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第一章 理不尽
第6話 自分という存在
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気がつくと、そこは会社の医務室だった。
「気がつきましたか?」
産業医の眞山先生が優しい声と瞳で聞いてくれた。
「えと…はい。ありがとうございます。」
「熱を測らせてね?」
と仰って、計測器を私の額に向け体温を測ってくれる。
「36.3ね。うん、熱は無し!倒れた原因は過度のストレスね。」
(ストレス…… だよね。あんな場面に遭遇したら、鋼のメンタルじゃない限り耐えるなんて出来ないでしょ。)
そんな事を考えていたら、ドアをノックする音に気づいた眞山先生が、医務室のドアを少しだけ開き、訪問者に対応している様だ。
(ふぅん…。私、翔太を束縛してたんだ?仕事仕事で私とは会おうともしない事を、私より仕事や友人を優先する事を、咎めた事も責めた事も1度も無いし、連絡が来なくてもしつこく言い募ったりしなかったのに……。ふぅん……妊娠ねぇ。私とはしっかり避妊していたのは、私なんかとの間に子供が出来たらまずいって思ってたからなんだね。アノ子みたいな子が最初から狙いだったって事か……。そうだよね……アノ子は役員の遠い親戚。上手くいけば逆玉だって夢じゃない。私なんか…なんの縁故も無いただの女なんかより、よっぽど……。)
「入るよ、准。」
そう言ってベッド周りにあるカーテンを開けて入ってきたのは、副社長の竜也先輩だった。
「先輩……。」
起き上がろうとする私を手で制しながら、
「聞いたよ、准。酷い目にあったな。」
と心配して下さる竜也先輩。
「い……いえ……。」
「無理するな、准。」
「すみません……。」
忙しい中時間を割いて私なんかの見舞いに来てくださった先輩に対してただただ申し訳なくなり、私は寝たままの状態でそっと目を先輩から逸らすと、目線を天井へ向けた。
「まだ顔色が良くないな。今日はこのまま帰りなさい。なんなら暫の間休んでもいいから。」
(そうだよね。会社役員の遠縁の子と恋人を取り合って負けたアラサーの女なんて、会社にとって恥ずかしいだけの存在だよね。)
この時の私は、そんな風に物事を悲観する事しか出来なかった。
「分かりました副社長。お言葉に甘えさせて頂きます。お忙しい中ありがとうございました。どうぞお仕事にお戻りください。」
私の圧に負けたのか?竜也先輩は、一瞬たじろいだかのように見えたが、直ぐにいつもの優しい笑顔に戻り、
「タクシーを呼んでおくから、荷物を纏めておいで。」
と言って、医務室を出ていった。
その後私は、なんとかベッドから這い出た後、眞山先生にご迷惑をおかけした事を謝罪し、医務室を出るとふらつく足取りで秘書課へと戻った。
そして自分のデスクに着くと無言で荷物を纏め、内線で横山部長に早退する旨を伝えた。
「あら?帰るの?まぁそれはそうよね~。恋人は専務の遠縁の子を妊娠させて、貴女を捨てる事にしたんだもん。私だったら辛くて二度と会社には来れないわ~。それにしても、恋人に「俺を解放してくれ!」って言われてた時の貴女の顔。思い出しただけで笑えるわ。」
と言って1人でゲラゲラと笑っている広澤先輩。
当然他の人はチラチラと私を見るだけで何も言わない。
すると秘書課の部屋のドアがガチャっと開かれ、
「勤務時間中に人の事を笑い者にしている暇があるとは。広澤さんは余程暇なのか?そんなに時間を持て余してるのなら、自分で仕事を見つけたらどうだ?」
と、副社長がドア近くの壁に凭れながらそう言った。
「気がつきましたか?」
産業医の眞山先生が優しい声と瞳で聞いてくれた。
「えと…はい。ありがとうございます。」
「熱を測らせてね?」
と仰って、計測器を私の額に向け体温を測ってくれる。
「36.3ね。うん、熱は無し!倒れた原因は過度のストレスね。」
(ストレス…… だよね。あんな場面に遭遇したら、鋼のメンタルじゃない限り耐えるなんて出来ないでしょ。)
そんな事を考えていたら、ドアをノックする音に気づいた眞山先生が、医務室のドアを少しだけ開き、訪問者に対応している様だ。
(ふぅん…。私、翔太を束縛してたんだ?仕事仕事で私とは会おうともしない事を、私より仕事や友人を優先する事を、咎めた事も責めた事も1度も無いし、連絡が来なくてもしつこく言い募ったりしなかったのに……。ふぅん……妊娠ねぇ。私とはしっかり避妊していたのは、私なんかとの間に子供が出来たらまずいって思ってたからなんだね。アノ子みたいな子が最初から狙いだったって事か……。そうだよね……アノ子は役員の遠い親戚。上手くいけば逆玉だって夢じゃない。私なんか…なんの縁故も無いただの女なんかより、よっぽど……。)
「入るよ、准。」
そう言ってベッド周りにあるカーテンを開けて入ってきたのは、副社長の竜也先輩だった。
「先輩……。」
起き上がろうとする私を手で制しながら、
「聞いたよ、准。酷い目にあったな。」
と心配して下さる竜也先輩。
「い……いえ……。」
「無理するな、准。」
「すみません……。」
忙しい中時間を割いて私なんかの見舞いに来てくださった先輩に対してただただ申し訳なくなり、私は寝たままの状態でそっと目を先輩から逸らすと、目線を天井へ向けた。
「まだ顔色が良くないな。今日はこのまま帰りなさい。なんなら暫の間休んでもいいから。」
(そうだよね。会社役員の遠縁の子と恋人を取り合って負けたアラサーの女なんて、会社にとって恥ずかしいだけの存在だよね。)
この時の私は、そんな風に物事を悲観する事しか出来なかった。
「分かりました副社長。お言葉に甘えさせて頂きます。お忙しい中ありがとうございました。どうぞお仕事にお戻りください。」
私の圧に負けたのか?竜也先輩は、一瞬たじろいだかのように見えたが、直ぐにいつもの優しい笑顔に戻り、
「タクシーを呼んでおくから、荷物を纏めておいで。」
と言って、医務室を出ていった。
その後私は、なんとかベッドから這い出た後、眞山先生にご迷惑をおかけした事を謝罪し、医務室を出るとふらつく足取りで秘書課へと戻った。
そして自分のデスクに着くと無言で荷物を纏め、内線で横山部長に早退する旨を伝えた。
「あら?帰るの?まぁそれはそうよね~。恋人は専務の遠縁の子を妊娠させて、貴女を捨てる事にしたんだもん。私だったら辛くて二度と会社には来れないわ~。それにしても、恋人に「俺を解放してくれ!」って言われてた時の貴女の顔。思い出しただけで笑えるわ。」
と言って1人でゲラゲラと笑っている広澤先輩。
当然他の人はチラチラと私を見るだけで何も言わない。
すると秘書課の部屋のドアがガチャっと開かれ、
「勤務時間中に人の事を笑い者にしている暇があるとは。広澤さんは余程暇なのか?そんなに時間を持て余してるのなら、自分で仕事を見つけたらどうだ?」
と、副社長がドア近くの壁に凭れながらそう言った。
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