上 下
4 / 5

第4話 空の代弁者

しおりを挟む
「皆さん、空が応えてくれました! 雨を絶やさないために、捧げ物を行うのです!」

「待ちに待った雨だ……捧げ物を……」

「これでもう最後だ……雨を、雨をもっと!」

 儀式場で大きく声を上げるギギーラ。
 ギギーラはウルルを使い、大雨を降らせて住民達を先導していた。

 住民達はなけなしの金品や価値のある物を差出し、ひたすらに雨を乞い続ける。そんな彼らを見て、ウルルは雨に隠れながら涙を流す。

「ああ……私に必要なのはそんな物では無いのに。空の精霊は、人に危害を加えるため、存在するのではありません……」

「フン、生活を精霊なんぞに託すから簡単に奪われる。だから私が変えよう。片田舎の寂れた街はこれから、集めた大金によって大陸有数の娯楽都市に成るのだ!」

 歪んだ町長の野望。それは街を開発し、大金を得るための都市に作り変える事であった。集まった捧げ物を前にニタニタと笑みを零すギギーラ。しかし。


「そこまでだよ」


「あぁ? お、お前は昨日の賊……。どうやってあの保管庫から抜け出した!?」

 突如として儀式場に現れたアマギ。彼女の周りには白い雪煙と共に、今までギギーラの奪ってきた捧げ物の数々が散らばっていた。

「お、おいあれ、俺達の渡した捧げ物じゃないか? なんであいつが持っている?」

「捧げ物は空の精霊に渡されて、もう返って来ないって話じゃ無かったか……?」

 騒然とする儀式場の住民達。立ち尽くす彼らを見て、ギギーラは声を荒げる。

「何をやっている! そいつは盗賊だ! さっさと捕らえないと、捧げ物を奪われ貴重な雨が止んでしまうぞ!」

「全く。本当に盗ったのは、どっちだろうね」

 町長に言われ、現れた盗賊を捕まえようとする住民達。
 走り回りながら逃げるアマギに向けて、フロロは願いを託す。

「中央にいるウルルに触れるっフル! アマギ、オイラの代わりに空の精霊を、大事な仲間を助けて欲しいっフロー!」

 フロロの叫びと共に、アマギは白い雪煙に包まれる。
 直後。雪煙の中から、真っ白なヴェールを纏ったアマギが飛び出した。


「馬鹿な! 精霊と融合した……!?」

 フロロの力を借りたアマギは、雪の精霊の力を使い、辺り一面を凍らせる。そして氷上を滑るように住民達を避け、中央で涙を流すウルルへと近づく。

「アマギさん!? どうして!?」

「助けてって言ったのはウルルだよ。それに、助けを呼んでくれたのもね」

 アマギとウルルの距離が近づく。二人を止めるため、町長は追手を急がせる。

「そいつを中央へ行かせるなぁ! クソっ、奪われてたまるか。雨もこの街も、私のものだあああ!」

 戸惑う住民達を避けて、アマギは中央のウルルを囲む見張りの中を突き進む。

「な、なんだこいつは!?」

「どうして急に氷が……ぐわっ!」

 アマギの進む道が、全て凍っていく。


「アマギ、ウルルと契約するっヒュー!」


「アマギさん、本当に私を……!」


「うん。助けるって、言ったよ!」


 アマギとウルルの手が、ついに触れ合う。
 その瞬間、叫び声のような大雨が降り止んだ。

「雨が、止んだ? 俺達の水が、消えた?」

「……違う。もっと空を見て見ろ!」

 儀式場に居た全ての者が、自然と天を仰ぎ空に意識を奪われる。

「空が、真っ白に染まった?」

「雪だ。雪が降ってる。この街に雪が降るなんて、こんな事生まれて初めてだ」

 雨が雪に塗り替えられる。無理やりに降っていた大雨が、優しい雪へと姿を変える。

 皆が雪に見とれる中、ただ一人だけは違っていた。
 全てを手に入れるはずだったギギーラは、一人中央に立つアマギへと襲い掛かる。

「お前、空を奪ったな!? 返せ。返せ返せ返せ返せ。私の野望を、私の雨を返せ、この空泥棒めがぁ!」

「空泥棒じゃないよ。私はただ、空の想いを感じ、空の想いを伝える代弁者」



「『ウェザーリポーター』だっフロ!」



 アマギの身体から、精霊の真っ白な雪が溢れ出す。

 雪はギギーラの身体を、道を違えた者を浄化するように覆い込む。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

無欲のクリスと不思議な貯金箱

小日向ななつ
ファンタジー
感情表現が薄い少女、クリスが通う魔術学園で大きな事件が起きた。 それは友達が先生の出来心で行った儀式によって貯金箱に変えられてしまったという事件だ。 しかも先生は自分をフッた元彼に復讐しようと禁術に手をつけていた。 とんでもないことが目の前で起き、クリスは困惑する。 だが、禁書に呪いを解く方法が書かれていた。それはどこかに飛び去っていったルミナスコインを集めれば、友達は元に戻れるということだ。 こうなったら旅に出るしかない。 ルミナスコインを求め、クリスは友達の姿を戻す旅に出る。 様々な出会いと別れを得て成長する少女達をご覧あれ! この作品は重複投稿しています

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

絶対に間違えないから

mahiro
恋愛
あれは事故だった。 けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。 だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。 何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。 どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。 私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...