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第四章 留学

第七話 陽子の暗示

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下校時刻になり、菫香と玲音は仲良く正門に向かって歩いているその直ぐ後ろに、旭陽も正門に向かい歩いていた。

「旭陽く~ん。お疲れ様~。」

と言って、正門の前で大きく手を振る陽子の姿があった。

旭陽は意図的に菫香達の後ろに隠れる様に歩いていたのだが、無理があったのだろう。陽子に見つかってしまったのだ。

前を歩く菫香達には気付かれ無かった様だが、陽子の姿を見た旭陽は小さく舌打ちをしていた。

どうやら昼間、菫香達が思ったとおり、旭陽にかけられている暗示が切れかかっているようだった。



陽子が旭陽にかけた暗示は、ファンタジーの世界でいうところの魅了魔法みたいなものになるのだろうが、陽子は魔女ではないし、心理学者でもない。

ただ…ふと見たインターネットの書籍販売のサイトで、【暗示のかけ方】という題名の本を見つけ購入し、どんなものか?と旭陽で試しただけのものだ。


陽子が旭陽に暗示をかけた時の経緯いきさつはこうだ。

陽子は偶然、目の前でバイク事故を見た。

そして、大怪我をしている旭陽を助ける為、救急車を呼んだ。

旭陽は直ぐに緊急手術を受け、命を救われた事により、陽子は旭陽の命の恩人になった。

入院していた旭陽の見舞いの為、度々陽子はメイドの仕事をサボっては、旭陽の病室に行っていた。

勿論陽子にとってのそれは、旭陽を自分のものにして、姫菜子を陥れる為の作戦だった。が、事故の為一時的に記憶を無くしている旭陽にとって、陽子が姫菜子の敵である事には気付いていない。

むしろ、事故った自分を助けてくれた優しい年上女性と思い、陽子に懐いていたくらいだ。

そんな旭陽だったから、陽子は本で見た暗示のかけ方を試してみようと思ったのだ。

寝ている旭陽の耳元で、そっと悪魔の言葉を何度も何度も囁いた。

【姫菜子の事を忘れてしまいなさい。】


目が覚めた旭陽に、暗示がかかったかを確認しようと思ったのだが、その時はあまりよく分からなかった。

しかし、姫菜子が旭陽の見舞いに来た時、それは顕著に現れたのだ。

旭陽は姫菜子の事を完全に忘れていた。

陽子は勝った!と思った。

旭陽の態度に絶望した様な姫菜子の顔を見て、陽子はほくそ笑んだ。

「今度こそ。今度こそ香住の全てを私のものにしてあげるわ。」


旭陽が退院後も、陽子は姫菜子達が通うスクールに来ては、姫菜子に自分と旭陽との仲を見せつける様な行為を繰り返した。

また、前の生と同じ様に、姫菜子の友達に近づいて、自分が姫菜子に虐められている事を訴えようと試みた。が、それはどうしても叶わなかった。

何故なら、姫菜子達が通う学校は、インターナショナルスクール。

日本人かと思って生徒に話しかけたとしても、その人物はアジア系の他国出身で、母国語以外話せるのは英語だけという生徒ばかりだ。

英語も話せない陽子はどうにも出来なかった。

唯一いつも姫菜子の周りにいる3人なら、日本語で話しかけられると思ったが、1人は何処かの言葉(菫香が話すフランス語)、1人は中国っぽい(龍輝が話す北京語)で、返される為、為す術がなかった。

でも陽子は旭陽との仲を見せつける事は止めなかった。が、姫菜子達は陽子の事をガン無視し続けて対抗した。

そして今日もまた陽子はスクールに現れた。

まさか、旭陽に反旗を翻されるとは思いもせずに…。
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