16 / 161
第一章 忘却の通り魔編
16.その華奢な手には暴君が潜んでいる
しおりを挟む
「ん、どうしたの? 入らないの?」
道具屋の前で、シキとネオンは立ち止まっていた。
不思議に思ったアイヴィは、メッシュの入ったクリーム色の髪を揺らしながら問いかける。
「いや……私達が入ってもいいのだろうか」
シキの頭には、昨日の朝起きたある事件が浮かんでいた。
ミコの大切な羽ペンを壊した、あの出来事である。
「アイヴィ、悪いがペンを買ってきてくれないか。理由は分からないが、ネオンが物に触れると壊れる事があるのだ。流石に店の売り物まで壊すのは恐ろしい」
「壊れるって、ネオンちゃん宿の物とかサンドイッチとかその紙袋とか色々触ってるじゃない。壊れた物の共通点とかないのー? 全部が全部壊れるって訳じゃないんでしょ?」
共通点か……。シキはネオンが壊した物を振り返る。
「エーテルを使う羽ペンとエーテルを調べるための宝石が壊れていたな。壊れたのはその二度だけだ。私やアイヴィ、それにスライミョンにも触れていたが生物は影響が無いようだった」
「んじゃエーテルを利用する物だけは触れないようにする。それだけ気を付ければいいじゃない。さあ入った入ったー!」
アイヴィはぐいっと二人の腕を掴み店内へと引っ張る。
「ば、馬鹿急に引っ張るな!!」
今までも時折感じていたが、アイヴィはかなり力のある人物のようだ。やはり実戦経験があると強くなっていくのだろうか。
店内に一歩踏み入れた瞬間、シキの身体から冷たい汗がダラダラと流れ始めた。
「ひぃぃぃ……壊したら弁償する壊したら弁償するこわしたらべんしょうするコワシタラベンショウスル……。よ、よよ、よし行こうネオン。羽ペンを買ったらすぐに出るぞ」
シキはネオンがうっかり触れないように、彼女の両手を取ってペンの売り場へと進む。
傍から見れば年の離れた仲良し兄妹か、少女愛好の異常者か、頭のおかしい万引き犯のようにも見えた。
店員の目が怪しく光っている事も気づかず、シキは震えながらペンを選ぶ。
「ペン一本約1000ゼノから3000ゼノか。これでもいいのだろうが……あった。エーテル加工の羽ペンは14000ゼノか。ミコの持っていた物と同種はないが……仕方ない。これにしよう」
恐る恐るネオンの片手を離し、置いてある羽ペンの箱を手に取った。
「ね、大丈夫でしょ? それじゃわたしは自分の買い物をするから、また後でね~♪」
羽ペンが壊れない事を確認したアイヴィは、店の奥へと消えていく。
「ま、待てアイヴィ! くそっ、よ、よおおおし買ってやる。このまま壊さず買ってやるぞ。ついて来いネオン!!」
まだ安心は出来ないと繊細に注意を払い、あらゆる物に触れないよう体を細めてカウンターを目指す。
会計中に店員からの疑惑の目が痛かったが、何とか買い物を終える事が出来た。
「ふぅぅぅぅぅ~~~~~。買えた……買えたぞ……!!」
やっとの思いで店から出たシキは、深く深く深呼吸をした。
「はぁはぁ……ふっ、行ってみればなんて事ないではないか。はっはっは」
弁償というリスクから解放され、気が緩んだシキは自然と態度がデカくなる。
「よ! ちゃんと買えたみたいだね~よかったよかった」
「どわあああああ!?」
買い物を終えたアイヴィに突然話しかけられ、思わず飛び上がってしまう。
「急に話しかけるなビックリしただろうが!!」
「ごめんて~。ってあれ、羽ペンは?」
「え?」
シキは持っていた手を確認した。
しかし、ない。右手にも左手にも、懐にも足元にも落ちていない。買った羽ペンはどこかへ行ってしまっていた。
驚いた拍子に投げ飛ばしてしまったらしい。
慌てて周囲を見渡し探して見る。すると。
「あ」
空中から、梱包された小さな箱が落ちてきた。
そのちょうど真下には、ネオンが待ち受けていた。
「まずい!! それに触れては……!」
彼女が触れれば買ったばかりの羽ペンが壊れてしまう。
慌ててシキはネオンのもとへ駆け寄る。しかし、シキの距離では間に合う事は出来なかった。
「しまったあああああ!! 買ったばかりの羽ペンがあああああ!! ……って、壊れて……ない?」
ネオンは華奢な両手を差し出し、ポンッと受け取った。
だが、受け取った小さな箱は壊れていない。その中の羽ペンについても同様のようだ。
「……ふっ、しっかりプレゼント用の梱包をして貰って良かったな。買ったそばから壊れるのだけは御免だぞ」
羽ペンの無事を確認するとシキは冷静に振舞う。しかし額からはまだ冷や汗がダラダラと垂れていた。
「もーしっかりしてよねっ。それで、用事はもう済んだ?」
アイヴィは呆れながらシキに話しかけた。
「ああ、さっそく行こうじゃないか。私も奴を捕まえたくて居ても立っても居られないんだ」
にかっとアイヴィは笑う。
「そーのーまーえーに、一つ。やる事がある!」
「?」
「作戦会議だ!!」
道具屋の前で、シキとネオンは立ち止まっていた。
不思議に思ったアイヴィは、メッシュの入ったクリーム色の髪を揺らしながら問いかける。
「いや……私達が入ってもいいのだろうか」
シキの頭には、昨日の朝起きたある事件が浮かんでいた。
ミコの大切な羽ペンを壊した、あの出来事である。
「アイヴィ、悪いがペンを買ってきてくれないか。理由は分からないが、ネオンが物に触れると壊れる事があるのだ。流石に店の売り物まで壊すのは恐ろしい」
「壊れるって、ネオンちゃん宿の物とかサンドイッチとかその紙袋とか色々触ってるじゃない。壊れた物の共通点とかないのー? 全部が全部壊れるって訳じゃないんでしょ?」
共通点か……。シキはネオンが壊した物を振り返る。
「エーテルを使う羽ペンとエーテルを調べるための宝石が壊れていたな。壊れたのはその二度だけだ。私やアイヴィ、それにスライミョンにも触れていたが生物は影響が無いようだった」
「んじゃエーテルを利用する物だけは触れないようにする。それだけ気を付ければいいじゃない。さあ入った入ったー!」
アイヴィはぐいっと二人の腕を掴み店内へと引っ張る。
「ば、馬鹿急に引っ張るな!!」
今までも時折感じていたが、アイヴィはかなり力のある人物のようだ。やはり実戦経験があると強くなっていくのだろうか。
店内に一歩踏み入れた瞬間、シキの身体から冷たい汗がダラダラと流れ始めた。
「ひぃぃぃ……壊したら弁償する壊したら弁償するこわしたらべんしょうするコワシタラベンショウスル……。よ、よよ、よし行こうネオン。羽ペンを買ったらすぐに出るぞ」
シキはネオンがうっかり触れないように、彼女の両手を取ってペンの売り場へと進む。
傍から見れば年の離れた仲良し兄妹か、少女愛好の異常者か、頭のおかしい万引き犯のようにも見えた。
店員の目が怪しく光っている事も気づかず、シキは震えながらペンを選ぶ。
「ペン一本約1000ゼノから3000ゼノか。これでもいいのだろうが……あった。エーテル加工の羽ペンは14000ゼノか。ミコの持っていた物と同種はないが……仕方ない。これにしよう」
恐る恐るネオンの片手を離し、置いてある羽ペンの箱を手に取った。
「ね、大丈夫でしょ? それじゃわたしは自分の買い物をするから、また後でね~♪」
羽ペンが壊れない事を確認したアイヴィは、店の奥へと消えていく。
「ま、待てアイヴィ! くそっ、よ、よおおおし買ってやる。このまま壊さず買ってやるぞ。ついて来いネオン!!」
まだ安心は出来ないと繊細に注意を払い、あらゆる物に触れないよう体を細めてカウンターを目指す。
会計中に店員からの疑惑の目が痛かったが、何とか買い物を終える事が出来た。
「ふぅぅぅぅぅ~~~~~。買えた……買えたぞ……!!」
やっとの思いで店から出たシキは、深く深く深呼吸をした。
「はぁはぁ……ふっ、行ってみればなんて事ないではないか。はっはっは」
弁償というリスクから解放され、気が緩んだシキは自然と態度がデカくなる。
「よ! ちゃんと買えたみたいだね~よかったよかった」
「どわあああああ!?」
買い物を終えたアイヴィに突然話しかけられ、思わず飛び上がってしまう。
「急に話しかけるなビックリしただろうが!!」
「ごめんて~。ってあれ、羽ペンは?」
「え?」
シキは持っていた手を確認した。
しかし、ない。右手にも左手にも、懐にも足元にも落ちていない。買った羽ペンはどこかへ行ってしまっていた。
驚いた拍子に投げ飛ばしてしまったらしい。
慌てて周囲を見渡し探して見る。すると。
「あ」
空中から、梱包された小さな箱が落ちてきた。
そのちょうど真下には、ネオンが待ち受けていた。
「まずい!! それに触れては……!」
彼女が触れれば買ったばかりの羽ペンが壊れてしまう。
慌ててシキはネオンのもとへ駆け寄る。しかし、シキの距離では間に合う事は出来なかった。
「しまったあああああ!! 買ったばかりの羽ペンがあああああ!! ……って、壊れて……ない?」
ネオンは華奢な両手を差し出し、ポンッと受け取った。
だが、受け取った小さな箱は壊れていない。その中の羽ペンについても同様のようだ。
「……ふっ、しっかりプレゼント用の梱包をして貰って良かったな。買ったそばから壊れるのだけは御免だぞ」
羽ペンの無事を確認するとシキは冷静に振舞う。しかし額からはまだ冷や汗がダラダラと垂れていた。
「もーしっかりしてよねっ。それで、用事はもう済んだ?」
アイヴィは呆れながらシキに話しかけた。
「ああ、さっそく行こうじゃないか。私も奴を捕まえたくて居ても立っても居られないんだ」
にかっとアイヴィは笑う。
「そーのーまーえーに、一つ。やる事がある!」
「?」
「作戦会議だ!!」
0
お気に入りに追加
43
あなたにおすすめの小説
公爵家次男の巻き込まれ人生
零
ファンタジー
ヴェルダン王国でも筆頭貴族家に生まれたシアリィルドは、次男で家を継がなくてよいということから、王国軍に所属して何事もない普通の毎日を過ごしていた。
そんな彼が、平穏な日々を奪われて、勇者たちの暴走や跡継ぎ争いに巻き込まれたりする(?)お話です。
※見切り発進です。
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。
宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました
悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。
クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。
婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。
そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。
そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯
王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。
シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯
悪役令嬢にざまぁされた王子のその後
柚木崎 史乃
ファンタジー
王子アルフレッドは、婚約者である侯爵令嬢レティシアに窃盗の濡れ衣を着せ陥れようとした罪で父王から廃嫡を言い渡され、国外に追放された。
その後、炭鉱の町で鉱夫として働くアルフレッドは反省するどころかレティシアや彼女の味方をした弟への恨みを募らせていく。
そんなある日、アルフレッドは行く当てのない訳ありの少女マリエルを拾う。
マリエルを養子として迎え、共に生活するうちにアルフレッドはやがて自身の過去の過ちを猛省するようになり改心していった。
人生がいい方向に変わったように見えたが……平穏な生活は長く続かず、事態は思わぬ方向へ動き出したのだった。
誰もシナリオを知らない、乙女ゲームの世界
Greis
ファンタジー
【注意!!】
途中からがっつりファンタジーバトルだらけ、主人公最強描写がとても多くなります。
内容が肌に合わない方、面白くないなと思い始めた方はブラウザバック推奨です。
※主人公の転生先は、元はシナリオ外の存在、いわゆるモブと分類される人物です。
ベイルトン辺境伯家の三男坊として生まれたのが、ウォルター・ベイルトン。つまりは、転生した俺だ。
生まれ変わった先の世界は、オタクであった俺には大興奮の剣と魔法のファンタジー。
色々とハンデを背負いつつも、早々に二度目の死を迎えないために必死に強くなって、何とか生きてこられた。
そして、十五歳になった時に騎士学院に入学し、二度目の灰色の青春を謳歌していた。
騎士学院に馴染み、十七歳を迎えた二年目の春。
魔法学院との合同訓練の場で二人の転生者の少女と出会った事で、この世界がただの剣と魔法のファンタジーではない事を、徐々に理解していくのだった。
※小説家になろう、カクヨムでも投稿しております。
小説家になろうに投稿しているものに関しては、改稿されたものになりますので、予めご了承ください。
私に姉など居ませんが?
山葵
恋愛
「ごめんよ、クリス。僕は君よりお姉さんの方が好きになってしまったんだ。だから婚約を解消して欲しい」
「婚約破棄という事で宜しいですか?では、構いませんよ」
「ありがとう」
私は婚約者スティーブと結婚破棄した。
書類にサインをし、慰謝料も請求した。
「ところでスティーブ様、私には姉はおりませんが、一体誰と婚約をするのですか?」
【完結】側妃は愛されるのをやめました
なか
恋愛
「君ではなく、彼女を正妃とする」
私は、貴方のためにこの国へと貢献してきた自負がある。
なのに……彼は。
「だが僕は、ラテシアを見捨てはしない。これから君には側妃になってもらうよ」
私のため。
そんな建前で……側妃へと下げる宣言をするのだ。
このような侮辱、恥を受けてなお……正妃を求めて抗議するか?
否。
そのような恥を晒す気は無い。
「承知いたしました。セリム陛下……私は側妃を受け入れます」
側妃を受けいれた私は、呼吸を挟まずに言葉を続ける。
今しがた決めた、たった一つの決意を込めて。
「ですが陛下。私はもう貴方を支える気はありません」
これから私は、『捨てられた妃』という汚名でなく、彼を『捨てた妃』となるために。
華々しく、私の人生を謳歌しよう。
全ては、廃妃となるために。
◇◇◇
設定はゆるめです。
読んでくださると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる