海より深い隠れ御曹司の溺愛

Saeko

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第二章 決断と静養

第13話 翔太と未奈の戯れ言 1

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「ロビーまで送るよ。」
と仰った竜也りゅうや先輩のご好意に甘える事にした私は、揃ってエレベーターに乗った。

何故この様な状況になっているのかと言うと……。本当は一人で行く予定だったのに、先輩が「ロビーは危険だからな。」と言って聞かなかったからだ。

何が危険なのか分からなかった‪私だったが、エレベーターが一階に到着し一歩足を踏み出したその瞬間、
「准!」
「准子!」
「准子さんッ!」
私の名前を呼ぶ三人の声がロビーに響いた事で、さっき先輩が"危険だ”と仰った事が分かった。と言うか、身体が反応したんだ。

二つの声は男性のもの。残り一つの声は女性から発せられたものだった。

先ず、真っ直ぐ前から聞こえた男性の声。
私の事を"准”と呼んだ声だ。
それを発した声の主は直ぐに分かった。
兄だ。
兄とは、迎えに来てくれる約束をしていた。だから、ロビーここにいるのは分かっていた。


そして、残りの男女の声は同じ方向から聞こえた気がした。

声がした方を見ると、そこには翔太と未奈さんが並んで立っていたんだ。

身体が反応したのはこの二人の声に、だ。
足がガクガクと震え、全身の血の気がサーっと引いていくのが分かった。


そんな私と視線が合ったのが分かった二人が、私の方に向かって駆けて来た。
そのタイミングと同時に兄も駆け出し、私を翔太と未奈さんから守ろうと彼等の間に立ち塞がってくれ、同じ様に竜也先輩も私の前に立ってくれた。

先輩の右隣に立った兄の腕が、斜め後ろにいる私の肩をそっと抱いてくれた。
兄の体温を感じたおかげで、全身の血の気が戻った気がした。
「ありがと。」
と小さく呟くと、兄は
「大丈夫だ、准。この場は俺と副社長さんに任せるんだ。お前は何も言わなくて良いから。」
ボソッとそう言って、私の肩に回ったその手で、今度はギュッと抱き寄せてくれる。

私達がそんなやり取りをしていると、
「准子!」
と業を煮やしたらしい翔太がまた私の名前を呼んだ。しかも何故だか怒り口調だ。
何故怒り口調そうなのか皆目見当もつかない私は、油断すると倒れそうになる自分を叱咤しつつも、兄と先輩の後ろで身を縮めていた。

「はっ!そうやって副社長に庇って貰って媚を売って、翔太君を会社から追い出したのね?私に彼氏を取られて頭に来たのはわかるけど、だからと言って翔太君をあんなド田舎に飛ばさせるとか。酷すぎるわ!卑怯よ!!」
と"山下さん”と以前は言っていたはずの未奈さん。
「未奈の言うとおりだ。卑怯だぞ准子!」
と翔太。
二人は、私の知らない事項を言っては、社屋ロビーで喚き散らしている。

彼等は、私が先輩に言って、"翔太を田舎へ飛ばした”と言っているのだが、私がそんな事するわけもなければ、人事に口を夾める立場にも無い。
それくらい翔太にだって分かる事だと思うのに、何故私のせいになっているのだろう。

混乱する頭を整理する間もなく、
「あぁ分かったぞ。准子。お前。副社長の愛人なんだろ?」
となんの根拠も無い言葉が翔太の口から発せられた。

「「「はぁ?」」」

私と兄、そして先輩の口から出た言葉は見事なユニゾンを奏でたんだ。


翔太の訳の分からない発言に頭を抱えた私達を余所に、
「優秀な俺に捨てられた腹いせに副社長の愛人になってて、俺と未奈を陥れようとたんだろ?でも残念だったな。副社長にはお前なんて逆立ちしたって届かない最高に綺麗な婚約者がいるんだ。お前なんかどう転んだって一生愛人止まりなんだぜ。」
等と言葉を続けた翔太。

私が竜也先輩の愛人!?
愛人の立場に収まって翔太と未奈さんを陥れた?

何を馬鹿な事を翔太は言っているのだろうか。

本当に理由が分からなくて、また倒れそうだ。

そんな私の様子が分かったのだろう。兄の私の肩を抱く手がまた少しだけど強くなったのを感じたんだ。
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