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第二章 決断と静養
第15話 翔太の未奈の戯れ言 3
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私が未奈さんに一言物申そうと、肩に回されたままの兄の腕を外す為に少しだけ身動ぎしたのだけれど、その気配を感じたらしい竜也先輩に手で制されてしまった。
そんな先輩を見上げ
「先輩?」
と呟くと、
「大丈夫だよ、准。ここは俺がちゃんとする。だから准は悠介さんに支えてて貰うんだ。ほら。まだ顔色が悪いぞ。」
と言って首だけ回して後方にいる私を見ると、先輩は優しく微笑んでくれた。
すると兄も
「安東に任せておけ。准は何も悪くないし、あの女を庇ってやる必要も無い。それにほら。あの馬鹿どもにはおあつらえ向きの舞台になってるだろう?」
と言って、ニヤリと笑いながら周りを見渡す兄。
その視線を追って私も周りを見てみると、そこには大勢のギャラリーが集まっており、皆それぞれに翔太と未奈さんを見ては、ひそひそ話をしている様だった。
だが当の彼等はそれどころでは無いらしい。二人は激しく言い争っていて、「自分は悪くない、そっちが悪い。」と言っては声を荒らげていた。
そんな様子を見ていた先輩は、スーツの内ポケットからスマートフォンを出すと、何処かに電話をかけていた。
すると間もなく、「チーン」とエレベーターの到着音が微かだが聞こえた("微か”なのは、翔太と未奈さんが言い争う声と、ギャラリーの声にかき消されたからなんだけどね)。
その後ロビーに現れた二人の男性の姿を見たギャラリーの大半は、
「やべぇ」
と小さく言ってその場から立ち去って行く。
それもそのはず
現れたのは人事部長と営業部長のお二人だったからだ。
さっき竜也先輩が電話をかけた相手。それはこのお二人だったんだ。
「やれやれ。揉め事が起きていると聞いて来てみれば……。二人は何をやってるのかな?沢木君、新村さん。」
と私達の横を通り、翔太達二人の前に立たれたのは山仲営業部長。
「「や、山仲部長!」」
驚きを含んだ二人の声が見事に調和して聞こえてきた。
「君たち二人はどうして今ここにいるのかな?」
と翔太達に問う山仲部長の声色は優しい。
「有給休暇を取っている新村さんは兎も角。沢木君。」
「は!はいっ!」
「君は今日。新しい赴任先の支店長に挨拶に伺うアポを取っているんじゃなかったかな?」
「はっ……えと……、それはその……。」
「なのに何故君はここにいるのかな?説明してくれるか?」
と仰る部長のお声は優しいけど、フレームレスの眼鏡の奥で光るその眼はきっと、鋭く翔太を見ていると思う。
山仲部長という人物は、所謂"叩き上げ部長”だ。
彼は28歳でSPA商事に途中入社し、営業部に配属されるた。
すると、見る間に頭角を現し、短期間で社内トップの売り上げを叩きだしたんだ。
その後は、後輩の教育係や主任業務を経て、35歳の若さで部長迄駆け上がった人なのだ。にもかかわらず、部長業務を行ないつつも未だ自ら営業にも回るというタフさをみせていると聞く。
そんな山仲部長に、翔太は憧れを抱いていると言っていたのを覚えている。
だからこそ今この瞬間
翔太の中では、自らが描いた未来の青写真と、尊敬する部長からの翔太に対する信頼が、ガラガラと音を立てて崩れて行くのを感じている事だろう。
そんな翔太に対し
「へぇ~。お前って、そんな大事な事すっぽかして准を罵ったのか。社会人としての自覚ってやつ、お前にあんの?………… まぁ無いよな?だってあったらあんな事しねぇもんな。」
と兄が容赦なく爆弾を投下した。
兄の言う"あんな事”とは、私が住むマンションに来ては手紙を入れたりした、所謂『ストーカー行為』の事だ。
どうやら悠介兄は、翔太に対して相当な怒りを持っている様だった。
そんな先輩を見上げ
「先輩?」
と呟くと、
「大丈夫だよ、准。ここは俺がちゃんとする。だから准は悠介さんに支えてて貰うんだ。ほら。まだ顔色が悪いぞ。」
と言って首だけ回して後方にいる私を見ると、先輩は優しく微笑んでくれた。
すると兄も
「安東に任せておけ。准は何も悪くないし、あの女を庇ってやる必要も無い。それにほら。あの馬鹿どもにはおあつらえ向きの舞台になってるだろう?」
と言って、ニヤリと笑いながら周りを見渡す兄。
その視線を追って私も周りを見てみると、そこには大勢のギャラリーが集まっており、皆それぞれに翔太と未奈さんを見ては、ひそひそ話をしている様だった。
だが当の彼等はそれどころでは無いらしい。二人は激しく言い争っていて、「自分は悪くない、そっちが悪い。」と言っては声を荒らげていた。
そんな様子を見ていた先輩は、スーツの内ポケットからスマートフォンを出すと、何処かに電話をかけていた。
すると間もなく、「チーン」とエレベーターの到着音が微かだが聞こえた("微か”なのは、翔太と未奈さんが言い争う声と、ギャラリーの声にかき消されたからなんだけどね)。
その後ロビーに現れた二人の男性の姿を見たギャラリーの大半は、
「やべぇ」
と小さく言ってその場から立ち去って行く。
それもそのはず
現れたのは人事部長と営業部長のお二人だったからだ。
さっき竜也先輩が電話をかけた相手。それはこのお二人だったんだ。
「やれやれ。揉め事が起きていると聞いて来てみれば……。二人は何をやってるのかな?沢木君、新村さん。」
と私達の横を通り、翔太達二人の前に立たれたのは山仲営業部長。
「「や、山仲部長!」」
驚きを含んだ二人の声が見事に調和して聞こえてきた。
「君たち二人はどうして今ここにいるのかな?」
と翔太達に問う山仲部長の声色は優しい。
「有給休暇を取っている新村さんは兎も角。沢木君。」
「は!はいっ!」
「君は今日。新しい赴任先の支店長に挨拶に伺うアポを取っているんじゃなかったかな?」
「はっ……えと……、それはその……。」
「なのに何故君はここにいるのかな?説明してくれるか?」
と仰る部長のお声は優しいけど、フレームレスの眼鏡の奥で光るその眼はきっと、鋭く翔太を見ていると思う。
山仲部長という人物は、所謂"叩き上げ部長”だ。
彼は28歳でSPA商事に途中入社し、営業部に配属されるた。
すると、見る間に頭角を現し、短期間で社内トップの売り上げを叩きだしたんだ。
その後は、後輩の教育係や主任業務を経て、35歳の若さで部長迄駆け上がった人なのだ。にもかかわらず、部長業務を行ないつつも未だ自ら営業にも回るというタフさをみせていると聞く。
そんな山仲部長に、翔太は憧れを抱いていると言っていたのを覚えている。
だからこそ今この瞬間
翔太の中では、自らが描いた未来の青写真と、尊敬する部長からの翔太に対する信頼が、ガラガラと音を立てて崩れて行くのを感じている事だろう。
そんな翔太に対し
「へぇ~。お前って、そんな大事な事すっぽかして准を罵ったのか。社会人としての自覚ってやつ、お前にあんの?………… まぁ無いよな?だってあったらあんな事しねぇもんな。」
と兄が容赦なく爆弾を投下した。
兄の言う"あんな事”とは、私が住むマンションに来ては手紙を入れたりした、所謂『ストーカー行為』の事だ。
どうやら悠介兄は、翔太に対して相当な怒りを持っている様だった。
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