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第一章 理不尽
第5話 衝撃の事実
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週が明けた月曜日。
下っ端の私は、秘書課の中でも1番始めに出勤し、秘書課の掃除をし、コーヒーメーカーに水(勿論水道水では無い)を入れ役員達の好みの豆の残量チェックをしたり、お客様にお出しする各種飲料の在庫チェックをすると、今日の会議の段取りや専務のスケジュールの確認に入る。
そうこうしている間に、広澤先輩以外の秘書課のメンバーが続々と出勤してくる。
「おはようございます。」
と挨拶をすれば、
「おはようございます。」
と返っては来るが、私に関わる広澤先輩から睨まれるのが嫌なので、業務に直接関わる事以外話をしてくれる事は無い。
就業時刻5分になると、漸く広澤先輩が出社してくる。
私は、プリントアウトした専務のスケジュール表を確認して貰う為に立ち上がり、両手でその紙を広澤先輩に差し出すのだ。
私にその紙を持たせたままチラリとスケジュールに間違いが無いかの確認をする広澤先輩。
そして、間違いが無いと分かれば、既に端末に送られているスケジュール画面を開き、席を立って役員達の部屋がある隣のエリアに向かうのだ。
一応今日のは大丈夫だった様で、広澤先輩は秘書課の部屋から出て行った。が直ぐに私のデスクにある電話が鳴り響いた。ディスプレイに表示されている番号は、専務室の内線番号。
「はい。秘書課、山下でございます。」
「山下さん?今すぐ鈴木専務のお部屋にいらっしゃい。専務がお呼びよ。」
「畏まりました。直ぐに伺います。」
そう言って受話器を置くと、どんな事へも対応出来る様に、端末を持ち、スーツのポケットにペンとメモ帳を入れ専務室へと急いだ。
コンコン
「失礼致します。山下です。」
「あぁ、入りなさい。」
鈴木専務の声が聞こえる。声の調子から、機嫌はそんなに悪くない様に思えた。
入室すると、そこに居たのは、ソファに座る専務。その後ろに立っている広澤先輩。そして、専務の隣にちょこんと座っていたのは、遠い親戚といわれている営業課で沢木翔太のサポートをしている新村未奈ちゃんだ。
そしてもう一人。専務の前に座る男性が居た。顔を見なくても後ろ姿だけで誰なのか直ぐに分かった。
その男性は、私の恋人の沢木翔太その人だったから。
「そんな所で立っとらんとこっちに来たまえ、山下くん。」
「はい。失礼致します。」
専務達が座るソファの近くまで来ると、
「沢木君は、そこに立っとる秘書課の山下君の恋人だそうだが、それは本当なのかな?」
とニタニタと笑いながら翔太に尋ねる狸。
「あ……えぇまぁ……はい。」
と煮え切らない返事をする翔太に、
「では、私の可愛い遠縁の未奈君との事は遊びだったと言うのかね?」
と強い口調で問いただす狸に、
「そ、そんな事は……。」
としどろもどろな翔太に業を煮やしたのか、未奈ちゃんが声をあげた。
「酷い!酷いよ翔太くん。未奈。翔太君の事本気なのに。」
と言った後、手で顔を覆いシクシクと泣き出した。
「おお、おお。泣くんじゃ無いよ。それではお腹の子に響くだろう?」
え?お腹の子?まさか……。
驚く私と同じ…いや、それ以上に驚いた様子の翔太。
「お腹の子って、未奈。まさか……。」
「そうだよ、翔太君。未奈のお腹には翔太君の子供がいるの。」
顔を上げた未奈ちゃんの目は少しも濡れていなかったが、翔太は気づかない様だった。
「沢木君。君は未奈君のお腹の子の親として、どう責任を取るつもりかね?」
「責任って……。」
「大方そこに立っとる山下君に、弱味でも握られとるんじゃないかね?だから別れられないでいるんじゃないのか?ん?」
と私と翔太を交互に見て声を荒らげる狸の言葉を受け、未奈ちゃんがまた声を発した。
「山下さん。翔太君をどうか開放してやって下さい。縛り付けないであげて欲しいんです。翔太君いつも言ってました。『准子の束縛が酷くて辛い』って……。翔太君を好きなら、彼を自由にさせてあげて欲しいんです。お願いします!」
「え?私が翔太を束縛?そんな事して「頼む、准子。俺をもう開放してくれ。頼むよ!」え?翔太?何言ってるの?」
「醜いぞ?山下君。好きな男が頭を下げて頼んでいるんだ。開放してやるべきでは無いのかね?前々から気の利かない女だとは思っていたが、恋人にもそうなのかね?だから浮気をされるんだ。」
するとそこへ、広澤先輩が口を挟んだ。
「専務。そこまではっきりと仰られなくても宜しいんじゃありませんか?」
「いやいや、広澤君。こういう事は本人の為にはっきり言ってやるのが上司ってもんだ。」
「流石は専務ですわ。感服致しました。」
広澤先輩の言葉に気を良くした狸は尚も私に話しかける。
「さぁ、言いたまえ!沢木君を未奈君に渡す、と。愛し合う2人の為に身を引きます、と。」
「専務の仰るとおりよ?さぁ早く!」
狸と先輩から「早く!早く!」と言葉を急かされる。翔太を見ても目を逸らされ、未奈ちゃんは狸から見えない様に、「早く言えば?」と声に出さずに口だけを動かして私に告げている。
ズキズキと頭が痛み出した。おまけに吐き気もする。
「ほら、何をグズグズしておるんだね。私も忙しいんだ!」
狸の大声が頭に響いたその瞬間!
ドタッ!!
私の視界は暗転した……。
下っ端の私は、秘書課の中でも1番始めに出勤し、秘書課の掃除をし、コーヒーメーカーに水(勿論水道水では無い)を入れ役員達の好みの豆の残量チェックをしたり、お客様にお出しする各種飲料の在庫チェックをすると、今日の会議の段取りや専務のスケジュールの確認に入る。
そうこうしている間に、広澤先輩以外の秘書課のメンバーが続々と出勤してくる。
「おはようございます。」
と挨拶をすれば、
「おはようございます。」
と返っては来るが、私に関わる広澤先輩から睨まれるのが嫌なので、業務に直接関わる事以外話をしてくれる事は無い。
就業時刻5分になると、漸く広澤先輩が出社してくる。
私は、プリントアウトした専務のスケジュール表を確認して貰う為に立ち上がり、両手でその紙を広澤先輩に差し出すのだ。
私にその紙を持たせたままチラリとスケジュールに間違いが無いかの確認をする広澤先輩。
そして、間違いが無いと分かれば、既に端末に送られているスケジュール画面を開き、席を立って役員達の部屋がある隣のエリアに向かうのだ。
一応今日のは大丈夫だった様で、広澤先輩は秘書課の部屋から出て行った。が直ぐに私のデスクにある電話が鳴り響いた。ディスプレイに表示されている番号は、専務室の内線番号。
「はい。秘書課、山下でございます。」
「山下さん?今すぐ鈴木専務のお部屋にいらっしゃい。専務がお呼びよ。」
「畏まりました。直ぐに伺います。」
そう言って受話器を置くと、どんな事へも対応出来る様に、端末を持ち、スーツのポケットにペンとメモ帳を入れ専務室へと急いだ。
コンコン
「失礼致します。山下です。」
「あぁ、入りなさい。」
鈴木専務の声が聞こえる。声の調子から、機嫌はそんなに悪くない様に思えた。
入室すると、そこに居たのは、ソファに座る専務。その後ろに立っている広澤先輩。そして、専務の隣にちょこんと座っていたのは、遠い親戚といわれている営業課で沢木翔太のサポートをしている新村未奈ちゃんだ。
そしてもう一人。専務の前に座る男性が居た。顔を見なくても後ろ姿だけで誰なのか直ぐに分かった。
その男性は、私の恋人の沢木翔太その人だったから。
「そんな所で立っとらんとこっちに来たまえ、山下くん。」
「はい。失礼致します。」
専務達が座るソファの近くまで来ると、
「沢木君は、そこに立っとる秘書課の山下君の恋人だそうだが、それは本当なのかな?」
とニタニタと笑いながら翔太に尋ねる狸。
「あ……えぇまぁ……はい。」
と煮え切らない返事をする翔太に、
「では、私の可愛い遠縁の未奈君との事は遊びだったと言うのかね?」
と強い口調で問いただす狸に、
「そ、そんな事は……。」
としどろもどろな翔太に業を煮やしたのか、未奈ちゃんが声をあげた。
「酷い!酷いよ翔太くん。未奈。翔太君の事本気なのに。」
と言った後、手で顔を覆いシクシクと泣き出した。
「おお、おお。泣くんじゃ無いよ。それではお腹の子に響くだろう?」
え?お腹の子?まさか……。
驚く私と同じ…いや、それ以上に驚いた様子の翔太。
「お腹の子って、未奈。まさか……。」
「そうだよ、翔太君。未奈のお腹には翔太君の子供がいるの。」
顔を上げた未奈ちゃんの目は少しも濡れていなかったが、翔太は気づかない様だった。
「沢木君。君は未奈君のお腹の子の親として、どう責任を取るつもりかね?」
「責任って……。」
「大方そこに立っとる山下君に、弱味でも握られとるんじゃないかね?だから別れられないでいるんじゃないのか?ん?」
と私と翔太を交互に見て声を荒らげる狸の言葉を受け、未奈ちゃんがまた声を発した。
「山下さん。翔太君をどうか開放してやって下さい。縛り付けないであげて欲しいんです。翔太君いつも言ってました。『准子の束縛が酷くて辛い』って……。翔太君を好きなら、彼を自由にさせてあげて欲しいんです。お願いします!」
「え?私が翔太を束縛?そんな事して「頼む、准子。俺をもう開放してくれ。頼むよ!」え?翔太?何言ってるの?」
「醜いぞ?山下君。好きな男が頭を下げて頼んでいるんだ。開放してやるべきでは無いのかね?前々から気の利かない女だとは思っていたが、恋人にもそうなのかね?だから浮気をされるんだ。」
するとそこへ、広澤先輩が口を挟んだ。
「専務。そこまではっきりと仰られなくても宜しいんじゃありませんか?」
「いやいや、広澤君。こういう事は本人の為にはっきり言ってやるのが上司ってもんだ。」
「流石は専務ですわ。感服致しました。」
広澤先輩の言葉に気を良くした狸は尚も私に話しかける。
「さぁ、言いたまえ!沢木君を未奈君に渡す、と。愛し合う2人の為に身を引きます、と。」
「専務の仰るとおりよ?さぁ早く!」
狸と先輩から「早く!早く!」と言葉を急かされる。翔太を見ても目を逸らされ、未奈ちゃんは狸から見えない様に、「早く言えば?」と声に出さずに口だけを動かして私に告げている。
ズキズキと頭が痛み出した。おまけに吐き気もする。
「ほら、何をグズグズしておるんだね。私も忙しいんだ!」
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