。それをピンポイントで、しかも全く同じ力で反発し破壊している」
「…………」
「もう分かるだろシキ。君のエーテルは、ネオンによって崩壊する寸前まで奪われている。最初から無かったの訳じゃないんだ。だからエーテルの痕跡はあるのに、流れをまるで感じられなかったんだよ」
サラの言っている事はおそらく正しい。
エーテルが流れていない事も、ペンや宝石が壊れた理由もそれで全て説明が付く。
だが、シキの中で何かが引っ掛かった。
決定的な何かが。
「……だとして、そうだとして。お前の言っている事が全て合っているとしても、ネオンが通り魔だという説明にはなっていないだろう!!」
シキは勢い良く起き上がった。そのまま近づいていたサラへ飛び掛かる。
「……ッ!!」
サラも防御しようと水を向けたが、不意を突かれた一瞬の隙が、襲い掛かる水の塊をすり抜けた。
ドンッ!! と鈍い音を立ててサラを突き飛ばし、シキはそのまま倒れたサラへと乗りかかった。
動きを封じたシキは、安物の短剣を向け質問を始める。
「昨日アイヴィを襲ったのも、サラ……お前だな……?」
「……だとしたら、どうだって言うのさ」
「あの時、傷つきボロボロになったアイヴィを見て、私は激昂した。必ず通り魔を倒し捕えてやると、今にも我を忘れ飛び出そうとしていた」
カチャカチャと短剣を持つ手が震える。
サラにも、シキの感情が荒れているのが手に取るように伝わっていた。
「だがな、ネオンは私の前へ立ち塞がった。そんな私を止めた。怒りで見えなくなっていた存在を思い出させてくれた」
「…………ッ」
「その後は言わなくても分かるだろう。彼女を治療したお前なら」
シキの言葉を聞いたサラは顔を背ける。唇を震わせながら、ぽつりと言葉を口にする。
「……だから、だったらどうしたって言うんだよ。私はアイヴィを治療しただろう。ならそれでいいじゃないか」
「いい訳などあるか!!」
シキの一言で、森はざわざわと震えていた。
「なぁサラ。人を傷つけるお前とお前に傷つけられたネオン、私はどちらを信じればいいと思う……?」
答えなど返す必要もなく分かっていた。分かっていてなお、シキはサラに問いかけた。
カッとサラは振り返る。
そしてその怒りに震える瞳を、シキへと向けた。
「……必要だったんだ。目的を果たす為には、犠牲は必要だったんだよ……ッ!!」
直後。
ジュッ……と奇妙な音がシキの耳に入った。
「……ッ!?」
音の原因を知る間もなく、次の音が響き渡った。
カンッ、カンカンカラン……と、固い何かが地面の上を跳ねる音が聞こえた。
音のした地へ視線を向けると、そこには、小さな鉄の破片が転がっていた。
「短剣の……刃……?」
思わず手元へ視線を戻す。だが握った短剣は、刃の部分が丸ごと無くなっていた。
状況を整理しようとしたが、直後シキは強い衝撃を受け森の中へ吹き飛ばされた。
「そこを……どけろォ!!」
「ガ……ッ!?」
衝撃のあまりシキは一瞬意識が飛んだ。
いったい何が……、どうなった? すぐさま起き上がり、木々を分けサラを見据える。
そこには、球になった大きな水の塊が左右にある他に、サラの胸のあたりでやけに透明な液体が、拳ほどの球体となって浮いていた。
「シキ、もう一度だけ言う。諦めろ。その身を溶かされ苦しみたく無かったら、私の言う事を聞くんだ」
溶かされる。
一瞬何を言っているか分からなかったが、手元に残った短剣の柄が全てを物語っていた。
「劇薬を……使ったのか!?」
「溶け落ちる水流……。教えたはずだよ。青のエーテルが操るのは水ではない。液体だとね」
サラは手をかざす。その動きに応じるように、左右の水の球と中心の劇薬の球はシキへ向かって放たれた。
「薬は、効くようだね」
商店街から離れた森の小道にて。
気絶させたネオンを前に、サラは歪んだ笑みを浮かべていた。
「これを渡すのは……、君じゃあダメなんだよ」
月夜に当てられたサラは、片手に残った羽ペン入りの小箱を見つめぽつりとつぶやく。
手の震えを鎮めるように小箱を荷物の中へと入れる。
入れ替わるように荷物の瓶から水が飛び出すと、サラの左右で球体へと変化した。
サラは目線を気絶しているネオンへ移す。それと同時に、水の球体はネオンへと触手のように伸び始めた。
「教えてもらうよ、ネオン。君は何を知っているのか。師匠はどこに行ったのか、洗いざらい全て……!!」
「待てッ!!」
男の声が、森の小道へ轟いた。
ビリビリと震える空気に、サラは咄嗟に振り返る。
「……ッ!? シキ……!! どうして君がここに……!?」
黒と金の宗教色の強い衣服を纏った、己の目的を果たそうとする男が、サラの前に立ちはだかる。
「この街に現れる通り魔とは、お前の事だったのだな。サラ」
「…………。言っただろうシキ、私は全てを捨てられるって。あの子のためなら、何でもやるってさ」
水の塊は再びサラの左右で球に変化する。
強く渦巻く二つ球体が、サラの溢れ出す敵意を物語っていた。
「ネオンに何をした。いや、何をするつもりだ……!!」
「調べるんだよ。頭の中を。そして、彼女の持っている情報を頂く。私は絶対に師匠を探し出すんだ。そのためには邪魔なんてさせないよ、シキッ!!」
サラは腕を振りかぶり叫んだ。
「脈打つ水流ッ!!」
サラの左右にある水の球体が柱のように伸び、シキの両側を通り抜ける。
「……ッ!! させるかぁ!!」
サラの警告には屈せず、シキは短剣を引き抜く。
そして、ネオンを助けるためにその切っ先をサラへと向けた。
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シキがサラ達のもとへ辿り着く少し前。
「……もう! どうなってるの!?」
遅れる形でシキを追っていたアイヴィは、商店街の途中で立ち往生していた。
「もうとっくに夜なのに、何でこんなにいっぱい人がいるの~!? シキくんも見失っちゃったし……」
通路を塞ぐ勢いで人混みが出来ており、一度飲み込まれたら再び出るのは大変だと本能で感じ取っていた。
しかしその先に行った彼を追うには、大きく迂回するかこの人込みを無理やりにでも突破する必要がある。
「……んふっ。普通の人なら、だけどね」
そういうとアイヴィは腰を低くし、力強く立ち上がった。
勢いのまま建物の屋根へ飛び乗り、人混みを上から見下ろす。
「いったい何がどうなってこうなってるわけ……? ってうっそ……」
先ほどまで自分が立っていた通路から、人混みの中心へと視線を向けていく。
その先にはなんと、よく利用しているあのサンドイッチ店があった。
「雑誌に紹介でもされて急遽大人気店になった……なんて訳ないよね」
屋根から屋根へ飛び移りながら、人混みを無視して進んで行く。
それと同時に、どうしてこんな事になっているのか観察していた。
「でも本当にみんな食べてるし……。まさか冒険者協会の言ってた騒ぎってこれの事なのかな? 確かに大規模な術をかけられたように見えなくもないけど……」
平和で異様な光景を見つつ、アイヴィはその上を通り抜ける。
「みんな美味しそうに食べるねぇ……って今は無視無視。全部終わったらその時また来ようっと」
湧き上がる食欲を抑え、アイヴィはシキを追う。
結局何が原因か分からないまま人混みを終えようとした時、見た事のある顔を見かけた。
「……あれって確か、最初に襲われた冒険者の一味じゃない。まだこの街にいたんだ……。ま、そんな事今はどうだっていいか」
どうでもいい存在と切り捨てようとしたその時、一人の背中にある壁のように大きな剣が目に入った。
「……ッ!! あれってシキくんの……!! なんであいつらが……!?」
アイヴィは歩みを止める。
「それは、わたしがシキくんにプレゼントしたものなんだけど」
目を細め、屋根の上から被害者の三人組を睨み付ける。
その足は、持ち主を違えた大剣へと向かい進み始めた。
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「攻撃を止めネオンから離れろ、サラ!!」
シキは叫ぶ。
サラという通り魔を止めるため、その切っ先を、その眼光を向ける。
答えるように二つの水柱が鞭のようにしなり、シキへと襲い掛かっていた。
「君がその刃を納めろ、それだけでいいんだよ……ッ!!」
だがそんな事でシキも引くわけにはいかない。四方から攻め入る触手のような水を避け、一歩ずつサラへ、そしてその先にいるネオンへ近づこうとする。
「何故ネオンを襲った!? そいつはずっと私と共にいた。ミコも私達と会うのも初めてと言っていた。お前の師匠とは何の関わりもないではないか!」
「本当に、そう言い切れるのか?」
「なに……?」
サラの問いがシキの動きを鈍らせる。
「グハァッッッ!?」
一瞬の隙を狙い、サラの水流が死角から蛇のように襲い掛かる。
水にあおられたシキは、勢い良く森の大木へと打ち付けられた。
「シキ、君は記憶が無い。記憶が宿っているはずのエーテルが無いんだぞ。そんな君が、どうして関わりが無いと言い切れる?」
倒れたシキのもとへサラは近づく。
月明かりに隠れ姿はよく見えなかったが、サラの左右にある水の反射で時折表情が見え隠れした。
その顔は、昨日までのひょうひょうとした彼女とはまるで違っていた。
敵意。
信念を背負い、信念に囚われ、信念を貫こうとする。
怒りと悲しみに希望を少し混ぜ込んだような、妙に清々しい顔でサラはシキを追い詰める。
「はっきり言うよ、シキ。君の記憶を奪い去ったのは今そこで倒れているネオン、彼女で間違いない」
「何故……言い切れる……?」
知る由の無い彼女が、ネオンを、彼女の存在を断定する。
守ろうとしている相手を、敵であると断定しようとする。
「エーテルの反発破壊。通常エーテルを使用する魔道具に触れた場合、身体のエーテルがその物へ流れ作用するんだ。でも、流れる力に全く同じ力で反発した場合、質量の小さい方が力負けして破壊される。羽ペンも、宝石も、それが原因で破壊されたに違いない」
「反発破壊だと……!?」
「狙って出来る芸当じゃないよ。そもそも、本来エーテルを放出する側の人間が起こせる事自体が稀だ。それをピンポイントで、しかも全く同じ力で反発し破壊している」
「…………」
「もう分かるだろシキ。君のエーテルは、ネオンによって崩壊する寸前まで奪われている。最初から無かったの訳じゃないんだ。だからエーテルの痕跡はあるのに、流れをまるで感じられなかったんだよ」
サラの言っている事はおそらく正しい。
エーテルが流れていない事も、ペンや宝石が壊れた理由もそれで全て説明が付く。
だが、シキの中で何かが引っ掛かった。
決定的な何かが。
「……だとして、そうだとして。お前の言っている事が全て合っているとしても、ネオンが通り魔だという説明にはなっていないだろう!!」
シキは勢い良く起き上がった。そのまま近づいていたサラへ飛び掛かる。
「……ッ!!」
サラも防御しようと水を向けたが、不意を突かれた一瞬の隙が、襲い掛かる水の塊をすり抜けた。
ドンッ!! と鈍い音を立ててサラを突き飛ばし、シキはそのまま倒れたサラへと乗りかかった。
動きを封じたシキは、安物の短剣を向け質問を始める。
「昨日アイヴィを襲ったのも、サラ……お前だな……?」
「……だとしたら、どうだって言うのさ」
「あの時、傷つきボロボロになったアイヴィを見て、私は激昂した。必ず通り魔を倒し捕えてやると、今にも我を忘れ飛び出そうとしていた」
カチャカチャと短剣を持つ手が震える。
サラにも、シキの感情が荒れているのが手に取るように伝わっていた。
「だがな、ネオンは私の前へ立ち塞がった。そんな私を止めた。怒りで見えなくなっていた存在を思い出させてくれた」
「…………ッ」
「その後は言わなくても分かるだろう。彼女を治療したお前なら」
シキの言葉を聞いたサラは顔を背ける。唇を震わせながら、ぽつりと言葉を口にする。
「……だから、だったらどうしたって言うんだよ。私はアイヴィを治療しただろう。ならそれでいいじゃないか」
「いい訳などあるか!!」
シキの一言で、森はざわざわと震えていた。
「なぁサラ。人を傷つけるお前とお前に傷つけられたネオン、私はどちらを信じればいいと思う……?」
答えなど返す必要もなく分かっていた。分かっていてなお、シキはサラに問いかけた。
カッとサラは振り返る。
そしてその怒りに震える瞳を、シキへと向けた。
「……必要だったんだ。目的を果たす為には、犠牲は必要だったんだよ……ッ!!」
直後。
ジュッ……と奇妙な音がシキの耳に入った。
「……ッ!?」
音の原因を知る間もなく、次の音が響き渡った。
カンッ、カンカンカラン……と、固い何かが地面の上を跳ねる音が聞こえた。
音のした地へ視線を向けると、そこには、小さな鉄の破片が転がっていた。
「短剣の……刃……?」
思わず手元へ視線を戻す。だが握った短剣は、刃の部分が丸ごと無くなっていた。
状況を整理しようとしたが、直後シキは強い衝撃を受け森の中へ吹き飛ばされた。
「そこを……どけろォ!!」
「ガ……ッ!?」
衝撃のあまりシキは一瞬意識が飛んだ。
いったい何が……、どうなった? すぐさま起き上がり、木々を分けサラを見据える。
そこには、球になった大きな水の塊が左右にある他に、サラの胸のあたりでやけに透明な液体が、拳ほどの球体となって浮いていた。
「シキ、もう一度だけ言う。諦めろ。その身を溶かされ苦しみたく無かったら、私の言う事を聞くんだ」
溶かされる。
一瞬何を言っているか分からなかったが、手元に残った短剣の柄が全てを物語っていた。
「劇薬を……使ったのか!?」
「溶け落ちる水流……。教えたはずだよ。青のエーテルが操るのは水ではない。液体だとね」
サラは手をかざす。その動きに応じるように、左右の水の球と中心の劇薬の球はシキへ向かって放たれた。
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