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第二章 決断と静養
第16話 悠介の怒りと翔太の処遇 1
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「山下さん。あんな事とは?」
兄の言葉に竜也先輩が聞き返す。
翔太のエリート街道が絶たれる事が判明した瞬間だった。
「あぁ。あんな事とはな。此奴が准のマンションのポストにこんなのを入れてたんだ。」
と言って、兄は履いていたジーパンの後ろポケットから封筒を取り出し、竜也先輩に渡した。
それを受け取った先輩は、中身を読むと、思わず「チッ」と舌打ちをしていた。
そしてそれは、山仲部長の手へと渡り、最後に人事部長の手へも渡った。
「見て貰ったとおりだ、安東。此奴は准にストーカー行為を行なっていた。」
と兄は翔太がいる前方を指差しそう声をあげたんだ。
その言葉に動揺したのか?ドサッという音が聞こえた。
どうやら誰か(多分、翔太か未奈さんだろう)がフロアに座り込んでしまった音だと思う。
「で、でも!そ、それが翔太くんの書いたものだという証拠はあるんですか!」
と叫ぶ未奈さんに、
「アンタ馬鹿なの?」
と鼻で笑って挑発する兄。
「ば、馬鹿ですって?未奈は馬鹿じゃない!」
「馬鹿じゃなきゃ分かるだろ?俺が証拠も無くこの男をストーカーと断定するわけがない。」
そう言って兄はショルダーバッグからDVDを取り出し、
「これには、准が住んでるマンションの防犯カメラの映像が入ってる。ストーカー男が、准の部屋番号が書かれた集合ポストに手紙を入れてる姿がバッチリ映ってるぜ。少し画像は荒いが、然るべき機関に出せば精度も上げられるだろうし、十分な証拠になる筈だ。」
と言ってニヤリと笑う兄。
「う、嘘だ!ね?嘘だよね?翔太くん。嘘だと言って!ストーカーなんてやってないって!ね、翔太くん!!」
半ば半狂乱に叫ぶ未奈さんを他所に、
「副社長。あとは此方で引き継ぎます。大勢いたギャラリーが、こぞって社の醜聞としてSNSにアップされ拡散されてしまっています。副社長の方でも大至急ご対応願います。」
と仰る人事部長の言葉を受け、竜也先輩は小さく「了解!」と言ってその場をあとにする際、
「准は気にしなくていいから。元気でな。落ち着いたら連絡くれよ。」
と仰って、私達から離れて行った。
先輩が居なくなった事で私の視界を遮る背中が無くなり、現状がしっかりと見えた。
ロビーに座り込み項垂れているのは翔太で、その隣で未奈さんが立ち竦んでいた。
だが、そんな二人に追い討ちをかける様に、
「騒ぎを起こし、社名に泥を塗った沢木君と新村さんは、私と一緒に来なさい。」
そう冷たい声で仰る山仲営業部長。だが、翔太も未奈さんも動く様子がない。
「何をしている?二人とも私と一緒に来るんだ!」
と、そう強めの口調で仰る部長に恐る恐る視線を合わせた未奈さんは、渋々部長の傍に移動を始めるも、翔太は一向に立ち上がる様子もない。いや寧ろ、何かを呟いているのか、小さく口が動いているのを見て取れた。
そんな翔太に薄気味悪さを感じて、兄の服の裾を子供の様に握ってしまった。
そんな私を安心させるかのように、
「大丈夫だ、准。兄ちゃんは何気に強いの知ってるだろ?」
と言って、私の顔を覗き込みニッカリと笑う兄に、
「そうだったね。悠兄、空手、黒帯だもんね。」
と言って返した。
私達が笑い合っていると、
「山下さん。」
と左から声をかけられた。かけてきた人物は、時任 隆義人事部長だ。
「お話中申し訳ありません。お忙しいところ申し訳ございませんが、少しだけ宜しいですか?」
と時任部長から聞かれ、私達は体の向きを変えると、部長と向き合った。
すると、
「ロビーではなんですので、場所を変えましょう。此方へ」
と仰い、私達兄妹を先導するかのように歩き始めたんだ。
歩き乍私は兄に、
「あそこで翔太達を連れて行こうとされてたのは、営業部長の山仲さん。で、私達の目の前にいらっしゃるのは、「人事部で部長をしております、時任と申します。」……。」
とエレベーター前に着いたタイミングで振り向かれ、笑顔でそう部長は仰った。
その後私達はエレベーターに乗り込んだのだが、扉が閉まる直前に見た翔太は、警備員の男性二人に抱えられ、覚束無い足取りで、エレベーターへ向かって歩いて来るところだった。
兄の言葉に竜也先輩が聞き返す。
翔太のエリート街道が絶たれる事が判明した瞬間だった。
「あぁ。あんな事とはな。此奴が准のマンションのポストにこんなのを入れてたんだ。」
と言って、兄は履いていたジーパンの後ろポケットから封筒を取り出し、竜也先輩に渡した。
それを受け取った先輩は、中身を読むと、思わず「チッ」と舌打ちをしていた。
そしてそれは、山仲部長の手へと渡り、最後に人事部長の手へも渡った。
「見て貰ったとおりだ、安東。此奴は准にストーカー行為を行なっていた。」
と兄は翔太がいる前方を指差しそう声をあげたんだ。
その言葉に動揺したのか?ドサッという音が聞こえた。
どうやら誰か(多分、翔太か未奈さんだろう)がフロアに座り込んでしまった音だと思う。
「で、でも!そ、それが翔太くんの書いたものだという証拠はあるんですか!」
と叫ぶ未奈さんに、
「アンタ馬鹿なの?」
と鼻で笑って挑発する兄。
「ば、馬鹿ですって?未奈は馬鹿じゃない!」
「馬鹿じゃなきゃ分かるだろ?俺が証拠も無くこの男をストーカーと断定するわけがない。」
そう言って兄はショルダーバッグからDVDを取り出し、
「これには、准が住んでるマンションの防犯カメラの映像が入ってる。ストーカー男が、准の部屋番号が書かれた集合ポストに手紙を入れてる姿がバッチリ映ってるぜ。少し画像は荒いが、然るべき機関に出せば精度も上げられるだろうし、十分な証拠になる筈だ。」
と言ってニヤリと笑う兄。
「う、嘘だ!ね?嘘だよね?翔太くん。嘘だと言って!ストーカーなんてやってないって!ね、翔太くん!!」
半ば半狂乱に叫ぶ未奈さんを他所に、
「副社長。あとは此方で引き継ぎます。大勢いたギャラリーが、こぞって社の醜聞としてSNSにアップされ拡散されてしまっています。副社長の方でも大至急ご対応願います。」
と仰る人事部長の言葉を受け、竜也先輩は小さく「了解!」と言ってその場をあとにする際、
「准は気にしなくていいから。元気でな。落ち着いたら連絡くれよ。」
と仰って、私達から離れて行った。
先輩が居なくなった事で私の視界を遮る背中が無くなり、現状がしっかりと見えた。
ロビーに座り込み項垂れているのは翔太で、その隣で未奈さんが立ち竦んでいた。
だが、そんな二人に追い討ちをかける様に、
「騒ぎを起こし、社名に泥を塗った沢木君と新村さんは、私と一緒に来なさい。」
そう冷たい声で仰る山仲営業部長。だが、翔太も未奈さんも動く様子がない。
「何をしている?二人とも私と一緒に来るんだ!」
と、そう強めの口調で仰る部長に恐る恐る視線を合わせた未奈さんは、渋々部長の傍に移動を始めるも、翔太は一向に立ち上がる様子もない。いや寧ろ、何かを呟いているのか、小さく口が動いているのを見て取れた。
そんな翔太に薄気味悪さを感じて、兄の服の裾を子供の様に握ってしまった。
そんな私を安心させるかのように、
「大丈夫だ、准。兄ちゃんは何気に強いの知ってるだろ?」
と言って、私の顔を覗き込みニッカリと笑う兄に、
「そうだったね。悠兄、空手、黒帯だもんね。」
と言って返した。
私達が笑い合っていると、
「山下さん。」
と左から声をかけられた。かけてきた人物は、時任 隆義人事部長だ。
「お話中申し訳ありません。お忙しいところ申し訳ございませんが、少しだけ宜しいですか?」
と時任部長から聞かれ、私達は体の向きを変えると、部長と向き合った。
すると、
「ロビーではなんですので、場所を変えましょう。此方へ」
と仰い、私達兄妹を先導するかのように歩き始めたんだ。
歩き乍私は兄に、
「あそこで翔太達を連れて行こうとされてたのは、営業部長の山仲さん。で、私達の目の前にいらっしゃるのは、「人事部で部長をしております、時任と申します。」……。」
とエレベーター前に着いたタイミングで振り向かれ、笑顔でそう部長は仰った。
その後私達はエレベーターに乗り込んだのだが、扉が閉まる直前に見た翔太は、警備員の男性二人に抱えられ、覚束無い足取りで、エレベーターへ向かって歩いて来るところだった。
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