海より深い隠れ御曹司の溺愛

Saeko

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第二章 決断と静養

第12話 別れの挨拶と宣言 3

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「ですので広澤さん。先程副社長が仰った様に、何処の部署に異動となっても大丈夫な資料をお願い致しますね?いつも完璧・・な資料作りをなさる広澤さんですから、造作もない事でしょう。」
と、手塚課長は広澤先輩を追い詰める手を緩める事はない。
「まさかとは思いますが、山下さんがいらっしゃらないと書類もまともに作れないとかではありませんよね?」
と怖いくらいの笑顔で仰る手塚課長を見る事が出来ず無言で俯く広澤先輩。
「あぁ。そう言えばつい最近でしたか。鈴木専務が、広澤さんの作った書類に不備があった為に会議で恥をかいたと大層ご立腹だったと聞き及んでおりますが。アレも山下さんがいらっしゃらなかったから不備があった……とかでは無いですよね?」
「い、いえ……。そ、そんな事は……。」
「そうですよね。あの程度の会議資料くらい広澤さんでしたら・・・・山下さんの力が無くともミスなんてなさいませんよね。きっとあの時は、山下さんがお休みされてしまった事で、心配のあまり犯してしまったミスなのでしょう。」
と仰る手塚課長の言葉に救いを見出したのか、広澤先輩がガバッと頭を上げ縋る様な眼をして
「そっ、そうなんですの。山下さんがお休みされて、わたくし心配で心配で…「ですが!」ヒッ!」
「ですが私達は秘書のプロです!喩え心配事があったとしても、それを理由にミスは出来ません。ひとつのうっかりミスが、会社にとって大損害になりかねない。そういう畏れもある事は、分かっている事でしょう。」
と手塚課長は秘書課の皆さん一人ひとりを見ながらそう仰った。

そう。私達が作った資料がベースとなり、そこから大きな数字が動く事になる。勿論、企画を立てた営業の皆さんの力があったからこそ成り立った契約である事は言わずもがなだが。彼等の汗と涙の努力の結晶を綺麗に咲かせる資料作りをするのも、私達秘書の仕事でもあるのだ。

「あなた方の今までの仕事ぶりは、この人事評価表にきちんと示してあります。勿論!誰か1人に仕事を押し付けていた事や、それを率先してやっていた人を諭すわけでもなく、それに白地あからさまではないにしろ便乗していたと思われる行動も全て!」

いつになく厳しい口調でそう仰っていらした課長だったが、急に声のトーンを落とすと、
「とはいえ、この私も悪かったのです。山下さんがこんな精神的ダメージを受け乍の状況で仕事をなさってきた事に気付けなかった。部下の管理をきちんと出来なかった無能な上司を許して下さい。本当に申し訳ありません。山下さん。」
と私に向き直り深々と頭を下げられたのだ。

すると、それに倣うように竜也先輩も頭を下げたから、私はいたたまれない気持ちになってしまった。

「副社長。手塚課長。お二人共頭を上げてください。お二人は悪くありませんし、私が上手く出来なかっただけなんです。でも…もし悪いとお思いでしたら、これからもっと素晴らしい会社になる様に、頑張って下さい。上から目線な言葉で大変申し訳ありませんが、御社の益々のご発展を陰ながら応援させて頂きます。皆さん。色々ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした。今までお世話になりました。ありがとうございました。」
と、私は竜也先輩と手塚課長に話した後、秘書課全体に向け話した。

最後まで秘書課の女性達からの謝罪が無いのは残念だったが、竜也先輩と手塚課長から遠回しの異動という左遷通告を受けた事は、彼女達にとって最大の罰になった事だろう。

そして私は、少ない私物を持つと、秘書課の出入口でもう一度頭を下げた後、気になっていた事を課長にぶつけてみたのだ。
「課長?私が共有ファイルに保存した資料をご覧になったそうですが。いかがでしょうか?」
と問うと、
「とても素晴らしい資料でした。早速活用させて頂きますね。あぁ。あまりに素晴らしかったので、共有ファイルから抜いて私の個人ファイルに入れてありますけど。」
「え?」
「だってそうでしょう?あの様な素晴らしい資料があったら、それに頼って己の仕事をきちんとこなせない様な秘書が、また出てこないとも限らないではないですか。それにあれは山下さんの努力の結晶です。だから、課長権限で非公開に致しましたよ。」
としれっと仰った課長に、思わず震えてしまったのは内緒の話だ。
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