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第四章 留学
第八話 解術と牙
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実は旭陽は、陽子にかけられていた暗示を、少しだけだったが解く事に成功していた。
それは、姫菜子達の渡米パーティをしていた時と同じ時に、とあるセラピストを訪ねていたのだ。
旭陽に、いや旭陽の父親で香住コーポレーションの社長秘書をしている白鷺 孝介にセラピストを紹介したのは、社長の香住 慎也である。
慎也は前々から孝介から旭陽の事について相談されていたのだ。
姫菜子が初めて旭陽の見舞いに来てくれた時の態度がおかしかった事、また、退院後も姫菜子の事だけずっと思い出していなかった事、そして、旭陽自身からも、「何かがおかしい。大事な事を忘れている気がするんだ。でも…陽子さんに会うといつも頭の中に声が聞こえて来て、何も考えられなくなるんだ。」と相談されていた事等だ。
相談を受けた慎也は、愛娘 姫菜子がPTSDの発症が酷かったあの頃、姫菜子の心に寄り添い、姫菜子を救ってくれた旭陽の力になりたいと思い、姫菜子の親友の母親の実家である院長の柊医師にセラピストを紹介して貰った。
受診した旭陽は、自分の中の矛盾や思い・症状等を全て、セラピストに話した。
すると
「もしかしたら、白鷺さんは強い自己暗示にかけられているのかもしれませんね。」
とセラピストは言った。
暗示は永久的に続くものでは無い為、繰り返し繰り返しかけ続けなければならないらしい。
旭陽の場合、陽子が暗示をかけたのだから、他者を暗示にかかった状態のままにさせたければ、術者がかけた相手に断続的に会わなければ切れてしまうものらしい。
本来であれば、陽子の様にド素人がかけた暗示は、専門家の手にかかれば一発で解けてしまうのだろうが、どうやら旭陽は暗示や催眠術にかかりやすい体質だった様だ。
しかも、陽子は旭陽にとって命の恩人なのだから、陽子の言葉に疑いを持つ事は無かったのも起因していると思われる。
だが、退院後スクールに通える様になった時に、旭陽自身に向けられたクラスメイトの態度やハワイの友達からの言葉に、陽子からかけられた暗示に綻びが生じていた。
それ等に疑問を持ち始めた事や、自身の身体の変化に対してもおかしいと感じる様になった事により、綻びが更に大きくなっていた様だ。
「これでしたら、何かのきっかけがあれば解除出来ますよ。先程仰っていた女性とお会いする時は、目を合わせない事。それからマスクをかけて下さい。」
「マスクですか?」
「はい。白鷺さんのお話から推測しますと、その方は、白鷺さんにある香りを嗅がせる事で暗示や催眠の効果をあげている可能性があります。ですので、その方に会う時は、"マスクを着用する事”と、”目を合わせない"事、そして”ある一定の距離を開けてお話する”様にして下さい。」
セラピストはそう言って、旭陽の肩をポンポンと叩いて励ました。
「大丈夫!君は強い。絶対に負けないよ!暗示は解けるよ。」
と暗示をかけながら……。
セラピストのその言葉どおり、旭陽は陽子対策として、昇降口を出た瞬間マスクをした。
案の定、陽子はキツい香水をつけていた。
いつもの様に旭陽の腕にしがみつこうと近づいたが、
「風邪をひいているから、近づかないで欲しいです。陽子さんに感染したくないので。」
と言ってわざとらしい咳をして距離をおいたのだ。
「あら?大丈夫?私が看病してあげるわ。」
となおも旭陽に近づこうとしながら、陽子は姫菜子の姿を横目で探していた。
だが、旭陽は避け続けるし、姫菜子は一向に現れる気配が無い。
すると陽子は、自分の横をしれっと通り過ぎようとする菫香を見つけると、いきなり菫香の右腕を掴んだ。
「痛った!何すんのよ!」
「うっさいわね!ちょっとアンタに聞きたい事あんのよ。」
とやった事を謝罪もせず自分の都合を だけを押し通そうとした。
「痛いって言ってんだ!その汚い手を離せよ、ババァ!!」
陽子の手を払い落とし、菫香と陽子の間に立ちはだかる玲音。
「何よ!アンタには関係無いでしょ?退きなさいよ。」
「関係無いだと?自分の女に手を出したら、相手が男だろうが女だろうが、俺は容赦しねぇんだよ!」
と言って愛する菫香を背中にかばった玲音が牙を剥いた。
それは、姫菜子達の渡米パーティをしていた時と同じ時に、とあるセラピストを訪ねていたのだ。
旭陽に、いや旭陽の父親で香住コーポレーションの社長秘書をしている白鷺 孝介にセラピストを紹介したのは、社長の香住 慎也である。
慎也は前々から孝介から旭陽の事について相談されていたのだ。
姫菜子が初めて旭陽の見舞いに来てくれた時の態度がおかしかった事、また、退院後も姫菜子の事だけずっと思い出していなかった事、そして、旭陽自身からも、「何かがおかしい。大事な事を忘れている気がするんだ。でも…陽子さんに会うといつも頭の中に声が聞こえて来て、何も考えられなくなるんだ。」と相談されていた事等だ。
相談を受けた慎也は、愛娘 姫菜子がPTSDの発症が酷かったあの頃、姫菜子の心に寄り添い、姫菜子を救ってくれた旭陽の力になりたいと思い、姫菜子の親友の母親の実家である院長の柊医師にセラピストを紹介して貰った。
受診した旭陽は、自分の中の矛盾や思い・症状等を全て、セラピストに話した。
すると
「もしかしたら、白鷺さんは強い自己暗示にかけられているのかもしれませんね。」
とセラピストは言った。
暗示は永久的に続くものでは無い為、繰り返し繰り返しかけ続けなければならないらしい。
旭陽の場合、陽子が暗示をかけたのだから、他者を暗示にかかった状態のままにさせたければ、術者がかけた相手に断続的に会わなければ切れてしまうものらしい。
本来であれば、陽子の様にド素人がかけた暗示は、専門家の手にかかれば一発で解けてしまうのだろうが、どうやら旭陽は暗示や催眠術にかかりやすい体質だった様だ。
しかも、陽子は旭陽にとって命の恩人なのだから、陽子の言葉に疑いを持つ事は無かったのも起因していると思われる。
だが、退院後スクールに通える様になった時に、旭陽自身に向けられたクラスメイトの態度やハワイの友達からの言葉に、陽子からかけられた暗示に綻びが生じていた。
それ等に疑問を持ち始めた事や、自身の身体の変化に対してもおかしいと感じる様になった事により、綻びが更に大きくなっていた様だ。
「これでしたら、何かのきっかけがあれば解除出来ますよ。先程仰っていた女性とお会いする時は、目を合わせない事。それからマスクをかけて下さい。」
「マスクですか?」
「はい。白鷺さんのお話から推測しますと、その方は、白鷺さんにある香りを嗅がせる事で暗示や催眠の効果をあげている可能性があります。ですので、その方に会う時は、"マスクを着用する事”と、”目を合わせない"事、そして”ある一定の距離を開けてお話する”様にして下さい。」
セラピストはそう言って、旭陽の肩をポンポンと叩いて励ました。
「大丈夫!君は強い。絶対に負けないよ!暗示は解けるよ。」
と暗示をかけながら……。
セラピストのその言葉どおり、旭陽は陽子対策として、昇降口を出た瞬間マスクをした。
案の定、陽子はキツい香水をつけていた。
いつもの様に旭陽の腕にしがみつこうと近づいたが、
「風邪をひいているから、近づかないで欲しいです。陽子さんに感染したくないので。」
と言ってわざとらしい咳をして距離をおいたのだ。
「あら?大丈夫?私が看病してあげるわ。」
となおも旭陽に近づこうとしながら、陽子は姫菜子の姿を横目で探していた。
だが、旭陽は避け続けるし、姫菜子は一向に現れる気配が無い。
すると陽子は、自分の横をしれっと通り過ぎようとする菫香を見つけると、いきなり菫香の右腕を掴んだ。
「痛った!何すんのよ!」
「うっさいわね!ちょっとアンタに聞きたい事あんのよ。」
とやった事を謝罪もせず自分の都合を だけを押し通そうとした。
「痛いって言ってんだ!その汚い手を離せよ、ババァ!!」
陽子の手を払い落とし、菫香と陽子の間に立ちはだかる玲音。
「何よ!アンタには関係無いでしょ?退きなさいよ。」
「関係無いだと?自分の女に手を出したら、相手が男だろうが女だろうが、俺は容赦しねぇんだよ!」
と言って愛する菫香を背中にかばった玲音が牙を剥いた。
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